言い伝えよりも大切な時間
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序列戦終了後、責任者のルビラとグリード、序列メンバーは闘技場の控え室に集合。
ただレイドは改めて治療を受ける為に治療室へ。また闘技場の治療室から屋敷に運ばれることになったエレノアの付き添いでミューズが別行動を。
他のメンバーもエレノアを心配しつつ、大勢で押しかけるのも迷惑と翌日お見舞いもかねて訪ねる予定で。
「みんなお疲れさま~。すごかったよ~」
「強力感謝する」
故に八人の功労者へ責任者の二人が改めて労いの言葉と感謝を述べた。
エキシビションとは思えない激戦に継ぐ激戦はまさに学院を代表する序列保持者に相応しく、メインイベントとして相応しい内容。観客らも大満足と今後も精霊祭の目玉として続けられる成果を残したことに二人は上機嫌。
「そう評価してくれると俺たちも協力した甲斐はあった……が」
「カイルさんやティエッタちゃんの一戦もだけど……やっぱりレイドさまとエレノアさまの一戦が全てよねぇ」
「王族として、強者として相応しい姿でしたわ。改めて私もまだまだと痛感しましたもの」
「自分もです」
「それに比べてどこかのバカは自爆した挙げ句敗北とか、ほんとないわ」
「……いちいち俺と比べんなよ」
対し序列メンバーは微妙な表情。
もちろんそれぞれがそれぞれの形で最善を尽くして挑んだ。
しかしレイドの、なによりエレノアの姿に奮い立たされ、同時に悔しさが込み上げる思いで。
故に更なる修練を積むとの気概に溢れている。
「どうやら、順調に成果が出ているようだ」
「そうですね」
そんな面々の雰囲気に同席しているモーエンとカナリアは微笑ましく見守っていた。
今回勝利した者も、敗北した者も関係なく結果に満足せず謙虚な姿勢を崩さない。
彼らが学院の最上位、序列保持者だからこそ他の学院生も感化されるだろう。
アヤトがラタニという強者の背中を追い続けるように。
そのアヤトの背中をロロベリアを始めとした序列保持者が追い続けるように。
激闘を繰り広げた序列保持者の背中から学び、追いかけ、その為には何をするべきかと奮起する。
まさに起爆剤として学院にアヤトを呼んだラタニの思惑通りの相乗効果が起きつつある。
「ディーンさんの自爆は褒められたものではありませんけど」
「あれにはさすがに肝を冷やした」
まあ行き過ぎた模索もあったが序列戦は様々な効果をもたらしたと、後輩たちの成長に満足で。
「そういや坊主はもう戻ったのか」
「ええ。閉会式が終わるなり姿を消しましたよ」
「観ると約束したら最後まで観る、か。相変わらず律義な坊主だ」
「せめて一声かけるまで律義にして欲しいですが……こちらに関しても隊長の思惑通り、でしょうね」
「確かにな」
またアヤトに対する成果も出ていると言えるだろう。
以前は必要以上に他者と関わらなかった彼が少しずつでも関わりを持つようになって少しずつ変化している。
本人は気づいてないようだが、昔のアヤトを知る者からすれば驚くほどの変化に写るわけで、この変化は間違いなくロロベリアの存在があってこそ。
そんな彼女が今回また愉快なイベントを考案しているだけに、二人は内心楽しみなのだが。
「あの……この後のことですが」
ルビラとグリードの話も終わり解散となるなりロロベリアがおずおずと挙手を。
「本当に開催しても良いんでしょうか。エレノアさまのこともありますし……不謹慎に思えるのですが」
注目されつつ申し訳なさそうに意見を述べる姿にモーエンとカナリアは苦笑を。
あのアヤトを変えているワリに変なところで押しが弱い。
まあ変に生真面目なところも似たもの同士、故にある意味アヤトの起爆剤になっているのかと考えられるがそれはさておき。
「良いも何も予定通りにするべきだろう」
「……そうでしょうか」
「カイルさんの言う通りよ。もし中止にしちゃうとエレノアさまが気に病むでしょう? 私のせいでって」
「エレノアに配慮する気持ちは感謝するが、だからこそ俺たちはエレノアの分まで盛り上げてやればいい」
「そーそー。だからロロベリアも気にしない。なによりちゃんとしてあげたいんでしょ?」
「……はい」
「なら予定通りにってことで」
「……わかりました」
カイルらからの説得もあり、ロロベリアも納得したのか笑顔を浮かべて。
「みなさん、ありがとうございました」
「お気になさらず。じゃあ予定通りってことで、あたしたちは一度戻るね」
「俺たちも業務に戻る」
「後でね~」
手を振り出て行くランを皮切りに今度こそ解散し、ならばとモーエンは最終確認を。
「俺たちは何をすれば良いんだ」
「えっと、モーエンさまはご家族の方は良いんですか?」
「事前に伝えてあるから気にするな。まあ精霊祭が終わるまでは家族サービスを続けさせてもらうがな」
「私は空いています。なので必要あれば何でも仰ってください」
「ありがとうございます」
進んで協力姿勢を見せる二人にロロベリアは笑顔で感謝を伝えて。
「ならモーエンさまは終了次第、カナリアさまはこのまま私と開場に行きましょう」
◇
「三日間ご苦労。給金は後日渡すから帰っていいぞ」
精霊祭終了までまだ三〇分あるが、学食ではアヤトが終了宣言。
最終日の終了時間は午後七時、しかし残すイベントは花火のみになると室内の催しに来るお客も減ることから早めのオーダーストップ、後は片付けを済ませるだけの状況。
ちなみに学院生会を含めた主催側で参加した学院生の撤収作業は午後九時まで許されているが、翌日の休養日も含めて終了させれば良いのでほとんどが簡単な片付けを済ませて早めに帰宅する。
ただ最終日の後片付けは一人で受け持つとアヤトから事前に伝えられているので、他の面々は主催側としての精霊祭は終了となる。
「んじゃ屋台巡りでもしてくるかね。お疲れち~ん」
「アヤトさん、お言葉に甘えさせて頂きます」
なのでラタニとケーリッヒに続き他の学院生も学食を後に。
そして学食内がアヤトのみになるとマヤが顕現。
「相変わらず兄様はボッチ気質だこと」
「テメェこそ相変わらず神出鬼没なことだ」
カウンターに腰掛けるマヤに目もくれずアヤトは片付けを始めていく。
「せっかくの精霊祭なのですから、最後までみなさまと思い出を作れば宜しいのに」
「一人の方が気楽だと言ったはずだがな」
「それは遠回しにわたくしがお邪魔だと仰っているようですね」
「仰ったところでどうにもならんと諦めている」
「それはそれは、兄様にしては殊勝な心がけなことで」
皮肉も笑みでさらりと交わしたマヤはカウンターからフワリと飛び降り。
「ではせめてお邪魔にならないよう観察させて頂きます」
「そりゃどうも」
クスクスと再び姿を消すなり学食のドアが開き――
「で、お前は何の用だ」
「……私は?」
妙な問いかけに訝しむのはロロベリアで。
「今し方マヤが居たんだよ。それよりも俺の質問に答えろ」
「ああ……なるほどね」
神出鬼没な神さまを思い浮かべて納得、ドアを閉めるなり近くの椅子をテーブルの上に置き始めた。
「……なにやってんだ」
「何って手伝いだけど」
その行動に今度はアヤトが訝しむもロロベリアは平然としたもので。
「翌日に持ち越すのは落ち着かないんでしょう? でも一人でやるのは大変と思って」
「別に頼んでないんだがな。そもそも――」
「一人の方が気楽、だからアヤトは厨房関係を一人でやって。私はフロア関係を一人でやるから」
先に屁理屈で返すロロベリアを一瞥したアヤトは嘆息、そのまま厨房へと入った。
「勝手にしろ」
「そうさせてもらうわ」
許可を出すなり黙々と厨房を片付けるアヤトの姿を作業の手を止めず視界に入れたロロベリアは微笑する。
最終日は早めに切り上げ撤収作業をアヤトが一人で受け持つとは事前にランから聞いていた。恐らく三日間あまり精霊祭を楽しめなかったなら締めの花火くらいとの意図や、慣れない接客業を勤めた面々に対する労いもあるのだろう。
まあ本人は『作業を持ち越すのは落ち着かん』『一人の方が気楽で良い』との憎まれ口を忘れなかったとランは呆れていたが、一日二日目は全員で行っていた作業を最終日のみ一人で受け持つならこの推測も間違っていないだろ。
憎まれ口も本心から、ただ誰かに対する不器用な優しさもアヤトのらしさと嬉しくてここへ来た。
「……あ」
無言のままモップがけをしていたロロベリアの手が無意識に止まる。
屋内でも伝わる振動やドーンと響く音、どうやら花火の打ち上げが始まったらしい。
だがロロベリアが意識を向けたのは一瞬のこと。
既に厨房の清掃を続けているアヤトと同じようにフロアを磨くことに集中した。
精霊祭最終日に打ち上がる最後の花火を手を取り合い、一緒に見上げた男女は末永く結ばれる。
こうしたロマンチックな言い伝えをロロベリアは大好きで、今年もこの言い伝え通りに多くのカップルが幸せになれば良いと心から願っている。
しかし元より自分があやかりたいとは思っていなかった。
もちろん言い伝えを否定しているわけでも、信じていないわけでもない。憧れる気持ちも確かにある。
ただ自分の気持ちでアヤトとの幸せな未来を掴むと既に誓いは立てている。
アヤトの未来を守る大英雄の道――故に一緒に花火を見られなくて残念な気持ちはない。
むしろみんなが屋外に出て花火に夢中な中、屋内で言葉も交わさず清掃をする。
アヤトの不器用ならしさを感じながら終える精霊祭も特別と思えるわけで。
なによりロロベリアが最も待ち遠しい時間は精霊祭が終わってから始まる。
いつしか花火の音も鳴り止み、同時に精霊祭の終わりを告げる。
それでも二人は作業に没頭し――
「こんなものか」
アヤトの最終確認で後片付けも終了。
最後まで無言のまま作業に集中し続けたこともあり、時計を確認すればまだ八時にもなっていない。
「頼んでないとはいえ白いのもご苦労だったな」
「どういたしまして……と、言いたいけど感謝しなくてもいいわよ」
「あん?」
「だって私はただ恩を押しつけに来ただけだもの。つまり――」
訝しむアヤトに対し、ロロベリアは予定より少し早いが問題ないと無邪気な笑みを浮かべて。
「アヤト、お礼代わりとして今から私に付き合って」
言い伝えよりもロロにとって大切なのはアヤトとの時間。
こうした周囲よりも違う二人の特別が作者的に良いなと思います。
さて、次回はロロが密かに準備をしていたアレがいよいよ明らかになるのでお楽しみに!
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