幕間 早朝の不満と負担
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教国を訪れて五日目――ロロベリアのもやもやは限界を超えていた。
今朝、初日こそカナリアに任せた使用人に代わりアヤトを呼びに行くという役割を果たそうとしたのが切っ掛け。
本来は朝食の用意が出来たのを使用人が伝えに来たと、隣室のアヤトに伝えに行く役割。
カナリア曰く野生動物並みに警戒心の強いアヤトは安易に他者が訪れるのを嫌う。なので信頼できる者しか自身のテリトリーに踏み込ませない(←そこまで言っていない)、つまり名指しで使用人の代わりを任命された自分はアヤトに信頼されている(←つまりロロベリアの脳内ではそう誇張されていた)。
となれば使用人代わりの小間使い任命だろうと構わない、むしろニマニマで受け持つはさておいて。
教国を訪れてからと言うもの、初日を含めた三日間は不測の事態ばかりで気が休まらずグッスリ就寝。しかし昨日はなにも無い平穏な一日を過ごせたことで久々に早起きが出来た。
逆にカナリアは気が抜けたのか初めてロロベリアよりも遅い起床。もちろんお疲れさまと労いつつ、既に身支度を調えていたロロベリアは朝食の時間まで余裕もあることから役割関係なく隣室へ向かった。
というのも教国に来てからアヤトと二人きりでゆっくり過ごす時間が取れなかったので話をする良い機会。ミューズとの手合わせが気乗りしないような素振りについて聞いておきたかったのもあるが、理由次第では手合わせをしてほしいとお願いするつもりだ。
王国に戻れば機会はあるも、やはり落ち込んでいるミューズに早く元気になって欲しい。加えてミューズの防御をどうアヤトが対処するか勉強させてもらいたい……まあアヤトなら軽々と崩してしまいそうだが、強者同士の立ち合いというのは見学だけでも充分勉強になる。
それともう一つ、出立前にユースと交わした約束を完遂する。
人混みが嫌いなアヤトを年越し祭に誘う。もの凄く嫌がられそうだが叶えばとても楽しい思い出になるだろうとロロベリアは嬉々とした表情で隣室のドアをノックしたが返答はなく、声をかけてもやはり返答はない。
しかしアヤトが寝ているとは考えにくい。なんせ今まで呼びに来た時もソファに寝そべり読書をしているかあやとりをしているか、むしろアヤトが眠っている姿を見たのは一度きり……寝顔は未だにない。
それもさておき、ノックや声かけもしたなら問題ないだろうと最後にもう一度確認してからドアを開けたのだが――
「…………あれ?」
室内はもぬけの殻でロロベリアは首を傾げてしまう。
念のためバスルームやトイレに向けて声をかけてみたがやはり返答無し。
なにより朧月や新月、コートも見当たらない。つまりどこかへ行っている……まあアヤトは屋敷内だろうと関係なくコートを羽織り朧月や新月を(刀身が折れても関係なく)帯刀しているので外出とは限らないが、こんな時間にどこへと訝しみつつロロベリアは引き返すことに。
「嫌な……予感がします……」
からの、すぐに戻ってきたロロベリアに対して訝しむカナリアに事情を説明すればお腹を押さえ表情を曇らせる結果に。
気持ちは分かるが、さすがのアヤトも……何かやらかしそうなのは否定しきれないが、少なくともお世話になっているイディルツ家に迷惑をかけるような真似はしないはず。それなりに気を遣っているのなら尚更……だからこそどこに居るのかが予想も立てられず。
最終手段としてロロベリアはブローチ越しにマヤへ確認をしようとするも、同時に使用人が朝食の用意が出来たと告げに来て。
「また、アヤトさまはミューズさまと応接室に居られます」
質問するより先に使用人から居場所を明かされたカナリアの表情が更に曇り、ロロベリアは別の意味で嫌な予感がしたのは言うまでもなく。
詳しく聞きたい気持ちをグッと堪えたロロベリアと食欲のなさそうなカナリアが食堂へ向かえば――
「おはようございます」
「よう」
ミューズとアヤトが席に着いていて。
アヤトは普段通りだが心なしかミューズの表情がとても良い感じで、ロロベリアは更なる嫌な予感を抱き席に着くなり質問を。
「少々早く起きてな。暇を持て余していたからミューズをモーニングティーに誘ったんだよ」
すればとってもうらやまもやもやな返答が。
そもそも暇なら読書かあやとりを楽しむのがアヤト、なのになぜ持て余すのか。そしてなぜミューズを誘ってモーニングティーのようなオシャレ時間を楽しむのかもやもやする。
いや、ミューズは普段から早く起床してお祈りをする。つまり早起き同士で誘えるだろう。しかしだからといってアヤトがモーニングティーに誘うのはガラじゃないしもやもやする。自分は三ヶ月も一緒に暮らしているのにしたこともなければ誘われたこともないのにもやもやする。
だいたい本当に暇を持て余していたなら自分を誘えばいい。寝ていようが眠かろうがいくらでも付き合うのにどうして誘ってくれないのかもやもや……ではなく、ならアヤトの言い分は間違いなく嘘だ。
本当に暇を持て余しているならやはり読書かあやとりのはず、つまり何らかの理由でミューズをモーニングティーに誘った……この考えは決して自分の願望ではなく、アヤトのらしくない行動や意味不明な行動は必ず何らかの理由があってこそ。
ただ問題はどんな理由から=ミューズをモーニングティーに誘うのか……どれだけもやもや考えても予想すら立てられずやはりもやもや。
結果ロロベリアはせっかく用意してもらった朝食をもやもやしながら作業的に食しつつ、なんとなーく昨日よりも分かり合っている感のあるアヤトとミューズの会話に耳を傾け更にもやもや。
聖女の旅とやらの本をミューズが貸すそうで朝食後にお渡しするらしい本の貸し借りをするほど仲良くなったのか、本を取りに自室へ向かうミューズにアヤトが同行するのをもやもやしながら見送った。
「……ロロベリアさま、私の所為により不快な思いをさせてしまい……本当に申し訳ございませんでした」
のだが、もやもやしっぱなしのロロベリアを見かねたレムアが謝罪を。
なにを謝罪されたのか、そもそもこのもやもやは秘密主義で自分をモーニングティーに誘ってくれなかったアヤトの所為。
レムアに非もないともやもやしながら首を傾げるロロベリアだったが、真意を――
「ミューズさんの相談に乗ったというのは本当ですか」
「レムアに頼まれたら断るわけにもいかんだろう」
「? ……ああ、新月の件でお世話になった借りを返したわけですね」
「そういうことだ。言っておくが相談内容については話す気はねぇぞ」
「プライベートな相談まで聞くつもりはありませんよ。ですが、そのお陰でミューズさんからオススメの本を借りるまで仲良くなれたと言うわけですか」
「仲良くなれたかは知らんが、本の趣味は合いそうだな。つーか随分と含みのあるように聞こえるが、俺が聖女さまと仲良くなるのに何か問題でもあるのか」
「私の胃の負担に問題がありそうなんですよ……」
――知ったからこそ、カナリアは落胆。
主の相談役をお願いされるほどアヤトがレムアを始めとした使用人の信頼を得ているのは構わない。
また相談時になにもやらかしていないのは大歓迎……なのだが、問題は改めてアヤトに事情を確認しようと部屋に訪れてから一言も発していないロロベリア。
その表情から『レムアの頼みなら仕方ないしミューズが元気になって良かった。でもそれはそれとしてもやもやする』との複雑な感情が読み取れて。
「…………っ」
追求することも出来ない結果、せめてもの訴えとしてアヤトをジッと見つめたまま無言の抗議を。
対しアヤトはロロベリアの抗議をガン無視でソファに寝そべりミューズから借りた本を読んでいるのだが。
「……ロロベリアさんにも少しは気を遣ったらどうですか」
「なぜ俺が白いのに気を遣う必要がある」
こちらの訴えもやはり通じず、後にロロベリアの精神ケアを担う自分も少しは気遣ってくれとカナリアは大きなため息を吐いた。
ロロ久々の登場でもやもやシリーズとなりましたが、もちろん前回の続きもちゃんと明かされます。
そしてもやもやシリーズから教国編も折り返し、ここから更に物語が動いていくのでどうぞお楽しみに!
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