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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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小さな勇気

アクセスありがとうございます!



 ダリヤの合流後、まずはアヤトが拘束された詳しい経緯を知らない彼女にこれまで得た情報をレムアが説明することに。


「…………確かに不可解な点が多いな」


 静かに耳を傾けていたダリヤの開口一番は同じ意見で。


「無差別な犯行にアヤト殿しか所持していないナイフが使われたのもだが、なぜアヤト殿はミューズと別れた後、そのような場所に居たんだ」

「本人が黙秘しているので何とも……まあ、昔から自由奔放な子ではあったので、特に理由がないかもしれませんが」

「そうか、カナリア殿はアヤト殿と付き合いが長かったな」

「隊長が保護してからなので五年の付き合いですね。未だに彼が何を考えているか全く分かりません」

「……たしかに」


 カナリアの実感がこもった返答にダリヤは同意せざる得ない。

 まださほど面識がなくともアヤトの言動や行動は掴みづらく、何を基準に判断しているのか困惑ばかりだった。


「ですがこれだけはハッキリ言えます。ダリヤさんが仰っていたように、アヤトさんが意味もなく人を傷つけるなど絶対にあり得ません」

「ああ……だから私はここに居る」


 だが自信を持って言い切るカナリアの意見にも同意だ。

 掴みづらい性格をしている反面、心根は剣筋に表れていたように真っ直ぐだからこそ性根もまた真っ直ぐに伝わった。

 自分と同じく誰かを守る為に磨き続けた剣、あの剣筋は誰かを害する為に磨かれたものではないと。

 故にさほど面識がなくとも、不可解な点が多くとも今回の事件は何らかの理由があるハズで。


「……本当にアヤト殿しかいなかったのだろうか」

「? どうしました?」


 口から自然と出た疑問にカナリアが首を傾げれば、ダリヤは思いついた可能性を自分なりに纏めるよう話し始める。


「凶器のナイフがアヤト殿しか所持していない物なら、アヤト殿が投擲したのは間違いないだろう。だが投擲の理由は無差別な危害ではなく、別の理由だとしたらどうだ」

「別の理由……ですか?」

「要はアヤト殿に危害を加えようとした者、または危害を加えられていた第三者を救うべく投擲した、という可能性だ。場所も商業区から近い雑木林で見通しも悪いだろう?」

「なるほどです。悪行を働いている方を見かけ、仲裁に入ったのですね。ですが不運にも狙いが逸れてしまったと」

「威嚇かもしれないが恐らくな。その投擲に驚いた加害者は逃走、また黙秘をしているのは被害者の尊厳を守るため……被害に遭われた夫婦の悲鳴を聞きつけた自警団がアヤト殿を発見するまで少なからず時間も合ったのなら、被害者を人目が突かないよう逃がすことも出来る」

「ですが奥様の悲鳴を聞いたアヤトさまは、ご自身のナイフが不運な事故を招いたと悟り……特注品なこともあって敢えて捕まってしまった……と」

「下手に逃げるとイディルツ家に迷惑をかけてしまうならあり得るだろう。問題はアヤト殿が取り逃がすほどとなれば加害者はかなりの手練れになるのだが……」


「「…………」」


 と、あり得る可能性について意見を出し合うダリヤとミューズに対し、ロロベリアとカナリアは釈然としない表情。

 苦しい推理ではあるが、ダリヤの提示した可能性はアヤトが無差別に人を傷つけるよりは余程現実味がある。見ず知らずの被害者を守るべく自分が損をする役回りを受け持つ辺りは特にだ。

 ただそれ以上にアヤトがナイフを外す、または威嚇の投擲だろうと別の誰かに命中させてしまうミスの方があり得ない。

 なにより加害者を取り逃すハズもなく、むしろ意図なく相手の神経を逆なでて逆上させた結果ボコボコにしているだろう。

 ミューズはまだしもいくら手合わせをしたとは言え、ダリヤはアヤトの規格外についての認識が甘いから思いついた可能性で。

 様々な面においてアヤトの規格外ぶりを身をもって知るロロベリアとカナリアからすれば考えもしない可能性だった。

 しかし考えもしないからこそ、盲点でもあるわけで。

 規格外だろうとアヤトも万能ではない。

 もしダリヤが言うように、その相手がアヤトの予想を上回る実力者だった可能性もある。

 エニシのように、ツクヨのように世に知られていない実力者はまだ居るはずで。

 教国にも居たとなれば可能性もゼロではないと改めるロロベリアを他所にカナリアも同じ結論に至っていた。


 ただカナリアは王国で取り逃がした謎の襲撃犯の存在を知るからこそ、より真実に近づいていた。

 つまりその襲撃犯が威嚇で投擲したナイフを回収し、アヤトに濡れ衣を着せるために起こした事件で。

 取り逃してしまったが襲撃犯と再び邂逅したことで何かを察し、敢えて捕まったと考えれば実に辻褄が合う。

 なら何を察して、何を狙って捕まったのか……まではさすがに予想すら立てられない。 ただ近々事態が大きく動くのは明白、朗報がくるまでより警戒を高めつつ自分は何も知らない振りを続けるべきと判断。


「代表の方が話してくれた状況では話題に上がっていませんでしたが……レムアさん。アヤトさんが捕まった際に争ったような、または別の誰かが居たような痕跡はあったのでしょうか」


 故にロロベリアが到達したであろう可能性に合わせた演技で場をコントロールすることに。


「残念ながら自警団側の調査があり、現場確認は出来ていません」

「ではここ最近の教都で不審な人物や事件の情報はどうでしょう」

「今すぐ調べさせます」


 一礼して退室するレムアに続いてダリヤに話題を振る。


「聖教士団の方で何か耳にしていることはありませんか。もちろん機密に触れない範囲でも結構ですが」

「特に規制されている情報はないと神に誓おう。その上で答えるが降臨祭を前に地方だけでなく国外からの訪問者が増えたことで、小さないざこざが起きているくらいだ」

「人が増えればそれだけ問題も増えますからね」

「この時期になるとどうしてもな。つまり別段変わったことはないわけだが……フロッツならあるいは……」

「フロッツさんですか? そういえば本日はご一緒されてないですね」


 思わず出た名にカナリアが問いかければダリヤは露骨に嫌そうな表情に。


「勝手に私とあいつをセットにしないでくれ」

「失礼、あなたと顔を合わせる時は必ず居たのでつい」

「それはあいつが勝手に付きまとうからだ」


 不快感を隠そうともしないダリヤに付け回されてよほど迷惑しているのかとカナリアは謝罪を。

 まあフロッツの軽薄ぶりを知ればダリヤの気持ちは大いに理解できるとロロベリアも同情するがそれはさておき。


「とにかく、フロッツは軽薄で奔放でバカではあるが顔だけは広いんだ」


 評価はアレでも確かにフロッツは見る限りに人当たりがよさそうな印象はある。

 ただダリヤが言うには女性なら平民だろうと関係なく声をかけまくり、酒場では見ず知らずの相手にも調子に乗って酒を奢っては金欠で実家にお金を工面してもらったりと、ダリヤ以外にも迷惑をかける問題児。

 しかし一方で貴族家の子息らしからぬ為人やコミュニケーション能力の高さ、また意外にも面倒見が良いことから本気で彼を嫌う者は少ないらしく。


「市民だけでなく自警団にも知り合いが多いからな。我ら聖教士団でも掴んでいない情報もあいつなら知っているかもしれない」


 些細な情報も手に入れる人脈を持つフロッツなら何らかの噂を耳にしている可能性があるのだが。


「フロッツさんは今どちらに?」

「昨日も夕刻まで付きまとっていたが、女の呑みに行くとどこかへ行ったきりだ。まったく……いつもは私の休暇中だろうと訓練中だろうと付きまとって来るくせに、どうして肝心な時に居ないんだ」

「……彼は軍所属ですよね」

「サボっているんだろう」


「「…………」」


 身も蓋もない返答にカナリアやロロベリアは想像以上の問題児と認識。才覚があるだけに本当にもったいない逸材だった。


「なぜ術士団があいつをクビしないか不思議なくらいだが……それよりも。あいつの私生活に興味がないから今どこにいるかは見当も付かない」

「それは……残念ですね」

「まあその内ふらっと顔を見せてくるだろう。それまで私なりに情報を集めてみよう」


 フロッツの情報網は残念だが、時間がもったいないとダリヤは席を立つ。

 ダリヤも聖教士団所属の剣聖、その人脈をアヤトの為に使ってくれるのだろう。

 また降臨祭前の貴重な休暇を使ってまで尽力してくれるダリヤに、せめて何か手伝えないかとカナリアとロロベリアは申し出ようとするも、先にミューズが呼び止めた。


「ダリヤさん……その前に協力して頂けませんか」

「協力……?」


 ただ手伝いの申し出ではなく協力要請で。

 意図が読めないダリヤに向けてミューズは意を決したように頷き。


「今からお爺さまのもとへ行こうと思います」




ダリヤ、ミューズとロロベリアではアヤトに対する評価がずれても仕方ないですね。

更に情報量の差から核心に近づけたカナリアも大変そうです……。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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