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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
350/779

暗躍 帝国の協力者

最近更新時間が安定しなく本当に申し訳ありません……。

アクセスありがとうございます!



 アヤトが動き出したのはミューズから教国のお誘いをされるよりも前――



「んでんで? ロロちゃんとのデートは楽しかったん?」

「うぜぇ……」


 サクラ帰国後、ラタニから質問攻めを受けていたアヤトはうんざりしていた。

 ちなみにラタニもサクラの護衛任務を終えて久しぶりに帰宅。ニコレスカ邸までロロベリアを見送り遅い帰宅をしたアヤトと共に姉弟水入らずの時間。

 リビングで酒を飲みつつ待ち構えていたラタニに捕まったとも言うがそれはさておき。

 普段は単独行動ばかりで部屋に閉じこもりがちのアヤトだが、実のところラタニと王都の住居に滞在する時は基本リビングで共に過ごしている。

 まあ共に過ごすといっても読書かあやとりばかり、ラタニもちびちびと酒を飲みつつたまに話しかけるくらい。

 元よりテンションの高いラタニがアヤトと過ごす時は大人しいのも意外と言えば意外。

 とにかく二人だけで過ごすこの距離感が互いを特別な存在と認識している現れだろう。

 ただ今夜は別の理由もあるのだが――


「つーか二人でなにしたんかお姉さんに教えんさい。チューとかした?」

「…………」


 ご褒美とはいえアヤトがロロベリアと王都デートをしたことでラタニがとてもうざく、要件も無視して自室に戻ろうと考え始めた頃。


『兄様、エニシさまから連絡がありました』


「おい」


 脳内にマヤの声が響くなりアヤトはラタニへ目配せ。

 つまらなそうにしつつラタニは目を閉じ、片手をひらひらと振り返した。



 ◇



 同時刻、帝国行きの船内にて。


 就寝するサクラから離れ、隣りの客室に下がったエニシは自分用のお茶を煎れてから神気のカフスボタンでマヤに連絡を取っていた。

 というのも王城で護衛を務めたラタニと挨拶を交わしていた際、アヤトから暇になったら連絡をして欲しいとの言伝を聞かされたからで。

 アヤトは影の護衛とはいえ、エニシと接触する機会は昨夜のお茶会でもあったはず。なのにわざわざラタニ伝手で聞かされたかは不明。

 それでもアヤトなりに理由があってのこと、故にサクラにも気取られないよう過ごして連絡を取ったのだが。


『ずいぶんと遅かったな、と兄様がぼやいていますが』


『ロロベリアさまとのデートをお邪魔するのも忍びないと思いまして』


 いくらエニシでもサクラと四六時中いるわけでもなく連絡する機会はいくらでもあったが、お茶に口を付けつつ返答するようにこの時間にしたのは気遣いだったりする。


『無駄な気遣いどうも、と兄様が』


『これは失礼しましたとお伝えください』


 どのような顔でマヤに答えているか目に浮かび、予想通りの返答に悪気なくエニシは微笑み改めて。


『ところで、ラタニさまに言伝をされてまで私にどのようなご用でしょうか』


 この連絡方法は常にマヤを経由して行われるも、アヤトと対話をするような気持ちでエニシは本題に入る。


『兄様はエニシさまにご協力の要請があるそうです』


『協力……ですか』


『はい。ソフィアさまの死は()()()()()()()()()ので――』


「ソフィアさまが殺されたですと!?」


 が、あまりに衝撃的な言葉にエニシは思わず声を荒げた。

 

『エニシさま、声を出さずともわたくしには聞こえますので落ち着いてください』


「こ……これは失礼しました」


 途端にクスクスと響く笑い声にエニシは謝罪するもまだ冷静さを取り戻せてないのか声を出して謝罪を伝えてしまう。

 しかしエニシの焦りは仕方のないこと。

 ソフィアの死亡原因は精神疾患による呼吸障害。外傷もなく、体内に毒物も見つかっていない。

 場所も留置所の牢内、死体の状態やこの状況でどうやって自然死に見せられるのか。


『あくまで可能性のお話。なのでまず兄様が確認したいそうなのですが、ソフィアさまが収容された留置所はどのような場所にあるのか、牢の構造と詳しく教えて欲しいそうです』


 どれだけ頭を使っても思いつかないが、アヤトが求める情報が真実に近づくならとエニシは望まれた情報を伝える。


『……場所は騎士団の詰め所にある留置所でございます。ソフィアさまは持たぬ者なので精霊力を封じる拘束具もなく、精霊術対策もされていない石造りの牢ですが……もちろん騎士団の詰め所とはいえ精霊騎士や精霊術士も数名待機し見回りも行っております』


『ではその牢は地下にあるか。地上であればソフィアさまは何階に収容されていたのか。また外部が見える構造になっていますか?』


『……? 地下はありますがソフィアさまが収容されていたのは一階になります。高さにして三メルほどの位置に鉄格子を填め込んだ場所ならございますが……』


 妙な部分を気にするアヤトに首を傾げつつも答えればしばしの間が空き。


『ありがとうございます。では兄様がソフィアさまの死に他殺の可能性を持たれた理由をご説明させて頂きます』


 心穏やかではないままマヤ伝手にアヤトの説明を聞いていたエニシの表情が徐々に驚愕へと染まっていく。

 サクラがラナクス滞在時にアヤトが影ながらミューズの護衛をしていたことから始まり、教会を襲おうとしていた賊を捉えた本当の経緯。

 なにより謎の襲撃犯が賊を消そうとした未知の精霊術。


『…………確かに、その襲撃犯であれば可能かも知れません』


 信じがたい情報の数々、しかしだからこそエニシも他殺の可能性が頭に過ぎる。

 アヤトですら接近を許した襲撃犯の技能と、僅かな違和感しか抱かせない精霊術があれば窒息死と見せかけた殺害も可能で。


『ですがその襲撃犯はなぜソフィアさまを……? そもそもアヤトさまはなぜこの可能性に行き着いたのでしょうか』


『害虫もどきの兵器に関する資料や設計図がソフィアさまの研究施設に存在していないのを兄様は不可解に思われていたようです。理論の一部をサクラさまにお教えするほどのソフィアさまであれば残すリスクを避けたかもしれませんが、それにしては慎重すぎると』


 つらつらと語られるアヤトの疑問はエニシも抱いたことはある。

 ただあの兵器に関する資料や設計図は発見されなくとも理論の一部はサクラとの共同開発として発表されていたし、部分的な技術の研究資料は残されていたので万が一露見にされた場合を考慮して残さなかったのか、または別の場所に保管していたと結論づけた。

 なによりソフィアが死亡したことで真実は闇に葬られたままと確かめようがなかったのもあるが。


『ですがあくまで可能性でしかなく、不審な点があれば帝国が確認しているであろうと兄様も疑問のままにしていたそうですが――』


『……ソフィアさまが他殺となれば、この可能性がより高くなる……ですな』


『お見事です』


 その死が他殺となれば、ソフィアに援助していた者が()()()()()()()()()()()()()()()()

 故に外傷もなく、毒も使用せず牢屋内での殺害を可能とする襲撃犯の存在を知ったことでアヤトも疑問のままにしておくのを止めたわけで。


『ご理解頂けたところでエニシさまにお願いする協力ですが、帝国に戻り次第ソフィアさまに関する調査を手当たり次第に、だそうです。もちろん秘密裏に』


 ただアヤトは王国民、帝国の調査をするには距離があり過ぎる。


『皇帝陛下を始めとした信頼できる中核の方々にこの情報の出所をエニシさまが説明するのは難しいので。それに小規模での調査としても、知る者が増えれば増えるだけ相手側に不審を抱かせます』


 なによりその襲撃犯に存在を知られたことで迂闊な行動が出来なくなった。

 しかしマヤを通じた連絡手段なら相手に気取られず、王国と帝国との距離も関係なく秘密裏なやり取りも出来る。

 そして帝国にはこの連絡手段を可能とするエニシがいる。

 しかも皇帝の信頼を得た皇女専属の従者という立場も情報収集をするには有利。


 ただアヤトが要請したのはもっと単純な理由から。


『兄様は秘密主義な上に警戒心が強くボッチ気質ですからね。つまりよほど信頼をしている御方がいるからこそ珍しく素直に協力を要請しているのですよ? でなければ面倒でもご自身で行いますから』


 秘密裏な難しい調査だろうとエニシならやってのけるという信頼から、協力を要請しただけで。


『もちろんエニシさまといえどこの条件での調査は困難。最悪サクラさまには兄様の名を出してはぐらかすのは構いませんが、やはりお忙しいでしょう。なのでお暇な時の気分転換のような感覚で結構だそうです。徒労に終わるかもしれませし』


『お任せください』


 なら他に答えはない。

 もしソフィアが本当に口封じのために殺されたのなら許せるはずがない。

 またアヤトにここまで信頼されて応えなければ男が廃るというものとやる気に満ちていた。


『では協力に対する報酬のご相談に移ります。エニシさまは何を望まれますか? もちろん兄様に可能なことになりますがご遠慮なく仰ってください』


 ……のだが、続く内容には呆れて肩を落としてしまう。

 報酬もなにもアヤトには命を救ってもらい、自分だけでなくサクラにも多くの恩義があるのにこの要請に対して礼をするつもりのようだ。

 正直、ソフィアに関わる問題なら自分は協力して当然。むしろ恩義に対してまだ足りないほどの立場なのだが、借りを作れば必ず返す律義なアヤトらしく。


『ならば遠慮なく要求させて頂きます』


 つまりここは素直に受け取る方がアヤトも喜ぶだろうとエニシは望みを決めた。


『お嬢さまが学院の入学試験で再び王国に訪れた際、桜花を作成されたご友人との面会の場を用意。それと私とはお手合わせの機会を。可能であれば、でなはく必ずとお約束いただければと……少々遠慮が過ぎますかな?』


 ただ出来るだけアヤトに負担を掛けないよう、親愛なる主にも利のある報酬を提案するあたりがエニシで。


『へいよ、だそうです』


 了承の返答にその日を待ち遠しく思いながら、まずは遂行が前提と気を引き締め。


『では契約成立と言うことで。他になにかございますかな?』


『時間帯はエニシさまの都合でよろしいので、定期的な連絡が欲しいそうです』


『畏まりました』


 最後に二日に一度、進捗関係なく連絡することで話は纏まり、カフスボタンから手を放したエニシはゆっくりとお茶に口を付けた。


「さて、忙しくなりそうですな」


 そう微笑むエニシだがソフィアの弔い合戦として、アヤトへの恩義に酬いるため、必ず遂行してみせると一人静かに燃えていた。



 ◇



 一方、王都では――


「やれやれ」

「お疲れい。どだったん?」


 一息吐くアヤトに一人ちびちびと酒を飲んでいたラタニが問いかけを。


「サクラとツキの面会の場を用意、それとツキとの手合わせを条件に了承は得た」

「それはそれはエニちゃんもずいぶんとふっかけたね~」


 ケラケラとラタニは笑うも、それがエニシなりの気遣いともちろん理解している。

 そう、ラタニが言伝を伝えたようにエニシの協力要請は事前に聞かされていた。

 襲撃犯がなにを目的として、どこの国や組織と通じているかは不透明でもソフィアの死に関与している可能性が僅かでもあるなら探るべき。

 もちろん考えすぎの線もあるがこちらは情報不足、少しでも得られるのならなり振り構っていられない。

 なによりエニシが協力してくれるなら心強いと二人で話し合って持ちかけた。

 なんせマヤを通じた王国と帝国間も無視の連絡手段、それこそ相手が同格の神でもなければ見抜けない反則的な方法。

 まあ現在マヤを通じて連絡の取れる相手にアヤトから取るには対価を要求されるのでこの方法でエニシに接触したのだが、時間も掛けず情報を密に共有できるアドバンテージは大きいので文句はない。

 とにかく徒労に終われば徒労に終わったとの情報を得られるので決して無駄ではない。

 今は些細な情報でも得られれば充分と、後はエニシの調査報告を待つばかりで。


「んじゃ、続きといこうか。ロロちゃんと――」


「寝る前に掃除しろよ」


 メインの情報を得ようとするラタニを無視、早々にアヤトが切り上げたのは言うまでもない。



アヤトとラタニが動き出したのは教国招待以前とこのコンビ本当に怖い……。

ですがこうした僅かな可能性も考慮に入れた行動ができるからこそでもあるんですけどね。

とにかくエニシの協力は得ましたが、まだ二人は教国も可能性の一つと捉えている段階です。

今後この二人、特にアヤトがどのようにして真相に辿り着いたかは続きの暗躍シリーズで。


ちなみに今さらですがアヤトとラタニってめちゃ仲良しさんですよね(笑)。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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