三者の関係
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それぞれの紹介が終わったところでお茶を楽しみつつ談笑を。
ロロベリアが気になっていたミューズとダリヤ、フロッツの関係だが出会いは意外なもので。
「こう見えても昔のミューズは少々やんちゃだったんだ」
「お恥ずかしい限りです……」
懐かしむダリヤにミューズが頬を染め俯くように、当時のミューズは祖父の勧めから神子の修行をする反面、活発な性格だったらしく度々使用人を困らせていたそうだ。
意外な過去にロロベリアは今のミューズからは想像も付かないも、背後に控えるレムアやクルトの表情から本当のようで……ただカナリアと同い年くらいと予想していたレムアが当時のミューズに振り回された経験があるなら、何歳からこの屋敷で勤めているのかの方が気になったのはさておいて。
今から一一年前、使用人の目を盗んで屋敷を抜け出したミューズは商業区へ遊びに行こうとしたらしいが迷子になり、半泣き顔で蹲っていたところをダリヤが声をかけて屋敷近くまで連れて行ってくれて事なき得た。
この話を聞いた祖父、ギーラス=リム=イディルツがダリヤにお礼がしたいと、ミューズから聞いた特徴からダリヤを探し出したのだが。
「身なりや住んでいる場所から貴族とは思っていたが、ギーラスさまと訪れた際は私だけでなくみなも何事かと驚いたものだ」
と言うのもダリヤは赤子の頃に捨てられた孤児で、保護された孤児院で暮らしていた。故に以前声をかけた女の子が枢機卿の孫娘で、更に枢機卿自ら孤児院へ訪れれば驚くのも当然で。
ただダリヤとの出会いからミューズは孤児という存在と深く向き合い、慈善活動に積極的に取り組み、聖職者としての道を本気で志すようになったのならギーラスとしては喜ばしい結果で。
またダリヤにとってもミューズとの出会いは大きな分岐点となった。
ミューズを救ってくれた感謝としてギーラスが孤児院へ寄付してくれたこともだが、精霊士としての才能から将来は精霊騎士となり孤児院の生活を少しでも豊かにしたいと考えていたダリヤがニルーナ学院に入学する為の勉学や剣技の鍛錬、入学資金の援助と何かと支援してくれて。
「ギーラスさまは私や孤児院の家族の恩人だ」
「いえ、ダリヤさんの行いが良き縁を運んだまでです」
「ならその良き縁を運んでくれたやんちゃなミューズも恩人だな」
「……本当に、お恥ずかしい限りです」
微笑ましいやり取りをする二人を尻目に、剣聖と呼ばれる精霊騎士の意外な出生を知ったロロベリアは共感するものがある。
ロロベリアもまた赤子の頃、教会に捨てられていた孤児。教会で暮らすみんなを家族として大切にしていた。
ただダリヤは自身の大切な孤児院を守れる強さを得て、対し自分は守られてばかりで挙げ句大切な場所と家族を失って。
今でも守られてばかりの自分とは違い、目標を叶えたダリヤは尊敬できる――
「……ミューズさまとフロッツさまはどのような出会いでしょう?」
のだが、今の昔話にフロッツの名前が一切出てこなかったと思いだす。
年齢が近いのなら恐らく学院でダリヤと出会い、その繋がりからミューズとも親しくなったのか。
それとも貴族同士の繋がりでミューズが最初に知り合ったのか……にしては貴族のフロッツに対してダリヤの当たりが強すぎるようにも見える。
なんせダリヤの所属する聖教士団は教会所有の戦力、対し軍事に関わっている口振りならフロッツは王国所有の戦力になる。
もちろん両者とも同じ国を守る戦力。
霊獣討伐なども協力体制ではあるが裏では国王派、教会派と呼ばれている関係。
特に現在は教会――教皇の方が国王よりも権威を握っている。
なんせ教国が第三勢力となったのは神の救いを求めて集った他国の人材あってこそ。
元は両派閥とも良好な関係にあったが、パワーバランスが崩れればしがらみも生まれるわけで。
もしフロッツが国王派の術士団としても、元々ダリヤと派閥関係ない親しい間柄なら今のようなやり取りがあっても頷ける。
「ロロちゃん、俺のことはフロッツ兄さんで良いって」
「…………」
と、予想するロロベリアにフロッツは相変わらず軽薄な笑みを向けてくる。
「……斬るぞ」
「わーったから殺気向けるなよ」
が、ダリヤに脅される形で質問に答えてくれた。
「つっても俺とミューズちゃんの出会いはダリー繋がりか。な、ミューズちゃん」
「はい。ダリヤさんが学院生の頃に紹介してくださったんです」
同意を求められたミューズは両手を合わせて首肯を。
まあ二人が学院で出会い愛称で呼ぶほどに友好な関係を築いてもおかしくない。
そもそも派閥など噂でしかなく、二人の関係に変に絡めて邪推したと申し訳なく思うロロベリアを他所になぜかダリヤは冷ややかな視線をフロッツに向けていて。
「紹介と言うよりも勝手に付いてきたんだがな……」
「……と、言いますと?」
どこか疲れた様子のダリヤに気遣いつつカナリアが事情を伺えばため息一つ。
「私が言うのも何だが、こいつは私に惚れているらしいんだ」
「「……は?」」
斜め上の事情に目を丸くするカナリアとロロベリアにダリヤがフロッツとの出会いを話してくれた。
二人は同い年ではあるがフロッツは男爵家の三男、ダリヤはギーラスの支援を受けているとは言え平民。加えて精霊術クラスと精霊騎士クラスなら接点などほとんどない。
だが接点以前の問題か。
学院に入学して翌日、急にダリヤの元へフロッツが訪れ――
『君の太刀筋に惚れた!』
人目もはばからず堂々と告白してきたらしい。
また太刀筋に惚れたも何も二人は初対面、まだ実技訓練も始まっていないのにどこで見たのかと問えば――
『遠い昔さ。そう、俺たちは運命の再会を果たしたんだ』
この返答に恋愛に現を抜かしている暇がない以前にダリヤがお断りしたのは言うまでもない。
「それでもしつこく私に付きまとうようになって……」
「今では一緒に妹分のミューズちゃんと会いに来るまでの関係になったわけ」
「そうだな。お前だけでここに訪れさせればミューズに迷惑をかけると、仕方なく予定を合わせて訪れる関係にはなっている」
「「…………」」
しかしそれでも諦めず口説き続けたことでダリヤの当たりが強くなったと二人は納得。
そもそも口説き方からして真剣味が足りない上に、惚れているダリヤの前で先ほどロロベリアを口説いたフロッツの神経が理解不能で。
「神の許しがあれば即座に斬り捨てるのだが……」
「俺の熱いアプローチが実を結ぶのも間もなくだな」
「「ご苦労様です……」」
軽薄なフロッツに女の敵と二人がダリヤへ大いに同情していた。
ちなみに同じ女性であるミューズと言えば。
「お二人は仲良しさんですね」
長年ダリヤとフロッツのやり取りを目の当たりにしていたはずなのに、ニコニコと微笑ましげに見守っていて。
「この菓子は教国特有のものか」
「お分かりでございますか」
「それは当家が贔屓にしている――」
アヤトは談笑が始まってから我関せずとお茶とお菓子の話題でレムアやクルトと盛り上がっていた。
アヤトくんは何気にミューズの従者の信頼を得ているようです。
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