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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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【年末SS その料理には】

本編でアヤトとミューズが向き合っている中、昨年の大晦日同様今年もSSを挟んでみました。

時季イベント……というか年末SSは、作者の作品を読んでくださっているみなさまへ一年の締めくくりのご挨拶と、感謝の気持ちとして受け取って頂ければ幸いです。


アクセスありがとうございます!



 一年の終わりを迎える風精霊の周季と水精霊の周季の間際。


 山間に位置するルルベルは雪の国とも呼ばれる教国との国境付近ということもあり、王国でも寒さがいっそう厳しい町。

 それでも年越し祭になると住民らは寒さも忘れて夜通し大盛り上がりを見せる。


「ねえ、母さん」

「なにか分からないことでもあるの? アヤト」

「どうしてウチはいつも家で過ごすの?」


 が、この町で小さな商店を営むカルヴァシア家は年越し祭に参加せず家族で過ごす。

 周囲と違う習慣にようやく疑問を抱けるようになったアヤトは首を傾げるのも無理はない。

 その疑問に対し料理の手を止めた母、ワカバは微笑み。


「それはね、私が人混み嫌いだからよ」

「…………」


 思わぬ真実にアヤトは言葉を失うのもまた無理はない。

 確かに母はあまり人の多い場を好まず、仕入れなどの交渉も父のアースラが行っている。

 またどこかの貴族家令嬢のような気品溢れる見目や所作とは裏腹に、とても強情で豪胆なのを息子としてよく知っている。

 ちなみに父は体格も良く強面ではあるも、内面は温厚でお人好しだったりする。

 更に元騎士だったらしく、持たぬ者ではあるが腕っ節は強い……が、ワカバには頭が上がらないのだがそれはさておき。


「冗談よ。まあ半分は本当だけど」

「……それで、残り半分は?」

「祖父から聞いたことがあるの。東国の年越しは一年間頑張ったからこそ終わりの日を家族でゆっくり過ごして、来年も家族で頑張る英気を養うらしいの」

「そうなんだ」

「その話を聞いてなんだが良いなって。だから私も家族が出来たら、そんな感じでゆっくり過ごすって決めてたの」


 懐かしそうに語るワカバの表情はとても優しくて、アヤトは温かい気持ちになる。

 また王国の年越し祭とは違う東国の風習に、同じく良いなと感じて。


「でもこれは私のわがままだから。アヤトが年越し祭に参加したいなら付き合うわよ。もちろんアースラもね」


 大切なのは家族が一緒にいることだから――と、ワカバは片目を瞑るもアヤトはゆっくりと首を振った。


「ぼくもあまり人混み好きじゃないし、今年も父さんと母さんの三人でいい」

「さすがは私の息子ね……そう言ってくれて本当に助かったわ」

「……そんなに人混みが嫌いなんだね」


 心底安堵するワカバにアヤトは脱力しつつ、手伝いを再開しながら新たな疑問を口にする。


「じゃあこの料理も東国の物なの?」


 カルヴァシア家では基本パンを中心に炙ったり焼いたりした肉にスパイスを加える王国特有の料理が食卓に並ぶも、一年に一度だけワカバは特別な料理を振る舞ってくれる。

 スパイスは最小限に素材の味を活かした野菜や魚中心の料理は彩りが華やかで、少し薄味に感じるも優しい味がするのでアヤトは楽しみだった。

 また年を越す前に食べる汁に入った麺料理や、一年最初の日に食べるもちもちとした不思議な感触の料理も他では食べたことがないもので。

 年越しのルーツを知ったからこそ関連していると質問すればワカバは頷き。


「これも祖父の話を聞いて何となくこんな感じかなって真似た物ね。それぞれの料理に家族の健康や幸せを願った意味合いがあるらしいのだけど……再現するのに苦労したわ」

「じゃあ母さんしか作れないんだ」

「本物を受け継いでいる人も居るかもだけど、真似た物を再現した料理、という意味ならそうかもね」

「なら母さんの料理はぼくが受け継がなきゃ。ぼくも家族には健康でいてほしいし、幸せになってほしいから」

「ふふ、アヤトも将来家族が出来たら振る舞うつもり? でも、それも良いなって思うわ」


 だから教えてあげる、と丁寧にレシピを説明しつつ親子で料理を作り始める。

 一生懸命に話を聞くアヤトを見つめ、ワカバは口を開く。


「……あなたは将来どんな子と結婚するのかしらね」

「ん~……よく分からないけど、父さんや母さんを大切にしてくれる子が良いかな」

「そう……良い子ね」


「――帰ったぞ」


 笑顔で答える息子に慈しみの眼差しを向ける中、玄関から声が響く。


「父さん、おかえり!」

「ただいまアヤト。手伝いしてるのか、偉いな」

「ねえアースラ、アヤトったら将来私と結婚したいんだって」

「そんなこと言ってないよっ?」

「アヤト……ワカバは俺の嫁だ」

「父さんもなに本気にしてるのっ!?」


 わたわたと慌てふためくアヤトにアースラとワカバの笑い声が響き――



 ・

 ・

 ・



「…………」


 目を覚ましたアヤトは珍しく夢現で。

 ろくでもない研究所から救われて半年ほど。

 実験体として生きていた頃の経験から浅い眠りが続いていたのに、いつの間にか熟睡できるようになったらしい。

 この変化は恐らく――


「…………そういや、そうだったな」


 夢の中で出会った最愛の両親を思い返し、小さく笑った。



 ◇



「やはり、なにか違いますね……」


 一年の終わりを迎える風精霊の周季と水精霊の周季の間際、王都に構えたラタニの住居でカナリアは首を傾げていた。

 というのも料理をしているのだが、味付けが上手くいかなくて。


「どったのカナちゃん」


 そんな悩みを嗅ぎつけたのかリビングからよれよれのしわしわな服を着たラタニが姿を見せる。

 アヤトが武者修行の旅に出てから一人暮らしを始めるなりずぼらな格好に戻ってしまったが、どれだけ注意しても治らずカナリアは若干諦めていたりする。


「アヤトくんが作ってくれた料理を再現していたんですが、どうも上手くいかないんです」

「アヤトの作った料理ってどれかいな?」

「今年の最初に作ってくれた料理です」

「ああ、東国のやつね」


 一緒に暮らしていた頃は常にアヤトが作っていたのでどの料理を指しているのか分からないラタニもカナリアの説明にピンときた。

 カナリアから手解きを受けて以降、様々な料理を覚えたアヤトが一度だけ母から教わった料理を振る舞ってくれたことがある。

 なんでも東国では一年の最初に食べる伝統料理で、何となく思い出したから作ってみたらしい。

 ただ毎日の訓練を欠かさないアヤトが前日からキッチンに入り浸りで熱心に準備をしたり、その年の年越しに限り東国の風習に則り前夜からラタニやマヤだけでなく、様子を見に来ていたカナリアにもノンビリ過ごすよう言い出したりといつもと様子が違っていて。

 まあ当時はまだ居なかったマヤは抜きにして、アヤトやラタニは前年の年越し祭も参加せず、同じく様子を見に来ていたカナリアも家で過ごしていたが特に料理はせず普段通り訓練は行っていたので驚いた記憶がある。


「野菜や魚中心ので、派手なもんばっかだったねぇ。薄味すぎてたけど、それはそれで美味かったし」

「ええ、せっかくなのでモーエンさんたちに振る舞ってあげようと思いまして」

「明日来るもんね~。にしても、一度食べただけでよくもまあ再現できるもんだ」

「……ですから、上手く再現できないんですって」


 頭をボリボリかくラタニにカナリアはガックリと肩を落とす。

 モーエンやラズリエア兄妹もアヤトの料理を食したことはあるも、小隊結成からの接点なので東国の料理は食べたことがない。

 ラタニの言うように王国の料理に比べて薄味でも、素材を活かした味付けが優しく感じて。

 なにより警戒心の強いアヤトが母から教わった料理を振る舞ってくれたことが嬉しく、少しは信頼を得られたようで感動したものだ。

 故にアヤトに変わってまだ食したことのない三人にカナリアが振る舞おうとしたのだが、素材を活かした味付けというのは存外に難しい。


 ちなみに年越し祭を家族で過ごすモーエンや、帰省中のラズリエア兄妹と違ってカナリアがラタニの住居に居るのは実家との折り合いが悪いからで。

 そもそも才能ある精霊術士として見出されたカナリアだったがマイレーヌ学院に通うことを両親に反対され、仕方なく国の援助金で学院に通っていた。また在学中も講習で忙しい合間を縫ってバイトをしたりと苦学生でもあったりする。

 なので今でも両親との折り合いは悪いまま、もう何年も実家に顔を見せていない。

 その為か、何となくあの優しい味のする料理を小隊のみんなにも振る舞いたいと思えたのかも知れない。

 実の両親と折り合いが悪いカナリアにとって、ラタニや小隊のみんなは家族のような存在で。

 もちろんアヤトやマヤも自分にとっては可愛い弟と妹のような存在。


「……アヤトくんやマヤちゃんは元気にしているでしょうか」


 二人のことを思い出したカナリアはボソリ。

 急な旅立ちには怒りこそ覚えたものの、いくら自分より強くともアヤトはまだ子ども。なぜマヤまで一緒に旅だったのかと今では心配ばかりが募る。


「あの子らは元気にやってるよん。昨日きたお手紙には年越しは帝国で迎えるって書いてたし」

「……隊長」

「どったの?」

「手紙が届いたのなら教えてください!」


 ……なのに唯一の情報源が適当すぎてカナリアは息巻く。

 こちらから手紙が送れない状況なのでアヤトから一方的に送られる手紙が唯一の安否確認なので当然。

 実のところラタニは神気のブローチで頻繁にマヤ経由でアヤトの安否を確認できるので飄々としているのだが言えるはずもなく。


「それでアヤトくんからの手紙はどこですか!」

「たしかリビングで読んで……どこいったっけ?」

「ああもう! 明日はモーエンさんたちが来ますから探すついでに大掃除をしますよ!」

「え~めんどい」

「めんどいではありません!」

「それよりもご飯まだ~。あたしアヤチンが作ってくれたお汁に入った麺料理が食べたい~」

「私も食べたいですが作り方が分からないんです!」

「アヤト早く帰ってこねーかなー」

「マヤちゃんを忘れてませんかっ?」


 マヤほど安否確認が無用な存在がいないとカナリアが知るのは、このやり取りから二年後になると今はその神すら知らない。


 ……かも?




アヤトの両親の名前が明かされたので、この機会に登場させてみましたが……アースラの出番はほとんど無かったですね。

そして今年一年、もっとも苦労をかけたカナリアへ作者なりに感謝の登場も……はい、今も昔もカナリアは苦労しっぱなしでした。


また澤中雅として今年の更新はこれで終了となります。


来年もみなさまに面白い! 続きが楽しみだ! と思って頂ける作品になるよう必死に執筆を続けていくので温かく見守って頂ければ作者はとっても嬉しいです。


読んでくださりありがとうございました!

それでは良いお年を!

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