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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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早朝の出来事

アクセスありがとうございます!



 まだ夜明け前の時間帯に目を覚ましたミューズはベッドから降りるとまず窓を開ける。

 この時期の教国は気温が低く、日が出てなければいっそう冷えるので精霊器で気温を整えていた室内に肌を刺すような冷気が一気に入り込む。

 しかし微かに体が震えるもミューズの表情に変化はない。こうして起床後に窓を開けて新鮮な空気を浴びるのは、神子の修行を始めてから行っている最初の日課。それこそ嵐のような暴風ではない限り王国でも必ず行っていた。

 故に冷たくも新鮮な空気が身体の内外を清めてくれるようで心地よく、深呼吸を数回繰り返してから窓を閉めた。


 続いて湯浴みで身体の汚れを流し、しっかり水気を拭き取ってからグリーンのワンピースに淡い黄色のカーディガンを羽織る。

 最後にドレッサーの前で髪を丁寧に梳かしていく。

 伯爵家令嬢とはいえ身の回りの全てを従者に任せるようなことはしない。もちろん祭事や式典などでは別だが、基本身支度などは自分で行うのがイディルツ家の方針。

 なので馴れた手つきで櫛で梳かし、最後に鏡で全体の身なりを確認して寝室を出た。


「おはようございます。ミューズさま」

「おはようございます」


 待機していたレムアと挨拶を交わして共に礼拝室へ。

 王国で借りている屋敷に礼拝室はないので時間を作って教会に赴いていたが、寝室で朝のお祈りは必ず行っていた。

 故に帰省している間は身体を清めて礼拝室まで足を運ぶ、これもミューズの日課で。

 もちろんレムアを始めとした使用人も一日一回のお祈りを欠かさない。

 ただ礼拝室にはミューズ一人で入り、廊下でレムアが待機を。

 室内は一面の白で窓はなく、三メル四方の空間に祭壇がぽつんと設置されているのみ。

 祭壇前でミューズは両膝を突き、両手を重ねて祈りを捧げる。

 その後は朝食まで勉学や読書をしたり過ごすのだが。


(…………いけません)


 祈りとは神との繋がりを感じる尊き間、博愛の精神を持って捧げるべきなのに精神の乱れからミューズは瞼を強く閉じて己を律する。

 乱れの理由は理解している。

 二日前、祖父から通達された方針と。

 そしてロロベリアと――


 コンコン


「…………?」


 不意に聞こえたノックの音に固く閉じていたミューズの瞼が開く。

 祈りの最中、まずレムアが入ってくることはない。

 あるとすれば火急の用件で。

 何かあったのかと不安に思う間もなくドアが開き。


「失礼する」


「…………え」


 背後から聞こえた声にミューズは祈りを中断して振り返ってしまう。

 そこには真っ白な室内で存在感を強く示す黒一色の人物が居て。


「ほう? 礼拝室とはこのような感じか」

「アヤト……さま」


 思わぬ来訪者にそれこそ頭が真っ白になるミューズを他所に、ドアを閉めたアヤトは興味深げに室内を一瞥。


「これでは白いのが入れば見分けがつかんな」


 しかし苦笑しつつ呟いた言葉にちくりと胸が痛み、我に返ったミューズは邪念を振り払うよう首を振り。


「……アヤトさまもお祈りをされに?」

「まさか」


 礼拝室に来るなら他にないとミューズが問うもアヤトは即否定。


「いつまで待っても出てこないから様子見に入らせてもらったんだが……どうやら邪魔をしたようだな」

「お邪魔だなんて! ですが、あの……」


 例え祈りの最中でもアヤトを邪魔に思えるはずはなくミューズも即否定。しかし上手く言葉が出ない。

 何故ならアヤトの言い分では自分を待っていてくれたようで。

 こんな時間にわざわざ会いに来てくれたとの光栄な気持ちはあるも、その理由が全く思いつかないのだ。

 だがそこはアヤト、ミューズの心情なんぞ知ったことかと話を進める。


「それはなにより。で、祈りとやらは終えたのか」

「え? あ……はい……」


 本当は邪念から上手く祈りを捧げられなかったがミューズは反射的に頷いてしまい。


「なら行くか」

「行く……? どちらにですか?」

「茶を飲みにだよ」

「え? ……え?」

「要はモーニングティーというやつだ」

「わたしと……ですか?」


 予想外な誘いにミューズは戸惑ってしまう。


「無理にとは言わんがな」


 そんなミューズの戸惑いもアヤトは最後まで無視、背を向けて礼拝室を出て行ってしまう。

 神への祈りを蔑ろにするのは教えに反する行為。

 しかしアヤトの誘いなら神もお許しになるとミューズは祭壇に一礼して後を追った。



 ◇



 礼拝室の外にレムアの姿はないも、ミューズは気にする余裕もなくアヤトの後ろを無言で歩く。

 到着したのは同階の応接室で、まだ薄暗い時間帯でも室内は精霊器によって明るく快適な室温を保っていた。


「何してんだ? さっさと座れ」

「……はい」


 先に入室したアヤトに促されるままミューズは近くのソファに腰を下ろす。


「といってもここはお前の家か。俺が勧めるのは違うな」

「そんな……あ、アヤトさま? お茶でしたらわたしが――っ」


 が、既に準備が整っていたティーワゴンからお茶の用意を始めるアヤトに慌てて立ち上がる。


「誘ったのは俺だ」

「ですが……」

「それとも俺が煎れた茶では不服か」

「……そんなことはありません」


 しかしアヤトに諭され申し訳なくも再度腰を下ろして待つことに。

 アヤトの手際は学食で振る舞う料理やサクラとのお茶会で充分知るところ。

 お茶を煎れる所作も使用人に劣らず鮮麗されていて、その優美さにミューズは見惚れてしまうほど。


「待たせたな」

「……ありがとうございます」


 そしてティーカップを置き向かいに腰掛けるアヤトにお礼を告げて一口。

 教国産の馴染みあるお茶が別種の美味しさに感じつつ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じてミューズ表情が自然と緩む。


「とっても……美味しいです」

「そりゃどうも」


 素っ気ない返答後、アヤトも自分用に煎れたお茶を一口飲むなりほくそ笑んだ。


「さて、言うまでもないが俺はただ茶を楽しみに来たわけじゃねぇ」

「? そうなのですか?」

「…………」


 が、キョトンとした表情を向けるミューズに珍しくアヤトの笑みが固まった。

 実のところミューズはわざわざ足を運んでまでお茶に誘ってくれたことに戸惑いこそすれど、何か裏がありアヤトが誘ったとは考えていなかったりする。


「……やはり、お前はよく分からん」


 しかしそこはアヤト、すぐさま気を取り直すとお茶をもう一口。


「ま、種明かしするならこの場を用意したのはレムアだ」


 何事もなかったように話を進めた。




アヤトがペースを乱されたのは初では? さすが聖女さま……。

そして次回から天然同士……もといアヤトとミューズが向き合います。

……二人での対話も何気に初ですね。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

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読んでいただき、ありがとうございました!


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