アヤトの言伝
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「……よく寝てる」
おやつの時間が終わって間もなく、お昼寝をする子どもたちを微笑ましく眺めつつロロベリアは大広間のドアを閉める。
「お疲れさまです。ロロベリアさん」
そんなロロベリアに大広間の前で待っていたカナリアが労いの言葉をかける。
「子どもたちから大人気でしたね」
「だと良いですけど」
恥ずかしげに謙遜するロロベリアだが、僅かな時間で子どもたちからお昼寝の時間になっても一緒にお休みしたいとまで慕われるなら充分心を掴んでいる結果で。
客人にそこまで面倒を見てもらうのを躊躇う院長にも自ら進んで一緒に過ごし、最後の一人が眠るまで楽しくお喋りをしていた。
ただロロベリアは教会の孤児として多くの子どもと接しているも、当時は最年少として世話をされる側であって子どもの世話をしたことはない。
故に姉のマリアを真似して対応すれば上手くいっただけ。
それでも子どもたちと楽しい時間を過ごせたと疲労よりも嬉しさが勝っている。
「ところでアヤトは戻ってきましたか」
が、それはそれ、これはこれとロロベリアが真っ先に問いかけたのはアヤトのこと。
孤児院に到着してからと言うものアヤトとは常に別行動。
子どもたちと遊んでいる間はお菓子作りのため調理場に籠もりきり、おやつの時間になれば入れ替わりで外に行ってしまった。
子どもが嫌い……というより怯えられているのを察して距離を取っていたとは理解している。最近知ったがラナクスでもレイラを始めとした子どもたちとも面倒げにしながらも突き放すようなことはしない。
まあレイラを助けるまでは子どもだけでなく大人にも避けられていたらしいが、何か切っ掛けがなければアヤトの為人を知るのは難しいもの。
距離を取る気遣いが出来るなら最初から友好的にすれば良い……のだが、それをアヤトに望むのは無理な話。
なのでおやつの時間でもロロベリアは美味しいお菓子に喜ぶ子どもたちにアヤトが作った物と何気なくアピールしていたりするのだがそれはさておき。
そのおやつの時間でミューズが席を外してからはもやもやを自制するのに必死で、一人戻って来た時は安堵しつつやはりもやもやを自制していた。
というのもただでさえ今朝からミューズと何となーく分かり合ってます感を醸し出していたのに、戻ってきたミューズが更に良い顔になっていたからで。
まさに聖女のような笑みを絶やさないミューズに、言い方はアレだが何となーく色気を感じた。
お陰で今朝以上に二人がどんな話をしていたのかロロベリアは気が気ではなく、アヤトに会えば速攻で問い詰める気概で。
「……まだ戻っていません」
「ああ……」
しかし遠い目をするカナリアに同情が上乗せされてしまう。
ミューズ曰く、そのうちに戻るとどこかへ行ったらしいが本当にどこへ行ったのか。
このままでは自分のもやもやとカナリアのストレスが限界を超えそうで。
こうなればマヤと連絡を取り、迎えに行こうと神気のブローチに触れるべくポケットに手を入れる。
「ロロベリアさん、カナリアさん……!」
「ミューズさま……?」
だが寸でのところで院長と一緒に応接室で待機していたミューズが現れロロベリアは目を見開く。
何故なら普段から落ち着いた所作を崩さないミューズが取り乱し、自分たちを見つけるなり大広間で子どもたちが寝ているのにも構わず声を張り上げているからで。
「どうかなさいましたか?」
そのらしからぬ姿に虚を衝かれるロロベリアを他所に、カナリアが落ち着かせるよう冷静な対処をするもミューズには効果なく。
二人の前で立ち止まるなり堰を切るように告げたのは――
「アヤトさまが障害罪で自警団に拘束されたと……先ほど……っ」
思わぬ居場所にロロベリアは頭が真っ白になった。
◇
困惑したミューズから遅れてきたレムアが言うには、つい今し方イディルツ家から使いの者がやって来てたらしく。
黒髪黒目の出で立ちと教都観光時にミューズと一緒に居たことからイディルツ家の関係者と践んだ自警団が事情を聞きに訪れたので屋敷に戻るよう伝えられたとのこと。
その使用人にすぐさまレムアが独自で情報収集の指示を出したのだが、詳しい話を直接自警団から聞くべく四人は急いで帰宅を。
突然の報にミューズは祈るように両手を組み、カナリアやレムアは沈痛な面持ちで馬車内は重苦しい空気。
ロロベリアもまた目を閉じアヤトの無事を祈るような素振りを見せているも、コートのポケットに手を潜り込ませた。
『マヤちゃん、聞こえる?』
ミューズの前でマヤと連絡を取るのは配慮がないと分かっていても、手段を選んでられないと呼びかければクスクスとした笑い声が脳内に響く。
『聞こえていますよ、ロロベリアさま。どうかなさいましたか?』
「…………っ」
事情を知っているのにどうもこうもないと叫びたいのを抑え、ロロベリアは続けた。
『アヤトが捕まったって聞いた。どういうことか説明して』
『そう時間が掛からず出られるので大人しくしているように、と兄様からロロベリアさまにはそのような言伝を預かっています』
『……じゃなくてっ。どうして捕まったかを私は聞いてるの』
マヤからの返答に何か妙な違和感を抱くも、こんな時まで楽しんでいるような声音に苛立ちが勝り怒りを露わに。
『傷害罪って聞いたけどアヤトは無事なの? なにがあってそんな――』
『では、確かにお伝えしました』
もちろんマヤには通じず一方的に終了されてしまい、呼びかけても返答はなくロロベリアはギリッとブローチを握りしめた。
こんな状況にも関わらずマヤだけでなくアヤトも相変わらず、らしいと言えばらしいが今回ばかりは怒りが込み上げてくる。
「私とアヤトさんの付き合いはもう五年になります」
が、不意に落ち着いた声が馬車内に響く。
「隊長が引き取った頃はまだ一一才。しかし一一才とは思えないほど頭がよく大人びていて……捻くれてもいましたけど、異常な力を秘めた子どもでした」
ロロベリアやミューズ、レムアが注目する中、カナリアは当時を懐かしむように目と閉じていて。
「ですが、どれだけ捻くれていようとアヤトさんがその力を無闇に振るったことは一度もありません。相手がどれだけ理不尽な言いがかりを付けようと、高圧的な態度で接してこようと、自分から手を出したことは一度もありません」
もちろん訓練は別ですが、と苦笑を漏らしつつカナリアの目が開く。
「彼の力は、強さは守る為のもの。大切な何か、大切な人……そうした自分の大切を守るための、一種の自己防衛が強さを求めた理由なんです。それに弱い者イジメが嫌いですからね、捻くれていますが根は真面目で優しい子なんですよ」
そして聞き入るレムア、ミューズ、ロロベリアの順に視線を向けて微笑みかけ。
「アヤトさんが意味もなく人を傷つけるなど絶対にあり得ません」
三人の注目を集めて断言した。
「もし本当に人を傷つけた疑いをかけられたのなら何かを守った結果、違うなら不幸な出来事による冤罪です」
気負いなく、それが事実だと自身の結論を告げる。
その堂々とした物言いは馬車内の重い空気を払拭するには充分なほど力強く、ミューズやレムアの不安が軽減されて。
「……なにより、あのアヤトさんが大人しく捕まっているのが不自然です。もし何らかの事件に巻き込まれた結果であろうと、捕まる前に姿を消すでしょうし……面倒事が嫌いですからね」
二人の様子を確認して続けられた言葉は先ほどとは違い、多分の呆れが混じっていたが。
「なので私としては変にやらかすより、大人しく捕まった事実に安心できます……と、不謹慎ですね。とにかく、大人しく捕まったのなら別に逃げるような後ろめたいことはない。無実は必ず証明できるとの自信から、あえて捕まったと考えられます。下手に逃げてしまえばお世話になっているイディルツ家のみなさまに迷惑をかけてしまいますから」
結局のところアヤトなりの理由があってのこととの結論は変わらない。
故にロロベリアもアヤトがマヤ伝手にらしい姿勢を崩さないのなら、深刻な状況に陥っていないと思えて怒りが霧散していく。
もちろん楽観視は出来ない状況、しかしここで焦りや不安から取り乱しても事態は好転することはないとの前向きな気持ちになれて。
「どちらにせよ迷惑をかけてしまいますが……今は落ち着いて、アヤトさんを信じて、私たちに出来ることを考えましょう」
「……わかりました」
「……ですね」
まずは詳しい情報を集め、アヤトの為に自分たちが出来ることを冷静に判断しようとの一体感が生まれていた。
◇
(……一先ず役目を果たせましたね)
アヤトが捕まったとの知らせを受けてから初めて落ち着きを取り戻した面々を見据え、カナリアは内心安堵のため息を。
まあ取り乱して当然の状況、もし本当に何も知らなければ誰よりも冷静さを失うと同時に胃痛を絶えきれなくなっていただろう。
そう、カナリアは報を聞いた直後の慌ただしい場に紛れて既にマヤと連絡を取っていた。
教国でアヤトが安心して動くためのサポートであり、ロロベリアの安全確保がカナリアの役割なので出国前に神気のブローチをマヤから受け取っている。
その代償として醜態も暴露されてしまったが……とにかく馬車に乗り込むなりロロベリアがマヤと連絡を取っているのには気づいていた。
どんなやり取りが行われたかまでは分からないが、ロロベリアの様子から暴走しそうで。
ここで下手に動かれては危険と判断、またミューズやレムアのケアも兼ねて落ち着かせるよう努めた。
もちろんアヤトに評価に嘘はない、だからこそ説得力もあり上手くいったわけで。
ただカナリアも詳しい事情を知らない。
それでもマヤ伝手に聞いたアヤトの指示を考慮すればこの場をコントロールするのが適切と判断。
なにせマヤ曰く――
『自分の予想が当たれば真相に近づけるので待つように。それまで不自然にならない程度に警戒するよう兄様が仰っています』
つまりこの冤罪は仕組まれたものであり、謎の勢力と教国が繋がっていることが確定した瞬間で。
詳しい事情説明がないのはアヤトがまだ全てを掴めてないが故に、現段階でカナリアに話せば自然に振る舞えなくなると判断してのこと。
この手の情報規制はラタニも使うので、状況に合わせた難しい立ち回りが求められるもカナリアならやり遂げるとの信頼があってこそ。
ならばアヤトの信頼に応えるべく、またアヤトを信頼するからこそ。
(朗報を待っていますよ……アヤトさん)
三人に告げたようにカナリアのやるべき事は冷静に自分に出来ることを模索し続けることだった。
ここまで来て普通に教国観光で終わるわけありませんよね……。
それはさておき、ロロが気づかなかったからよかったものの、マヤの言い回しは実にいやらしく、この子は普通に楽しんでますね。
またカナリアがブローチを受け取るまでの経緯、代償にどんな醜態を暴露されたかは後ほどとして、次回はアヤトくんがなぜ牢に入れられたかがロロたちの目線で明かされます。
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