窮地、からの―
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アヤトの為に教会へ赴いていたミューズが帰宅。
ミューズの無事の帰宅に安堵しつつ、ギーラスとの面会でなにか進展があればとロロベリアは足早にエントランスに向かった。
「……誰ですか」
だが使用人に囲まれているミューズを普通に出迎え言葉を交わすカナリアとは違い、遠巻きに眺めていたロロベリアは我慢できず口にした。
同時にカナリア慌てたように振り返り、ミューズや使用人らはキョトンとした表情でロロベリアに注目。
この反応も当然、ミューズに向けて誰だと今さらな問いかけをしているのだ。
「ロロベリアさん……誰、とは?」
「その……あなたのことです」
故にミューズも困惑気味に問い返すもロロベリアは態度こそ自信なさ気だがハッキリとした口調で指を差す。
「だってあなた、ミューズさま……じゃないですよね」
「……えっと」
「ロロベリアさん」
別人扱いされてミューズや使用人は戸惑う中、咎めるようにカナリアが言葉を紡ぐ。
「ミューズさまに向かって失礼ですよ。いった何を根拠に別人と言い張っているんですか?」
「それは……感じられる精霊力が変だからで……」
「変? 私からは特におかしな感覚はありませんが」
ロロベリアとミューズを交互に見定めつつ、尋問しながらもカナリアは警戒心を緩めない。
感じ取れる精霊力ではせいぜい保有量くらいで、精霊術士か精霊士かの判別すら相手の制御力次第では難しくなる。
そもそも精霊力で他者の判別は出来ない。カナリアが知る限りでも特種な感知能力を持つらしいアヤトの友人であるツクヨくらいだ。
なら自分よりも感知能力で劣るロロベリアではまず不可能――しかしカナリアはラタニが後継者として選んだ彼女の可能性に賭けた。
「具体的に何が変なのか、ちゃんと説明してください」
「……精霊力が濁っているように感じるんです」
「濁っている……?」
「まるで霊獣の精霊力のように……その、禍々しいというか……今まで人から感じ取れなかった違和感があるんです」
感じ取り方は感覚的な物が大きいので辿々しくはあるも、ロロベリアがミューズに対して違和感を抱いているのは確か。
改めて集中してみるも、やはりカナリアにはその違和感が感じ取れない。
それでもアヤトから聞いた偽ミューズの情報を踏まえるとロロベリアの違和感は一致する。
「本当に……あなたには呆れます」
なぜロロベリアがこの違いを感じ取れたかは分からなくも、さすがラタニやアヤトが目に掛けるだけはあると称賛し。
「ミューズさま、ロロベリアさんが重ね重ね失礼なこと口にしてしまい申し訳ありません」
ならばとカナリアはこの流れを利用するべく確信への道筋を思いつきまずは謝罪を。
「正直なところ私にはなにもおかしな感覚は感じ取れないのですが、どうもロロベリアさんはあなたの精霊力に違和感があるようです。故に誤解を正すべく、精霊力を解放して頂けないでしょうか」
続けて恭しく、自分はあくまでもあなたの味方ですとの姿勢で提案。
「なぜ、そのような方法で?」
「精霊力は解放時がもっとも感じ取りやすいからです。無解放時は個々の制御力や体調で感覚も曖昧ですからね、ハッキリ感じ取れられればロロベリアさんも気のせいと納得できるかと」
もちろんミューズは訝しみ、使用人からは無礼との視線を向けられるもカナリアは引かず、ポケットから取り出したブローチを握り締めながらもっともな理由を口にする。
「誤解が証明され次第、ロロベリアさんに謝罪させます。もちろん、不躾な提案をしてしまった私も。謝罪で許されないのであれば、私を不敬罪として訴えて頂いても結構です」
「カナリアさま、それは――」
「なのでどうか、一瞬でも結構ですのでお願いいたします」
自分の発言から事が大きくなり焦るロロベリアを無視してカナリアは頭を下げた。
なぜカナリアがここまでの覚悟を見せて、ロロベリアの違和感を解消しようとしているのかと使用人らが疑問視する中、ミューズは気にした様子もなく頷いた。
「よく分かりませんが、解放するだけで良いのであれば問題ありません。ただ……不思議ですね」
あまりにあっさりとした反応に内心焦るカナリアを他所に、ミューズはポワポワとした笑みを向けたまま。
「なぜカナリアさまは――わたしをご存じなのでしょうか」
僅かな間を置き、精霊力を解放。
「…………っ」
「これは……」
同時にロロベリアは息を呑み、レムアを始めとした使用人らは動揺を隠せない。
何故ならミューズの銀髪と赤い瞳がサファイアよりも美しい蒼へと染まらず、瞳のみが淀んだ紫の輝きを帯びたからで。
水の精霊術士のはずの主が精霊士のようでいて精霊士ではない奇怪な変化を見せたのでこの動揺は当然。
対し変化の特徴から確信を得たカナリアは即座に精霊力を解放。
『蔦よ絡め!』
周囲に居る使用人に被害が及ばないよう氷の蔦を顕現。
床から伸びた氷の蔦は瞬く間に偽ミューズの四肢に絡み捕縛した。
「さすがはラタニさまの右腕と呼ばれるカナリアさま。まったく反応できませんでした」
「少しでもおかしな動きを見せれば即座に首を絞め落とします」
捕縛されてもなお平静を装う偽ミューズを無視、カナリアは鋭い眼差しを向けて忠告。
その冷徹な口調に状況が飲み込めず混乱していた周囲ですら言葉を発することが出来ないほどで。
「本物のミューズさまは無事ですか」
「その前にわたしの質問にも答えて頂きたいのですが、なぜカナリアさまはわたしをご存じなのでしょう」
「ミューズさまと入れ替わり、何を目的でここに訪れました」
「加えてその警戒の様子から、まるでわたしの力をご存じのようですが――」
「答えなさい」
しかし動じることなく自らの疑問を口にする偽ミューズにカナリアは淡々と両手の指を動かし、呼応するよう氷の蔦が締め付けを強くする。
「次に無駄話をすれば全ての首があなたの身体から落ちます」
窒息も、意識も失わないギリギリの締め付けを維持した最後通達。
もし答えなければ瞬時に両手、両足、そして頭を氷の蔦で切り落とすだけの力量がカナリアにはある。
そして脅しではなく次の回答次第でカナリアは実行するつもりで。
「ミューズさ……まは、ご無事……です」
偽ミューズもカナリアの本気を悟ったのか、苦しげに答えていく。
「そもそも……あの御方を……キズ、付ける理由は……あり、ません……なぜならミューズさまは……神に選ばれし……器……」
「神……?」
「なので……ごあん……しんを」
息苦しさから徐々に顔色が青くなるも、偽ミューズは言葉のまま安心させるようにニッコリと微笑む。
対するカナリアは安心どころか不穏な情報に眉根を潜める。
ミューズが神に選ばれし器。
妄言のような情報と一蹴できない存在を知るからで。
もしかしてマヤとは別に神が存在し、教会側はその神に従い何かを企んでいるのか。
だとすればいくらマヤの協力を得ているアヤトでも危険と、更なる情報を得て伝えるべく尋問を続けようとするも――
「ところで……カナリアさまは、わたしの力を……全て存じて……ない、ようで……すね……」
「? ……なにを――っ」
偽ミューズの意味深な発言に口を開こうとした瞬間、カナリアは内側がドクンと跳ねる感覚に襲われた。
「これ……は……っ」
続けて内側から焼けるような熱が帯び始め、たまらず膝を突く。
いや、カナリアはまだマシな方で――
「うぅ……うぁぁぁ――っ」
「が……はぁ!」
「ぐぅぅぅぅ――っ」
周囲の使用人らは気が触れたように悲鳴を上げ、床でのたうち回っている。
特に持たぬ者は酷く、既にピクピクと痙攣している者まで。
阿鼻叫喚と化したエントランスの中、ついに精霊術が維持できず倒れ伏すカナリアを他所に氷の蔦から解放された偽ミューズは小さく咳き込み。
「エントランスの広さから時間は掛かりましたが、解放状態であればわたしの意思関係なくこのように影響を受けてしまうのです」
「…………っ」
「なのでわたしの力は他者に自身の精霊力で影響を与える精霊術、というものではございません」
まるで心を見透かすような訂正にカナリアは奥歯を強く噛みしめる。
アヤトから聞いた偽ミューズの情報がまさにそれで。
ただ精霊力を感知できないアヤトの情報を鵜呑みにしすぎてしまった。
故に精霊力の変化がない間は問題ないと捕縛を選んだ自分の失態――
『――水弾よ!』
(…………?)
内側を焼かれるような苦しみと後悔に苛まれるカナリアの耳に勇ましい声が届く。
同時に何かを突き破るけたたましい音がエントランス内に響き渡る。
「はぁ……っ! かは……なにが……」
途端に冷たい風が全身を吹き抜け、その冷気が熱を拭い去ってくれたのかのように身体が楽になりカナリアは周囲を見回す。
同じように苦しみから解放されたのか、静かに倒れ伏したままの使用人らと玄関のドアが無くなり吹き抜けになったことで偽ミューズの影響を受けなくなったと理解し。
「上手く行った……かな?」
背後から聞こえる自信なさげな呟きから、誰が現状を打破してくれたのかを悟り。
知らぬとはいえ不用意な発言からこの現状を招いた原因でもあるが、やはりラタニが後継者に選ぶだけあると敬意を払い。
「とにかくまだ状況を理解できてないんだけど……」
しかし守るはずの対象に守られてしまったのを恥じるカナリアを他所に。
「少なくともあなたが良い人じゃないのは確かね」
偽ミューズの前にロロベリアが立ちふさがった。
ロロが主人公っぽい……いえ、一応主人公ですけども。
それはさておき偽ミューズの能力について詳しい説明は次回で。
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