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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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牽制と抑制

アクセスありがとうございます!



 ダリヤ=ニルブム。

 教国の名門、ニルーナ学院を卒業後に聖教士団に入団し僅か二年で国主催の剣術大会で優勝。

 その功績や他を寄せ付けない剣才からいつしか剣聖と呼ばれるようになり、王国最強の精霊騎士サーヴェルと同等と噂されるほどの実力者。


 故にロロベリアもダリヤの名を聞いてピンときたが、まさかミューズと親しい間柄とは思いもよらず。

 ただソファに腰掛けたままこちらを見据える佇まいはサーヴェルやエニシのような強者と同じ風格を感じさせて――


「君がロロベリアちゃん?」


 いたのだが、ダリヤの隣りに座っていた青年――フロッツに名を呼ばれて目を丸くする。


「一学生にして序列十位、模擬戦とは言えミューズちゃんに勝ったんだって?」

「あの……」

「どんな厳つい子かと思えば、ぜんぜん可愛い子じゃん」


 ロロベリアの反応も無視してフロッツは立ち上がり、せっかくの美形を台無しにさせた締まりのない笑みで歩み寄ると目の前で立ち止まった。


「俺はフロッツ=リム=カルティ、気軽にフロッツ兄さんでいいからね。俺もロロちゃんって呼んでも良い?」


 自己紹介と共に手を差し出すフロッツの陽気を通り越した馴れ馴れしい態度にロロベリアは嫌気が差すも、名前からして相手は貴族。

 ミューズとも親しいのなら邪険にできないと我慢して握り替えそうと手を伸ばす。


「ロロちゃんの髪って地毛? 綺麗で似合ってるよ」

「ひっ」


 寸前、フロッツの手がそのまま首筋に伸びて髪に触れ、ぞわっとした悪寒からロロベリアは小さな悲鳴を上げる。


「あ、教国は初めて? もし良ければ俺が案内しようか? お兄さん奢っちゃうよ~」

「あの――」


 更には肩に手を回して顔を近づけてくるので我慢の限界とロロベリアは腕を掴み上げ――


「ぐはぁ!」


 ……投げ飛ばそうとする前にフロッツが視界から消えてしまい。


「……やはりお前は斬り捨てるべきか」


 変わりに視界に入るのはダリヤの姿、へばりつくように床に転がるフロッツを氷よりも冷ややかな目付きで見下ろしていた。

 状況からしてダリヤが投げ飛ばしたようだが、気づけなかった驚きよりもその静かな殺気に今度は恐怖からぞわっと悪寒が走る。


「ミューズの客人に失礼だろう」

「冗談だって! いや、ロロちゃんが可愛いのは本気、案内も本気だ――分かったから践むな! 何かに目覚めそうだろ!」

「…………」

「いだだだ――っ! マジすんません! 背骨が折れるから許して!」


「……面倒をかける人はどの国にもいるんですね」

「ありがとうございます……」


 無言でぐりぐりと踏みつけるダリヤに許しを請うフロッツの様子を眺めつつ、乱れた髪を手櫛で直してくれるカナリアにロロベリアは感謝を。

 何というか二人の姿に未来のニコレスカ姉弟を見たのは気のせいだろうか……いや、それよりも。

 不意を突かれたとは言えフロッツに髪を触れられ肩を抱かれるのをアヤトに見られてしまった。

 もちろん自分に非はないし、恋人同士でもないなら気にする必要はないかも知れないがロロベリアは自責の念から恐る恐るカナリアの隣りに居るアヤトに視線を向けた。


「俺にも茶を頼めるか」

「もちろんです。レムアさん、お願いします」

「少々お待ちください」


「…………」


 が、そこに姿は無く、変わりにアヤトはソファの一席を占領してミューズと楽しげに(ロロベリアにはそう見えた)会話をしていて。

 無言で踏みつけるダリヤと悲鳴を上げるフロッツの姿にミューズはもっと関心を向けるべきと呆れるよりも、アヤトの無関心ぶりにロロベリアはもやもやとこめかみのヒクつき止められなかった。



 ◇



「お見苦しいところをお見せしました」


 折檻を終えてボロボロのフロッツを残し元の席に腰掛けたダリヤは向かいに着席したロロベリアとカナリアに謝罪を。


「特にリーズベルトさま。不快な思いをさせてしまい申し訳ない」

「……お気になさらず」


 フロッツの行いよりもアヤトの無関心ぶりの方が上回っていたロロベリアは謝罪を受け入れ改めて。


「ところでニルブムさまも私のことをご存じなのですね」

「ミューズとは手紙のやり取りをして、あなたについても書かれていた……それとフロッツではないが、私のことはダリヤで結構です。さまづけも必要ない」

「では私もロロベリアで構いません……ダリヤさん」

「了解した。あなたも良ければ構わないだろうか」


 頷きダリヤはそのままカナリアへと視線を向ける。


「もちろん構いませんが、私についてもミューズさんの手紙に書かれていましたか」

「書かれていなくてもあなたについては承知している」


「王国最強の精霊術士、ラタニ=アーメリの小隊所属のカナリア=ルーデウス」


 二人の会話に割り込むようにむくりと起き上がったフロッツが口を開く。


「しかもアーメリ殿の右腕とまで呼ばれる精霊術士だ。軍事に関わっていれば嫌でも耳に入る」

「それは光栄ですね。もちろん私もあなたを存じていますよ」

「へぇ?」


 ダリヤの隣りに腰掛けるフロッツの興味深げな視線を受けつつカナリアは続けた。


「保有量の多さだけでなく精霊術のセンスに長けた有望株の一人。同時にもっと真剣に訓練に取り組んでいれば隊長に並び立つほどの才覚、というのは軍事に関わっていれば嫌でも耳に入ります」

「ま、俺が王国にまで名を轟かせる天才なのは置いといて」


 予想外な情報にキョトンとなるロロベリアを他所に、軽薄な笑みを返すフロッツの視線はアヤトに向けられた。


「ミューズちゃんの手紙とは関係なくあんたのことも耳に入ってるぜ。アーメリ殿の弟子にして、持たぬ者でありながら初の親善試合代表に選ばれたアヤト=カルヴァシアくん?」


 その視線は何かを探るようでロロベリアだけでなくカナリアにも緊張が走る。

 今の情報はマイレーヌ学院のみならず帝国でも知られているなら教国貴族のフロッツの耳に入ってもおかしくない。ただアヤトが公の場で戦ったのは選抜戦のみ、それも学院生レベルまで実力を抑えていた。

 それでも持たぬ者が持つ者と同等に戦えた、という部分が懐疑的で人伝に聞いたところでまず信用されず。

 親善試合も補欠代表止まりなら何らかの作戦で加えられたと捉えられていた。


「マジで精霊力が感じられないし……雰囲気からしてどうやらガセでもないみたいだな」


 だが実際に顔を合わせれば持たぬ者とは理解される。フロッツもかなりの実力者ならアヤトから強者特有の何かを感じ取っていた。

 アヤトの過去が過去なだけに、王国側としてはあまり踏み込まれたくない。

 しかしラタニの弟子との情報を利用して説明することはできる。現にアヤトの過去を知らない王国の中核にはラタニの名を使って押し切っていた。


「違うな」


 故に早速カナリアがお約束の言い訳で乗り切ろうと口を開こうとするも、先にアヤトがキッパリと否定。


「カナリアはラタニの右腕なんて大層なもんじゃねぇよ。優秀な尻ぬぐい役ではあるがな」


「そっちがガセなのかよ……」

「あなたに言われたくはありません……」


 ……したのだが、嘲笑交じりの訂正にフロッツと共にカナリアも脱力を。


「フロッツ、先ほどから失礼だ。斬られたくなければ少し黙っていろ」

「へーい」


 と、ここでダリヤが睨みつつ抑制したことでフロッツも自制を。


「私の連れがすまない。それと、あなたには伝えておきたいことがある」


 変わってダリヤが身体ごとアヤトに向けて姿勢を正す。

 ただフロッツとは違い好奇や牽制もなく。


「あなたはミューズを救ってくれたと聞いている。ありがとう」

「どういたしまして」


 心からの感謝を込めたダリヤの一礼に対し、それなりに気を遣ったアヤトは聞き飽きたとの言葉を控えて苦笑を返した。




ダリヤとフロッツは今回出番の少ないニコレスカ姉弟の代わりではありません。


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読んでいただき、ありがとうございました!


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