暗躍 陰謀の対応
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マヤの協力を得たアヤトはソフィア殺害の真意を探るエニシに平行して帝国内の調査も依頼したのだが。
「やはり兄様は教国が怪しいと思われているのでしょうか」
仲介を担ったマヤは率直な疑問を。
なんせアヤトが依頼した調査内容は襲撃犯を送ったのが帝国の可能性というよりも教国が、特に帝国内のレーバテン教徒を中心に調べて欲しいというのもので。
教国にカリを返す、という面目でマヤの協力を得たので関連づけも必要。しかしそれにしては明確な指示と興味津々なマヤに対しアヤトはため息一つ。
「まあな」
「それはどのような理由で?」
「ミューズを狙った強盗未遂が温すぎるんだよ」
サクラが滞在している間、ミューズに何かあれば王国の面子は丸つぶれになると危惧してアヤトが影で護衛をしていたが強盗に選んだ二人の実力、そもそも二人のみという少なさが引っかかっていた。
確かに未遂だろうと襲われれば問題になる。それでもあの二人程度の実力ならレムアを始めとしたミューズの従者でも余裕で対処できただろう。
これほど大胆な計画を立てるならミューズは当然、従者らの実力も調べているはず。なのに半端な戦力を使った。
少数の方が計画を実行しやすい。ならもっと精鋭を選ぶべき。
また襲撃犯があの場にいたのも計画を見届けると言うより、ミューズに万が一がないよう控えていたのなら。
大胆な計画に対して半端な実行から、二人を雇った黒幕はあくまで問題を起こしたいだけでミューズに危害を加えるのを良しとしないとなれば辻褄は合う。
そして襲撃犯と通じている黒幕がミューズの身を案じるのなら出身国、つまり教国と考えるのが妥当。
もちろんこれは可能性の一つに過ぎずない。
ただ元より不自然と気に掛けていることもあるわけで。
「ラタニもほざいていたが、教国はどうも胡散臭い」
帝国のクーデターを見過ごしたり、ディリュアの一件でも近隣諸国で一切関わっていなかったりと教国の動向は不自然すぎる。
故にアヤトは元より教国が怪しいと践んでいた。
「ではなぜエニシさまに最初から伝えなかったのですか?」
「あくまで憶測だ。爺さんには変に先入観を与えず調べて欲しかったんだが……今回の誘いは良い機会だ。もし教国が黒と仮定するなら少しでも情報が欲しい」
「ですが兄様はヘマをして身動きが取れない。故にエニシさまに働いてもらい決定的な証拠を掴んで欲しいのですね」
「あれば、の話だがな」
マヤの嫌味も流してアヤトはほくそ笑む。
「とにかく的を絞れば爺さんも少しは楽になるだろう。後は結果を待つばかりだ」
今のところ進展がなくとも、ソフィア殺害という漠然な調査ではなくレーバテン教徒という重点を置けば効率は飛躍的に上がる。
もちろん何らかの関わりがあればの話だが、アヤトの狙いは正しく数日後に調査は進展した。
ソフィア邸の調査を行った騎士団に所属するレーバテン教徒に狙いを定めたエニシはそ一人の騎士の動向を調べ上げ、ある貴族家と繋がっているとまで突き止めた。
更に騎士と秘密裏に接触し尋問すればソフィア邸の調査時に、兵器の資料や設計図の発見を報告せず隠滅したと自供。
その理由をあのような兵器が開発されれば戦争が始まる、と平和主義を熱弁したのだが。
『あなたは資料や設計図にさっと目を通しただけで兵器の脅威を理解したのですか。それはなんとも優秀、お嬢さまの助手にスカウトしたいものです』
他の騎士に気づかれず隠蔽した資料等をじっくり見聞できるはずがなく、エニシの嫌味に騎士は観念したらしく、その資料に書かれていた貴族名を知られたくなかったとの真実を自供。
つまり繋がりのある貴族はソフィアを影ながら援助して兵器開発をさせていた。
援助の理由も貴族家の現当主が持たぬ者が故に実力主義の帝国に対して燻りを抱いていたと、ソフィアと同じく帝国の主義に対する反感で。
罪を認めた騎士を自害させたのは唯一の不手際となってしまったが、エニシの告発を受けた皇帝はすぐさま貴族家の摘発に動いた。
ただ騎士がレーバテン教徒という以外、教国と関連づける自供や証拠もなく。
皇帝を始めとした中核はそもそもこの件が教国と関係している可能性すら抱いていないのだが――
「……して、お主はなぜ今さらそのような調査をしておったんじゃ」
貴族家の内乱計画を知らされたサクラは宮廷の自室に戻るなり純粋な疑問を抱いていたりする。
なんせ四ヶ月も前の事件の繋がり、兵器開発にソフィアが関わっていた真実を知るエニシが告発したとなれば妙な勘ぐりもしたくなる。
「しかも妾にすら内密に。申し開きがあるなら聞くぞ」
「申し開きもなにも陛下にお伝えしたように、事件に関与していた騎士が外出先で不審な人物と密会していたのを偶然見つけてしまい、気になって調べた結果でございます」
が、エニシはお茶の用意をしつつ素知らぬ顔で弁解を。
「私の勘違いかも知れません故、騎士の名誉も考慮に入れた内密な調査なのでお嬢さまにお伝えするのも控えておりました。むろんお嬢さまに隠していたこと、心よりお詫び申し上げます」
お詫びの気持ちを込めた紅茶を差し出し、恭しく一礼するもサクラはジト目を向けたままカップに口を付けて嘆息する。
なんせサクラの疑問は他にもあるからで。
「なるほどのう……その調査で疲れたからしばしの休みが欲しいと。これから妾が忙しくなるにも関わらず」
ソフィアが開発した兵器を所持している可能性を考慮し、これから貴族家の摘発が秘密裏に行われるのだが、サクラが呼ばれたのは回収されるであろう資料の調査。
もちろんその兵器を分析し、生産するのが目的ではない。ようやく過激派を一掃して情勢が落ち着いたタイミングで精霊術が通用しない兵器が明るみに出れば新たな火種が生まれてしまう。
元より皇帝は王国との開戦を望まない。
国内の平和を第一に考えているので秘密裏に処理することになったが、兵器に使われている技術を分析すれば精霊器の更なる発展に繋がるのも確か。
故に回収した兵器は速やかに処分するも資料等の分析をサクラに一任することを決定。
サクラを任命したのも帝国において精霊器発展の第一人者という功績と、自身と同じく開戦を望まない立ち位置から。
なにより師であるソフィアが残した技術を兵器として利用するのを誰よりも良しとしない。
能力、思想ともっとも信頼におけるのはサクラ以外に居なく、サクラもこの任命を受けることで少しでもソフィアに酬いることが出来ると了承した。
つまりサクラは摘発後、資料の分析や応用、また王国と共有する技術資料の作成と慌ただしくなる。
にも関わらず自分の右腕がこのタイミングで休暇が欲しいと進言、勘ぐりするなと言う方が無理な話。
「ご安心を。頂きたいのは三日ほど、お嬢さまがお忙しくなる前に戻ります」
エニシもサクラの疑問は考慮に入れていたのでとっておきの切り札を口にした。
「なのでアヤトさまのように、この老骨をいくらでもお使いください」
「……アヤトじゃと?」
「はい。アヤトさまのように」
思わぬ名が出たことで訝しむサクラに向けてエニシは含みのある笑みを向ける。
その笑みをまじまじと見据えていたサクラは僅かな間を置きわざとらしいため息を。
「お主らはまた妾を仲間はずれにしておるというわけか」
「私も、アヤトさまも大変心苦しく感じております」
「あやつが心苦しく感じる姿が想像できんのう……」
嫌味を零しつつもサクラは腑に落ちたようで、ようやく笑みを浮かべた。
やはりアヤトの名は絶大な効果というべきか、サクラは察してくれた。
自分の不審な行動はアヤトに関係している。
なら例えいつ、どのような形で密談が行われていたかを聞かされていなくとも、アヤトが関わっているなら仕方がないと。
元より謎だらけなアヤトでも一つだけ確かなのは、友を裏切るような真似はしない。
加えてエニシも関わっているなら今は話せない事情があると察するだけの信頼がサクラにはある。
ならサクラも今はなにも聞かない。
友であるからこそアヤトから話してくれるのを待つだけと。
「ならば少しでも貸しを作れるよう、アヤトに使われてくるがええ」
「ご理解、感謝いたします」
「感謝するがよい。では爺やよ、今から休暇を言い渡す。三日と言わず満足いくまで妾を仲間はずれにせい」
「これは手厳しい。どうやらお嬢さまのご機嫌を取るべく土産を持ち帰らなければならないですな」
「当然であろう。期待しておるぞ」
心強い叱咤にエニシは深く頭を下げた。
◇
反乱を計画していた貴族家と繋がっていた騎士がレーバテン教徒という以外、教国と関連づける自供や証拠はなく。
皇帝を始めとした中核はそもそもこの件が教国と関係している可能性すら抱いていない。
しかし、それはエニシが真実の全てを告発していないので当然。
そう――貴族家とは別にソフィアの復讐心を利用した黒幕、教会が送り込んでいた使者と繋がっていたことを。
アヤトの気配察知、ラタニの感知力すら潜る抜けるエニシだからこそ掴めた情報。
ソフィアが開発した兵器――革命の楔による風精霊三月の二五日、降臨祭に合わせた王都、帝都の同時襲撃。
元々ソフィアと貴族家が同時に帝都を襲撃する予定だったらしいが、一体はアヤトによって処理されている。ソフィアが殺害されたのは恐らく口封じの他に私欲による暴走を咎められてのこと。
ただ一体でもレヴォル=ウェッジは脅威、帝都を混乱の渦に貶めるには充分と判断されていたのか、それとも純粋に開発費用や時間がネックなのか。
なんにせよ帝都を襲撃する一体は皇帝の下、摘発され未然に防がれる。
もちろん王都襲撃予定の二体も対策済みで。
内密にしたのはアヤトやラタニと話し合った上で教国との繋がりを公にするのは得策ではないと判断してのこと。
もちろん王国、帝国に僅かな被害を受けるなら話は別。
教国が破滅しようと構わず国王、皇帝に全てを打ち明け対策していただろう。
しかしある意味で神はこちら側を味方した。
交渉で取り付けた契約で距離関係なく、周囲に悟られない情報交換。
そして僅かな人員でも充分打開できる規格外の人材が合わさることで。
教会の陰謀は決行二日前、また帝国領の貴族家摘発が行われる当日深夜に理想的な形で処理されることになった。
情報伝達が速ければ戦いにおいて圧倒的有利に立てますからね。
その有利性を教国でアヤト、王国でラタニ、帝国でエニシが利用すれば教会という組織だろうと分が悪すぎです。
さて、ようやく王国の危機という内容が明かされたところで、次回は規格外なメンバーがどのように処理したかの内容となります。
暗躍シリーズも残り僅か……アヤトくんの出番はもう少々お待ちを。
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