クダケチル
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聖剣により精霊力を増幅させたダリヤの猛攻にアヤトは防戦を余儀なくされていた。
「…………」
「先ほどの威勢はどうした」
だが先の反撃にダリヤの警戒心が強くなる。
聖剣を振り上げたタイミングに合わせて振るわれた新月はまるで自分の太刀筋を目視したかのように的確で、故に体勢を崩されたのだ。
加えてこの余裕が不気味で。
今の一振りはまぐれか、ただの虚勢か。
(……確かめれば良いだけだ)
意を決してダリヤは剣先を下げたまま突進、そのままアヤト目がけて左斜めに斬り上げた。
ギン――ッ
「……っ」
ハズなのに、振り上げを狙われた一振りの衝撃で大きく身体を反らされる。
「よっと」
「ぐ――っ」
からの、振り上げの勢いそのまま身体を反転させたアヤトの蹴り上げをギリギリで回避。
「さすがは剣聖さま。今のを躱すとは恐れ入る」
再び距離を空けて体勢を整えるダリヤに対し、やはりアヤトは追撃せず余裕の表情。
もうまぐれでも虚勢でもなく。
「……見えているのか」
確実に捉えられる自信でしかない。
「答える義理はねぇよ」
ダリヤの呟きにアヤトは苦笑で交わすも刀身で肩をトントンと叩き。
「だがま、お遊びの一環でムキになるのも違うな。ここらで小休止といくか」
その所作が一時休戦の合図と分かり、聖剣を手にしたままだと高揚感から増していくのでダリヤは一度鞘に納める。
「まず答えておくが、見えちゃいねぇよ」
「だが、先ほども――」
「剣聖さまにご教授するなんざ恐れ多いんだがな」
ダリヤの反論を遮りアヤトも新月を鞘に納めた。
「その聖剣とやらにどのような力があるかは知らんが、少なくとも使い手の身体能力を強化するんだろう」
「……正確には使い手の精霊力を増幅させることで強化するものだ」
アヤトは持たぬ者、精霊力を感じられない故に精霊力の変化には気づけない。
しかし聖剣を手にしてからの変化で予測したまでは理解できる。
「増幅とは興味深いな。だが今は置いておくとして、強化できるのは所詮身体能力のみ。どこぞのリスにも話したことだが、精霊力で頭の能力は上がらん。加えて新解放と同じでどうも頭に血が上りやすくなるらしいな。結果として動きも単調になり読みやすくなる」
「…………」
「なら剣聖さまの初動から攻撃を仕掛けてくるまでのタイミングさえ把握すれば見えなくとも防げるだろう」
「……それでは私がどのような攻撃をするかまでは把握できないはずだ」
「単調で読みやすくなると言ったんだがな。そんなもの初動の際に見せる視線や呼吸、剣先の位置で予想できる」
「…………」
「しかしさすがは剣聖さまか。単調だろうと完全に読み切るまで随分と時間が掛かった」
「…………」
「それに聖剣を抜いてから斬り合いを挑まなかったのは頭に血が上り加減が出来ないからだろう。つまり手加減されていたわけか、俺もまだまだ未熟のようだ」
だが他は理解できない。
確かに足を止めた斬り合いをすれば高揚感が増していき力加減が出来なくなると、ヒットアンドアウェイを続けていた。
またその高揚感に振り回されて動きが単調になるのも自覚している。
ただ視認できない攻撃を僅かな時間で正確に読み切り、反撃までしてくる者など教国の精鋭ですら不可能。
そんな神業を披露しておきながら自身の未熟さを嘆くアヤトの感覚が理解不能で。
なにより僅かなミスで大怪我が免れない状況下において、恐れず平然と実行してしまうできる精神。
それが精霊力の恩恵を受けられない持たぬ者となれば、まさに――
「……バケモノめ」
「だから、見ての通り俺はただのガキだ」
思わず漏れ出た悪態にアヤトは変わらずな返答を。
「さて、多少誤解を生んだようだが講釈は終いにして続けるか」
そのまま新月を抜き刀身を肩に乗せて。
「それとも遊びを終いにするか。意図せず精霊力が増幅されるならお疲れだろうしな」
「まさか……」
挑発染みた言い分にダリヤも聖剣に手をかける。
確かに聖剣による精霊力の増幅は心身共に負担をかける。
上位種の霊獣すら一太刀で斬り捨てていただけに、今まで聖剣をこれほど続けて使用したことはない。
正直を言えば休みたいと心身が告げている。
「終えるのは小休止だ」
しかしそれ以上にこの手合わせを続けたい気持ちが上回り、ダリヤに聖剣を抜かせた。
聖剣を抜く決断をした際のように、まだまだアヤトから学びたいと。
増幅される精霊力とは関係なく、もっと成長したいとの高揚感のままダリヤは構えた。
「半端なまま終わるのは性に合わない」
「気が合うな」
◇
「一応聞くけどさ……アヤトくんってマジでバケモノじゃないの?」
「私も常々疑いますが、本人の返答通りですよ」
一方、ダリヤと同じ疑問を抱くフロッツに若干の呆れを含ませつつカナリアが否定を。
どんな攻略法かと聞いてみれば自分の強みを最大限に活かしたシンプルな方法。
ただ相変わらずなデタラメ加減にカナリアも笑うしかない。
恐らく初手でダリヤの速度を把握し、以降は防御に徹することでタイミングを完璧なものにしたのだろう。
つまり最初の一撃をわざと外さなければダリヤが勝利していた。
更に言えばこれが力加減など必要ない実戦でもダリヤが勝利していた。
しかしもう遅い。
聖剣を使用した際の情報まで与えてしまったなら、例え実戦だろうともうアヤトには通用しない。
相手を知れば知るほど有効な戦術を組み立て対処してくるアヤトの強みを嫌というほど知るカナリアは勝利を確信。
唯一の懸念は剣聖に勝利したという悪目立ちか。
まあそこは今さらと割り切って、出来るだけ穏便に済ませるべく算段を巡らせる。
だが耳を通り抜ける甲高い音によって思考が中断された。
◇
「は……は……っ」
三度距離を取ったダリヤは肩で息をしつつ必死に己を御していた。
疲労から沸き上がる高揚感に精神を支配されそうで。
このままだと加減不能な状態に陥り相手を殺しかねない。
いや、それは杞憂か。
「早速修正とは恐れ入るが、それではせっかくの強化が台無しだ」
加減を無くしたところで目の前に居る相手に通用するヴィジョンが思い浮かばない。
タイミングを合わせているなら緩急を織り交ぜればと試してみたが、速度が落ちたところを狙われて。
一か八かで斬り合いを挑んでみれば、武器によるいなしと体捌きで全て躱されてしまった。
本当に人間かと疑うほどに底が見えない、まさにバケモノと対峙しているようなプレッシャーからダリヤは熱を帯びた身体を震わせてしまう。
バケモノ相手に学ばせてもらうなど、成長の機会にしようなど烏滸がましい考えだったと後悔すらしていた。
だが、それでも逃げるわけにはいかない。
聖剣を授与されると決定した際、特に国王派から反発があった。
孤児出身の者に聖遺物を授けるなどバカげていると。
しかしギーラスは最後まで守ってくれた。
自分の努力を、家族を守りたいとの尊き心根を神が見てくれた結果なのだと。
故に神が聖剣を通じて認めた者に出生など関係ないと。
この聖剣で大切な家族を、そしてより多くの者を守れるようになりなさいと。
故に聖剣はダリヤの切り札でもあり、誇りでもある。
その誇りを私利私欲の場で抜いたのなら。
せめて意義のあるものにしなければ。
何かを守るという理を教えてくれたギーラスに会わせる顔がない。
ならば逃げず、最後まで成長し続けるのみ。
例えカウンター狙いと分かっていても躱すのは至難の業だろうと。
これまで躱せたのは運が良かっただけでも。
「……行くぞ」
誇りを握り締め、アヤト目がけて飛び出した。
間合いを一瞬で詰めるなり鋭く振り抜いた一閃は。
完璧に読み切っていたアヤトは寸でで姿を消して。
ついに新月でいなされることなく空を斬る。
「終いだな」
回避したアヤトは右側面に立っていて。
更に鋭い振り下ろしでダリヤの無防備な背中を狙う。
もちろんこれは模擬戦、斬られることなく寸止めしてくるだけ。
しかしそれは敗北を意味するもので。
(このまま……っ)
まだ意義を見出せていないなら。
半端なまま敗北を受け入れるわけにはいかないと、ダリヤは聖剣を即座に翻し。
「終われるかぁぁぁ――っ」
強引な転換に身体が悲鳴を上げるも新月を受けるべく振り上げた。
パリィィ――ッ
瞬間、小気味いい音が響くと同時にキラキラと眩い漆黒の粒子が視界を覆う。
その光景は妙に幻想的で美しく。
今まで全くスキを見せなかったアヤトの意識が向けられていて。
しかしダリヤは集中を維持したまま。
このスキが最初で最後のチャンスと振り上げた聖剣を再び翻し、お返しと言わんばかりに無防備なアヤトの左肩目がけて振り下ろす。
更に理性を総動員させて。
両腕からブチブチと鈍い音が響くのも構わずギリギリで停止。
「そこまでです――っ!」
「…………はあっ」
レムアの宣言を合図にダリヤは刹那の攻防から解放された安堵で膝から崩れ落ちた。
対するアヤトは――
「…………」
聖剣の一閃により刀身を砕かれた新月を手に、茫然と立ちつくしていた。
ダリヤと聖剣にアヤトと新月が敗北した結果になりました。
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