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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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剣聖の決断

……今回も遅い時間になって申し訳ありません。

ですがアクセスありがとうございます!



 電光石火の一振りから始まったアヤトとダリヤの一戦。


「え……あ、これ……は……」


 その一振りが全てを物語っていたかのような高速戦闘に審判役のレムアは戸惑いを隠せない。

 なんせ精霊力を解放した動体視力でも二人の姿を捉えることができず、響く金属音を頼りに視線を向けても次の瞬間――


「今の体勢から蹴りを放つかっ」

「剣聖さま相手に剣技だけで挑むほどバカじゃねんだよっ」


 上体を反らしてアヤトの蹴りを躱すダリヤが真逆の方向に現れて。


「それほどの剣技を身に付けているのによく言う」

「そりゃどうも」


 共にほくそ笑むなり空気の乱れを残して姿を消してしまう。

 これでは危険どころかどちらが優勢なのか判断すら不可能で。


「えぇ……」


 一方のフロッツはどん引きしていた。

 視線の動きから二人の遣り合いを微かでも視認しているのか。

 精霊力の感覚から部分集約をしているわけでもないのに両者の動きを追えるなら、やはり相当の実力者。


「ダリーと互角に斬り合うとか……あの子、ほんとに持たぬ者なの?」

「信じられないなら精霊力の有無を確認すればどうですか」


 素っ気ない態度であしらうカナリアもまた部分集約が出来なくとも追えているわけで。

 対する自分は部分集約で動体視力を極限まで高めて何とか追える程度。精霊力の扱いが上手くとも地力では圧倒的に劣るとロロベリアは痛感する。

 だが同時に気になることも。


「ミューズさまは見えているんですか……?」


 視線の動きからミューズも追えているように感じる。

 ミューズが部分集約を習得しているとは聞いていないし、そもそも精霊力の感覚から違うと確信できるからこその疑問。


「はい。なんとか……ですが」

「……そうですか」


 ならミューズの地力もカナリアやフロッツと同等なのか。

 それともアヤトを彷彿とさせる防御を可能にする動体視力の賜か。

 なんにせよ部分集約なしで追い切れるミューズとの差に、自身の不甲斐なさからため息が漏れる。


「見えてるならミューズちゃんはおかしいと思わないの? どう考えてもアヤトくんは異質でしょ」

「? 何もおかしなことはないかと。アヤトさまですから」

「どんな理由……?」


 またキョトンと首を傾げるミューズにフロッツは別の意味でため息一つ。


「ですがフロッツさんの疑問も当然。本来は持たぬ者が持つ者と対等に渡り合うなど不可能ですからね」

「その不可能を覆してるのがアヤトくんだと?」

「ええ、精霊力という差を埋めるべく()()を使って」


 ロロベリアもいまいち理解できないミューズの基準は流されたままフロッツの疑心をカナリアは平然とした表情で受け止め、自身のこめかみを指でつつく。


「彼は隊長の師事を受ける中、どうすればその差を埋められるかを模索しました。それにはどのような訓練が必要か、どのような技能が必要か。またそれを得るには何をすれば良いか、持たぬ者だからこそ感じることが出来ない精霊力の感覚を学びと、諦めず淡々と続けてきました」

「その結果がこれね……にしても、頭使えば超えられるってもんでもない」

「もちろん簡単ではありません。それでもアヤトさんは今あなたが抱いている持つ者と対等に渡り合えないとの先入観を捨て、言い表せないほどの地獄を味わいながらも心が折れることなく不可能に挑み続けたのです。隊長という規格外のバケモノを超えるべく……それこそ死に物狂いで」

「でも――」

「もし私の言葉が嘘に思えたり、アヤトさんの軌跡が大げさに聞こえるならあなたも隊長の本格的な訓練を受けてみますか? 私たち精霊術士の常識すら覆してくるので()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とても勉強になりますよ」

「…………」

「ちなみにうちの副隊長は今でも精神が軽く病んでます」

「……遠慮しておきます」


 笑顔でえげつない脅しをして来るカナリアにフロッツは再びどん引き。

 ただこれが脅しではないのをロロベリアは身をもって知っているが故に思い出しただけでも身震いが。

 自分が師事してもらったのは言霊習得の二日だけ。あれでちょい厳しめコース、本格的な訓練がどれほどの地獄か想像するだけでも恐ろしい。

 またアヤトの軌跡も決して嘘でも大げさでもない。

 人工的に精霊術士を生み出す人体実験という地獄で負った副作用を十全に活かすべく模索した日々。

 ラタニというバケモノを超えるべく挑み続けた修練の軌跡。

 この世の誰よりも自身に厳しく、諦めず頭を使い続けた濃密な時間を過ごしてきたアヤトだからこそ不可能を覆したのだ。


「でしょうね。とにかくあなたが想像すら出来ない地獄を見続け、それでも立ち止まらなかったからこそ隊長に戦いの申し子と称賛される存在になったのですよ……アヤトさんは」


 自分よりもアヤトの軌跡を見続けていたカナリアだからこそ自信を持って言い切れるわけで。

 

「ご理解頂けましたか」

「まあ……カナリア殿が嘘を言ってるようにも見えないし、この光景を見せられたら嫌でもご理解するしかないか」

「それは何よりです」


 フロッツも押し切られる形ではあるも納得してくれた……が、アヤトの忠告通り開き直って納得させる辺りがアヤトだけでなくラタニにも振り回され続けているカナリアと言える。


「もしアヤトさんを異質と言うなら、精霊士と対等に渡り合える身体能力よりも洞察力や情報処理能力といった頭脳面でしょう。なんせ相手の視線や筋肉の動きといった僅かな情報で動きを先読みしますし、こうして手合わせをしている間に得る心理的な側面すら読み取り修正しより完璧に対応してきます」

「なにそれ理不尽すぎだろ……」


 ただ言葉数が多いのは逆に不審がられる上に、勝手にアヤトの強みを暴露しても良いのかと心配になるのはさておいて。


 剣聖と謳われるだけあってダリヤの剣技の冴えは圧倒的。しかし引き出しの多さや戦いの運び方はエニシに分がある。

 また純粋な身体能力はダリヤ優勢でも、部分集約をすればほとんど差はない。

 つまりロロベリアの見立てでも総合力ではエニシが上。

 もちろんダリヤの年頃で成熟した武人のエニシに迫る実力を得るには才能だけでく直向きな修練を積み重ねてこそで、尊敬すべき強者なのは間違いない。

 だがそのエニシすらアヤトは凌駕した。


「なのでアヤトさんから勝利を得るには回避不可能な精霊術を放つか、先読みされても反応しきれない速度で攻めるかの二つに一つでしょうね」


 そしてこんな条件を満たせるのは自分の知る限りラタニのみ。

 故にロロベリアはアヤトの勝利を確信するも、カナリアの勝利条件を聞いたフロッツは安堵の笑みを零した。


「ならダリーにも()()()()()()()()()()



 ◇



 激しい攻防から一転、距離を空けて両者は対峙していた。


「……貴殿は何者だ」

「見ての通りただのガキだが」


 平然と答えるアヤトにダリヤは何をバカなと笑う。

 持たぬ者が精霊士の自分と対等以上に渡り合っていながらただの子供ガキなハズがない。

 やはり間違っていなかった。

 アヤトはこれまで出会った強者以上の、底知れない何かを秘めている。

 それを暴こうと全力で挑んでみたが未だ掴みきれないのが恐ろしく。


 ただ直接手合わせしたことで理解したこともある。


 剣筋には為人が現れるとはよく言ったものだ。

 直接刃を交えたことで感じ取れたアヤトの本質は、漆黒の刀身とは裏腹に純白のような美しさ。

 その美しさは守るという理を追求した剣は自分の理想を体現しているようで。

 こうして刃を交える度に学び、自分の成長が実感できる。

 故にアヤトからもっと学びたい、成長したい。

 このまま終わってしまうのは惜しいと、当初の目的とは違う理由で決断したダリヤは手にしていた剣を鞘に納めた。


「ようやくか」


 戦意喪失に思える行為を待ち望んでいたように肩を竦めるのならアヤトも望んでいたのだろう。

 ならば付き合ってもらうお礼として存分に楽しませてやろうと、ダリヤは切り札であり誇りでもあるもう一振りの剣を抜いた。

 無骨なロングソードとは違い鍔に填め込まれた宝玉は金の輝きを放ち、また形状こそ同じ両刃の剣だが鮮やかな白銀色に金糸のような紋様が刻まれていて。


「行くぞ」

「お好きにどうぞ」


 感触を確かめるように柄を握りつつ一呼吸後、ダリヤは身をかがめて。


「……ちっ」


 瞬間、アヤトの表情から初めて余裕が消える。

 ダリヤの踏み込みを先読みして上体を反らしたのに躱しきれず、髪の毛が数本宙を舞っていて。

 しかも今の一撃はわざと外された。


 何故ならダリヤの姿をアヤトは()()()()()()()()()


 これまでの攻防で見せた速度を超えた動きは、ダリヤが実力を隠していたわけではなく――


「どうやら、そいつに秘密があるようだな」

「その通りです」


 持ち替えた剣にあると振り返りざま問うアヤトに、同じく振り返るダリヤは隠すことなく剣をかかげた。


「聖剣エクリウォル――私の切り札であり、誇りです」



 

剣聖ですからね、聖剣はお約束かと。

それはさておきアヤトくんですら見失ったダリヤの変化、また聖剣の秘密については次回で。


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読んでいただき、ありがとうございました!


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