教国の―
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翌朝、長距離移動の疲れからか使用人が呼びに来るまでロロベリアは熟睡。対し基礎体力の差か、カナリアは既に起床していて身なりも完璧。
なので使用人に変わりアヤトを呼びに行く係をカナリアが受け持ってくれる間にロロベリアも手早く身支度を調え二人と合流。
「みなさま、おはようございます」
食堂に行くとミューズの笑顔がお出迎え。
今朝も早くから礼拝室でお祈りをしていたらしく、ロロベリアにはとても真似できない習慣だった。
ちなみにリヴァイの姿はない。
クルトから聞くにまだ日が昇らない内に出発したようで、結局ミューズと顔を合わせたのも昨夜の一度きり。
リヴァイは次期財務長と噂されるほどの立場でこの時期は多忙を極めるのは理解している。しかしせっかく娘が帰国している時に帰宅できたならもう少し時間を作ってもいいはず。
ただ火精霊の周季の帰省時もほとんど顔を合わさず終いで、顔を合わせても言葉すらかけないこともあったらしい。
加えて使用人との食事についても好きにしろとあしらい、なのに祖父が留学を奨めた際は反対する。
元は不器用ながらも家族を大切にしていたらしいが、妻を亡くしてからというものリヴァイは娘に関心を向けなくなったとも聞いた。
最愛の妻を失い寂しいさを紛らわせたいのは分からなくもないが、忘れ形見のミューズを蔑ろにするのも違うとロロベリアは事情を聞いてもリヴァイに対する憤りが拭えない。
少なくともミューズは父の態度に毎回悲しい思いをしているのだ。
故に元気付けて欲しいと頼まれ、もちろんロロベリアも何か力になれればと思う。
「アヤトさま、寝心地のほどは如何でしたでしょうか」
「さすがは名家の屋敷だな。清掃も行き届いている故に気分が良い」
「清掃をしてくれているみなさんに伝えておきます」
「…………」
本心から思っているのだが、アヤトに褒められたミューズは蕩けるような笑みを見せていた。
リヴァイと顔を合わせた直後は居たたまれないほど寂しげにはしていたのは確か。だがアヤトのフォローと頭ポンによってとすぐさま元気を取り戻した。
それはとても良いことで、アヤトの不器用な優しさに触れると胸がほっこりするのもとてもよく分かる…………良いことで分かるのだがそれとは別にもやもやする。
更に今回のアヤトはそれなりに気を遣っているせいかミューズに対してなにか良い感じに見えるのは気のせいだろうか? そもそもミューズはベッドの寝心地を聞いたはず、しかしアヤトはさらりと交わしているだけ。なんせアヤトは宿や他人の家に宿泊する際ベッドを利用しない、現にマヤと入れ替わっていた帝国滞在時も常にソファで休んでいた。カナリア曰く野生動物並みの警戒心から即座に行動に移せるよう柔らかなベッドを好まないらしい体調は大丈夫なのかと思う反面、確かにイディルツ邸は清掃が行き届いているのは認めるが今の対応も何となくもやもや――
「カナリアさんやロロベリアさんも如何でしたでしょうか」
「良質な睡眠のお陰で移動の疲れも完璧に取れました」
「……グッスリでした」
「それは良かったです」
――し始めていたところでミューズに問われて我に返り朝食を。
今朝もレムアやクルトに昨夜とは別の使用人を交えた時間、食事も寝起きに優しいメニューで纏められてちょうど良く。
午後から教都観光をする予定なので食後は各々自由に過ごすことになり、早速アヤトは書庫に向かったのは言うまでもなく、元より読書家のカナリアも同席。
ロロベリアはせっかくの機会なのでミューズと交流を。と言っても休暇中の課題を一緒にしているのでほとんど会話はないが、座学でも常に上位をキープしているミューズに教わったり、休憩時には教国について聞いた。
ただミューズからアヤトについての質問が一切ないのが意外で、ぶっちゃけ覚悟していただけに肩すかしな時間を過ごしていたが。
「ミューズさま、お客さまがお見えになりました」
「お客さまですか?」
応接室にやってきたクルトの報告にミューズはキョトン。
「はい。フロッツさまとダリヤさまでございます」
「本当ですか!」
しかしその名を聞くなり表情が華やぐので今度はロロベリアがキョトンとなってしまうのは、ダリアという名に聞き覚えがあるからで。
もし同一人物なら思わぬ来客、加えてミューズの反応からどうやら親しい間柄のようだ。
「私の判断で応接室にお通ししておりますが、いかがなさいますか?」
「もちろんお会いします。それとアヤトさまとカナリアさんにお声がけをお願いします……無理にとは言いませんが」
「畏まりました」
故にミューズも紹介したいのか、申し訳なさそうに指示を出すもカナリアは当然、アヤトもそれなりに気を遣ってきてくれるだろう……もやもやするが。
「ロロベリアさんも宜しければ、お会いくださいませんか」
「是非とも」
それはさておきロロベリアも断るつもりは毛頭なく、レムアと共に先に向かったミューズといったん別れて教材を置きに客間へ。
案内してくれる使用人から客人について確認すれば予想通りの人物で楽しみ反面、嫌な予感もしつつ応接室に行けば既にアヤトとカナリアも居て。
「それなりに気を遣ったんだ」
「それもあるが、随分と楽しげな相手らしいからな」
「お願いですから大人しくしてください。決してケンカは売らないように」
「……俺をなんだと思ってんだ」
元よりアヤトはケンカを売るようなタイプではない。ただ口の悪さと素直さから結果ケンカを売っているように取られるだけ……とは言わないがカナリアが念を押すのも分かる。
とにかくロロベリアを待っていたようで物騒なやり取りをスルーしたクルトがノックを。
入室許可を得てドアを開けてもらいロロベリア、カナリア、アヤトの順で入っていく。
「ミューズさま、お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
最後に入室したクルトがドアを閉めて一礼を。
室内中央のテーブルを囲う三人掛けのソファ左にミューズと背後に控えるレムア、その対面に腰掛ける二人。
一人は赤を基調とした派手目な衣服に緩やかなウェーブの掛かった赤髪を耳が隠れるほど伸ばし、目尻が若干下がった金瞳の人懐っこそうな笑みが印象的な美男子。
もう一人は黒のズボンに白の長袖とシンプルな衣服に切れ長で深い青色の瞳と一つに纏めた長い髪の中性的な顔立ちをした女性。
男性についてはよく知らないも、女性がカナリアと同い年なのはロロベリアも知っている。
なぜならロロベリアの知る強者は女性。またアヤトが興味を持ち、カナリアが警戒している相手でもある。
「みなさまにご紹介しますね。こちらはフリッツさんとダリヤさんです」
「お初にお目に掛かる、王国の客人よ。ダリヤ=ニルブムだ」
ミューズの紹介から立ち上がり一礼するダリヤこそ、王国にも名を轟かせる教国屈指の強者で。
類い稀なる剣の才から剣聖と呼ばれる精霊騎士。
教国の剣聖とロロたちが対面。
それはさておき今回はロロのもやもやシリーズではありません。
後ほどがっつりもやもやしてもらう予定なのでお楽しみに……してくださいね(汗)。
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