暗躍 果報の正体
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教国に招待されるより先に行動を起こしていたことで王都、帝都に甚大な被害を与えようとした教国――教会の陰謀は理想的な形で処理。
また襲撃犯ネルディナ対策としてツクヨを内密に教国へ呼び出し、自身の暗殺も回避。
しかしまだ終わっていない。
王国、帝国を混乱に陥れ、両国の開戦を企み暗躍していた教会の目的は謎のまま。
このまま野放しにすれば更なる混乱を招くのは明白。
なにより好き勝手した挙げ句、自分にケンカを売った教会をアヤトが見過ごすはずもなく。
これまで得た情報で教会が完全に黒と判明したのなら、後は後悔させるのみ。
それに必要な最後の準備をするべくアヤトが接触したのがフロッツだった。
「こんなのしかなかったけど買ってきたぞ」
――のだが、アヤトの暗躍もマヤの存在も知らないフロッツは訳が分からないままパシらされていたりする。
フロッツはアヤトが拘束されたと知るなり情報網を駆使して現状を把握し、救出しようとしたのだが教会側の動きが予想以上に速く、詰め所に駆けつけるも既に護送されたと知り焦っていた。
すぐさま雇い主に相談しようと行動を起こす前に――
『ずいぶんと遅かったな』
『…………』
人気のない路地で護送されたはずのアヤトが現れまず言葉を失った。
まるで自分が来ると察していたような口振り、そもそもなぜここに居るのかを問い詰めようとするもアヤトは冷静に移動を指示。
確かに自分たちが接触していること、拘束されたはずのアヤトが脱獄しているのを見られるのは危険とフロッツも理解。
とりあえず近くの廃屋に移動して改めて事情を聞こうとすればよく分からない独り言からのコートを希望され。
昼時とはいえ雪が降る中、防寒着もなしでは寒いだろう……そもそもなぜそのような格好かも疑問はあるが仕方なく買い出しに。
「ご苦労……と言いたいが、男爵家のご子息さまなら精霊器付きのコートくらい買えるだろ」
……律義に希望通りの黒いコートを購入してきたのに嫌味を言われる始末。
「あのな、男爵家でも俺は三男。しかも実家とは距離開けられてるんだぞ? しがない軍人にんな高級なもの買えるかっての」
「それは失礼した。お前の飼い主ならそれなりに羽振りが良いと思っていたが、どうやら違うようだ」
「…………」
故に批判するもコートを羽織りつつアヤトは意味深な物言い。
飼い主はともかくフロッツの後ろに居る者、なぜ接触を試みようとしていたかまで見透かされているようで。
「……どこまで知ってんだ?」
「さあな」
不気味に思い問うもさらりと交わされ。
「とにかく俺もお前の飼い主に話がある。詳しくはその時で良いだろう。故にさっさと場所を教えろ」
「教えろ? 俺が案内するんじゃなくて?」
「いくら教会の連中を欺いたとはいえ万が一もある。なら俺が単独で動くべきだろ。つーかそんなことも分からんとは出来の悪い飼い犬だ」
その通りではあるが肩を竦めるアヤトを殴りたい衝動を抑えるのにフロッツは必死だった。
「むろん飼い主には事前に伝えておけよ。いくら有事とはいえアポ無しは気が引けるからな」
加えて変なところで律義な拘りを見せるアヤトに改めて理解不能と感じつつ。
「なら――」
フロッツは打ち合わせを始めた。
◇
一時間後、雇い主から了承の返事をもらったフロッツは商業区にある一件の食堂に向かった。
ここの店主は精霊騎士として活躍していたらしいが足に致命傷を受けて退役後、第二の人生として食堂を始めた。
腕は良いのだが偏屈なところがあり商業区の外れという立地以前に集客率は芳しくない。ただ貴族家の子息であろうと平民だろうと関係なく接してくる店主の人柄をフロッツは気に入り、学院生時代から懇意にさせてもらっている。
また雇い主は現役時代からの仲でもあった。
元々芳しくない集客率が雪の影響で更に芳しくないのか、夕刻前という時間帯にも関わらず店内は閑古鳥状態。
しかし予想通りとフロッツは店主に向けて手振りで合図。読み取った店主は仕方ないと頭をかくものの、なにも聞かずに手早く食材などを片付けて二階の住居に下がっていく。
その間にフロッツは店先に閉店の看板を立てかけお詫び代わりの清掃を始めた。
「よう」
「おう」
終わるタイミングを見計らったようにアヤトが入店。
待ち合わせ時間通りと驚くことなく用意していたタオルをアヤトに放った。
「何か淹れるから適当に座ってろ」
「すまんな」
雪で濡れた髪を拭きつつアヤトは店内奥のテーブル席に。
その間に勝手知ったる我が家のように厨房で湯を沸かし始めるフロッツに何も聞かないのは事前にこの食堂や店主について伝えているからで。
「一応聞くけどここに入るの誰にも見られてないだろうな」
「雪のお陰か人通りもないからな。一応問題ねぇだろ」
「さいですか」
解散した廃屋からそれなりに距離はあるのだが、雪関係なくアヤトなら人目に付くことなく合流できそうだとフロッツは苦笑を。
方法は皆目見当も付かないが詰め所を抜け出し、教会を欺いた技量。なによりダリヤとの模擬戦で見せた規格外の強さ。
自分に対する意味深な物言いといい、底知れぬ不気味さは増すばかり。
しかしだからこそ心強いとフロッツは雇い主と会わせるべきと判断した。
不審な言動や行動ばかりでも、教会という共通の敵がいるなら少なくとも協力してくれるとの期待も雇い主に伝えている。
「で、お前の飼い主はまだ来てねぇのか」
「忙しい人なんだよ。だから少しの遅刻くらいこれで勘弁してくれ」
故にもてなしとしてフロッツはカップをアヤトの前に。
「ほう? 男爵家の子息さまにしては茶を煎れるのが上手いな」
「ここは俺の隠れ家的な店だからな。おやじさんに教わったら上手くなったんだよ」
「精霊術よりも上手いんじゃねぇか?」
「言ってろよ……」
アヤトの茶化し対面に座るフロッツは脱力。
まあダリヤとの模擬戦を見ただけに本気を出してもアヤトには勝てないと認めているので反論できないのが悲しいところ。
それはさておきただ二人でお茶を飲むのもなんだとフロッツは興味本位で質問を。
「これから誰が来るか分かってたりする?」
「さあな」
……したところで明確な返答は期待していないが、含みのある苦笑に察しているだろうと思うわけで。
「ほんと……アヤトくんは謎だらけだ」
呆れたように一息吐くと茶を堪能していたアヤトの眉が僅かに動き。
「ようやくか」
「ん? なにがようやく――」
カップを置くアヤトに問うより先にドアが開き来客が。
その来客は防寒着のフードで顔こそ覆っているも別に隠しているわけではなく、たんに雪を遮るためでしかない。
元より店主と付き合いがあるので食事だけでなく気晴らしも兼ねて訪れているので隠す必要はないのだ。
故に融通が利くことからこの手の密会に利用させてもらっているわけで、アヤトとの顔合わせもここを選んだのだが。
「なんで分かったんだ?」
「さあな」
「君はその返答以外を口に出来ない呪いにでもかかってるのかな?」
謎が深まるばかりのフロッツを他所にアヤトは来客改め雇い主を出迎えるように椅子から腰を上げた。
「自己紹介は必要か?」
「六日前に済ませている」
アヤトの確認に雇い主は首を振りフードを取り、くすんだ金髪を短く切りそろえ、赤い瞳にモノクルを付けた顔が露わになる。
「今さら必要ないだろう」
「たしかにな」
その顔――ミューズの父、リヴァイ=リム=イディルツを見ても動じないアヤトにやはり察していたとフロッツは大人しく二人の顔合わせを見守っていた。
アヤトとリヴァイが接触したことで教会以外の教国の内状、またフロッツやリヴァイの目的に迫ります。
それはさておきフロッツの気持ちも分かります……いつでもどこでもアヤトくんはアヤトくんをしていますね。
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