終章 これから始まる
本日二度目の更新です!
アクセスありがとうございます!
ニコレスカ姉弟がラタニから真相を知らされている頃、ラナクスに戻ったロロベリアは真っ直ぐ学院へと向かっていた。
「お帰りなさいませ、ロロベリアさま」
だが学院に続く並木道で突然マヤが姿を現したので足を止めてしまう。
「……よく私が戻ってきたことがわかったね」
「制限されているとは言え、この街程度の規模なら神気を張り巡らすのは造作も無いこと。これでも神なので」
相変わらずイタズラ感覚でとんでもない現象を引き起こすマヤにロロベリアは呆れてしまう。
「敬意を込めて神さまとお呼びした方がいいかしら? それともクロノフさまがいい?」
「マヤで結構ですわ。それと言葉遣いもこれまで通りで。神と言っても人間に何か特別なことをして差し上げているわけでもありませんし」
皮肉を皮肉で返しクスクスと笑うのでロロベリアも気を取り直す。
「じゃあマヤちゃん、私に何か用かな? わざわざお出迎えしてくれたわけでもないんでしょう?」
「もちろん。わたくし、ロロベリアさまに質問したいことが出来たのでお帰りになるのを首を長くして待ち望んでいましたの」
「そう……ならちょうどいいわ。私もマヤちゃんに聞きたいことがあるの」
「ロロベリアさまが? それはまたとても興味深いですわ。いったい何でしょう」
「まずはお先に、マヤちゃん」
愛らしいのに嫌な予感しかしない笑顔を向けられ苦笑いしつつ促せば、マヤも素直に従った。
「では……ロロベリアさまはわたくしを恨んでいますか」
「恨む?」
「だってそうでしょう? クロさまの死も、兄様の時間が削られているのも、元をたどればわたくしの興味本意から。わたくしも恨まれて当然と思います」
粛々と語るようにロロベリアが臨んでいた再会は永遠に失われ、アヤトがいつ死ぬかも分からない枷に囚われているのもマヤが契約を結んだからで。
しかもその理由が相手を救うためではなく、個人的に楽しむため。
大切な人の人生を弄ぶ行いの数々、例え神でも許せるものではない。
「もしそうであるのなら、一言お詫びをと――」
「必要ないわ。むしろ感謝してるかな」
加えて明らかな社交辞令な反省にも清々しいまでに拒否。
これにはマヤも面を食らってしまう。
「感謝……? お二人の人生を狂わせただけでなく、今後待ち受ける苦難をも楽しく観察するつもりのわたくしを、ですか?」
「そんな宣言をするのはどうかと思うけど……」
さすが神と言うべきか、何の悪気もなく言い切られてロロベリアも返答に迷う。
「でもそうね……クロの時間を失ったのも、時間を削られると知っていて力を酷使しているのも彼の決断。ならマヤちゃんが責任を感じる必要はないし、守られた私がどうこう言える立場でもない。それにね、元をたどればマヤちゃんのお陰だから」
「わたくしのお陰?」
「姿勢はどうあれマヤちゃんが契約を持ちかけなければ四年前、彼はクロの時間と共に死んでいた。でもマヤちゃんが契約を持ちかけたからクロの思いを知ることができた。私は彼と出会うことができた。だから、ありがとう」
これはロロベリアの偽りない本心。
怖い思いをした。
辛い思いをした。
それでももう一度最初から始められるなら不満はないと。
何とも前向きな感謝にマヤは頷くしかない。
「わかりました。それで、ロロベリアさまのお話というのは何でしょう」
「お話しというより確認したいのだけど――」
ロロベリアの投げかける質問にマヤは興味深く聞き入り、一つ一つに答えていく。
「……なるほど、これで希望が見えたわ。ありがとう、マヤちゃん」
「どういたしまして。それではロロベリアさま、今後とも仲良くしてくださいね」
「こちらこそ。じゃあまたね」
互いに手を振り合いロロベリアは学院へ向かっていく。
「本当に……どこまでも興味深い人間ですこと」
その背を見送りマヤは口端をつり上げる。
これまで観察してきたアヤトは真っ直ぐだが、所々捻くれている。
しかしロロベリアは最初から最後まで歪んでいない、気持ちのいいほど真っ直ぐだ。
性質は違えど、二人の共通点は滑稽なほどの純粋さ。
だからこそ興味が尽きない。
果たしてこれから遠くない未来で待ち受ける最悪な別れ道を前に、二人はどのような決断をするのだろうか。
これまで数多に観察してきた者達のように絶望するのか。
それとも数少ない者達のように抗い続けていくのか。
それとも別れ道に辿り着く前で力尽きるのか。
それとも、未だ観察したことのない第三の道を見つけるのか。
「それは神のみぞ知る……でしょうか」
クスクスとの笑い声を残してマヤの姿は消えた。
◇
学食に辿り着いたロロベリアは中に入らず、ドアの前で深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせていた。
六日前にアヤトの手を取り泣いた気恥ずかしさもあるが、それ以上にこの一歩にはとても深い意味がある。
突然の別れから六年間。アヤトの中に思い続けていたクロはもう居ないと泣いて、一つの区切りをロロベリアなりに付けた。
そしてこれから再び出会ったアヤトと向き合うことになる。
始まりの第一歩がこのドアの向こうにある。
「……よし」
新たな決意を胸にロロベリアはドアを開け――
「グダグダやってねぇで帰ったなら仕事しろ」
「…………」
……ようとしたのだが、先にドアが開き面倒げにアヤトが出迎えた。
「……どうして私だとわかったの」
「ろくに気配も消してないくせになに言ってんだ」
「なんというか……あなたは相変わらずね」
自身の過去を知られて、あのような約束をしても微塵の感慨も見せないアヤトに不満を感じてロロベリアは口を尖らせてしまう。
ただそれも仕方ないのか。
クロの時間を失ったアヤトにとっては他人事で、これまであやふやだった感覚をハッキリさせただけ。
つまり別段ロロベリアを意識する必要はない。
対しロロベリアはこんなにも熱い気持ちを秘めている。ずるいと思う反面悔しくなる。
「いいから仕事しろ。さっさと終わらせねぇと遊んでやらんぞ、構ってちゃん」
「あら、今日から鍛えてくれるの」
「どこぞの白いのが弱っちいくせに思想だけは一人前だからな。時間が惜しいんだよ」
素っ気なく背を向けるアヤトの言葉がロロベリアに重くのし掛かる。
いつ訪れるかわからない死を早める力を持つだけに、時間を惜しむのは切実な理由。
これからもたった一人で背負う覚悟をしているその背が、頼もしくも悔しい。
故にロロベリアも覚悟を決める。
その為にここへ来た。
「私が強さを求めたのはクロとの約束から。私を……世界を守るシロを、クロが守ってくれるって、子供染みたね」
「それを俺に話して何になる」
突然の話題にアヤトは振り返りもせず、むしろ煩わしげに一蹴。しかしロロベリアは続けた。
「あの時はなにも考えずに宣言しただけ。今までだって約束したから強くなろうとしていただけで、漠然な意思でしかなかった」
アヤトと同じく、これまでのあやふやな理由を明確にするために。
「ここに来る途中でマヤちゃんに会って確認した。これまで神の力で消費した時間は世界の命運にあなたという存在がどれだけ関わっているかで決まる」
マヤは言っていた。
アヤトの時間が世界にとってどれだけの価値になるかわからないから、対価として消費する時間も算出できないと。
だから問いかけた。
アヤトという個人の存在が、世界により大きく影響を与えるのならその消費は少なくて済むのかを。
ロロベリアの読み通りマヤは同意してくれた。
存在の価値とは生きていた時間だけでなく、英雄として名を残した時間も含まれると。
ただアヤトの強さは諸刃の剣。突出した戦闘力だけでは英雄になれないとも指摘されたが問題ない。
「なら私が世界に名を残す大英雄と呼ばれるほどに強くなれば、私を育てたあなたも世界にとって大きく関わったことになる。つまりあなたが消費した時間は少なくて済む」
アヤトが無理なら、ロロベリアがなる。
大英雄に影響を与えた存在は充分英雄として名を残すと、時の管理者が保証してくれた。
「私は強くなる。強くなって、あなたの未来を守りたいから」
世界を守るシロをクロが守るという約束から六年越しの、成長した二人の最初の約束。
アヤトがロロベリアの今を守るなら、ロロベリアはアヤトの未来を守る。
新たな誓いを聞いたアヤトと言えばわざとらしく大きなため息一つ。
「いちいち面倒な理由を作らんと強くなれんのか」
「何かを成し遂げるにはモチベーションは必要でしょ」
「ならそのモチベーションとやらに俺を巻き込むんじゃねぇよ。恩義のつもりなら押し付けがましいだけだ」
「恩義だなんて、高尚な話じゃないわ」
あくまで独りを貫くアヤトに、そうはさせまいとロロベリアは一歩を踏み出す。
これは先を行く背中に並び立つための、最初の一歩。
「愛する人と過ごす時間は一秒でも長い方がいい」
そして共に未来を生きるために必要な儀式。
訝しむアヤトに向けて、ロロベリアは頬を染め始まりの言葉を口にした。
「私はアヤトが好きだから」
一秒でも長く未来を共有したい。
これにて第一章は終了です。
そして今作はロロベリアとアヤトの二人が主人公だったりします……が、当面はロロベリアがメインですね。二人の実力、経験に差がありますから。
ですが徐々にアヤト視点も増えていく予定なので、温かく見守ってください。
また明日から第二章に入りますが、別作品を同時に投稿開始予定です。今作とは雰囲気の違う現代風で、少し不思議な内容。
タイトルは『オモイデレシピ』こちらも楽しんで頂けたらなと思います。
もちろん今作もできる限り、毎日更新目指して頑張るのでどうかよろしくお願いします!
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価、感想などをお願いします。
読んでいただき、ありがとうございました!




