暗躍 交渉の席
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ミューズの訪問で教国行きが決定。
「なので長期休暇に私も教国に行くことになったんですけど……どう思いますか?」
祖父に報告するためミューズが屋敷に戻るなりロロベリアはマヤを通じてラタニへ報告していた。
ちなみに二人になるなり自分の同行を条件にした理由を確認するもアヤトからはお約束の返答、そのまま自室に入ってしまった。
あの様子だとラタニに報告しそうにないとロロベリアがマヤを呼び、マヤに話しかけながらラタニにと奇妙な報告していたりする。
まあアヤトが同行させる理由について相談したいのもあったのだが。
「単純にロロベリアさまとひとときも離れたくないからでは、とラタニさまは仰っていますが」
「…………」
相談する相手を間違えたとロロベリアは脱力。
いや、現状アヤトをもっとも理解しているのはラタニなので(羨ましい)間違ってはいない。
ただ適した相手がまともに取り合ってくれるかは別。お姉ちゃんとして楽しんでいるのがありありと伝わった。
もちろんそんな理由で同行を条件にしたならとても嬉しい……が、それは絶対にあり得ないと虚しい自信があるわけで。
「出発日時や期間は決まっていますか、とラタニさまが」
「祖父と確認を取り次第改めてと。ただ降臨祭には是非参加して欲しいと仰っているようなので、その前後になると思います」
マヤも知っているのだが律義な仲介役を担いつつ奇妙な報告は続き。
「兄様のついでとはいえ他国の重鎮からご招待を受けたのなら、サーヴェルさまやクローネさまにも事前に手紙で報告しておくように、だそうです」
「わかりました、って伝えておいて」
そういう所はまともな助言をしてくれるなとロロベリアは報告終了。
「ありがとう、マヤちゃん」
「どういたしまして。では、わたくしはこれで――」
マヤも姿を消してしまい、ロロベリアは忠告通り手紙を書くために自室へ向かった。
◇
続いてマヤはアヤトの自室、テーブルの上に腰掛ける形で顕現。
「お待たせしました」
「まったくだ」
階段を上るロロベリアの足音を聞きながらアヤトはため息一つ。
自室に入るなりアヤトもマヤを呼び出していたが、先にロロベリアの要件を済ませると後回しにされていたりする。
「ロロベリアさまがラタニさまへご報告くださいましたよ。兄様がなぜ自分を同行させたのか気にしていましたが、わたくしも気になりますわ」
「ラタニはなに言ってやがった」
「兄様がロロベリアさまとひとときも離れたくないのではと」
「相変わらずバカなようでなにより」
「ではどのような理由で?」
その返答を一蹴するアヤトにマヤも興味深いと質問を投げかけた。
「教国にカリを返す。手伝え」
が、返ってきたのは端的な要請で。
「今回の招待と兄様を出し抜いた襲撃犯が繋がっているとお考えで?」
「孫娘の危機を間接的に救った程度でご招待なんざしてりゃキリがねぇよ」
「兄様は本当に疑い深いですね。少しは人の好意を素直に受け入れては如何ですか」
「神さまらしい説法どうも。ま、元より教国は胡散臭いと思っていた。ここらで白黒付けるのもいいだろうとの理由もあるが、用心に越したことはねぇだろ」
「その上警戒心も強い……ですが、なるほど」
しかし先ほどの質問には答えているとマヤも理解。
「つまり、ロロベリアさまを同行させたのは帝国の一件と同じようにわたくしの協力を得るためと」
「あれはお前の発案だろ。白いの同行させれば簡単に得られるなんざ考えてねぇよ」
「……? 得られるとお考え出ないのなら、なぜでしょう?」
「俺は過保護でも大切にもしてねぇとの証明と、あいつと一緒に教国行けばお前が喜ぶと思ってな」
「…………」
「つまり、少しでも安い対価で得ようとご機嫌取りをしたまでだ」
したはずが、アヤトは斜め上の理由を口にする。
加えてそれが真実か虚像か、またロロベリアに対する扱いも虚勢か分からないほど平然と。
「それはそれは、兄様にしては殊勝な心がけですね」
故にだからこそ面白いとマヤはニタリと微笑む。
「で、ご協力くださるんですか。神さま」
「そうですね……まずはわたくしにどのような協力を求めているのか提示してください。それに対する対価を決めようと思います」
交渉が始まり、次はどのように楽しませてくれるか前のめりになるマヤに対してアヤトは見せつけるように左手を掲げる。
「基本は帝国の時と変わらん。白いのを除いた連絡手段を持つ者へ俺からの呼びかけ。入れ替わり時に必要なら俺や得物の認識阻害」
人差し指、中指を立てながら提案していく。
ロロベリアに関する無条件の協力体制はあくまで必要とされるのみ。故に彼女が必要としない限りこの協力は契約外になるのだが、ここで省いたのは過保護でも大切にもしていないとの言葉を証明するためか。
そして認識阻害を入れ替わり時に断定したのは常時だと頼りすぎでマヤが面白くないと却下するのを危惧して。
相手の趣旨嗜好を考慮したギリギリの提案をしてくる辺りがアヤトらしく。
更に――
「最後に。教国滞在中、お前の認識内に顔なじみが入れば報告。状況に応じて俺にパシられろ」
「…………最後の提示がよく分かりませんね」
「お前の協力と同じく保険のようなものだ。得られた時にでも教えてやるよ」
薬指を立てた内容が理解不能とマヤは首を傾げるもアヤトは意地悪な返しと。
「それよりもこのお手伝いに神さまはどのような対価をお考えですか?」
太々しい物言いでマヤの判断を待つ。
帝国にはない協力はなにを見据えて提示してきたのか。
元より教国でどんな時間を過ごすかも興味深い上に、この時間も楽しませてくれた。
マヤの正体を知る者は友好的に接している反面、常に畏怖の念を抱いている。
人知を越えた存在、未知の存在なら当然の感情。ラタニですらその感情は捨てきれていない。
しかしアヤトにはそれがない。
今も神に対し、まるで人間相手に交渉しているような感覚で接してくる。
人間の真似事を好むマヤにとって新鮮な時間。
そしてもう一人、ロロベリアもまた希有な存在。
彼女は先ほどのように人知を越えた力を使用する。とても気軽に、マヤが許可をしたからという理由で。
もちろん神としても警戒はしているだろう。なのに普段はマヤ=カルヴァシアという少女として接してくる。
アヤトだけでも楽しい時間が、ロロベリアというスパイスが加わり更に楽しい時間になった。
そんな二人が共に教国へ行く。
一人は裏の目的を秘めて。
一人はなにも知らないまま。
なら答えは一つ。
「では三つの協力を提示されたので教国滞在中、兄様は三回までわたくしのお願いを何でも叶えてくださる、という対価を頂きましょう」
「あん?」
「旅に出る前にわたくしが提案した条件と同じです。いつも使われてばかりですからね。たまにはわたくしが兄様を使う、というのも新鮮で良いかと」
「……俺に可能な範囲で、という言葉を付け加えろ。神さまみたいに何でも叶えられるわけじゃねぇからな」
「わたくしも制限されているので何でもとはいかないのですが、その言葉を付け加えて契約成立になりますが宜しいですか?」
「決まりだな」
最後まで太々しい態度で協力を得たアヤトが、果たしてどう利用してくれるのか。
マヤは今から待ち遠しく――
「なら早速手伝え。ラタニとエニシの爺さんに連絡だ」
していたのにアヤトが早速利用してきた。
「……ここは王国ですが?」
「俺は協力全てを教国滞在中、とは言っていないが?」
「…………」
「これも教国にカリを返すに必要な連絡だ」
どや顔を向けるアヤトにマヤはクスクスと笑う。
確かに教国滞在中と明確に示したのは三つ目の協力だけ。
それ以外は教国にカリを返すという目的に協力しなければならなくて。
つまりその条件に関わっている協力なら、契約上マヤは従うしかなく。
「……神を騙すなんて罰当たりですこと」
「騙したとは心外だな」
してやられたのがまた楽しいとマヤは利用されるままラタニに呼びかけた。
今回は珍しくマヤ寄りの内容でしたが、アヤトがどのような流れで協力を得られたのか、その内容や対価についてのお話でした。
この協力体制から教国やそれ以外でアヤトがどう動いていたのか。
次回は回避した王国の危機についての内容になります。
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