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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
310/779

降臨祭

今回も遅い時間になって申し訳ございません!

アクセスありがとうございます!



 ダリヤとフロッツを見送った後、予定通りに教都観光へ出発。


 御者は教国到着時にもお世話になったカールが勤めてまずは商業区へ。

 ちなみに昨日から天気も良く、人通りの多い街路に積もっていた雪も解けているので今回は車輪のある普通の馬車を利用と、天候や状況によって馬車を使い分けるのも教国ならでは。

 また同行する従者はレムアのみなのは彼女が使用人としてやり手なのか、それとも一人でも充分護衛が務まる実力者なのか。

 ただレムアの他に客人扱いといえどアヤトとカナリアも居る、なによりミューズ本人が序列九位の精霊術士となればまず危険はないとロロベリアは危険よりもアヤトが何かやらかさないかが心配で。

 まあこれまでもそれなりに気を遣っているならいらぬ心配、今は教都観光を楽しもうと――


「やんちゃなお嬢さまのお目付役が一人で良いのか」

「……本当に、お恥ずかしい限りで」


「…………」


 思えるより移動中の馬車内でミューズをからかうアヤトにもやもやが先行する。

 確かにミューズが昔お転婆だったのは意外だったとロロベリアも思うがそれよりもやはり今回のアヤトは妙にミューズといい感じに見える。


 そんなもやもやしっぱなしのロロベリアに対し、レムアの前でミューズをからかうアヤトにカナリアは頭が痛かった。

 唯一の救いはアヤトの不躾な態度をレムアが不快感を向けず、むしろ微笑ましく見守っていること。

 元々ミューズと一番近い従者が故に主の評価を聞いていたからか、教国への同行許可をお願いに行った時からアヤトに対する棘は感じられなかった。

 その上でリヴァイとの面会後でミューズへのフォローが更に好感を与えたのだろう。態度こそ不敬だがあのフォローのお陰でミューズは笑顔を取り戻した。

 更にアヤトと一緒に居る主の幸せそうな笑顔を見ていれば、専属従者としても不敬な態度も些細に感じるわけで。

 アヤトがそれなりに気を遣い大人しくしていることもあり、予想していたよりも平穏な滞在になっているのだが。


「さて、やんちゃな聖女さまがどんな観光を考えているか楽しませてもらおうか」

「やんちゃなのは事実かも知れませんが、わたしは聖女と呼ばれるような者では……ですがみなさまに楽しんでいただけるようがんばります」


「……(もやもや)」


「……はぁ」


 その代償としてロロベリアはもやもやしっぱなし。

 ミューズ相手に変なトラブルを起こさないのは歓迎するも、今度はロロベリアのケアに悩まされると結局カナリアの苦労は絶えなかった。


 それはさておきアヤトが茶化したように今回の観光はミューズに一任している。

 ロロベリアとカナリアは初めての教国(アヤトも旅に出ていた際、教国に訪れど教都までは行かなかったらしい)、なので生まれ育った街としてミューズが色々と案内してくれることになった。

 そして商業区に到着してまずミューズが案内したのは中央広場で。

 まずは昼食を兼ねた外食、国を知るには食文化を知るのが一番という考えらしい。現に到着した最初の晩餐も郷土料理を振る舞ってくれた。


「どうでしょうか?」

「やはり寒冷地だけあって味付けも独特だな。だが肉や魚と食材によって変えたスパイスの配合は見事だ」


 が、外食先がまさか屋台とは思いもよらず。

 確かに寒さの厳しい教国だけあって身体を温めるピリリとした辛味や、屋台では珍しい温かいスープもアルコールを飛ばしたお酒が使われていたりと王国や帝国とは違う食文化を教えてくれる。

 ただ料理が趣味なだけにいつになく饒舌なアヤトはともかく、安堵しつつも優美な所作で海鮮串を食すミューズの場違い感が半端ない。

 屋台の店主らもレムアを連れ立って注文をするミューズの登場に驚き、丁寧な振るまいに戸惑っていた。


「サクラさまの仰っていた通りですね。満足して頂いたようでなによりです」

「ああ、そういやあいつとも食べ歩きはしたな」


 だが理由を聞いて納得。

 サクラがラナクス滞在中にミューズと交流目的のお茶会で聞いた話を参考にしたらしくい。

 アヤトは面倒な作法を要求する場よりも、気軽に楽しめる食事を提供する場を好む。

 加えてミューズも高級料理よりも会話をしながら食事を楽しむ場を好んでいる傾向がある、ならば両者の嗜好が一致しているわけで。


「カナリアさん、ロロベリアさんは如何でしょうか」

「王国ではお目にかかれない屋台ばかりで楽しめています」

「美味しいです」


 もちろん二人も同じ嗜好なのでこの昼食に大満足。

 ただ問題もあるわけで。


「しかし人が多いな」

「それに……ちょっとね」


 昼下がりを狙ったとは言え商業区のど真ん中となれば人通りが多く、人混みが嫌いなアヤトは落ち着いて味わえないと不満げで。

 また周囲の視線がミューズよりも自分やアヤトに向けられているのにロロベリアも落ち着かない。

 理由は二人の髪色にある。

 教国でも珍しい黒髪黒目のアヤトは当然、ロロベリアの美しい乳白色の髪は神聖さが感じられるのか信仰深い教国の民から注目を浴びていた。


「降臨祭が近いので仕方ないでしょう」


 なので気持ちは分かるが、これではミューズが気にしてしまうとカナリアはやんわりとフォローを。


「ですね。でも降臨祭を前に活気づくのも教国ならではな感じかな」


 カナリアの意図を汲み取りロロベリアも大丈夫ですとの意味合いで話を合わせてくる。


「王国でも開かれますが、教国ほどの規模ではありませんから」

「王国では二五日のみ盛大に祝いますが、教国のように年越し祭までは行われないので」


 そのままレムアも加わり降臨祭の話題で盛り上がる。

 降臨祭とはこの世に生命神レーヴァが降り立った日を祝うもので。


 一日目にレーヴァ神がこの世に降り立ち。

 二日目に地と草木を産み。

 三日目に火と熱を産み。

 四日目に水と実りを産み。

 五日目に風と安らぎを産み。

 六日目に自然を管理する精霊を産み。

 七日目に精霊の友として人間を産んだ。


レーバテン教の教典に記されている世界の始まりであり、年度末二五日をレーヴァ神が降臨した日と数え、人間を産んだ日から一年が始まるとしている。

 またこの教典が元に人類と精霊が友であり共存していたとの伝承に繋がっているのだが、世界の始まりに関する説は様々で神話に関する伝承も様々と、真相は不明のまま。


 ちなみに少なくともロロベリアの知る様々な伝承にマヤ、つまり時空神クロノフという名の神が記されている記憶はない。

 この件についてマヤに質問したことはあるも、とても良い笑みで対価を要求された時点で早々に諦めたのは言うまでもない。

 まあ神という存在は信仰の象徴でしかなく、興味はあるも真相を知ったところで自分の手に余るだけと深く考えないようにしているがそれはさておき。


 降臨祭は王国でも祝われるがイベント色が強く今では大切な人と過ごす日のような感覚で、それよりも精霊と人間が産まれたとされる年越し祭の方が盛大に祝う。

 対し教国はレーヴァ神が降臨した日を何よりも重視し、二五日は盛大なミサが開かれている。

 そして教国滞在が二七日までなのも、ギーラスの手紙に教国の降臨祭にぜひ参加して欲しいと要望からで。

 降臨祭が控えているからこそ枢機卿のギーラスが忙しく。

 今年の降臨祭も特に忙しいはず。


「ただ……今年も教皇猊下の参列は難しいそうです」


 降臨祭の話題からミューズが表情を曇らせるように、教皇猊下は数年前から体調を崩している。特にこの二年は公の場に姿を現せないほどらしい。

 故に名代としてギーラスを始めとした三人の枢機卿が降臨祭を取り仕切ることになり、教国に到着して未だに会えず終い。

 何とか時間を作って帰宅するらしいが、こちらとしても無理をせず降臨祭に集中して欲しいと思うわけで。


「なのでお爺さまがお帰りになるのは難しいかと。招待した側なのに申し訳ありません」

「そんな、招待してくださっただけでも充分です。それに私はアヤトのオマケみたいなものですし……」


 心苦しいのか祖父に変わって謝罪するミューズにロロベリアは冗談を踏まえた対応を。


「私は無理を言って同行させて頂いている身、例えお会いできなくともミューズさんが気に病むことはなにもありませんよ」


「…………」


 もちろんカナリアもミューズの心情を汲み取り笑顔で……ただその笑顔に『むしろアヤトとお会いできない方がこちらの胃に負担がありません』と書いているのはロロベリアの邪推だろうか。


「教国の料理を馳走になっているだけで充分だ」


「……ありがとうございます」

「ならばみなさまにより教都を満喫して頂けるよう、次の目的地へ向かいましょう」


 最後にアヤトがフォローしたことでミューズに笑顔が戻り、安堵した表情でレムアが進言を。


「そうですね。では――」


「こちらにおられましたか」


 と、ミューズが移動を提案しかけたところで急ぎ足で近づいてくる者が。

 即座にレムアが警戒するも、それがイディルツ家の執事の一人と分かるなりミューズの元へ迎え入れる。


「実は先ほど遣いの者が訪れまして……」


 ロロベリアたちが見詰める中、執事が要件を告げるなりミューズの表情が華やいでいく。

 なにか良い知らせでもあったのかと思う間にもミューズがとてとてと歩み寄り。


「みなさま、お爺さまが急遽帰宅されるそうです」


 噂をすれば何とやら、難しいと告げたばかりの口で朗報が。


「なので申し訳ありませんが……観光を中止させて頂いても宜しいでしょうか」


 故に先ほどの申し訳なさとは違い、やっと祖父に会える喜びがミューズの表情から読み取れて。

 もちろん忙しい中、わざわざ時間を作ってくれたのなら断る理由はないのだが。


「…………」


 先ほどの笑顔が一転、こちらは絶望の表情に変わっているカナリアからどうやら邪推ではなかったとロロベリアは察しつつ。


「……大丈夫ですか」


 ギーラスとの急な面会に緊張よりもカナリアへの同情心が勝っていた。




次回、ついにカナリアが最も危惧していたアヤトとギーラスが顔を合わせます。

果たしてアヤトくんは大人しく……できるかなぁ。



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読んでいただき、ありがとうございました!

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