因果再び
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自分が抱いたミューズから感じられる精霊力の違和感から、カナリアが精霊力の解放を申し出た。
結果、精霊力を解放したことで抱いた違和感の正体が発覚。
姿や仕草、声すらもミューズそのものでも、帰宅したのはミューズではなく。
瞳が淀んだ紫の輝きを帯びた精霊士のようでいて精霊士ではない異質な変化にロロベリアは混乱した。
しかもミューズではない誰か、偽ミューズをカナリアは迷うことなく精霊術で捕縛。ミューズが神の器に選ばれたなど、状況だけでなく意味不明な情報。
極めつけはカナリアだけでなくエントランスに居る使用人全員が突如苦しみ始めたことで半ばパニックに陥っていた。
だが幼少期に九死に一生を得るた経験や、アヤトに散々振り回され続けたロロベリアと言うべきか。
意味不明だろうと危機的状況でなぜか自分だけ正常を保っていられるなら、まずは状況を打破しなければとの短絡的な思考と。
偽ミューズの言葉やエントランスに充満する不快な精霊力から、とにかく換気すれば助けられるかもしれないとのやはり短絡的な思考が相まって。
咄嗟に精霊術で玄関をぶち破ればみんなが苦しみから解放されたようで内心安堵。
また安堵したことで気持ちも落ち着き、改めて状況を整理するも理解不明なことばかり。
それでも理解できたことは二つある。
これまた短絡的な答えだが、ミューズを偽りカナリアたちを苦しめた偽ミューズは悪い人で。
「それと私に内緒でアヤトとカナリアさまが楽しそうなことをしているのも確か」
偽ミューズから視線をそらさず、ロロベリアは背後で伏せたままのカナリアに問いかける。
「まったく楽しくはないのですが……その通りです」
苦しみから解放されてもまだ辛さが残るのか、弱々しい声音でカナリアは肯定を。
まあ今さらと諦めたのだろう。
なんせ自分の違和感を解消する為だけに強い覚悟を示し、偽ミューズの異質な変化にも戸惑うこと無く即座に捕縛を試んでいた。
なら少なくとも相手がミューズではない可能性をカナリアは考慮していたわけで。
なによりコレまでの経験上、意味不明な状況には必ずアヤトが絡んでいる。
故に拘束された際の不可解な点も、この意味不明な状況を踏まえたアヤトなりの解決策と考えれば今まで心配していたのがバカらしくなった。
まあ理解したのはここまで。
アヤトやカナリアが何をしているのか。
偽ミューズの目的や本物のミューズが神の器に選ばれた、といった情報は変わらず意味不明のまま。
ただアヤトが中心に何かをしているならと分かれば不思議と安心できて。
「……すみませんでした」
「必要ありません」
カナリアの謝罪を一蹴するロロベリアに隠し事をされた怒りなどない。
あるのはされた自分の不甲斐なさに対する怒りのみ。
きっと自分が知れば足手まといになると判断されたのだろう。
知ったところで役に立たないと判断されたのだろう。
要は未だ守られる側の立場から卒業できない自分が悪い。
しかしこうして巻き込まれたのなら出来ることをする。
「変わりに私は何をすれば良いか教えてください」
故にロロベリアは役割を求める。
状況を完全に理解していないなら指示を仰ぐべきと。
この状況下で軽率な行動をせず、冷静な判断を下せたロロベリアに期待したカナリアは囁くように役割を告げた。
その役割にロロベリアは多くを問わずただ頷くのみ。
なんせ少なくとも味方ではない相手と対峙している状況、さすがのロロベリアも構ってちゃんになるつもりはないと一歩前へ。
「それで、結局あなたは誰なの?」
「……ひとつお聞きしたいのですが、ロロベリアさまは平気なのですか?」
唖然とした表情で自分を注視する偽ミューズに向けて敢えて太々しく声を掛ければ無視され、逆に質問されてしまう。
「平気って……さっきまで充満してた不快な精霊力のことなら特に問題ないけど」
しかしこれ幸いとロロベリアは相手のペースに乗ることに。
「ああ、なるほど……そういうことですか」
が、偽ミューズは何か納得したように微笑み。
「ロロベリアさまもアヤトさまと同じなのですね」
「アヤト? なんの話?」
「カナリアさまとご一緒にお連れするよう命を受けましたが、仕方ありません」
「だからなんの話?」
ペースに乗るどころか一方的な発言にロロベリアは苛立つも――
「異端者を粛清するのもわたしの使命です」
「――っ」
偽ミューズの精霊力が膨れあがりロロベリアの肌にビリビリとした刺激が走る。
「なのでロロベリアさま、お覚悟を」
「だから私の話も聞いて!」
更にいつの間にか両手に握るナイフで襲いかかられ、批判しつつ横へ回避。
「ロロベリアさ――ぐうっ」
「カナリアさま!?」
(どうして……いや、原因は――っ)
しかしカナリアが胸を押さえて再び苦しみ始めるのを疑問視するも、理由は偽ミューズの精霊力以外にないと判断、ロロベリアは外へ飛び出した。
「お待ちください」
「瑠璃姫……っ」
予想通り偽ミューズも釣られるように外へと飛び出し、誘い込みに成功するも今さらながら瑠璃姫を客室に置いているのを思い出す。
「アヤトみたいに私も常に持ち歩けば良かった!」
「やはりロロベリアさまは影響を受けていないご様子」
「こっちはこっちで勝手に納得してるし……」
しかも屋敷から漏れる明かり程度では効果は薄く、吹雪の影響で視界も悪い。
故に少しでも影響を受けないように、また不意打ちを防ぐよう建物に背を預けつつ相手の精霊力にも注意を向ける。
「影響ってあなたの精霊力……よね」
「はい。わたしの精霊力は従来のものとは違い、周囲に居る全ての方々を害してしまうのです」
「つまりあなたの精霊力は相手に毒みたいな影響を与える、でいいの」
「お相手が保持する精霊力が多ければ受けにくくなりますが、意識的に振りまけばカナリアさまであろうとあのように」
だから風の影響も関係なくカナリアが再び苦しみだしたわけで。
また失神する使用人たちに比べてカナリアの保有量が圧倒していたからこそ、先ほどは軽度で済んだとロロベリアも納得できた。
だがここで新たな疑問が。
「……どうして私は平気なの?」
そう、精霊力の保有量によって影響の違いがあるなら自分はカナリアは疎かレムアよりも強く影響を受けているはず。
にも関わらず不快感はあれど苦しみもなく、せいぜい肌に感じた刺激程度。
「これまで精霊術士、精霊士、持たぬ者と関係なくわたしの精霊力に影響を受けていました……異端の存在であるアヤトさまを除いて」
「アヤトだけ? それって……」
偽ミューズの独白のような呟きにロロベリアはある仮定に思い当たる。
ツクヨから聞いた話ではこの世に精霊力を『持つ者』と『持たない者』という分類は存在せず、動物だろうと例外ではない。
しかしアヤトは神との契約により神気を得た代償として僅かに保有していた精霊力を失っている。
もちろんマヤも精霊力を宿していないが、偽ミューズがマヤの存在を知らないのであれば。
存在を知っていたとしても、自身の精霊力で害していないなら。
偽ミューズの精霊力が害しているのは相手の肉体ではなく、保有している精霊力ではないか。
だとすればアヤトを害せなかったのも辻褄が合う……が、なら保有している自分が平気なのは何故か?
しょせんは仮説、やはり肉体に影響を与えるもの……だとしても結局アヤトや自分を害せないなら理由にならない。
ただ相手に肉体にせよ、精霊力にせよ、影響を与えて苦しめる精霊力を保有している偽ミューズこそ異端な存在。
「保有する精霊力で誰かを苦しめるって、あなたこそ異端じゃない」
自分はともかくそんな相手にアヤトを異端呼ばわりされたロロベリアは些細な反論を。
この反論に対し向き合う偽ミューズは不快もなく、悟ったような笑みを浮かべて受け入れた。
「否定はしません。望んでこのような精霊力を宿したわけではありませんが、わたしの存在もまた異端なのでしょう」
「……生まれつきなの?」
「いいえ、わたしが宿す異端の精霊力は人為的なもの」
「人為的……まさか――っ」
その言い回しに目を見開くロロベリアに向けて、偽ミューズは最悪な事実を口にした。
「人為的に精霊士や精霊術士を生み出す実験体として扱われた結果が、わたしという異端を生み出しました」
偽ミューズさんもまた被害者でした……。
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