最終確認
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切っ掛けはフロッツのお節介ではあったものの、最後は双方の意思により模擬戦は行われることに。
なので一同は練武館へ移動を。
その道すがらアヤトとダリヤで話し合い審判役をレムアが勤めることに。
また武器は互いの愛刀、愛剣を。刃引きは無しとアヤトが希望。
この条件にダリヤが戸惑いを見せた。というのもロロベリアの稽古の為に帯剣していただけで、アヤトが受け入れるなら訓練用の木剣か、刃引きをして行うつもりだったらしい。
いくら相手が望んだとはいえアヤトはギーラスの客人、万が一を考慮すれば当然の配慮。
『半端な遊びはつまらんからな。万が一なにかあれば自業自得と笑われて終いだ』
だがアヤトも譲らず、この模擬戦での負傷は自己責任を主張。
元よりフロッツの騙し討ちで決まった場、責任はなくともダリヤは負い目を感じているのか、最終的にアヤトの希望を受け入れることに。
「ただの自信過剰なバカか、それとも本物なのか……ほんと分からん奴だ」
練武館に入るなり準備を始めるダリヤの傍らでフロッツは評価に悩んでしまう。
なんせ剣聖という称号は伊達ではない。ダリヤと近接戦で戦える者など教国にはいなく、精霊術士でさえ一対一ならまず勝てない。そんな相手にこの条件を呑ませたアヤトの真意が掴めなくて。
まあ剣聖という称号は他国にも広まれど、その実力まで知ることは出来ないなら仕方ないとも言える。
だが逆もまた然り。
「バカはお前だ」
身体を解しつつダリヤは集中力を高めていく。
王国最強の精霊術士、ラタニ=アーメリの弟子であり、持たぬ者でありながら持つ者と互角に戦える。
教国まで届いているアヤトの実力、しかしその実力までダリヤは知らない。
ただ持たぬ者が持つ者と互角なだけでも異質な上に、アヤトから感じる底知れない何か。
その何かを暴きたいとダリヤはこの場を望んだ。
故にダリヤに慢心はない。
それこそ実践さながらの心構えと、ダリヤは腰に視線を向ける。
帯刀するのはシンプルながらも装飾された鞘と飾り気のない鞘。
どちらも形状は同じ、しかし前者の鞘に納まる剣はダリヤの切り札であり誇りでもある。
故に模擬戦で使うことはまずないが、必要とあらば抜くのも躊躇わないつもりだ。
◇
「……無茶だけはしないように」
「へいよ」
対するアヤトは気負いもなく、カナリアの心労も知らずコートを脱いだ。
「持ってろ、白いの」
「はいはい」
エニシ戦同様、コートをダメにされるのを警戒してかとロロベリアは素直に受け取る。
「朧月は預からなくていいの?」
「あちらさんも二本ぶら下げてるからな。同じ条件なら構わんだろ」
ただ今回は朧月も帯刀したまま挑むらしいが、アヤトの基準は相変わらず意味不明。
なんにせよ相手は剣聖、エニシクラスの強者であっても不思議ではない。
加えてダリヤが帯剣している一振りは警戒するべき、故に追求せず中央へ向かうアヤトを見送った。
「それにしても意外でした」
代わりに素朴な疑問をカナリアへ投げかける。
一度は決まったとは言えこの模擬戦はフロッツのお節介。
断ってもこちらに非がないならカナリアは止めそうなもの。
「もっと怒るかと思っていましたが、やはり昨日の忠告が原因ですか?」
「止められないのであれば開き直って堂々としてれば良いんです。隊長の訓練を乗り切れば持たぬ者とか関係ありません。疑うなら教国の有望な持たぬ者に隊長の訓練を受けさせればいいと言ってやりますよ。乗り切ればアヤトさんのようになれますから、乗り切れる者がいれば、ですけど」
若干やけくそ気味ではあるも即座に改善する姿勢はさすがで。
ただラタニの訓練を知るだけに無茶な要求をするとロロベリアは空笑い。
なんせ死なないことが前提の訓練。
普通の持たぬ者ならまず生きては帰れないだろう……アヤトを普通の持たぬ者と言えるかはさておいて。
とにかくこの姿勢を学ぶべきで。
「だからといって不用意な発言をしてもいい、とはなりませんからね」
「……はい」
故に圧のある笑顔にロロベリアは発言は控えようと心に誓った。
なんせこの模擬戦を観戦するのは自分とカナリアだけでなく、ミューズとフロッツも居る。
「ミューズちゃんはどっちが勝つと思う?」
「わたしは怪我がないよう祈るばかりです」
つまり必然的に固まっての観戦、この場はカナリアに任せて自分は静かに見守るのが安全策だ。
◇
「今回の模擬戦における負傷は自己責任との決まり事ですが、私が危険と判断すれば中断させて頂きますのでご了承を」
二〇メルの距離を空けて向き合うアヤトとダリヤに審判を務めるレムアが念を押す。
いくら自己責任だろうと邸内での流血沙汰はイディルツ家従者として見過ごせない。
「問題ない」
「お好きにどうぞ」
両者とも了承するなり武器を手に。
ダリヤは飾り気のない鞘からロングソードを抜いて青眼に構える。
対するアヤトは新月を左手で抜き、峰を肩に乗せるお約束のスタイルで。
「では模擬戦――開始!」
レムアの宣言を合図にダリヤは精霊力を解放、深い青色の瞳がアメジストのような紫の輝きへと変わった。
相手は持たぬ者、しかし慢心を捨て全力で挑むと決意していた。
ならアヤトにも同じ心構えで挑んでもらわなければ意味がない。
「始める前に一つ、言っておきます」
故に訂正するべく変わらず棒立ちのアヤトを見据える。
「先ほどこの場を遊びと表現しましたが、今すぐその心構えを捨てなさい」
「……その心は」
「例え模擬戦でも真剣を扱う以上、僅かな慢心が命取りになります。それとも――」
一呼吸を入れた瞬間、ダリヤの姿が消えて。
「――私を相手にするのは遊び感覚で充分とでも?」
(速い……っ)
アヤトの喉元に剣先を突きつけ挑発するダリヤにロロベリアは驚愕。
部分集約で強化した動体視力ですら追い切れない瞬発力はさすが剣聖と言うべきか、身の熟し一つとってもダリヤの非凡さが垣間見える。
同時に模擬戦だろうとこの一戦に対するダリヤの決意が伝わり、だからこそアヤトの軽薄な表現が許せなかったのか。
だがそれは杞憂に過ぎないとロロベリアは見守るのみで。
「忠告どうも」
剣先を突きつけられてもアヤトは悠然とした態度を崩すことなく、新月の峰で肩をポンポンと叩き。
「ならその忠告に対して言い訳をしておこう。確かに慢心があれば命取りになる」
皮肉めいた笑みを見せるなり姿が消えた。
「――しかし真剣使おうと、命の取り合いでもねぇ模擬戦なんざ所詮はお遊びだ」
「……っ」
背後から聞こえる声にダリヤ背の中から汗がにじみ出てくる。
仕返し染みた背後取りはどれだけ警戒しようと、相手は持たぬ者という常識が心の片隅に残っていたと忠告されたようで。
「それとも剣聖さまは死闘がお望みか」
慢心を捨てさせようと挑発した自分が、逆に僅かな慢心すらも捨てさせられたのが滑稽でダリヤは剣先をゆっくりと下ろす。
「なら断っていたんだがな」
「この場が死闘なら私は剣を握っていない」
開始直後とは真逆の、手を伸ばせば届く距離を空けた二人は背中合わせのまま肩を竦める。
だが次の瞬間――振り向きざまアヤトの新月とダリヤの剣が一閃。
「それを聞いて安心した」
「私もだ」
交わる刃を挟んで笑いあった。
やられたらやり返すがアヤトくん。
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