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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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幕間 互いの事情

アクセスありがとうございます!



 ロロベリアが自身の英雄の敗北を苦渋に満ちた表情で受け入れようとしている頃、練武館を後にした当の本人といえば平然としたもので。


 レムアが事前に話を通しているのか、使用人らは一人で屋敷内を歩くアヤトを見ても気にせず通り過ぎざまに一礼を。

 アヤトも軽く会釈する程度でそのまま客室へ。


「…………っ」


 しかし室内に入るなり表情がロロベリア以上の苦渋に満ちる。

 そう、最後まで平然とらしい態度を振る舞っていたアヤトだがその心情は敗北の悔しさからマグマのように煮えたぎっていた。

 実のところアヤトは自分が強いと自惚れたことなど一度もない。

 もちろん弱いとも卑下していない。

 ただラタニを超えられない限り自分は強くなったと思えないのだ。

 最強を超えれば何があろうと守ることが出来ると、とても単純な思いつきで決意したラタニを超えるという挑戦。

 あれから四年、今でもこの初心は忘れていない。

 ラタニを超えた時こそ、ようやく自分は強くなれたと思えるだろう。

 そして最強になれた時こそ、自分の大切を守れるようになる。

 故に負けるのは構わない。

 負ければ悔しいがそれは自分が弱いからに過ぎず、ならばその敗北も糧にすればいいだけのこと。

 現に過去、ラタニを始めとした相手に何度も負け続けていた頃からそうしてきた。

 敗北に馴れることない。

 負ければ負けるほど悔しさや不甲斐ない気持ちは増していくばかりで。

 そうした気持ちを糧にし続けたことで、ようやくマシになった程度には成長できた。


 だが今回の敗北は今までと質が違いすぎて上手く処理できない。


 脱いだコートを感情のまま乱雑にソファへ放り、テーブルに置いた朧月と新月を前にアヤトの苛立ちが募る。

 ダリヤに告げたよう新月はこの世で最高の鍛冶師が打った一振り。にも関わらず無惨な姿にさせてしまった。

 自分の体たらくに反吐が出るほどで、それこそツクヨに向けて頭を地面に擦りつけてでも謝罪しなければならない。

 ツクヨが打ってくれた新月を上手く扱いきれなかった自分が不甲斐なく。

 そしてもう一つ。

 守ってやると偉そうにほざいておきながら。

 その対象者(ロロベリア)にあのような顔をさせてしまった自分が不甲斐ない。

 まさに新月と共にプライドまで粉々にされてしまった。


「……クソがっ」


 故に今までと違う悔しさや不甲斐なさからアヤトは吐き捨てる。


「――あらあら、ずいぶんと荒れているようで」


 そんなアヤトを煽るようにマヤが正面のソファに顕現。


「ダリヤさまに敗北されたことがそんなに悔しいのでしょうか」

「……負けて喜ぶ趣味なんざ俺にねぇよ。理解したら消えろ」


 いつになく殺気立つアヤトだがマヤは動じることなく、むしろクスクスと笑い更に煽る。


「ところでわたくしも気になったのですが、兄様はどうして朧月を使わないんですか?」


 元よりマヤをどうこう出来ないのを嫌というほど知るアヤトは無視を決め込むも、ロロベリアと同じ疑問を投げかけられ眉根を潜めた。


「お遊びで抜けば負けになる、という拘りも興味深いのでご説明を願います」

「テメェにご説明する義理はねぇよ」

「では()()()()()()()()()()()()()()()()()


 一応抵抗は試みるが予想通りマヤから教国へ赴く前に交わした契約を持ち出されてしまう。

 これで拒否権はなくなり説明するしかなく。

 話す気分ではないが不甲斐ない自分に対する戒めとしてちょうど良いと。


「……仕方ねぇ」


 ため息と共にアヤトは切り替えた。



 ◇



 夕暮れ時、ロロベリアへの稽古を終えたダリヤはフロッツと共にイディルツ邸を後に。


「今日は良い日だった」


 来る時は降っていた雪は止んでいるも寒さが増す中、夕焼けに照らされた道を歩くダリヤは満足そうで。

 フロッツの騙し討ちから始まったアヤトとの模擬戦。

 勝利はしたものの、ダリヤこそ敗北した気分だ。なんせ最後までアヤトの底が見えず、まだ何かを秘めている。

 それでも学ぶべき物が多かった。

 特に最後の攻防、聖剣によって増幅された精霊力に呑まれることなく、最後まで自らの意思で振るうことが出来た。

 自分の限界を超えたことで成長できたと実感している。

 その結果、アヤトの新月を破壊してしまったことに罪悪感はある。

 それでもアヤトは許してくれて、握手に応えてくれた。

 あの高潔さもまた学ぶべき姿勢。

 正直なところ最初の印象は態度の悪さと畏怖から良くなかったが、今回の模擬戦で印象が大きく変わった。

 故にミューズがあれほど入れ込む気持ちも分かり、もし恋愛感情だとしても素直に応援できるほど。

 ただもしそうならロロベリアの存在が懸念か。

 彼女がアヤトに向ける感情は恋愛に疎いダリヤでも察するのは容易く、稽古を付けたことで為人も察することが出来た。

 驚くほど真っ直ぐな信念と純粋さ、また精霊力の扱いが噂以上の実力者。

 アヤトとどんな関係かは分からないが、強力なライバルになることは間違いなく。

 まあミューズの感情がハッキリしない以上、悩むのは早計で。

 機会があれば確認してみようと――


「ダリーにしては珍しく上機嫌じゃん」

「……お前の存在がなければな」


 楽しみにしていたのに、軽薄な声に気分を害されダリヤの表情が険しくなる。

 今日の模擬戦はフロッツのお陰ではあるも、結局なぜ騙し討ちまでして自分とアヤトを戦わせようとしたのか分からないまま。

 良い経験になった感謝よりも、自分の狙いを伏せたまま踊らされたことが不快で。


「お膳立てしたご褒美に飯でもどう? もちろん俺が奢るからさ」

「私はこれから自主訓練をする」

「……精霊力もずいぶん消費してるし、アヤトくんとの模擬戦で疲れてるだろ。今日くらいゆっくりすれば良いのによ」

「そのアヤトさんとの模擬戦で得た感触を忘れない内にしておきたいんだ」


 故にフロッツの誘いを断りダリヤは歩を早める。


「自主訓練があろうとお前と食事など行くつもりはないが」

「……そうですか」


 外気温よりも冷たいあしらいにフロッツは足を止めて脱力。


「ま……残念だけどディナーはまた今度ってことで」


 しかし言葉とは裏腹にどこか満足げな笑みを浮かべていて。


「俺は()()()()()()()()()()()


 その呟きは冷たい風にかき消された。




敗北が一番悔しかったのはアヤトくんです。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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