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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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教会と聖剣

アクセスありがとうございます!



「今のも躱すとは恐ろしいものだ!」

「そりゃ、どう――もっ」


「これは……いったい」


 戦況が一転したことにカナリアは戸惑いが隠せない。

 ダリヤと刃を交え続けたことで得た情報を元にアヤトは優勢に進めていたが、今は彼女の動きについて行けず足を止めて新月でいなすのが精一杯の状況。

 ただ防御に集中しているとはいえ防戦が出来るだけさすが。

 なんせカナリアは先ほどとは違いダリヤの姿すら視認できないのだ。

 この急激な身体能力の変化はダリヤが武器を持ち替えてから。

 しかし何よりも異質な変化は彼女から感じられる精霊力、体中を渦巻くような精霊力の流れはまるで竜巻のようで。


「あの堅物のダリーがこんなお遊びで本当に抜くとは思わなかったわ」


 そんなカナリアを他所にフロッツはやれやれと首を振る。

 ただ言葉とは裏腹にこの展開は予想通りと言った風で。


「さっきはアヤトくんについて教えてもらったし、俺も教えてあげますか」

「それはあの聖剣について、でしょうか」

「そ、聖剣エクリウォル。教国……ていうよりレーバテン教に伝わる、いわゆる聖遺物の一つだ」


 カナリアの問いにも笑顔で頷き、先ほどのお返しと言わんばかりに説明を始める。

 聖遺物とはまだ人類と精霊がこの地に共存していた時代に両種族が協力して作り上げたとされていて、それらは各国の伝承として残される物から霊獣地帯などで後に発掘されて物と様々。

 その特徴は現在の技術を持ってしても使われている素材から再現できず、また使用法から用途までも解析不可能な物ばかり。

 唯一判明しているのは聖遺物の全てに僅かながら精霊力が秘められている面、故に人類が精霊の力を借りて作り上げたとされている。

 ちなみに聖遺物から発想を得て精霊力をエネルギーとした精霊器の開発が始まったのだが。


「聖剣エクリウェルは古き時代、人類と精霊が永久の友情をレーヴァ神に誓う為に協力して作り上げたそうな。まあ、実際はどうか誰も知らないし、教会側は秘密が大好きだからな……と、別に教会を貶めてるつもりはないからね」

「え? あ、はい。フロッツさんがそのようなお考えをされているとは思いませんから大丈夫です」


 不謹慎な発言に謝罪するもミューズは特に気分を害した様子はないも、今の発言から少なくともフロッツは教会に対して良い印象はないようで。


「とにかく、真意は分からなくともあの聖剣が聖遺物なのは間違いない。なんせ使われている素材が全く分からないし、あの現象もどうやって引き出しているかもさっぱりだから」


 それはさておき、ミューズの返答に安堵したフロッツは改めて話を戻し。


「カナリア殿やロロちゃんも気づいてるだろうけど、聖剣エクリウェルは使()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからダリーの身体能力が飛躍的に上がったわけ」

「精霊力を……増幅?」

「問題は誰でも扱えないってところか? 過去にも聖教士団の精鋭が手にしたらしいけど、それが精霊士だろうと精霊術士だろうと関係なく凶暴化したって話だ」

「…………」

「その辺についての原因は王国(そちら)さんの研究結果で何となく予想できるけど、教会側はあくまで聖剣が使い手を選ぶって発表してるわけで。そいつを扱えるからこそダリーが剣聖って呼ばれるようになったわけ」


 含みのある言い方からカナリアはダリヤの変化について納得できた。

 言うなれば新解放と同じ原理。

 凶暴化の原因は恐らく聖剣で増幅された精霊力による精神の高ぶり。

 しかし聖剣の伝承により神聖化されたことで教会側は認めていないのか。

 なんにせよ聖剣を手にしてから感じられるダリヤの体中を渦巻くような精霊力の流れは増幅された結果で。

 もし同じ原理ならダリヤも新解放を習得したレイドやエレノアのように何らかの理由からその高ぶりを押さえ込み、身体能力を強化しているのだろう。


「しかし……聖遺物のような貴重品を教会はよく一個人に授けていますね」

「それはまあ……民を守る力を扱える者が現れたのに、飾ったままってのは違うだろ?」

「……確かに、そうかもしれませんね」


 またこの疑問に関してチラチラと視線を送ってくるフロッツの意図を読み取りカナリアも納得。

 要は聖剣を扱える剣聖の誕生は教会の権威を挙げることと同意、ダリヤという剣聖に授けた信頼も利用しているのかもしれない。

 清廉潔白なイメージが一般的な教会にもしたたかな一面はあるらしく。


「ですが聖剣の秘密を私たちに教えても良かったのですか?」

「アヤトくんについて教えてもらったそのお礼ってことで。別に絶対の秘密って訳でもないし……もちろん内緒にしてくれれば俺は助かるけど」

「構いませんよ」


 そしてフロッツもか。

 こちらがアヤトの情報を出来る限り広めたくない事情を察した上での口止めもだが、先ほどから教会に対する心象を操作しようとしている節がある。

 もしそれを狙っての情報提供ならフロッツもしたたかだ。

 問題はフロッツの真意が掴めないところではあるも、今は様子見とカナリアは切り替える。


「ロロベリアさんも良いですね」

「…………」

「……ロロベリアさん?」


 流れのままロロベリアに声をかけるも反応がなく、視線を向けるなり苦笑を浮かべる。

 どうやら自分と違ってダリヤの変化や聖剣についてよりもこの一戦に集中しているようで、これまでの会話も全く聞こえていない。

 しかも視覚に集約している精霊力が先ほどよりも濃くなっているように感じ取れて。


「ロロちゃんにとってアヤトくんは特別っぽいもんな。心配するのも仕方ないか」


 ロロベリアの様子からアヤトの無事を祈って見守っているとフロッツは捉えたようだがそれは違う。

 これは強者同士の一戦から何かを学び得ようとの向上心でしかなく。

 この戦況においてもロロベリアはアヤトの勝利を疑っていない。


 故にカナリアもロロベリアの姿勢から学ばせてもらった。

 いや、思い出させてもらったと言うべきか。

 予想外の戦況、ダリヤや聖剣の能力で戸惑ってしまったが。


「先ほどアヤトさんに勝利する条件を説明したのを覚えていますね」

「……それが?」


 突然の話題に訝しむフロッツを尻目に呆れたようにため息一つ。


「聖剣の力は確かに脅威。ですが、アヤトさんにはまだ足りないということです」


 一対一の近接戦において、身体能力で大きく上回った程度で敗北するほどアヤトに可愛げはない。



 ◇



「そろそろ降参したらどうだ!」

「誰が……するかよっ」


 ダリヤの速度を活かしたヒットアンドアウェイの繰り返しにアヤトは必死に新月を振りつつ応戦していた。

 ただ室内を縦横無尽に駆け回るダリヤの一撃をいなすべく、常に全方向へ意識を集中させ続けるのは体力よりも精神力を削っていく。

 現に完全にいなしきれなくなり、金属音がする度にアヤトの身体が大きく傾き始めていた。

 防戦一方な状況から危険とレムアも判断、強制的に終了を宣言しようと手を挙げる。


「つーか、()()()()()()()()()()


 寸前、アヤトが無造作に新月を振り上げるなりガキンと金属音が響き。


「な……っ」


 同時に弾かれた聖剣ごと身体を傾けるダリヤの姿が露わに。

 これまで後手に回っていたアヤトから完璧な反撃を受け、体勢を整えるなりダリヤは後方に飛び距離を空ける。

 対しこのチャンスに追撃することなく、アヤトはゆったりとした動作で新月の刀身を肩に乗せて。


「降参するのはもったいないだろ」


 警戒するダリヤを見据えてほくそ笑んだ。

 




そう簡単にアヤトくんが負けるわけありませんよね……。

それはさておき次回で剣聖ダリヤと天然アヤトの戦いも決着、お楽しみに!



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