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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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立ち向かう勇気

アクセスありがとうございます!



「なのでアヤトさまに不快と思われないように、対応を改めさせていただきました」


 胸に手を当て微笑むミューズからはお茶の席まで向けていた全てを肯定する崇拝に近い感情は感じられない。

 なら言葉通り精霊力を全く宿していないが故に、神やそれに近い神聖な存在ではないと認めている。


「それにしては恭しい対応に見えるが」


 が、平民に対する対応ではないとアヤトは皮肉る。

 相手の立場関係なく礼儀正しく振る舞うミューズらしいと言えばらしいが、同年代の平民にさまとの敬称は付けない。


「アヤトさまがわたしにとって特別な御方には変わりありませんから」


 まあそれ故の特別とも言えるがミューズの自由、アヤトとしては妙な勘違いさえしなければどうでもいいとこれ以上の干渉をするつもりはない。


「そりゃどうも。それで、ガキ共とのおやつの時間を抜け出したのは俺に感謝の押しつけをする為か」

「後はわたしが背負う後悔を、最初にアヤトさまに聞いて頂きたくて」


 故に改めてここへ来た目的を問えばミューズは頷き、自身の悩みについての答えを、どのような決断をしたのかを伝える為に来たと隣りに立つアヤトに身体を向けて。


「……俺に報告する必要もなければ、最初にする必要もないがな」


 対しアヤトは肩を竦めるのみで向き合う素振りはない。

 それでも拒否ではなく好きにしろと言ってくれているようで、ミューズは横顔を真っ直ぐ見つめながら告げた。


「卒業までマイレーヌ学院に通わせてもらえるよう、お爺さまにお願いします」


 誰かに言われたからじゃない。

 誰かに決められたからじゃない。

 自らの意思で決めた道に向けて一歩を踏み出す。

 その為にまず祖父を説得すると。


 ただ、この答えを口にするまで臆病な心根というしがらみとは別の勇気が必要で。

 本当に口にしてもいいのかと改めて悩むつもりでいた。

 しかし自身の特異な能力を知られたことで、結局は悩むまでもない答えだと確信できた。



 切っ掛けは良くない噂だった。

 学食の調理師としてに赴任した自分と同年代の男性は、持たぬ者にも関わらず模擬戦で序列十位のロロベリアに勝利したらしく。

 信じがたい結果に学院内は一時騒然となるも、すぐに何かの間違いか、ロロベリアの油断と落ち着いた。

 同時にロロベリアを陥れるような噂も広がり、油断した彼女と噂を広める周囲に憤るエレノアを宥めながらも特異な能力を持つが故にミューズはその持たぬ者に対して自然と惹かれていた。

 ただちょうど三学生の遠征訓練と重なり序列保持者として特別同行が決まっていたミューズは準備等で忙しく会えず終いで。

 更に遠征時に起きた大物貴族の不祥事、戻ればその男性とロロベリアに対する邪推な噂が広まり、序列保持者として会議に参加したりと中々機会が無く。

 落ち着いてからその男性に会ってみようと思っていた矢先――


『――失礼する』


 学生会室に突然現れた男性と――アヤトと対面したミューズは息をするのを忘れるほどの衝撃を受けた。

 今まで出会ってきた全ての生きとし生けるものから視えていた精霊力の輝きが視えない。

 彼は本当に精霊力を宿していない存在で。

 もしこの能力が神から与えられたものだとしても神や、それに近い存在の心など人間が読めるはずがないと解釈し。

 アヤトは神か、神の使いとしてこの世に降り立った尊き存在と認識した。

 故に恐れ多くも自分に何か協力できることはないかと仕えようとしたが、あまり目立った振る舞いをしてしまえば人の振りをしているアヤトに迷惑もかけると最小限に留め。

 しかし彼に協力を申し出られれば全力で答え、出来るだけ人として敬うよう心がけて。

 その横柄な振る舞いからアヤトを悪く言う人が多くても、自分が干渉しすぎると悪目立ちしてしまうと我慢して。


 だが自分が干渉しなくともアヤトは周囲を認めさせていく。


 周囲の悪評を諸ともせず己を貫き続け。

 その上で少しずつでも認められ、慕われるようになった。

 特にアヤトの影響を受けたのは序列メンバーだろう。

 帝国との親善試合を機会にアヤトと関わるようになり、互いに無干渉のような関係がいつの間にか本当の意味で学院の模範となる集団になっていた。

 親善試合に参加できなかったミューズが少し残念に思いながらも、少しずつでも周囲に良い影響を与えていくアヤトにより敬意を向ける反面。


 アヤトの気高さ、優しさ、己を貫く強さにいつしか惹かれていた。

 もちろん自分のような者が神の使いに対して烏滸がましいと考えようともしなかったが。


 もしそうでないのなら……いや、きっと抑えられないでいただろう。


 でなければロロベリアを羨ましいと思わなかったはずで。

 まるで物語のような再会を果たし、誰よりもアヤトに近く、大切にされているから。

 まるで幼少期に憧れた『聖女の旅』に登場する聖女と騎士のような関係が羨ましいと。


 つまりミューズに必要な勇気とは、ロロベリアという存在に立ち向かうもの。


 もっとも近く大切にされているからこそ、この想いは実らないかもしれない。

 この選択は後悔に進む道かもしれない。

 それでもなにもせず後悔するよりは、僅かな可能性に賭けてでも歩んで後悔をしたい。

 どちらの選択をしても後悔をするのなら自分の想いを胸に、正直な気持ちのまま歩んで後悔を背負いたいと思えた。

 だからこれから頑張りたい。

 初めて二人で向き合い、色んな話をして。

 たくさん知ったことで明確に()()()()()()()()()()()()()()()()、ミューズはこの後悔を背負うと覚悟を決めた。

 もちろん後悔に向かって歩むつもりはない。

 アヤトに対する想いが本物だからこそ。

 大切だからこそ。

 例えロロベリアを悲しませてしまっても届いてほしい。

 こんなにも誰かを愛おしく感じるのは初めてだから。


「わたしは最後まで大冒険を続けたい。例え後悔することになっても、自分の正直な気持ちのまま歩みたいですから」


 ただこの気持ちはまだ伝えない。

 なによりもまずアヤトの側に居る時間を得ることで。

 祖父を説得し、側に居る資格を得てからとの覚悟を胸にミューズは締めくくる。

 対しミューズの決意を聞き届けたアヤトと言えば。


「ま、好きにしろ」


 変わらず素っ気なく、自分には関係ないと言わんばかりに視線すら合わせない。

 それでもミューズの決意は変わらない。

 まだ自分は一歩を踏み出せていない。

 振り向かせるのは資格を得てからとミューズは自分に言い聞かせるも。


「と言いたいが、そういやお前にはまだカリを返してねぇな」

「……え?」


 急に視線を向けるアヤトにキョトンとなる。

 そんなミューズを他所にアヤトは苦笑し。


「リスの稽古にお前の訓練場の使用と、先生役を頼んだだろう」


 選抜戦で協力した際のご褒美についてと教えてくれた。


「つーか今までなにも言ってこなかったが忘れてたのか」

「い、いえ……もちろん覚えていましたが……」


 ただ自分が勝手に協力したいと名のり出た善意の押しつけで、ご褒美をもらうのは違うと恐縮していたのだが。


「なら爺さんの説得で何か協力してほしいなら、遠慮なくそのカリを使え」


 もちろんアヤトに深い意味はなく、元より義理堅いからこそこの機会に借りを返しておきたいと持ち出しただけ。

 それでも今まで自分には関係ないと、責任を背負いたくないと言っていたのに。

 いくら自分の想いを知らないとはいえ、ここでそのご褒美を持ち出すのは。


「俺に出来ることなどたかが知れているがな」



 アヤト(あなた)への恋を実らせるために頑張る時間を得るのに協力すると言ってくれるのは反則だ。



「……アヤトさまはずるいです」

「あん?」


 火照りを帯びる顔を隠すように俯いたミューズはぼそりと呟き、小さく深呼吸をして心を落ち着かせる。

 この申し出だけでも充分なご褒美で。


「では……もし何かあれば頼らせて頂きます」


 ミューズの覚悟をより強くさせた。


「さて、話が済んだのならさっさと戻れ」


 そんな心情を他所にアヤトはやはり素っ気なく。

 しかし素っ気なさもまた愛おしくて。


「はい……あの、アヤトさまもご一緒に戻りませんか? 子どもたちもお礼を言いたいと思いますし……冷えてきましたから」

「そのうち戻る」


 離れがたい気持ちから申し出てみるも、アヤトは樹木をすり抜け施設とは逆方向へと歩き出す。

 どこに行くのか気になるも、ミューズは問うよりもくすりと笑った。

 以前、サクラが野良猫と表現していたように自由気ままな様子がちょっぴり可愛くて。


「それでは温かい飲み物を用意してお待ちしています」



 ――だが、いくら待っていてもアヤトは戻ってこず。


 しばらくしてミューズが耳にしたのは()()()()()()()()()()()()()()()()という報せだった。




アヤトを可愛く感じる辺り、ロロと同じくミューズも重症のようです……が、ロロよりもヒロインっぽいと思うのは作者だけでしょうか? ……まあロロは主人公ですけどね。

それはさておき、ラストでお分かりのようにここから序章と繋がります。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!


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