覚悟の確認
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大聖堂に乗り込むなり対峙したのは剣聖ダリヤ。
フロッツやアヤトが突然現れたことに驚愕を隠せない様子だったが、すぐさま落ち着きを取り戻したようで。
「それはそれは、剣聖さまを待たせていたとは。知らぬとはいえ失礼した」
「謝罪は必要ない。元より待ち合わせをしていたわけではないからな」
アヤトの嫌味にもどこ吹く風とダリヤは身体ごと向き合う。
「しかしさすがに驚いたよ。ギーラスさまから貴殿は処刑されたと聞かされていた。どうやって死を欺いたんだ」
「さあな」
「……だろうな。だが、ここに来たと言うなら私たちがどのような立場か分かっているのだろう?」
「むろんだ」
そしてダリヤは聖剣エクリウォルの柄に手を掛け、アヤトも朧月に手を添える。
「――ダリーこそ分かってんのかよ!」
一触即発の空気の中、両者の間にフロッツが割って入り待ったを掛けた。
「教会の連中がなに企んでるのか! それ分かっててどべし――ッ!?」
……が、訴え途中で背後から蹴られ床に倒れ込んでしまい。
「なにすんだよ!」
「騒ぐなと忠告しただろうが」
言うまでもなく犯人はアヤトと抗議するも批判で返されてしまった。
その太々しさにフロッツは怒りが込み上げるも忠告はもっともと落ち着くよう息を吐く。
なんせ自分たちは教会の総本山に侵入している立場、周囲にダリヤ以外の姿はなくも騒げばすぐに取り囲まれてしまう。
「そのような心配は無用だ。私以外は内奥の聖域にいる」
いくら我慢できなかったとはいえ不用意すぎたと反省しつつフロッツは身体を起こすも、聖剣の柄から手を放したダリヤからフォローが。
「多少騒いだところで気づきもしないだろう」
「なら俺に迷惑だ」
「…………はは、私もフロッツには迷惑しているから気持ちは分かる」
しかしアヤトの返しにポカンとなり、笑いを堪えて同意を。
敵対関係にも関わらず和やかなやり取りにフロッツは疎外感を抱くも、ならばこそ二人に死闘をさせるわけにはいかないとダリヤに詰め寄った。
「俺のことは良いんだよ。それよりもダリーは知ってんのか? お前が肩入れする連中がなにしてたかをよ」
「……まるでお前は知っているような口振りだな」
「まあな。いいか、連中は――」
睨めつけるダリヤに怯むことなくフロッツは教会の陰謀を暴露していく。
王国、帝国を内部から混乱させていただけでなく開戦を狙い、ミューズを狙った強盗未遂も教会の自作自演で、今も彼女を利用して何か良からぬことを企んでいると。
アヤトが拘束されたのも貶められた結果でしかないと。
このまま教会を野放しにすれば教国は終わると説くも、ダリヤは冷ややかな視線を向けたままで。
「……そのような話が信じられるか」
「だから、マジなんだって。アヤトくんが――」
「アヤト殿から聞いただと? 尚更信じられるわけがないだろう」
「……くっ」
聞く耳もたずで一蹴されてしまい言葉を詰まらせる。
そもそも教会に対する不審感以外の、つまりアヤトから得た情報にフロッツも懐疑的で。
「日頃の行いだな」
「お前の言葉足らずが原因だろ」
肝心な部分を秘密にされているから説得できなかったと背後で茶化すアヤトを批判。
「かもしれんな。だが、その言葉足らずを承知の上で来たのはどこのどいつだ」
それでもアヤトは反省ではなく反論を。
確かにリヴァイから命令されたから、というよりもアヤトの情報が真実なら追い込まれるのは自分たちとの打算的な理由で共闘のような状況下にあるわけで。
なによりアヤトには無視できない異質さがある。
「そもそも、どこぞの天才精霊術士さまが軽薄な面で半端なお守りしてるから信頼を得られなかったんじゃねぇか」
「……どうして知ってんだよ」
「今の反応で確証したが、ミューズやレムアにお前らの生い立ちや間柄を聞いてある程度は予想していた」
「…………」
「これはついでの予想だが、お前らが初めて出会ったのは本当に学院なのか」
「…………」
「なるほどな」
振り返り呆然としたままのフロッツを哀れみ肩を竦めるように、その程度の情報から予想を立てられる時点でおかしい。
まるで自分の全てを見透かされるような、異常とも呼べる慧眼と考察力。
本来ならダリヤのように一蹴するはずの情報も、アヤトが語れば妙な説得力になる。
そして異質と思えて尚、どんな窮地でさえもアヤトなら良き道に導いてくれそうな期待感を抱かせる。
故に最後はリヴァイさえも動かし、ミューズの救出を託したのだろう。
「とにかく満足したなら下がってろ」
「ダリーを止めてくれるのか」
「どうだろうな」
だからこそフロッツも適当な相槌を返されても信じたくなる。
今まで軽薄な仮面を被ったままダリヤと向き合っていた自分では、これ以上の説得は無意味だからと。
「ま、やれるだけやってみるさ」
「……頼んだぜ」
生真面目すぎるが故に、しがらみに囚われているダリヤを解放してくれとアヤトに託した。
◇
フロッツが横に退いたことでダリヤは再びアヤトと対峙。
距離は約二〇メル、フロッツとレムアの違いはあれどこの状況は三日前の模擬戦を彷彿とさせる。
しかしあの時と違い自分たちは敵対関係として。
「さて、仕切り直しといこうか」
にも関わらずアヤトは変わらず自然体のまま、気さくに話しかけてきた。
「俺から聞いた情報なんざどうでもいいが、ミューズがどのような状況に置かれているかは理解しているな」
「理解している」
その問いにダリヤは即座に首肯。
フロッツの説得は一蹴したが、アヤトがいる時点で先ほどの情報も真実なのだろうと心のどこかで受け入れていた。
加えてミューズがどのような形で利用されるのか、言われるまでもなく理解している。
だから葛藤し、目を背けていた。
だからこそ、こうしてアヤトと向き合っているのだと。
「……そうか。なら俺からも確認してやろう」
ダリヤの返答に対してアヤトは一度視線を落とし。
「俺を止めるとほざいた以上――どうなるか分かってんだろうな」
「……むろんだ」
再び向けられた漆黒の双眸に秘める圧に気押されそうになりながらも、ダリヤは覚悟を決めて精霊力を解放。
「なにを言われようと私はギーラスさまに恩義がある。その恩義に酬いる為、貴殿をミューズさまの元に行かせるわけにはいかない」
アメジストのような輝きを秘めた双眸で睨み返し、少しでも身軽になるべく左の剣を鞘ごと放る。
更に聖剣エクリウォルを抜いた鞘も腰から外して地面に捨てた。
「レーバテン教国聖教士団所属、剣聖ダリヤ=ニブルム」
青眼に構え名乗り上げるのは暗にフロッツに対する牽制も込めたもの。
これから始まるのは模擬戦ではなく決闘、もし邪魔をするなら容赦なく斬り捨てると。
またアヤトにも理解しているとの意味合いも込めて。
「ギーラスさまの邪魔をするなら……貴殿を斬る」
あの時は避けた死闘をいま望んでいると。
「…………っ」
ダリヤの覚悟を目の当たりにしたフロッツは口惜しく両の拳を強く握りしめる。
託した以上、何も出来ない自分が不甲斐ないくただ見届けるしかない。
神妙な面持ちの二人を他所にアヤトは相変わらずで。
「聞いた通りの堅物だ」
やれやれと首を振りコートを脱ぎ捨て、ダリヤの常套句に付き合うことに。
だがいつものように左手で抜いた朧月の刀身を肩に乗せる構えではなく。
「ファンデル王国マイレーヌ学院が調理師、アヤト=カルヴァシア」
腰後ろの朧月を鞘ごと抜き取り左腰に帯刀。
そのまま左足を引いて体勢を低く、左手で鯉口から僅かに引き出した朧月の柄に右手を添えて。
「リベンジついでに殺してやるよ」
ダリヤの覚悟に不敵な笑みで応えた。
アヤトくんのデタラメ慧眼はもう今さらです。
それはさておきダリヤやフロッツの真意は後ほどとして、次回はダリヤVSアヤトが再び。
模擬戦ではない死闘の結末をお楽しみに!
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