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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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船出は順調?

アクセスありがとうございます!



 ニコレスカ姉弟を見送った二日後、ロロベリアも教国に向けて出発する日となった。


 帝国行きと同じく海路を利用。

 午前中に出港して中央大陸を左にそって北に向かい教国領の港へ。

 そこから馬車に乗り換えミューズの実家がある教都フィナンシュには正午過ぎに到着予定と帝国行きよりも少し長い船旅となる。

 また大陸の北に位置する教国は年間の平均気温が低く、風から水精霊の周季になると頻繁に雪が降り積もるらしい。

 王国でも雪は降れど年によってまちまち。現地で暮らす者からすれば過酷な環境かもしれないが、ロロベリアも一面が白銀の世界という情景を見たことがないだけに、どのようなモノか見るのが楽しみで。


 ただ楽しんでばかりもいられない。

 王国に比べて気温が低いとなれば防寒対策は必衰。体調を崩せばせっかくの旅行を無駄にするだけでなく滞在中お世話になるイディルツ家に迷惑をかけてしまう。

 もちろんそこも抜かりなく、準備を済ませたロロベリアは家の馬車を使い港に向けて早めに出発。

 ニコレスカ家は徒歩で行ける距離なら馬車を使わない貴族家にしては珍しい習慣があるも、今回は荷物がある上に同行者がいるからで。


「おはようございます。カナリアさま」

「おはようございます。ロロベリアさん」


 王都を出る前に今回の教国行きにロロベリアとアヤトの保護者として同行するカナリアと合流。

 まあ主にアヤトのお目付役としてラタニが指名し、アヤトと出向きミューズから了承をもらっている。結果としてリースを余計にすねらせたのだがそれはさておき。


「素敵なコートですね。もしかして精霊器を備えた特注品ですか?」

「はい。お義母さまがプレゼントしてくださったんです」


 向かいに着席したカナリアが褒めてくれたのはシンプルながらもフードや袖にファーの装飾が可愛い真っ白なコート。

 生地が薄いので動きやすく、外気温の調整をしてくれるので重ね着もしなくて済むこのコートは教国行きを聞いたクローネが寒さ対策に用意してくれた物で。

 もちろんロロベリアだけでなくゼレナリアに旅だったリースには赤の、ユースにはオレンジと精霊術の色に合わせた物を用意してくれていた。

 ただロロベリアのコートは精霊術ではなく髪の色に合わせて。

 というのもファー以外のデザインはアヤトのコートと同じで、サクラからプレゼントしてもらったブレスレットに続いてちょっとしたお揃いにロロベリアはご満悦。


「良かったですね。私も欲しかったんですが……特注品でなくとも高いので」


 その様子に微笑ましく微笑を浮かべるカナリアが羽織っているのは厚手の青いコート、洒落っ気のないシンプルなデザインがカナリアらしいチョイスで。

 精霊器を備えた防寒着はかなりの額。小隊員としてそれなりの給金は出るので買えなくもないが、上位精霊術士に与えられるローブにも同じ精霊器が備えらているので金額以前にカナリアにとってあまり必要性を感じないのが本音。


「今回はあくまでプライベートですから」


 そして教国への同行も(主にアヤトの)保護者として、要は上位精霊術士のローブを羽織れば軍務の一環になると持ってきてすらいない。

 ただ保護者はあくまで表向きの立場。

 裏ではラタニの命を受け教国の内情を探るアヤトのサポートを受け持つ。

 その内の一つがロロベリアの護衛。

 マヤという人知を越えた存在が控えていようと状況次第では面白がって観察に留める可能性がある。

 またアヤトという存在がマヤにとって替えの効かない人間でも、マヤはアヤトの、ロロベリアの幸せが目的ではない。

 例え強力なカードでも不確定要素が多すぎる為、完全な味方が側に居るべきとラタニが指名したのがカナリアで。


『あの子が存分に好き勝手するには、ロロちゃんの安全確保は必衰なのさ』


 だからお願いすると、完璧なフォローが出来るよう国王ですら知らないカルヴァシア兄妹の重大な秘密まで打ち明けてくれた。

 そして重大な秘密を知ったからこそ、これまで感じていた疑問も解消できた。

 神との契約により大切な時間を失ってもなお、違和感として残り続けたシロ――ロロベリアという存在。

 カナリアも異常なまでに強さを求めるアヤトの根本を疑問視していたが、まさか二人の間にそのような過去があったとは思いもよらず。

 これまでラタニ以外の存在に執着しなかったアヤトがロロベリアを特別視するはずと納得できた。

 まあどのような感情から特別視しているかまではさっぱりで、今回の教国行きにロロベリアを同行させた理由を聞いてもお約束で交わされている。

 ただアヤトの捻くれ具合を知るだけに、単に自分の手の届く場所にロロベリアを置いておきたいだけ、とのラタニの見解が正解とカナリアも感じているわけで。

 故にラタニの信頼に応えるだけでなく、アヤトの大切なロロベリアを必ず守り通す覚悟だ。

 カナリアにとってもアヤトは弟のような存在、なら弟の幸せを守ってあげたいのが姉心というものだ。


「それに教国は私も初めてなので。この機会にゆっくりと色々な文化に触れて学びたいと思います」


 もちろん教国に潜む何か、招待してくれたミューズ、護衛対象のロロベリアにさえ知られてはいけない覚悟。

 悟られれば警戒され、アヤトが自由に動けなくなるとカナリアは特別に与えられた休暇を楽しむ素振りを崩さない。


「……アヤトのお目付役でゆっくりできますかね」


「言わないでください……」


 が、ロロベリアの鋭い突っ込みに楽しむ素振りが呆気なく崩れ沈痛な面持ちに。

 なんせ表だろうが裏だろうが関係なくアヤトのフォローを担っているのだ。

 アヤトも教国の内情を探るのを目的としているのなら、それなりに自重すると信じている。

 しかし所詮はそれなり、今回の教国行きやカナリアの同行をラタニから説明された国王や宰相の『国際問題にならないよう尽力してくれ』『色んな意味で無事帰国してくれれば特別報酬を与える』との激励が全てを物語っていた。

 ただカナリアとしては教国が謎の襲撃犯と関係なく、アヤトが何もやらかすことなく帰国することが一番の願いで。


(それを神に願おうにも……マヤちゃんですからね)


 問題は何に願うべきかと、ユースと同じ悩みから大きなため息を吐いた。



 ◇



「よう」


「おはよう」

「おはようございます」


 港に到着した二人は船着き場から少し離れた岩場に腰掛けあやとりを興じているアヤトを見つけて挨拶を。

 アヤトと言えば時間厳守はすれどギリギリにやってくるのがお約束。

 しかしミューズよりも早く到着して待機するために早めの出発をしたロロベリアとカナリアよりも前に待機しているのは実に珍しい。

 ただ今回は誘われた側、つまり客人の立場だがそれとは関係なくミューズを待たせるわけにもいかないと事前にカナリアが何度も念を押した際、面倒気でも『へいよ』と返した。

 アヤトは基本約束を守る、なので『さあな』や『どうだかな』でなくちゃんと返事をしたなら予想通りの結果と言える。


「ちゃんと早く来ましたね」

「お前の言い分も分かるからな」


 満足げに微笑むカナリアにあやとりの紐をコートのポケットに収めつつアヤトはため息一つ。


「ま、ラタニからもうざいくらい忠告されたからな。今回ばかりはそれなりに気を遣う」

「できれば毎回使って欲しいものです」

「にしても白いの。今日は一段と白さに磨きが掛かっているじゃねぇか」


 カナリアの嫌味をさらりと交わしたアヤトはロロベリアを視界に入れるなり苦笑を。

 まあ瑠璃姫やバッグ以外は全て白の出で立ちなので絶好のからかいのネタになるだろうが、せっかく新調したコートなら褒めてあげれば良いとカナリアは呆れてしまう。


「常に全身黒のあなたに言われたくないわよ」

「言うじゃねぇか。つーかクローネも随分と奮発したようだ、そいつは精霊器付きの特注だろう」

「ええ。教国は寒いからってプレゼントしてくれたの。始めて使うけどこれ、本当に快適ね」

「だろうな」

「だからって、あなたみたいに年中着ようとは思わないけど。いくら快適でも火精霊の周季まで使ってたら変に見られるもの」

「暗に俺を変だと言っているように聞こえるが」

「気のせいじゃない?」


「…………」


 が、全く残念そうな素振りも見せず幸せそうにお喋りを続けるロロベリアにも呆れてしまった。

 ただロロベリアとしてはアヤトとお揃いの物が増えただけでご満悦なだけで、小さな物事で幸福を感じる辺りが彼女の好意を強く感じさせた。


 それはさておき、カナリアを加えてしばらく談笑していると待ち合わせ時間の少し前にミューズの乗る馬車も到着。

 ミューズは学院終了後もラナクスに留まり教会での奉仕や一時帰国の挨拶回りをしてから昨日王都入り、エレノアと会う約束をしていたらしい。


「お待たせしました。アヤトさま、カナリアさん、ロロベリアさん」

「ミューズさま、おはようございます」

「おはようございます」

「よう」


 船内に荷物を運ぶ使用人から離れ、レムアと共にとてとてと歩み寄るミューズに三人はそれぞれ挨拶を。


「改めて、本日は急な同行を許可してくださり感謝を」

「こちらこそ。アヤトさまと懇意にされているカナリアさんをお招きできて光栄です」


 続いてカナリアが謝辞を述べればミューズは邪推のない微笑みを浮かべた。

 ただその微笑みにカナリアは否が応でも警戒してしまう。

 ミューズは出会った当初からアヤトに対して好意を通り越して崇拝染みた対応をしていると聞く。

 まさかとは思うがマヤと契約して得た神気を感じ取っているからか。

 しかしマヤと出会った際は妙な反応こそすれど他と変わらない対応をしていたらしいが――


「何が光栄かは知らんが、俺も感謝している」


「「…………」」


 などと考察するも、言い方はアレでもアヤトも謝辞を述べるのでロロベリア同様言葉を詰まらせてしまう。


「アヤトさまから感謝をされるなんて……光栄です」

「光栄が好きな奴だ。とにかく世話になる」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 対し感激したように両手を組むミューズにやはり言い方はアレでもちゃんと会話をする姿勢を見せていることに驚く。

 それだけのことで驚かれるのもどうかだが、今回のアヤトは期待できそうで若干もやもやしているロロベリアを他所にカナリアは感激してしまう。


「さて、立ち話もなんだ。いい加減搭乗するか」

「ですね」

「ではアヤトさま、カナリアさま、ロロベリアさま。お荷物をお運びしますのでこちらへ」

「テメェの荷物くらいテメェで持つ」


「「…………」」


 が、レムアの申し出をアヤトは拒否。


「ですが私はミューズさまの従者として……」

「なら尚更必要ねぇよ。なんせ俺はしがない平民だ、ミューズさまの従者さまのお手を煩わせるわけにもいかんだろう」

「……畏まりました」


 更に食い下がるレムアもお約束のアヤト節で一蹴、一人さっさと船に向かってしまい。

 去り際、カナリアにどや顔が『気遣っているだろう』と言いたげで。

 ただ気遣いの方向性が間違っているとカナリアは説教したい気分だ。


「カナリアさまやロロベリアさまもでしょうか……」


「「……すみません」」


 どこどなく従者としての矜持を傷つけられた顔を向けるレムアに二人は謝罪と共に荷物を差し出したのは言うまでもなく。


「アヤトさまはお優しいです」


 レムアに対するアヤトの対応に感激するミューズの方向性も間違っているのも言うまでもない。


 とにかく一抹の不安が拭えないまま一同を乗せた船は教国へ向けて出航した。




アヤトくん……馴れないことするから。



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