告げる想い
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ロロベリア無言の抗議もアヤトはガン無視で読書を続け、相手にされないロロベリアのもやもやが更に酷くなる悪循環を見かねたカナリアが訓練に誘うことに。
もやもやを発散することで精神ケアにもなるだろうとの狙いだが、元より強さを真摯に求めるロロベリア。先ほどのもやもやが嘘のように切り替え訓練に勤しんでくれたことでカナリアも内心安堵を。
なんせ今日の予定はミューズに付き合いダリヤが暮らしていた孤児院に訪問予定。
ぎすぎすした空気のまま子どもたちに会わせ、王国側の印象が悪くなるのを避けたいわけで。
「アヤトさま、聖女の旅は如何でしょうか」
「中々に面白かったな」
「面白かった……? ひょっとして、もう読破されたのですか?」
今朝貸した書物を既に読み終えたアヤトにミューズは驚きからキョトンとなるも、カナリアからすれば何の驚きもない。なんせ保護した頃でも十数冊の専門書を数日で読破していたのだがそれはさておき。
「…………」
孤児院に向かう馬車内で親しげに語り合うミューズとアヤトを無言で見据えるロロベリア。
ミューズが居る手前、取り繕っているようでも内に秘めたもやもやが隠せていない。
ぎすぎすこそしてないが何とも秒な空気感にカナリアは胃の痛みを感じていた。
だがカナリアの心配は徒労に終わった。
「ロロおねーちゃんの髪、ほんとうにすごくきれい!」
「まるで聖女さまみたい!」
「ありがとう。でも聖女さまは私よりもミューズさまの方が相応しいかな?」
「ねーねーロロおねーちゃん! ゆきだるま作ろう?」
「いいわよ。じゃあみんなで大きいのを作ろうか」
「「「はーい!」」」
なんせ孤児院の子どもたちに囲まれたロロベリアは元気よく雪遊びに興じていたりする。
ちなみにミューズは年少組みに室内で一緒に遊び、レムアは掃除などの手伝いをしている。
貴族家令嬢とその従者に孤児院の仕事を手伝わせるのもどうかだが、昔から通っているだけありここではこれが日常のようで。
とにかく到着後、孤児院の院長らにミューズから紹介された時こそ見知らぬ来客に子どもたちは警戒していたが――
『ろ……べりあさま?』
『惜しい。私はロロベリア……だけどロロでもいいよ? それとさまとか付けなくてもいいからね』
一人の女の子が名前をとちるなり、すかさずロロベリアはしゃがみ込み目線を合わせて気さくな対応。
またロロベリアの珍しい乳白色の髪に興味を引く子どもにも同じような対応を取り、自ら遊びに誘ったりと慕われるまで時間は掛からなかった。
というのもロロベリアも元教会孤児、当時は最年少でも子どもの扱いを姉のマリアを始めとした家族を見て育っている。
加えて訓練時にも見せた切り替えの良さか。
性根が気持ちが良いほど真っ直ぐ故に孤児院の子どもたちに少しでも楽しい時間を過ごして欲しいと思うなら、私情を挟まず全力で一緒に楽しむ。
だからこそ焼きもちも全力で焼くのだが、今でこそ貴族家の養子だが元孤児として気持ちを理解できることからとにかく打ち解けるのが早かった。
「さすが白いの。精神年齢が近いだけある」
故に窓越しから子どもたちに囲まれて雪遊びを楽しむロロベリアにアヤトも嫌味を口にしつつもどこか微笑まし気で。
言うまでもないが同じく珍しい黒髪黒目のアヤトは興味こそ引けど紹介時から子どもたちに怯えられ、近づく子どもは誰一人いなかった。
まあ本人も自覚しているので元より関わろうとしないし、相手が子どもだろうと接し方を変えない。
ただ意外にもアヤトが子ども好きで面倒見が良いのをカナリアは知っている。
セイーグで暮らしていた頃も基本はラタニとの訓練か読書ばかり過ごしていたが、ラタニに巻き込まれるような形で町の住民と関わっていた際も憎まれ口を叩きながら様々なフォローをしていた。
なので自ら関わろうとしなくともラタニを陰ながら支える立ち位置は変わらず、今も子どもたちに振る舞うお菓子を準備しているのが良い例だ。
アヤトの料理技術を知るミューズに今朝の茶会で是非とも振る舞って欲しいと頼まれたらしいが。
「カナリアも暇なら一緒に雪まみれになってくればどうだ」
「それは私の精神年齢が近いと言っているように聞こえますが」
自分が頼まれたからとカナリアにも手伝わせない辺りがなんとも意固地で。
「たく、卑屈に取るな。暇ならと言っただろう」
「それは失礼しました。ですが……そうですね。せっかくなので私も何か手伝えることがないか聞いてみましょう」
ロロベリアやアヤトが孤児院に協力している中、自分だけなにもしないのは違うとカナリアは調理場を後にした。
◇
しばらくして、雪遊びを終えて大広間で暖を取るロロベリアと子どもたちにお茶と共にアヤトお手製のお菓子が用意された。
ロロベリアは持ち前の気さくさで子どもたちだけでなく院長らともすっかり打ち解け、カナリアも掃除や洗濯などの手伝いを通じて交流を深めたらしくお菓子を運ぶ間も笑いが絶えず。
もちろんミューズやレムアも一緒にまるで家族のような温かい時間を過ごす中、ロロベリアや子どもたちと入れ替わるようにアヤトは外へ。
調理を終えた息抜きとして新鮮な空気が吸いたいとの理由、しかし本人も自覚しているからこそ場の空気を損ねないようにとの配慮だろうとカナリアは察していた。
加えて子どもといえど人が多い場を好まない難儀な性質もか。
なにを言っても聞く耳持たずなアヤトにカナリアは呆れつつ、調理のお礼を言いたげな院長に一休みするらしいと告げて自由にさせていた。
ちなみに大広間に向かう中、ロロベリアは外へ行こうとするアヤトを見かけるも子どもたちの相手で忙しく声すらかけられず終いで。
とにかく施設周辺を当てもなくアヤトは歩いていたが、雪の積もる遊具の奥にそびえる一本の樹木の前で足を止めた。
その樹木には黒ずんでいる荒縄が巻かれていて、劣化からして年単位の経過が見て取れ――
「――そちらはダリヤさんが剣術のお稽古をされていた当時のまま残されているんです」
「なるほど。剣聖さまの修練跡なら御利益もありそうだ」
不意に背後から聞こえる説明にアヤトは動じることなく肩を竦める。
「で、ガキ共とのおやつの時間を抜け出してお前はなにしてんだ」
「みなさんとても美味しいと喜んでおられました。わがままを聞いてくださり、ありがとうございました」
対しミューズは返答よりもまず感謝を述べた後、ゆっくりとアヤトの隣りに並び。
「そして今朝はわたしの相談に乗っていただき、本当にありがとうございました」
「俺に礼は必要ないと何度言えば分かるんだか」
もう一度感謝を述べるミューズにアヤトは面倒げにため息一つ。
しかしミューズは構わず、頭を上げるなり首を振る。
「わたしが弱さと向き合い、何を悩むべきかを気づけたのはアヤトさまのお優しい押しつけがあってこそ。なので何と言われようと、アヤトさまに心からの感謝を」
「なら俺も何と言われようと受け取るつもりはねぇよ」
「構いません。これはわたしの勝手な感謝の押しつけですから」
「言うようになってきたじゃねぇか」
苦笑しつつアヤトはようやく樹木からミューズに視線を移す。
「ようやく勘違いを自覚したからか」
「……いいえ」
端的な問いにミューズは再び首を振り否定し、柔らかな笑みを向けた。
「例えわたしが勝手に抱いていた特別な存在でなくとも、アヤトさまはわたしにとって変わらず特別な御方ですから」
なんだかミューズの押しが強くなっている感じがします……が、ロロはなにしてるんでしょうね?
それはさておき、次回は少し時系列が戻り『導きと踏み込み』のアヤトの意味深な質問の続きとなっています。
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