崩れる価値観
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最初に霊獣と遭遇してから二時間――
「……なんだか、色々な常識が崩れていくわ」
麻袋にこぶし大の精霊石を収めつつロロベリアはため息一つ。
これで遭遇した霊獣は十一体。
その内下位種が九体。
最低でも精霊騎士や精霊術士が四人以上、学院生や所属していない者なら二桁は必要なはずの中位種が二体。
最初に中位種と遭遇した際、襲う重圧にロロベリアは恐怖したほど。しかしアヤトは関係なく一刀で終えている。
この規格外な強さを目の当たりにしたことで、むしろ学んできた常識を疑うほどだ。
「さて、これだけ狩れば充分か」
にも関わらずアヤトは平然としている。
この成果をたった一人で成し遂げた誇らしさも感じてないなら、これが彼にとっての常識なのか。
「しかし白いのを同行させて正解だった。汚れんし楽でいい」
「……どういたしまして」
便利屋兼、荷物持ちでしかないロロベリアは不満はあれど、いつか戦力になると心に秘めつつ霊獣地帯を抜けるアヤトの後を追っていた。
「……やれやれ。もう充分なんだが」
「どうしたの?」
しかし不意にアヤトが立ち止まり、ロロベリアが問うも無視。
「つーか、この地帯を担当してる奴らはなにしてんだ。これはラタニにしっかり報告せんとな」
「……あの、なんのこと?」
「こういうことだ」
返答代わりにアヤトが投げナイフを取り出し、左後方へ投擲した瞬間――
「……あ……え……」
感じた精霊力にロロベリアから全身の力が抜けてしまう。
「なに……これ」
「上位種だ」
「どう……して。今まで……なにも感じなかった……のに」
「言っただろう。こいつらは下位種や中位種よりも警戒心があり、したたかなんだよ。獲物に気配や精霊力を簡単に気づかせないほどにな」
「じゃあ……どうして……気づいたの」
「したたかでも所詮は獣、隠し方が雑だ。馴れれば気づける」
故にアヤトが投げたナイフで不意打ちは失敗したと理解するなり臨戦態勢に入ったことでロロベリアも感じ取れた。
そして姿を見せた上位種を目の当たりにしたことでロロベリアは死を覚悟した。
オオカミ型の霊獣は体格こそ従来の三倍ほど、しかしゆらゆらと揺れる全身を覆う毛がくすんだ紫色。
これは精霊術士が精霊力を解放することで起こる変化と同じ。体内に秘める精霊力が視認できるほどあふれるのは下位種、中位種を圧倒している証拠で。
怪しく光る紫の眼から放たれる殺気や長い牙。下位種、中位種とは比べものにならない膨大で暴力的な精霊力は死神のよう。
同時にこのピンチをどう切り抜けるか、圧倒的強さを前にそれでも生きる方法を模索しているのはロロベリアの精神力の強さがうかがえる。
しかし、やはり混乱しているのだろう。
なぜならここには自分だけでなく、上位種と知りながらも全く危機感を抱かないアヤトがいるのを忘れているからで。
「さてと、お喋りは終わりにして――やるか」
そのアヤトが霊獣の居る方向に体を向け、同時に変化が起きた。
闇のような黒髪が右前髪一房を残し、同じく闇のような黒い瞳の左側が煌めきを帯びた白銀へと変わる。
擬神化――精霊術士が精霊力を解放することで起こる変化のように、時空神クロノフと契約したことで得た神気を解放することで起こる、神に等しい姿。
「待って……それは……」
この変化にまさか時間を操りこの危機を逃れるつもりか。
ならば止めたいとロロベリアは手を伸ばすも。
「上位種程度に俺の時間をくれてやるわけねぇだろ」
その手が届く寸前――いつの間にかアヤトが抜刀した朧月を肩に乗せていた。
「だが上位種程度でも、それなりに本気をださんと厄介な相手だからな」
「……え?」
更に先ほどまで嫌と言うほど感じていた殺気も、禍々しい精霊力も感じなくなり体が軽く意識がハッキリとしていて。
まさかと霊獣に視線を向ければ、胴体から頭がずれ落ちていく光景が。
「どうして……」
「俺が話している途中でおいたをしかけたから教育してきたんだよ」
つまり霊獣が動き出すのを察したと同時に、これまで通り相手の元へ行き斬首をしてわざわざ話を続けるために戻ってきたらしい。
「全然……見えなかった」
今までも消えるような速さで動いていたが、いくら目前に居たとはいえ移動したのを気づかせない程ではなかった。
「三〇メルほどの距離を行って戻るくらいだ。それにマヤから聞いてるだろ、擬神化すれば俺も神気でそれなりに強化できるんだよ」
そんな神業とも言える動きを何でもない風に言い放つアヤトは擬神化を解く。
「だがま、お前が気づけなかったのは速さだけが理由でもないが」
「それって、どういう――」
「少なくとも時間を操ったわけじゃねぇよ」
「…………」
「つまり、自分の手の内を簡単に教えるように見えるか?」
「……見えない」
相変わらずの皮肉で返され、ロロベリアも肩をすくめながら内心安堵。
どのような方法かは興味はあるも、自身の時間を代償に使っていないのなら問題ない。
「結構。ならさっさと役立て、汚れ防止と洗浄が得意な序列十位さま」
「……言い返せないのが辛いわ」
嫌味にもう笑うしかないが、それなりでもアヤトの本気、その一端を確認できただけでも良い機会だった。
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