暗躍 情報交換
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「しかし次期財務局長ともあろう御方が、このような寂れた食堂に怪しまれず来られたものだ」
「ここの店主とは旧知の仲だ。元より夕食を共にしようと約束していたなら怪しまれることもない」
現に貸し切りにしてくれているだろう、とアヤトの皮肉にも防寒着を近くの椅子に掛けつつリヴァイは冷静な対応を。
リヴァイが勤める財務局に近く、店主の協力もありこうした場に重宝しているのか。また普段から密談とは関係なく店主と普通に食事をしていれば確かに怪しまれることもないだろう。
「それで、フロッツから私に話があると聞いているが何かな」
それはさておき、まだアヤトが立っているにも関わらずフロッツと入れ替わりにテーブル席に腰を下ろしたリヴァイは早速本題に入る
その態度にアヤトは肩を竦めるのみで再び席に着き。
「まずは情報交換といこうか」
「君にもこちらに有益な情報があると」
「とびっきりのな。故にそちらが先手だ」
「……私が話したといって、君が話すとは限らないだろう」
「その警戒心は称賛するが――」
「盛り上がってるとこ悪いんですけど、旦那は何とも思わないんですか?」
平然と密談を始める二人に厨房でお茶を煎れ直していたフロッツが我慢できずに挙手。
「だってアヤトくん、旦那見ても驚かないし俺たちのこと見透かしてます感が半端ないんですよ?」
詰め所から抜け出した方法や教会を欺いた方法も未だ謎と、アヤトは頼もしい反面不気味な面が多い。にも関わらずリヴァイは受け入れすぎているとフロッツはもっともな主張をするも。
「……はぁ」
「やれやれ」
リヴァイだけでなくアヤトからも呆れたようなため息が。
「何を言うかと思えば……ダリヤ=ニルブムと互角以上に渡り合える持たぬ者の時点で彼が不気味な存在なのは明らかになっている」
「そうかもですけど……」
「その模擬戦でも彼が相当の切れ者ともカナリア殿から聞いたのだろう。ならこちらの動きをある程度察していても不思議ではない」
「…………」
「しかし教会に不信感を抱き、私との接触を望んでいるのなら少なくともこちらに敵意はないと、つまり重要な部分は把握している。なら理解できない部分をいちいち掘り起こし疑問を抱くのは時間の無駄だ」
「俺が切れ者だとか不気味だとかはこの際無視するとして、その疑問にいちいち拘るお前が無駄なんだよ。つーかあんたも飼い主なら少しは躾けておけ」
「だな。無駄に話の腰を折ったこと、謝罪しよう」
「…………お茶淹れてますわ」
妙に馬が合う二人に割り込んだことをフロッツはとても後悔した。
「だがフロッツの存在自体は無駄ではなく、貴重な同胞だ。そこは訂正しなさい」
「訂正しよう。で、俺やカナリアもその貴重な同胞として迎え入れたいと」
「……察しがいいな」
「そりゃどうも」
そんなフロッツを他所にアヤトはリヴァイの目的を事も無げに言い当てる。
まあリヴァイとの繋がりは屋敷にダリヤと訪問した際、自分やカナリアの実力や為人を調べようとしていたフロッツに探りを入れて知っただけ。
その過程でリヴァイを中心に教国の現状に不満を持つ者が徒党を組んでいたこと。その内の一人がフロッツで、ミューズとの交友関係を利用して駆り出されたとまでは察しているのだが。
「では聞くが、あんたはなぜ教会と敵対している。あちらには親父もいるだろうに」
いくらエニシの情報から教会を黒と判断し、マヤと入れ替われるとはいえ謎の襲撃犯の存在からアヤトも自重していたことから詳しい内状までは調べられていない。
故にリヴァイの真意を直接問うべくこの場を用意してもらい、返答次第で今後の方針を決めるつもりで。
「……国王派、教会派と噂されているが今の我が国は教会が独占している」
アヤトの問いにリヴァイはこめかみを押さえ、観念したように話し始める。
教国が大陸の第三勢力となったのは神の救いを求めて集った他国の人材あってこそ。
元は国王派、教会派とも良好な関係にあったが、パワーバランスが崩れればしがらみも生まれる。
現に教会の権威にあやかろうと擦り寄る権力者が多く、国政も教会主体とままならぬ状況。
そのしがらみを正そうと国王を始めとした少数の権力者が立ち上がり、リヴァイが秘密裏に教会を探っていたらしい。
「特に教皇猊下が体調を崩し始めてから金や人材の動きが活発になっている。表向きは地方や他国のレーバテン教の普及活動らしいがそれにしても多い。なら今の教会を掌握している次席の枢機卿三人が良からぬことを企てていると考えるべきだろう」
「……なるほどな。実の親父だからこそ許せんか」
「身内の恥は身内が処理する……が、拘り過ぎて手遅れになるのは愚の骨頂。故に少しでも戦力が欲しいと渇望しているところに君たちが訪れた」
「例え他国の者だろうと同調してくれるならなり振り構わずというわけか」
リヴァイから内状を聞いたアヤトは色々と納得。
金や人材はレヴォル=ウェッジの開発、または諜報活動に使われていたのだろう。
ならリヴァイが協力して欲しいのは、戦力としてだけでなく立場を考えてのこと。
カナリアはラタニ直属の部下、アヤトはラタニと師弟関係と密な立場。
そしてラタニが国王と懇意にしているのは教国も知るところ。つまり自分たちを仲介役に王国と秘密裏にコンタクトを取り、教会に対する抑止力を得るのが狙い。
現状教会の独占状態なら表だった動きも出来ないのは分かる。
だからといってアヤトやカナリアに仲介を求めるとは、まさになり振り構わない方法。
それだけ国王派は追い詰められた状況なのか。
「だが、その心意気は少々手遅れかもしれんぞ」
「……どういう意味だ」
「ではこちらもとびっきりの情報を交換してやる」
なんにせよリヴァイの目的や為人、国王派の現状を知ったことでアヤトはお返しと言わんばかりに話し始めた。
エニシを通じて知った王国や帝国を陥れようとしたレヴォル=ウェッジや、開発こそ帝国民が携わっていたが元は教会が送り込んだ使者が関与していたこと。
また王国でミューズを狙った強盗未遂も教会の自作自演で、自身が拘束されたのもその時に逃した襲撃犯に貶められたことと、現状アヤトが知る教国の陰謀全てを。
「とまあ降臨祭に合わせて大規模な面倒事を企んでいるなら、連中はその日になにかをやらかすつもりだろうな」
「おいおい……いくらなんでもおかしいって。さすがに信じられるわけないだろ」
それを踏まえてもう時間がないと忠告するも、内容が内容だけに厨房からフロッツが苛正しく批判。
リヴァイも眉間にシワを寄せたまま口を閉ざしているが当然の反応。
教会の企んでいる規模の大きさ以前に、昨夜の内に食い止めた情報をなぜ教国にいるアヤトが知っているのか。
そもそも王都と帝都の同時襲撃をどのような方法で未然に、しかも秘密裏に処理できたのか。
それこそマヤを通じた連絡法を知らなければ説明がつかないが、アヤトはそこまで話すつもりはない。
「ま、出任せと思うなら好きにしろ。だがそのやらかしに教会はミューズを関わらせるつもりでいるかもな」
「……ミューズが? なぜだ」
代わりに自身の予想を口にすれば無言を貫いていたリヴァイが険しい表情で睨み付けてくる。
ただミューズに関しては首謀者の一人であろうギーラスが突如留学を中止させ、自身の手元に置こうとしている動き。代わりを用意していることを踏まえた可能性に過ぎず、明確な理由までは分からない。
「さて、情報交換も終わったなら今後の話といこうか。今から俺は教会の連中にカリを返しに行く」
故にその問いを流したアヤトは自分の方針を伝えた上で、リヴァイの鋭い視線に臆することなくほくそ笑み。
「あんたはどうするつもりだ?」
何気にアヤトくんとリヴァイさん気が合いそうですね。
それはさておき次回で暗躍シリーズも一先ず終了。
何故アヤトがリヴァイ(ついでにフロッツ)にマヤの存在を除く全てをぶっちゃけたのかについては次回で。
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