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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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【年始SS 後に出会う】

明けましておめでとうございます!

そして本編でアヤトとミューズが向き合っている中、やっぱり昨年のお正月同様今年もSSを挟んでみました。

なので年始SSは作者の作品を読んでくださっているみなさまへ一年最初のご挨拶と、今年もよろしくお願いしますとの気持ちとして受け取って頂ければ幸いです。


ではアクセスありがとうございます!



 新年を迎える鐘の音が響いてしばらく――


「あぁ……やっと解放された」

「なにへばってんのよ、情けない」


 レヒド家のリビングで体裁も気にせず床に倒れ込むディーンにランは嘆息する。

 深夜というのに二人以外に誰もいないのはランの両親はまだ一階のフロアで来客らと盛り上がっているからで。

 年越し祭は主に町の広場に住民らが集まり賑わうもの、しかし食堂の常連客はお気に入りの店で気心知れた仲間たちと迎えるのがお約束。

 また年越し祭の日は明け方近くまで店を開けていることもあり、ランの実家も一年でもっとも忙しくなる。

 対しディーンの実家は宿屋、観光客らで満室になるが年越し祭を迎える時間帯はみな外出していて余裕がある。

 なのでディーンが手伝いとして駆り出されていたりする。

 さすがに最後まで手伝わせることはないので、ランと一緒に早めに切り上げたのだが接客疲れというより弄られ疲れが酷かった。


「ていうか、床が汚れるから座りなさいよ」

「……服が汚れるの間違いじゃね?」


 それはさておき幼なじみの辛辣な一言にディーンは不平を零しながらも素直に起き上がり、テーブル席に腰を下ろす。

 その間に二人分のお茶を煎れたランも向かいに座り、カップをディーンの前へ。


「今年も一応助かったわ。ありがとう」

「一応は余計だろ」

「それと、今年もよろしくね」

「おう」


 新年を迎える瞬間は常連客やらに囲まれてゆっくり挨拶をする暇も無かったので、労いの乾杯と共に改めて挨拶を。

 一杯分のお茶を二人で楽しみ、ディーンが帰宅するのも二人にとって年越し祭のお約束。

 去年はマイレーヌ学院の試験前で、合格するかどうかや入学したらどんな学院生活になるかで盛り上がっていた。


「あたしたちも二学生か……でも、その前の総当たり戦に選ばれるかな」


 そして今年は来年度の序列を決める総当たり戦の話題がランから上がる。

 マイレーヌ学院に入学したら序列入りを果たす、というのがランとディーンの目標であり、夢の一つでもあった。

 故に入学してからも訓練を欠かさず続けてきたが、時期が近づくにつれて不安になってくる。


「ランなら問題ないだろ。なんせ一学生の精霊騎士クラスで一番強いし」


 が、ディーンからは気楽な返答が。


「一学生で、でしょ? 総当たり戦は二学生の精霊騎士クラスの先輩方も含まれるし……なにより精霊術クラスの方が有利じゃない」

「間合いでいや確かに。でもランならかいくぐるのも難しくないだろ。俺の精霊術もピョンピョン躱すくらいだしな」

「うさぎみたいに言わないでよ」

「それよりも問題なのは俺の方だっての」


 ズズズとお茶を啜りながらぼやくディーンだが、何気に精霊術クラスの一学生ではエレノアやミューズに次ぐ実力者なのをランは知っている。

 加えていざという時の勝負強さ、幼なじみとしてよく知るだけにディーンが総当たり戦に選ばれるだろうと確信していた。

 まあ口にすると調子に乗るので絶対に言わないが、とにかく幼なじみに置いて行かれないかランは不安で。


「……よし、起きたら特訓するわよ」

「今日くらいノンビリすりゃ良いのに」

「だからディーンも付き合ってよね」

「はあっ?」


 不安を少しでも消すには訓練とやる気を見せるランの発言にディーンは目を丸くする。


「学院の自主訓練室は午後から解放されるけどその前に体力作りしたいから……七時に集合ね」

「勝手に決めるなよ! だいたい七時って五時間くらいしか寝られないんですけどっ?」

「そういうわけだから、さっさと寝ましょうか。でもその前にシャワー浴びたい……覗かないでよ」

「覗かねーよ! じゃなくて、俺の話を聞けって!」

「ちなみに、遅れたら今日の給料無しだから。じゃあディーン、おやすみ」


 ランは片目を瞑りリビングを後に。

 残されたディーンはランの飲み干したカップと自分の手にしているカップを交互に見つめ。


「……後片付けも俺がするのかよ」


 新年早々深いため息を吐いた。



 ◇



「すまない、止めてくれ」


 日が昇って間もなく、馬車で王都を巡っていたレイドが御者に指示を。


「お兄さま?」

「どうした」


 同席していたエレノアとカイルに構わず停車するなりレイドは下車を。

 咄嗟に護衛が対応する中、レイドは静かな商業区を一人歩く男性に声をかけた。


「キミは確か……シャルツくん、だよね」

「そうだけど……レイド殿下?」


 振り返った男性、シャルツは声をかけたのがレイドと分かるなり慌てて身体ごと振り返り一礼を。


「レイド殿下とは知らず失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございません」

「ああ、気にしなくていい。それにボクらは同じ学院生だ、今は私的な対応で構わないよ」


 謝罪を受け、若干寂しそうに首を振りレイドが許可を出すもシャルツの表情は硬い。

 なんせ相手は王族、同じ学院生とはいえ精霊術クラスと精霊学クラスでは接点もない。

 そもそも自分の名前をよく知っているものだ。


「では……レイドさまはなぜこのような場所に?」


 とにかく王族の希望ならとシャルツは少しだけ口調を砕けて質問を。


「視察みたいなものかな? と言っても、年越し祭に参加できないから少しでも雰囲気を味わいたいとの感じだけど」


 確かに王族は年越し祭に参加するのは難しいが、祭りの後の静けさ漂う町並みで雰囲気を楽しめるかは微妙なところ。

 いや、年越し祭後だからこそ王族が気楽に城下へ来られるのかと分析するシャルツだったが。


「……お兄さま、この方は?」

「お前は精霊学クラスのシャルツ=ライマーク……だったか」


「…………」


 王女のエレノアと侯爵家のカイルまで現れ思考停止。


「そうだよ。見かけたから新年の挨拶をと思ってね」

「なるほどな。しかしそれなら一声かけていけ」

「ごめんごめん。ほらエレノア、彼は学院では先輩だ。ちゃんと挨拶しなさい」

「……ですね。おはようございます」


「こちらこそ……おはようございます」


 再び接点のない大物を前になんとか挨拶を返せばレイドが話題を戻す。


「とまあ、カイルとエレノアも一緒にね。それでシャルツくんは朝早くに何をしていたのかな?」

「私は散歩を少々……朝の新鮮な空気を吸うと頭がすっきりするので、日課なんです」

「気持ちは分かる……と、ならお邪魔かな? 急に呼び止めてすまない」

「お気になさらず」

「ではまた学院で」

「失礼します」

「レイドがすまなかったな」


 急な登場なら急な退場とエレノアとカイルを連れてレイドは去って行き。


「さすがに……緊張したわね」


 解放されたシャルツは頭をすっきりさせる為、深呼吸を一つ。

 まさかの邂逅だったが、噂通りレイドだけでなくカイルも学院の理念をずいぶんと推奨しているらしい。

 でなければ平民のいち学生に挨拶をするためにわざわざ馬車から降りてこないし、レイドに代わり謝罪などしないだろう。

 まあエレノアは少々お堅い感じだが、あの二人なら学院内では気さくに話しかけても問題ないだろう。


「ふふ、学院が再開したら思い切って声をかけてみようかしら」


 王族貴族の顔なじみとなれば色々と利はある……というのもあるが、立場関係ない対応をして来る二人が純粋に面白そうとシャルツは軽い足どりで散歩を続けた。



 ◇



 同時刻、王都のロマネクト邸ではティエッタとフロイスが鍛錬を行っていた。

 伯爵家令嬢と専属従者という立場関係なく、二人は元より年越し祭に参加せず、常に己を高める時間に費やしていたりする。


「お嬢さま、お飲み物をどうぞ」

「ありがとう、フロイス」


 故に今朝も変わらず朝食前の体力作りを終えて一息吐く。


「朝食後は座学にしましょう。真の強者たるもの知識も疎かにしないもの」

「お嬢さまの仰る通りです」


 そして年中変わらない強者バカと主バカの二人はさておいて。


「入れ替え戦後は総当たり戦……でも、せっかくなら下克上戦を挑もうかしら」


 現在ティエッタは序列五位。序列の間に優劣はなくも上にまだ四人の強者がいる。

 加えて同学年では序列三位のレイドと序列四位のカイルに次ぐ三番手。

 またフロイスは序列六位と二学生でありながら三位から六位を独占しているのは珍しく、ティエッタらの世代は有望株が揃っていると期待されていた。

 しかし真の強者を目標とするティエッタに傲りはない。

 今までは序列を守る側に留めていたが、三学生が卒業する前に序列一位を狙うのも一興。


「あなたはどうするのかしら」

「自分は序列二位に挑もうかと」


 ティエッタの問いにフロイスは即答。

 序列二位は精霊騎士クラスの三学生、つまり現在学院最強の精霊騎士で。


「さすがは私の従者よ、褒めてあげるわ」

「光栄にございます」


 その狙いに満足するティエッタにフロイスは誇らしげで。


「ではお互いに最強の座を得るべく、早速鍛錬を始めましょう」

「畏まりました」


 目標は高いからこそやりがいはあると、二人は朝食も忘れて終えたばかりの体力作りに勤しんでいた。



 ◇



 いつもと変わらない夜明け前の時間帯にミューズが目を覚ました。

 昨夜は降臨祭のミサに参加したので年明け後の帰宅、睡眠時間はいつもより短いが教国で過ごす早朝のルーティーンは変わらない。


「おはようございます。ミューズさま」

「おはようございます」


 なのでいつもの時間に寝室を出て、待機していたレムアと挨拶を交わし礼拝室へ。


「なんだ、起きていたのか」

「……お父さまっ」


 だが一階のエントランスで自分を見上げるリヴァイが居たことに、ミューズは驚きから目を見開く。

 リヴァイは降臨祭を裏で支える財務局勤めで、今回の帰省でもまだ一度も顔を合わせていないほどの激務。

 故に理解していても寂しい気持ちでいたが思わぬ再会にミューズは足早で階段を降りてリヴァイの元へ。


「イディルツ家の娘がはしたない」


 だが、ミューズの高揚とは裏腹にリヴァイは冷ややかな眼差しで所作を指摘。


「も、申し訳ございませんっ。あ、あの……おはようございます!」


 それでもリヴァイの前に立つミューズは謝罪と共に挨拶を。


「お父さまはいま帰宅されたのですか? お疲れさまでした」


 続けて笑顔で労いの言葉をかけるもリヴァイはため息で一蹴。


「所用で帰っただけだ。すぐに戻る」

「……そうですか。では、お気を付けていってらっしゃいませ」


 そのまま横を通り抜け二階に向かうリヴァイの背にミューズは深々と頭を下げた。

 久しぶりに帰国した娘に対して王国留学について触れるどころか挨拶すら返してくれない父。

 これもまたイディルツ家の父娘のいつものやり取り。

 しかし父の接し方にミューズは馴れることなく。


「……お祈りに向かいましょう」

「畏まりました」


 今にも泣きそうな感情を必死に堪える、主の弱々しい笑みにレムアは胸を痛めていた。




アヤトやロロと出会う前の序列メンバーの年越しに触れてみました。

また彼らもこの出会いを切っ掛けに序列同士でも仲を深めることになるのですが……ミューズのみもやもやする内容になってしまいました。

そんなミューズがヒロインとしてガッツリ登場する教国編は次回更新から再開です。

どうか本年度も『白き大英雄と白銀の守護者』をよろしくお願いします!


読んでくださりありがとうございました!

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