六年越しの
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ロロベリアの望みを聞いたアヤトは僅かな間を空け、先に出ていろと告げるなり戸締まりの確認を始めてた。
言われた通り外で待機していればエプロンからいつものコート姿で現れたアヤトは施錠を終えて視線で促す。
つまり付き合ってくれるとの意思表示。
押しつけた恩でも律義なアヤトは叶えてくれると予想していただけにロロベリアは歩きだす。
「たまに褒めてやるとこれだ」
「文句言いながらも付き合ってくれるのね」
「白いのに貸し作るなんざゾッとする。いくら押しつけられたにしてもだ」
「……言い過ぎ」
まあ嫌味の一つや二つも予想済み、とにかく連れ出せたなら問題ないと先を行く。
講師舎をぐるりと周りまず噴水広場へ。
そこから闘技場方面に向かいつつ時計塔へ。
「どこ行くんだ」
まるで学院の敷地内を当てもなく散歩するような道筋にアヤトから問いかけが。
「来れば分かるわよ」
「……たく」
だが普段のお返しと言わんばかりの返しに肩を竦めてしまい、ロロベリアはクスリと笑った。
実のところ当てもなく適当に歩いているだけ。
もちろん理由あってのこと、しかし今は純粋にこの時間を楽しんでいる。
屋台などはまだ残っているが、やはり本格的な撤収作業は明日に回したのだろう。これだけ歩いてもすれ違う人はほとんど居なかった。
故にこの三日間、精霊祭で大勢の人で溢れていた敷地内が嘘のように静かで不思議な気分だ。
また滅多に歩くことのない夜の学院をアヤトとこうして歩く。
いつもは自分が振り回されてばかりで、並んでいても後を追うような感覚なのに、今は自分が振り回して案内する為に僅かでも前を歩く。
こうした一つ一つの違いが新鮮で、無言のままただ歩くだけでもロロベリアは楽しい。
でも残念なことに時間切れのようだ。
それでもロロベリアの表情に一切の曇りはなく、目的地へと歩を進めた。
「ここよ」
「……あん?」
目的地は序列十位専用の室内訓練場――つまりロロベリア専用の訓練場。
アヤトと再会してからは何度も足を運んでいたが同居を始めてからは何気に初めて。
またこんな時間に訪れるのも初めてだが、意外な場所にアヤトは眉根を潜める。
まあこの反応は当然。
訓練なら帰宅してからでもいいし、訓練をするにしても学院に居られるのは一時間と少しとここへ来る理由がないからだ。
「私に貸しを作るのはゾッとするんでしょう? なら寒気がする前に入りましょうか」
「……何がしたいんだか」
「たまには良いでしょ」
しかしロロベリアは押し切るように鍵を開けて先に室内へ。
アヤトも遅れて続く間にリビングルームの明かりを灯す。
「先にそっちへ行ってて」
「遊ぶなら帰ってからでも良いだろうが」
更に隣接する室内訓練場へ入るよう促し、呆れながらもアヤトはドアノブに手をかけ――
◇
時間は序列戦の打診を受けた翌日まで遡る。
帰宅後、今日もカナリアが滞在中なのを良いことにシャルツに加えてリース、ユースを指名したアヤトが訓練場で遊んでいる時のこと。
「――お姉ちゃん、知らなかったんですか?」
「だってあいつ教えてくんなかったんだもん」
リビングでは昨日しそびれた相談を改めてラタニへするなりロロベリアは目を丸くする。
「つーか聞いても記憶が曖昧で正確な日まで覚えてないって言われてねー。まあ嘘くせーと思っててもそれ言われちゃこっちも追求できんし」
「……はあ」
「だからあたしも風精霊の周季あたりかなってくらい? でもなるほろねー。よくよく考えりゃロロちゃんは知ってるか」
対しラタニは納得するなり口角をニヤリとつり上げた。
「てなわけでよーやく知れたことだし何かしてやるかねー。つーかロロちゃんもその為にあたしに声かけたんよね?」
「これまでどのようにしていたか参考にと……でも、一度もないって」
ラタニの指摘通りでもロロベリアは気が抜けたようにソファへもたれ掛かる。
非合法な人体実験によって記憶の一部が曖昧になった、可能性としてはありそうだがラタニが嘆いていたように実に嘘くさい。
まあ本当ならそれはそれで安堵する自分がいるも、嘘を吐いてまで隠したのならたんに今のアヤトはこの手のイベントを特に重要視していないとも言えるわけで。
もしそうなら普段通りの一日として扱い、言葉だけを贈る方がアヤトも喜ぶかも……いや、そもそも喜ぶだろうか?
「なら今までの含めて盛大にしてやるか。あ、ロロちゃんが一人でしたいなら邪魔せんけど」
「…………いえ、お姉ちゃんも是非協力してください」
などと悩んでいたがラタニが実に乗り気で、姉として何かしたい気持ちがずっとあったのならむしろ協力するべき。
なにより六年越しなのだ。
自分のを忘れられていても関係なくロロベリアにしたい気持ちがある。それこそアヤトにどん引きされようと構わないほど六年分も含めて盛大に。
故に開催は決まったが、ここで新たな問題が。
「ただ問題は日にちなんですよね」
「精霊祭の最終日になにか問題でも?」
「その精霊祭にアヤトが参加するかどうか……」
「つまり引きこもられたらバレると。んじゃ、あたしがあいつボコってでも連れ出してあげようかい? 最終日には顔出す予定だし」
「ですからどうして力業に出るんですか……」
「ならばわたくしが――」
「マヤちゃんも力業はなしで」
ここで興味深くやり取りを聞いていたマヤが申し出るもロロベリアは即座に否定。
昨日の言い伝えの協力と良い、なぜこの二人は力業に出ようとするのか。
「んじゃ、発想を変えてはどうだい?」
呆れつつ考え込んでいるとラタニから提案が。
その内容はまた呆れるもので、しかし耳を傾けていたロロベリアは小さく頷き。
「……確かに今の暮らしならまずバレないし、アヤトが精霊祭に参加してもしなくても何とかなる……かな」
「もしサボったらロロちゃんが頑張って連れ出すか、あたしやマヤがボコるかで良いんじゃね?」
「……良くありませんから」
何故か力業に拘るラタニを余所にロロベリアはしばし思案を。
いくつかクリアする問題はあるも、ラタニの提案ならアヤトに気づかれず準備が進められるわけで。
「ただあそこを使うならレイドさまに許可をもらわないとですね」
ならば最も難しい問題を解決するべく動くことにした。
◇
「――良いんじゃないかな」
のだが、レイドに相談すれば思いのほかあっさりクリア。
「あそこはキミ専用だからね。どう使おうと自由だ……もちろん悪事に使わなければ、だけど」
「ありがとうございます」
少々気が抜けるも生会長のお墨付きを得られてロロベリアは心から感謝を。
「どういたしまして。ところで、良ければボクも参加させてもらえないかな?」
「俺もだ」
「……お二人が、ですか?」
だがレイドだけでなく、同席していたカイルまでも参加の意思を見せる予想外な展開に首を傾げてしまう。
しかしロロベリアの反応にこそ二人は予想外のようで。
「むしろ他のみんなも参加すると思うけど?」
「カルヴァシアには世話になっているからな」
「アヤトくんに気づかるのが心配ならボクらで声をかけてみるけど、どうかな?」
「ではお願いします」
二人の気持ちが、序列メンバーみんながアヤトの為に参加してくれることがロロベリアは嬉しくて笑顔で提案を受け取った。
「詳しい内容が決まれば教えてね。出来るだけ協力するから」
「ありがとうございます」
最初はアヤトに気づかれないよう序列専用室内訓練場のリビングルームを開場にしたいとの提案だったが、序列メンバーが来てくれるなら室内訓練場にするべきと早速予定を――
「ところでロロベリアくんはまだなのかな?」
レイドの何気ない質問に笑顔が固まった。
何故なら自分はつい最近終えたばかりで、それを知った二人がどのような反応をするか手に取るように分かるだけに実に答えづらく。
「私は……帰国後すぐ……」
それでも無視や誤魔化しもできないとか細く答えれば、予想通り今度は二人の表情が強ばった。
「確認しておくべきだったね……」
「すまんな」
「いえいえ! お気持ちだけで充分ですから!」
◇
レイドやカイルから他のメンバーも参加希望と教えてもらい、リースやユースと共に少しずつ準備を始め。
もちろん序列戦に向けての訓練も怠らず、ロロベリアは当日を待ち遠しく過ごしていたが――
「――ランさん……」
「いや、ごめんって」
精霊祭まで残り十日、蚊帳の外にされた恨めしさをランに向けていた。
ちなみに現在ディーンが訓練場でアヤトと遊んでいる。序列戦が決まって以降、ミューズを除いた序列メンバーが代わる代わる毎日訪れ遊びという名の訓練を受けるようになった。
ただ組み合わせが当日発表と言うこともあり、それぞれ時間を決めて一人ずつ。また同じく序列戦に出場するロロベリアに負担をかけないよう基本はアヤトにあしらわれ、最後にボコられる流れになったこともあり精霊力の消費はかなり抑えられている。
またリースやユースも気を遣ってくれて同じ流れになっているがそれはさておき。
「だってアヤトがロロベリアに話してないとか思わなかったんだもん」
ランの反論はもっとも、ロロベリアは何も言い返せなくなり不満を抑えることに。
「お詫びと言っては何だけど、こっちの予定はちゃんと教えるから上手く活用して」
「感謝します……でも、アヤトが参加するならまだ誘いやすくなったか」
「でしょでしょ?」
「あ、それとケーリッヒさんにも声をかけてもらえますか」
「お休み中で変に会ってると怪しまれるか。もちろんオッケー、なんなら他の子にも声かけとく?」
「ですね。こうなったら出来る限り参加者を増やしましょう」
「アヤトが喜ぶかは微妙だけどせっかくだしね」
とにかくアヤトが精霊祭に主催側として参加するならむしろ好都合で。
参加人数が増えても開場が室内訓練場なら問題ない。もし自宅を開場にしていたら手狭が故に問題になっていたが偶然でも良い流れと――
「あ、そいうえばロロベリアっていつなの?」
内心安堵していたロロベリアはランの何気ない質問に思考が固まった。
レイドやカイル同様、それを知ったランがどのような反応をするか手に取るように分かるだけに実に答えづらく。
「私は……帰国後すぐに……」
「……ごめん」
やはり謝罪されてしまった。
◇
そして精霊祭最終日の朝。
サーヴェルとクローネが来るまで手の空いているロロベリア、リース、ユースとマヤは室内訓練場で準備を進めていた。
「……思えば盛大になったよなぁ」
飾り付けをしつつユースがしみじみ呟くのも当然。
最終的に序列メンバー全員にルビラ、グリード、カナリア、モーエン、ケーリッヒ、シルヴィ、フィーナと少しでもアヤトと繋がりのある者だけでなくズークにミラーも加わり計二三人。
当初はここに居る四人にラタニを加えた五人で開催するつもりが声をかけた全員が参加してくれるとは思いもよらず。
まあズークやミラーはこの機会に関わりを持ちたいようだが、とにかくこれだけの人数がアヤトの為に集まってくれるのをロロベリアは自分のことのように嬉しくて。
「余計にあいつが喜ぶとは思えない」
「そう? 私は何だかんだで喜ぶと思うけど」
騒がしい場所や大勢で集まる場所を嫌うアヤトでも、それが自分を思うが為の場なら別とロロベリアは思うわけで。
まあ捻くれた反応はするかも知れないが、きっと喜んでくれると信じて。
「そんで、予定では姫ちゃんがあいつをここに連れてくるのは決定として、どんな感じでお出迎えする?」
「サプライズだからドアを開けたらみんなでお出迎え、みたいな感じにしたい」
「ドア越しでもあいつは気づくから無理だと思う」
「「…………」」
故に少しでも喜んでくれる演出を考えるもリースの鋭い突っ込みにロロベリアとユースは押し黙る。
アヤトの気配察知は一級品、いくらドア越しで気配を消していようと確実に察する……ロロベリアの知る限り可能なのはエニシくらいだ。
「そちらに関してはわたくしが協力いたしましょうか?」
なら他の演出を考えるべきと悩む三人だったが、ノリノリで飾り付けをしていたマヤが申し出る。
「制限があるので僅かな時間のみとなりますが、兄様を欺くのは可能かと。これでも神ですし」
「ほんと何でもありっすね……神さま」
「……対価は?」
「ご安心をロロベリアさま。こうした催しはわたくしも初めてなので、少しでも兄様を驚かせる可能性があるならわたくしにとっても利のあるサプライズですから」
つまり無償の協力らしいが相変わらず神さまは気まぐれだった。
ただお陰でよりサプライズな演出が可能になったとロロベリアはお礼を告げて。
また全員が会場に揃うタイミングもブローチ越しに教えてくれるらしく、これで演出含めて準備が整った。
唯一の予定外はエレノアが不参加になったこと。
もちろん激戦によるもので仕方ない。
むしろ参加を楽しみにしていた本人が悔しい思いをしているかも知れない。
それとアレクの参加が予定外で驚きはしたが、もちろん了承を。
◇
こうしてロロベリアの発案から水面下で準備が進められていたのを知らないアヤトがドアを開けるなり。
室内訓練場に集まった二二人と背後に控えたロロベリアを含めた計二三人で――
『アヤト=カルヴァシア――一六才の誕生日おめでとう!』
六年越しにアヤトの誕生日を祝うに叶った。
◇
ちなみに、このサプライズパーティーに対するアヤトの反応について少し。
「……………………あん?」
若干の驚きは含まれていたが背後に居たロロベリアからすれば普段通りのアヤト。
しかしその直後、何故か室内訓練場が笑いに包まれた。
後に理由を聞けば誰もがアヤトのあんな呆け顔を初めて見たと教えてくれて。
唯一背後に立っていたが故にみなが大笑いするほどのアヤトの呆け顔を見逃したことをロロベリアが酷く後悔したのは言うまでもない。
まずはお詫びから。
外伝の『シロ 前編』にてロロとアヤトが出会ったのが『七歳』と表記していましたが『八歳』の間違いです。現時点で修正しましたが、修正前に読んでくださったみなさまにお詫び申し上げます……本当にすみませんでした!
では改めて、もうお分かりですがロロのアレとはアヤトのお誕生日会でした。
こちらも外伝にありましたがラタニがアヤトと出会った際は火精霊の三月です。そこでアヤトがもうすぐ一二になると返したようにアヤトの誕生日は風精霊の一月、ちなみにロロはちょっとだけ早い誕生日(というか拾われた日)なので火精霊の三月、つまり帰国してから同居を始めるまでの間。
なのでレイドやランがお祝いできなかったのを申し訳なく思い、度々ロロに気を遣っていたんですね。
とにかく学院赴任時はロロ以外に敬遠されていた(自業自得で)アヤトが四ヶ月後、これだけ多くの仲間に祝われるのは彼の変化も踏まえて兆しに相応しい締めになったと思います。
さて、次回で第六章も終章となりますが最後までお楽しみに!
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
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読んでいただき、ありがとうございました!