対峙再び
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『――兄様、ツクヨさまから報告です』
既に日も暮れて周囲は暗く、吹雪により更に視界の悪い中を歩くアヤトにマヤの声が。
リヴァイとの交渉中に教会から戻ってきたミューズが偽者と入れ替わっていたとの報告を聞くなりツクヨを向かわせが決着が付いたようで。
『ロロベリアさまも無事でなによりです。ですが使用人のみなさまがお目覚めになる前にミューズさまをお連れしなければカナリアさまが苦労されるでしょうね』
『言い訳の天才なら何とでもするだろう。ツキには感謝していると伝えておけ。それと引き続きカナリアのフォローも頼むとな』
一通りの報告を受けたアヤトは指示を出すもマヤから了承の言葉はなく。
『ロロベリアさまに言伝はありませんか?』
代わりにロロベリアへの言伝を求められたアヤトは僅かな間を置く。
『適当に褒めておけ』
『褒める……ですか? てっきり余計なことをしてカナリアさまにご迷惑を掛けたことを叱咤すると思っていましたが意外です』
ミューズの偽者――ネルディナと見抜いたのは事前に情報を伝えていたカナリアではなくロロベリア。
その結果カナリアや使用人らも窮地に立たされただけに、マヤは余計な真似をしたロロベリアに嫌味の一つも告げてくると思っていたようだが。
『叱咤する理由がねぇよ。そもそも白いのが感づくなんざ想定していなかったからな。今回の事態は俺の落ち度だ』
ロロベリアに何も知らせなかったのは自身の決断で、カナリアに半端な情報を与えてしまった結果の事態とアヤトは非を認める。
『なら余計な真似をせずツキの到着まで粘った判断を褒めてやってもいいだろ』
ただ不測の事態でも独断で動かず、カナリアに指示を求めて役割に徹したロロベリアの判断は称賛できると苦笑を漏らす。
まあ素直に褒めない辺りがアヤトと言えるがとにかく。
『後はその調子で保護者の指示に従い良い子にしてろ、くらいだな』
『かしこまりました。ロロベリアさまから連絡があれば伝えておきます』
クスクスとの笑い声を聞き流しアヤトはため息一つ。
不測の事態も無事対処はできたが気になるのはツクヨの見解。
ネルディナの能力は予想通り精霊力に干渉するもの。故に自分のように精霊力を完全に秘めていない者に対して相性は最悪。
しかし精霊力を視認できるツクヨなら実力共に充分対処可能と想定内ではあったが、ロロベリアには効果がなかった。
またカナリアに劣る感知能力にも関わらず入れ替わりに見抜けたことも引っかかる。
ネルディナの精霊力を視認したからこそロロベリアの方が理解不能とツクヨも疑問視していたらしいが、不可解な謎を残す結果となった。
それともう一つ、カナリアが聞き出したミューズは神に選ばれた器という情報。
これで教会の目的に大凡の見当は付いたが、まだ不可解な点が多く――
「……なあ、アヤトくんよ」
「なんだ」
思考を巡らしていたところで声をかけられたアヤトは表情をしかめた。
「俺らこんなとこでなにしてんの?」
動じることなくフロッツがぼやくように、二人はレイ=ブルク大聖堂がそびえる浮き島に渡る橋梁近くに身を潜めていたりする。
リヴァイの命令を受けたフロッツが無事アヤトと合流できたのは食堂前に立っていたからで。
どうやら自分が同行するのを察していたようだが以降は説明も無しに移動開始。
雪の影響で人通りはなくも用心の為か屋根伝いに疾走するアヤトを精霊力を解放して全力で追いかけたのだが、レイ=ブルク大聖堂が見えるなり解除を指示。
そのまま湖周辺を覆う雑木林に身を潜めること既に三〇分は経過していた。
故に質問してみればアヤトは面倒げに大聖堂へと視線を向ける。
「この時期の大聖堂はこんなものか」
「こんなもの、とは?」
「たく……降臨祭を控えた時期にしては静かすぎるだろ。それとも雪の影響で準備を中断しているのかと聞いてんだよ」
「……なら最初からそう聞けよ」
言葉足らずに不服を零しつつもフロッツは希望通りの返答をすることに。
「この時期に雪降ってるのは毎年のこと。慣れっこだから関係なく忙しない感じだけど……確かに妙だな」
「妙とは」
「教会は真面目集団だからな。降臨祭の二日前にでもなれば準備も一段落してるから落ち着いてる……けど、それにしても静かすぎる」
慎重に周辺を確認しつつフロッツが首を傾げるように、ここで待機してから大聖堂に向かう者も出る者も見かけていない。
更に周辺を警備している者も少なすぎる。いくら吹雪とはいえ大聖堂はレーバテン教の総本山、教皇の住まう宮殿もあるだけに王城以上の警備体制を敷いているはずなのに最小限に留めているようで。
自信満々の言動や移動速度からそのまま大聖堂に乗り込みそうな勢いから一転、冷静に様子を窺っていたのかと感心するフロッツを他所にアヤトは苦笑を。
「つまり例年とは違うと。どうやら警備の人員を割くほどに重要な何かをしてるのかもな」
「重要ってなんだよ」
「お誕生日会の準備じゃねぇか」
「さすがにそれは……て、どこ行くんだよ」
呆れた物言いに突っこむ間もなくアヤトが橋梁に向かおうとするのでフロッツは慌てて呼び止める。
「どこ行くもなにも目的果たすんだよ。だがその前に――」
「……は?」
が、手を伸ばしたところで姿が消えてしまいフロッツはキョトン。
周囲を探るも気配すらなく、持たぬ者が故に精霊力を感じ取ることもできず。
「え? アヤトくん、どこ行った……?」
「――おい」
「おわ!」
途方に暮れるも再びアヤトが現れ悲鳴を上げた。
「うるせぇ静かにしろ」
「すまん……けど、どこ行ってたんだ」
「警備のしてきたんだよ」
「…………はい?」
謝罪と共に質問すれば意味不明な返答をされて再びキョトン。
「のしたって……一分もなかったよな?」
「橋向こうに六人程度だ。充分だろ」
「……えぇ」
事も無げに言われてしまい今度はどん引き。
視界が悪い中、様子を窺いながら明かりを灯す精霊器を頼りに警備の人数や動きを把握していたのだろうがこの吹雪の中で一〇〇メル近い距離を往復するだけでも困難なはず。
なのに無力化して戻ってくるとはデタラメで。
「マジでのしてるし……」
橋を渡れば積雪に倒れる警備兵にまたどん引きするもアヤトは無視。
「このまま放置すれば凍死するか」
「精霊器の防寒着みたいだけど……さすがにな」
「なら適当なところに放り込んでおくか。たしか近くに馬車の待機所があったな、そこにでも運んでおけ」
「あるけど誰かいる……て、また居ないし」
指示を残して再び姿を消したアヤトにフロッツは脱力。
しかし放置しておくと凍死の危険もあるので考えるのを止めて精霊力を解放、両脇に一人ずつ抱えて待機所に向かった。
「おせぇよ」
「……デタラメすぎるだろ」
室内に入ると気を失っている警備や管理者を尻目に不服を漏らすアヤトが。
とにかく残りの四人も運び終えたフロッツは手伝いもせず待機所で紐を指に絡めているアヤトに報告を。
「終わったぞ」
「ご苦労」
「けどよ、交代の時間になったらバレるよな」
「元より一時しのぎだ。どちらにせよ連中にバレないよう進むわけがねぇよ」
「……アヤトくんなら出来そうだけど」
まあ宮殿に居るであろう教皇の救出ならやってのけそうだが、目的は教会の企みを阻止すること。更に何らかの理由で囚われたミューズの救出となれば交戦は避けられない。
「とりあえず教皇の救出から済ませておくか?」
ならばとフロッツは提案するもアヤトは待機所を出るなり真っ直ぐ大聖堂に歩みを進め。
「それは俺の仕事じゃねぇよ」
「はあ? 旦那にも教皇助けるって言ったよな? もしかしてそっちは俺一人でやれっての?」
「いくら天才精霊術士さまでも一人では荷が重いだろ。ま、何にせよ先に済ませておくべきことがあるだけのことだ」
「あのね……もう少し説明するとかないの? 一応でも俺たち一蓮托生の間柄だろ」
「後でな。それよりも――」
意見するフロッツを一蹴し、アヤトは正門前で立ち止まる。
「一応でも俺たちは侵入者だ。つまり何があっても騒ぐんじゃねぇぞ」
「……おう」
色々と腑に落ちないがもっともな指摘にフロッツも表情を引き締めた。
その変化に満足したアヤトは彫刻が施された重厚な正門をゆっくりと押し開け――
「「…………っ」」
拝廊にいた人物と目が合うなりフロッツは驚愕。
なぜ彼女が一人でこんな場所に居るのか。
対する相手も思わぬ侵入者に言葉を忘れたのか目を見開き硬直する中、アヤトは気にせず拝廊に足を踏み入れる。
「よう」
最初から居ると知っていたように気楽な呼びかけに相手はハッとなり、しかし信じられないと唇を振るわせ。
「……アヤト……カルヴァシア……ッ」
その名を口にするダリヤ=ニルブムは我が目を疑った。
いよいよアヤトくん(オマケのフロッツ)が大聖堂に到着したことで第九章も佳境に入り、これから色々と明かされていきます。
そして最初から絶好調なアヤトくんがまず対峙したのは剣聖ダリヤ、つまり次回をお楽しみに(笑)。
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