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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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幕間 剣聖の葛藤

アクセスありがとうございます!



 ミューズ、レムアと共に大聖堂に赴いたダリヤは聖教士団の詰め所へ。

 剣聖と呼ばれていても大聖堂に足を踏み入れるなら正装は絶対、なので白金を基調とした団服に着替えて軽鎧を装備。

 また聖教士団のみ大聖堂に武器の所持を許されているので右に聖剣エクリウォル、左に入団時から愛用している剣を帯剣。

 後はギーラスの元に行きミューズとの面会を願うはずが、準備を終えるなり先にギーラスから呼び出しを受けてしまい。


「…………どういう、ことですか」


 宮殿の会談室に向かったダリヤは衝撃のあまり茫然自失。

 ギーラスが言うには自警団の詰め所に拘束されていたアヤトは有罪が確定し、既に処刑されたとのこと。

 昨日拘束されたばかりの容疑者が傷害罪で処刑。しかもアヤトは他国の民、刑の重さも処刑までの速度もまずあり得ない。

 ただ傷害罪に加えて教会が異端者と認定したことで急遽アヤトの処刑が決まったらしい。神の教えに背く異端者は重罪として早々に裁かれるのはダリヤも知るところ。

 しかしそれを踏まえても強引な処置。いくら教国の、教会の法に則っていていようと弁明の場もなく裁けば王国からの批判は免れない。

 あまりな事実に違和感が拭えないダリヤだが、なによりも信じがたいのはギーラスの()()()()()()()()()()


「わたしも信じられませんが……仕方ないのです。神の教えに背く異端者である以上、アヤトさまの刑は免れません」


 両手を重ね、祈るミューズは沈痛な面持ちで。

 アヤトの処刑に心を痛めているのが伝わる。


「ですがアヤトさまの魂もきっと神は受け入れてくださいます。故にわたしはただ、健やかな来世を願うばかりです」


 だが先ほどの決意を知るだけにこの結末を受け入れる姿が信じがたく。

 故にミューズの本音を聞き出そうと口を開きかけたが、先にギーラスが労るよう彼女の背中を撫でた。


「辛かっただろう……ミューズ。後は私にまかせてお前は休んでいなさい」

「……はい。ダリヤさん、失礼します」


 その気遣いにミューズは目を伏せたまま退室してしまい、沈んだ背にダリヤは結局言葉を掛けることが出来なかった。


「ダリヤも、今はミューズをそっとしておいてくれないか」

「…………はい」


 ギーラスの頼みとなれば断ることは出来ず、ダリヤは吐き出しかけた違和感をグッと飲み込んだ。

 思うことは多くある。

 特にアヤトの処置について、ロロベリアやカナリアにどう説明すれば良いのか。


「ありがとう。では本題に入ろう」

「本題……そうですね」


 ギーラスも同じ悩みを抱えていてくれたのかと期待していたダリヤだったが、引き締められた表情から悩みが窺えず。


「これからミューズは使命を果たさねばならない。故に聖剣に選ばれし剣聖としての使命を言い渡す」


 真摯な眼差しを向けつつ語られた本題はアヤトとは関係ない、教会の今後を担う使命について。

 あまりに信じがたい使命の数々はアヤトの処置以上に受け入れられないもの。

 だが神事においてギーラスが冗談や嘘を告げるはずもなく。


「……使命関係なくミューズは私の可愛い孫娘だ。剣聖としてどうかあの子を守って欲しい」


 なにより枢機卿という立場よりも祖父としての顔でギーラスに頭を下げられてはダリヤも拒むことはできず。


「畏まりました……我が剣、ミューズさまの為に」


 与えられた使命を担うと聖剣に誓った。



 はずなのに――



「ダリヤ、早く来ないか」


 大聖堂の内奥の扉前で立ち止まったダリヤを聖教士団長が促す。

 扉の向こうはレーバテン教徒にとってもっとも神聖な場、大聖堂の聖域とも呼ばれる区間で。

 今からこの聖域でミューズが使命を果たすべく儀式が執り行われる。

 故に剣聖として立ち合う必要があるのだがダリヤは寸前で首を振った。


「私はミューズさまを守る剣聖。だからこそ儀式の間は守護するべき」


 重大な儀式が行われるが故に選ばれし使徒がここに集う為、大聖堂の周辺は最小限の警備しか配置されていない。

 ならばこそ剣聖として聖域に踏み込ませないよう最後の砦としてここに居るとの主張。


「……良いだろう」


 その使命感を酌んだのか士団長は頷き、ダリヤを残して扉を閉めてくれて。

 一人残されたダリヤは自嘲気味に笑うなり聖域から離れていく。

 いくら神の導きとはいえあの子があの子でなくなる瞬間など見たくない。

 聖教士団の一員で剣聖と呼ばれていようとダリヤに信仰心はさほどないのだ。

 つまり剣聖として守護など()()()()()()()()


「なぜ……私はここにいるのだろうか」


 聖域からもっとも離れた拝廊で立ち止まったダリヤは呟きを漏らす。

 この使命を果たすとミューズが選び、ギーラスが望むのであれば自分はただ従うのみと聖剣に誓った。

 なのに心が晴れずもやもやとした感情に苛まれてしまう。

 自分が騎士を目指したのは、剣聖まで上り詰めたのはこんな未来を迎えるためだったのかと。

 ただ孤児院の生活を少しでも豊にしたくて。

 夢を叶える為に、家族を救ってくれたギーラスへの恩義に酬いるべく歩んでいたはず。

 なら今こそ恩義に酬いる為に託された聖剣を握るべき。

 ミューズが使命を果たすまで共に居続け、最後まで見届けるべき。


 なのに自分の心が自分のものではないような、奇妙なズレがダリヤを迷わせていた。


 だから今もこうして聖域で行われる儀式から目を背けるように離れているのに。

 大聖堂から出でもなく、剣聖としての使命を全うしようとしている。

 本当は何がしたいのか。


 自分を見失いかけていたダリヤの葛藤を吹き飛ばすように、突如冷風が全身を巡った。


 我に返ったダリヤは風の吹く方へ視線を向ければフロッツと視線が交わり驚愕する。

 なぜフロッツが大聖堂に居るのか。


 なによりなぜ――


「よう」


「……アヤト……カルヴァシア……ッ」


 処刑されたアヤトが自分の前に姿を現したのか。

 亡霊として現れたのかと震える唇でダリヤはその名を口にするも、アヤトは我関せずで。


「つーか剣聖さまがこんなところでなにしてんだ」


 聖教士団の自分が大聖堂に居るのは当然。

 むしろアヤトこそ何故ここにいるかと問い詰めようとしたダリヤだったが、迷いを振り払うようゆっくりと首を振る。

 何故ではない。


 アヤトだからこそミューズの守護を任命された自分の前に()()()()()()()()()


「むろん貴殿を止めるためだ」


 ダリヤは安堵の笑みを零した。




ミューズと別れてからアヤトと対峙するまでのダリヤの心情でした。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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