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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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回想 聖女の秘密 前編

アクセスありがとうございます!



「ミューズ、お前も精霊力を視認できるのか?」


 独り言のような呟きから僅かに溜めた後に告げられたアヤトの問いに、首を傾げていたミューズも僅かな硬直。

 しかし脳内にアヤトの問いが反すうされるなり瞳は徐々に見開かれ――


「アヤトさまも可能なのですかっ」


 ミューズにしては珍しく驚きと焦りを露わに身を乗り出さんばかりに上半身を前へ。

 このらしくない反応に対してアヤトはといえば嫌味なほど冷静で。


「俺は()()()と口にしただけだ」

「……あ」


 指摘によって我に返るミューズに小さく笑い、カップを手に取りお茶を一口。


「だが笑い飛ばさないのなら、どうやら見当違いではないようだな」

「…………」


 カップを置き、確信を込めた視線を向けられたミューズはゆっくりと背をソファに預ける。

 もしただ精霊力が視認できるのか、という問いならミューズもここまでの反応を見せなかっただろう。

 なんせこの特異な能力をミューズは秘密にしている。強靱な精神力を持つ彼女ならそう簡単にボロは出さない。

 だがミューズは初対面からアヤトを特別視している。

 その理由までは読み切れなくとも、特別な存在として認識しているのなら他にない能力を秘めていると思い込んでいても不思議ではない。

 故に敢えて自分も同じ特異な能力があるかのような問いをすれば。

 もし予想通りミューズが精霊力を視認できるのなら確信を得るだけの反応を見せる。

 つまりアヤトの誘導に乗せられた形でミューズは自身の特異な能力を認めてしまったわけで。


「……わたし以外にも、この力を持つ方をアヤトさまはご存じなのですね」


 同時に特異が故に予想すら立てられないはずの能力を持ち出せたのならミューズが悟るのも当然。

 もちろんアヤトも理解した上での持ち出し。元より見当違いだろうと関係なく隠すつもりはない。


「まあな。俺の友人にそういった能力を持つ稀有な奴がいる」

「……そうでしたか。あの、お聞きしても宜しいでしょうか」

「好きにしろ」

「では……なぜ、わたしが精霊力を視認できると気づかれたのでしょう」


 自身の秘密を暴かれたのにミューズはすっきりとした表情で。

 他とは違う特異な能力を持つ自分を異質に感じていた中で、自分以外にも同じ能力を持つ者がいると知り安堵したのか。

 それとも隠し事をしていること事態に心を痛めていたのか。

 とにかくミューズの疑問にアヤトは自身の考察を口にする。


「精霊力を視認できる友人がいるんでな。お前の戦い方を観察していた時点で、可能性は考慮に入れていた」


 ミューズは精霊力の保有量や技量よりも相手の動きを先読みするかのような防御力で序列九位に就いた。その防御技術はアヤトも感心するほどで、それこそツクヨのように精霊力を視認することによる優位性があっても不思議ではないレベル。

 ただ自分のように観察力や分析能力が高ければ可能で、現にユースがその才能に優れていた。

 なのであくまで可能性の一つでしかなく、もし純粋な技量ならばユース以上の才。面白い遊び相手になるだろうと考えていたが、だからと言って無理に遊ぶつもりもなく保留のまま。

 また序列戦でロロベリアと対戦した際、実のところ部分集約で身体能力を上回る彼女との立ち回りなら確証に近づく情報を得られると何気に期待していた。

 しかしロロベリアが動揺したことで半端な立ち回りをした結果、大した情報が得られず終いで。


「ま、白いのが半端なのは今さら嘆くこともねぇが、あまり接点のないお前と何の因果かお近付きになれたお陰で色々と知ることが出来た」


 その接点も今回の招待だけでなく、サクラがラナクスに滞在している間に秘密裏でミューズの護衛をしていたことも含めて。

 相手の何気ない所作などから力量を計る能力に長けているアヤトだからこそ、護衛をしている間で純粋な技量よりも別の何かが作用している可能性が高いと判断。

 更にもう一つ、疑念を抱かせる奇妙さがミューズにはあった。


「面識もない頃からお前は妙に俺を特別視していた。なら精霊力を視認できる可能性が一番高い」

「……と、言いますと?」

「黒髪黒目というのは教国でも珍しい特徴だが、それ以外はどこにでもいる平凡な平民だ。聖女さまが関心を向けるほどでもない」

「…………」

「だが、その友人曰く俺は精霊力を持たない唯一の生き物らしい。ま、その異常性から出会った当初はバケモノとまで言われたが。たく……人畜無害な俺に対してバケモノとは失礼な話だ」


 恐らくここにミューズ以外の者が居れば『どこが』と真っ先に反論しただろうがそれはさておき。


「これで分かるように、面識のない俺に対して特別視するならそいつと同じで精霊力を全く保有していない特異性を知り得たんだろうよ。なんせ俺のような不作法者に自分から関わろうと誰も思わん。テメェで言うのも何だが俺もゴメンだ」


 自虐を込めて肩を竦めるも、自身の振るまいが相手にどう思われるか自覚しているからこその疑念。

 アヤトから見てもミューズは誰にでも分け隔てなく接する、純粋無垢で聖女のような人物。

 しかし分け隔てない彼女が何故か初対面時から妙にご執心で。

 周囲が疑問視していたように、アヤト自身が特別扱いされているのを感じていた。

 ならこの執心の根本は何から来るのか。

 面識はなくとも学院内では碌な噂が絶えない自分に対し、全てを肯定する崇拝に近い感情を向けてくるのはなぜか。


 その大本はこの世で唯一精霊力を保有していない自身の特異性にある。


 ロロベリアたちのようにマヤ()と契約したことで得た神気を感じ取った、のではなく神気を得たことによって微量ながらも保有していた精霊力を失った特異性をミューズは気づいたのではないかとアヤトは疑念を抱いた。 


 そして自分の常識から外れた異質なアヤトの存在をバケモノと忌避したツクヨに対し、ミューズは真逆の感情を向けてくるのなら。

 この異質性もバケモノではなく()()()()()()()()()()()()()()


 つまり神か、それに近い神聖な存在に捉えている。


 心根が純真無垢で神を崇める教国出身のミューズならあり得る話。

 だが、やはり可能性であって確証はない。

 故にミューズと一対一で向き合えるこの機会に確証を得る質問をした。

 要はこれまで得た情報の積み重ねによる結論で。

 一対一の場を選んだのも精霊力を視認できる力を隠しているミューズに配慮してのことに過ぎないがとにかく。


「これも見当違いな自惚れなら笑ってくれても構わんが?」


 マヤの情報を伏せた上で、自分にご執心していた理由を告げたアヤトは苦笑する。

 この問いにミューズは笑うことなく。


「さすがはアヤトさまです」


 その聡明さに変わらず感心するばかりだった。



 

まずはアヤトくんがミューズの秘密を看破した理由です……相変わらずこの子怖い。

そして次回の後編ではミューズ自ら秘密について語ります。


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

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読んでいただき、ありがとうございました!


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