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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第六章 兆しの精霊祭編
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王子と王女の― 後編

アクセスありがとうございます!



「ヴゥ……アァァァ――ッ!」


 精霊力の解放による髪と瞳の変色に更なる変化が帯びるなりエレノアは闘技場外にも響くほどの雄叫びを上げた。

 まるで獣のような雄叫びは歓声を上げ続けていた観客席を黙らせるほどの迫力で。

 髪や瞳の変化よりも普段は凜々しく、気高い王女の変貌に誰もが戸惑う中――エレノアが駆けた。


「く――っ」


 パキン――ッ


 一〇メルもの距離を瞬時に詰めるなりエレノアはレイピアを振り下ろし、咄嗟に防御するレイドのショートソードと交えるなりレイピアの刃が真っ二つに折れた。


「…………っ」

「これは……ちっ――」


 だがエレノアは気にもとめず上段蹴りを放ち、何とか右腕の防御が間に合うも()()()と鈍い音が脳内に響くなりレイドは勢いに逆らわないよう自ら飛んで威力を殺す。


『駆けろ!』


 更に風を纏わせ距離を取るもエレノアの追撃は止まらない。

 精霊術で推進力を上げたにも関わらず遅れて地を蹴ったエレノアは追いつき――


「ふぅっ!」

「がは……っ」


 右拳をボディに叩き込みレイドは悶絶。


「グゥ……『吹けっ』」


 あまりの威力に意識が飛びかけるもギリギリで耐え、必死に起こした風で猛追するエレノアを吹き飛ばした。

 だが痛みで何とか繰り出した風では大したダメージも距離も空けることが出来ず。


「これは……大ピンチだね」


 気休めにしかならないとレイドの表情から初めて笑みが消えた。



 ◇



 開始直後こそ優勢に進めていたものの、レイドが本気を出したことで劣勢に立っていたエレノアが再び優勢に。

 当初は王女の変貌に戸惑っていた観客も逆転に次ぐ逆転に何が起こっているか理解できずとも再び熱狂。


「姉貴の暴解放……じゃねぇ。ならあれは……?」


 そんな中、ユースはエレノアの更なる変化に首を傾げるばかり。

 感じる精霊力が静かであり凶暴、暴解放に近いが精霊力を視認するほどではないならやはり違う。

 そもそもエレノアの保有量で暴解放をすればもって三秒、これまでの攻防で放った精霊術の消費を考えればもっと短くなる。

 なにより暴解放による身体強化の脅威は身をもって知っている。いくらレイドといえど目で追えるはずがない。

 現在唯一暴解放を習得、切り札として使用するリースも理解できずに呆然としているが、ラタニは肩を竦めてため息一つ。


「こらこら、ユーちゃんは怠けすぎ。ちゃんとあれを試してないのかい?」

「あれって、なんのことっすか?」

「アヤトがリーちゃんの身体使って説いた新たな解放法のことん。もち暴解放じゃなく()()()ね」


 新解放――アヤトがリースへの特訓で示した解放時に感じる精霊力を一点に集約し、意識して解放することで従来の解放よりも身体能力が向上するという新たな解放を略したもの。

 暴解放含めて学院で禁止されるハズだったが、実のところ最終的に講師陣など指導者の立ち会いさえあれば許可が出ていたりする。まあその危険性から保守的な意見が多数出ていたところに特別講師のラタニが『危険と思うなら守るのが大人、甘やかしすぎて子供の可能性を潰すな』と説き伏せた結果だが。

 故に親善試合でもリースが使用できたわけで、エレノアが序列戦で使用してもいいことになるのだがそれはさておき。


 指摘されたようにユースはどちらの解放も実際に行っていない。いや、ほとんどの学院生も行っていないだろう。

 暴解放に比べて消費量は少なく済むので枯渇の危険はまだ少ない、しかし強化を維持するには精霊力を常に制御をし続ける必要があるので()()()()使()()()()()()

 こうなると精霊術を主体とするユースのような学院生はむしろ戦術が狭まり、リースのように精霊術を苦手とする学院生でも精霊術を使えない代償が二割から三割程度の強化、というのに魅力を感じない。

 暴解放ほどの強化なら別だが、新解放以上に急激な消費に消費量が更に増えることから学院生でも膨大な保有量を誇るリースですらたったの七秒と扱える者がそもそも居ない。

 加えて使用後は必ず意識を失い、枯渇のリスクから命すら失いかねない諸刃の剣。むしろこのリスクを承知で使うリースの方がズレている。

 とにかく実戦していないことから基本的な情報のみなので疑問が浮かぶ。


「……エレノアさま、解放したままでしたけど」


 新解放なのだから解放時にするもの。しかしエレノアは解除もなく使用していたとの疑問にもラタニはやれやれと首を振り。


「あのね、リーちゃんの制御力はマシになっても学院ではぶっちゃけザルなんよ。で、精霊術の扱いを応用すれば精霊力は解放時の方がむしろ感じ取りやすい。だからエレちゃんクラスの制御力でみっちり練習すれば解放、無解放時関係なく可能なわけ」

「……むう」

「まあ漠然と精霊力を高めるって制御はさほど難しくないんだけど、いくら感じ取りやすくても瞬時に部分的な集約、って制御が出来るのはロロちゃんくらいなもんだけどねん」


 ケラケラと笑いつつラタニは痛い指摘、口を歪めるもリースは反論できない。

 なんせ初めて新解放を試した際もかなりの時間が経過していたと後にミューズから聞いている。


「とにかく部下にもやらせてみたけど、新解放は色々と欠点が多いんよ。だからあたし的に実戦では使いもんにならんって結論になったけどねー」

「欠点って精霊術が使えないことっすよね?」

「それもだけど()()()()()()()()()()()()()()()、みたいな?」

「……は?」

「……あ」


 ラタニが追加した欠点に物騒な単語が混じりキョトンとなるユースに対し、リースは思い当たる節があった。

 新解放を実戦した際、身体を帯びる熱から高揚感から落ち着かず、動けば動くほど更に高ぶったのを覚えている。


「さすが、リーちゃんは覚えがあるようだね」

「ある……けど、暴解放は特にそんな感覚はないのはどうして?」

「ん~……これはあたしの推測になるけど、暴解放は制御をポイしたことで際限なく高めた精霊力が視認できるくらいお外に流れてるでしょ? でも新解放は無理矢理制御して体内に押し留めるから精霊力って燃料が脳にドバドバ流れるからじゃないかと。現にほれ、エレちゃんの精霊力は視認できないけど代わりに髪や瞳がキラキラしてるでしょ」

「なるほど……暴解放はそもそも制御拒否してるから脳に精霊力の影響が出にくい。でも新解放は制御するから漏れ出てない分がもろに影響するってことか」

「恐らくね。んで、その影響から制御も曖昧になって強化は不安定になるし、一度動き始めたらカナちゃんですら興奮状態でメチャクチャ、こっちの話もロクに聞かないから力ずくで止める羽目になっちった」


 下手をすれば同士討ちにもなるなら実戦には不向き。

 加えて使用した際のエレノアの咆哮やレイピアが折れたのも興奮状態によって力任せに叩きつけたからと色々納得できた。

 とにかく暴解放とは違うリスクが多く、使いどころが思いつかない新解放をエレノアが使用したのは戦況を打破するために例え不安定な強化だろうと構わないとの判断か。

 それだけ勝ちに拘っていたのかとフィールドに注目するも――


「……動き()()()()()()?」

「……安定して()()()()()()()()()()ように見えるんすけど」


 二人の目には別段不安定な様子もなくレイドに猛攻を続けているエレノアの姿。

 確かにレイピアを失い体術のみの攻撃もあって荒々しく感じるが、ちゃんとエレノアの意思で戦っているように見える。


「こらこら、ちゃんとラタニさんの説明聞いてたかい? みっちり練習すれば解放時でも可能、つまりエレちゃんはキミらと違って強くなる為に様々な可能性を模索してたんよ」

「じゃあ……エレノアさまは新解放を使いこなせるようになったと」

「見た感じギリギリ、ってとこだろうけどねん。いやはや、これにはラタニさんも驚きビックリだ」


 などと惚けるラタニだが、エレノアが精霊力と感情を制御できている理由は察していた。


「……相手をボコリたい、負かして偉ぶりたいって攻撃的な理由なら()()()()()だろーけどねん」



 ◇



 ラタニが推測した通り、新解放による精霊力の影響からエレノアの精神は高ぶり、興奮状態に陥っていた。

 それこそ自身の感情を抑えきれず言葉の発っし方を忘れるほどで。

 現に熟練の従者を立ち合わせた秘密裏の訓練でも、アヤトとの訓練でも使用した時は精神の高ぶりから制御も忘れて不安定な解放を露呈し続けていた。


 なのに今は不思議と抑えられる。


 もちろん高ぶりから今にも理性が吹き飛びそうで、レイドを追い詰める一方で制御するのに必死だ。

 それでもギリギリだろうと保っていられる理由は一つ。

 今のエレノアにレイドを打ち負かしたい、危害を加えたいとの攻撃的な感情は一切なく。


 ただ目の前にいる兄を超えたいとの思いのみ。


 勝てば超える、ではなくただ()()()、とのあまりにも単純で。

 しかしあまりにも純粋なまでの思いがギリギリ踏みとどまらせていたからで。



(超える……超える……超える……っ)


 自分の相手が兄と決まった時、正直なんと皮肉な巡り合わせかと弱気になった。

 しかしこの弱気こそ何も変わっていない証拠、アヤトに期待されないのも当然だ。

 しょせん過去の自分を捨てて強くなったと自覚できても、心の強さは得ていない。

 これでは何も成せない。

 まさに口先だけの自分のまま。


 だから超えると誓った。


 いつまでも兄の背中を追い続ける自分を今度こそ卒業する証明として。

 追うではなく兄の背中を超えてやるんだと。


 その時こそ愛する王国民にエレノア=フィン=ファンデルだと自信を持って顔向けできる自分になれると信じて。


(私はお兄さまを超える――っ)


 王女としての誇りを胸に、エレノアは敬愛する兄に挑み続けた。


 ◇



「――ああぁぁぁっ!」


「ぐっ……くう!」


 右ストレートをクロスさせた両腕で凌ぐも勢いを殺しきれずレイドは吹き飛ばされた。


「この――『裂けろっ』」


 すぐさま追撃してくるエレノアにたまらず風刃を放つも難なく躱され牽制すらならない。

 レイドの身体能力はエレノアとそれほど大きな差は無い。

 その差をエレノアは新解放による強化で埋めるどころか凌駕した。今でこそ剣術を含めた近接戦や精霊術の扱いといった能力値で補っているがこのままではじり貧で。


 確実に追い込まれているのはレイド。


「フーッ……! フーッ…………!」


 しかし追い込んでいるエレノアこそ余裕がない。


 今も脳に負荷をかけすぎて両目から涙を流し、鼻からは鮮血がボタボタと零れている。

 だがあれほどの興奮を、暴力衝動を抑え込みながら精霊力を制御しているなら当然。

 新解放をギリギリだろうとエレノアが使いこなせているのは精霊力の安定よりも動きで理解できる。

 自分の一挙手一投足に注視し見極め、的確な攻撃を繰り出すのは意思を保てているからこそだ。

 なによりこれほどの猛攻を受けても恐ろしいほど敵意を感じないのはきっと。


 エレノアが見ているのは自分を超えた先にある王国民の笑顔だからで。


(……キミは本当に……成長したんだね)


 この目線こそエレノアが自分を、自分の背中に拘らず自身の道をしっかりと歩み始めた証拠。


(これだけの覚悟があるならもう負けてもいいかな……)


 今のエレノアになら敗北したところで誰も、カイルも()()()()()受け入れてくれる。

 ならば今度こそ満足だ。

 レイドの望みをエレノアが一つ叶えてくれたなら。

 エレノアの望みを叶えてもいい。


(でも……ああ、()()()()()()()()()()


 これこそ見据える先に繋がるはずなのに、レイドはギリギリのところで敗北を拒絶してしまう。

 自身の望みに必要なら敗北こそ賢い選択のはずなのに。

 なるべくしてなっただけで序列一位にも、勝敗にも、強さにも固執は無いのに。

 何故、ここで敗北を拒絶するのか。

 その答えはとても単純で。


 これからも愛する妹が憧れてくれる自分で居続けたいという――(レイド)の意地。


「ごめんね……エレノア」


 迫り来る拳をレイドは冷静に片手で受け止める。

 同時に精霊力の解放でエメラルドのような翠の輝きを帯びていた髪と瞳が。


「ボクにも……意地があるんだっ!」


 レイドの意思に呼応するよう()()()()()()()()()()()()()()



 ◇



「レイドさまも……新解放を」


 苦戦から一転、新解放による強化で再びエレノアが優勢に立った矢先、レイドまで新解放を使用したことにカナリアは目を疑った。

 新解放を経験したカナリアは当然リスクを身をもって知っている。抑えきれない感情の高ぶりは時間が経過すればするほど我を忘れさせる。

 なのにエレノアは当然、レイドも意識を保ち続けている。

 強化に不安定さもなく、フィールドの中央で己の身一つで鎬を削る姿がその証拠で。


「……もしかして、レイドさまも新解放を使いこなせるのもあなたは知っていたのですか?」


 序盤にアヤトがエレノアに向けて出し惜しみと口にしていたのは新解放だと確認した際、肯定されたがまさかレイドまでと再び確認すればアヤトは首肯を。


「兄妹ともども新解放を試していたのは知っているが、少なくとも俺が遊んでやっていた時は使いこなせてねぇな」

「ではお二人ともいま初めて使いこなせるようになったのですか」

「俺の知る限り、だがな。しかしこの土壇場で両者が使いこなせたのも理解できる」


 注目するカナリアやルビラに視線を向けることなく、アヤトはフィールドから目を反らさず続けた。


「気持ちの高ぶりってのは戦闘において攻撃の意思や敵意で増幅するもんだ。で、それは相手を倒す、殺すと……ま、今でいや勝負に勝つって感情からくる」

「ならお二人は勝敗に拘っていないと?」

「あんなに一生懸命戦ってるのに~……?」

「あの兄妹は勝ち負け忘れてバカみたいな感情をぶつけ合ってんだよ。そこに勝ち負けがなければ増幅もしない……つーか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



 ◇



 レイドがエレノアと似た変化――新解放を使用してから観覧席は静けさが漂っていた。


 今までの攻防とは違う、純粋な殴り合い。

 精霊術も技術もない泥臭い攻防を続けているのはこの国の第二王子と王女。

 レイドは普段の穏やかさはなく、エレノアは普段の気高さもない姿が信じられなくて。


 しかしその静けさは僅かな時間。


「ああああああ――――っ!」


「エレノアさま頑張ってくださーいっ!」


「おおおおおお――――っ!」


「レイドさま踏ん張りどころですっ!」


 今は両者の雄叫びをかき消すほどの声援が闘技場を飛び交っていた。

 エレノアが殴られれば歓声と悲鳴。

 レイドが蹴られればやはり歓声と悲鳴。

 誰もが我を忘れて、今が序列戦とも忘れて。

 どちらを、ではなく()()()()応援し続けていた。


 王子と王女の意地のぶつかり合いに心が揺さぶられただ必死に、無我夢中で。


 まさに最終戦に相応しい熱狂が渦巻く中、徐々に押され始めたのはエレノアで。

 新解放による強化で身体能力が互角になり。

 加えて先に使用した分だけ精霊力の消費、精神の負担が大きく。


「――がはぁっ」


 レイドの膝蹴りが鳩尾にめり込み、ついにエレノアの膝が折れた。


(だからこそ……超えたいっ)


 それでもエレノアは諦めず抗い続ける。


 口先だけの宣言なんか意味を成さないと。

 成すべき事を成しとげるからこそ本物の誇りになると。


 証明するために。


(この人を超えられれば誇れる私になれる……っ)


 ならどうするべきか?

 天才の兄を凡人の自分が超えるには?

 必要なのはそれこそ命懸けで、今の自分を。


(弱い私を……っ)


「超えろぉぉぉぉ――――っ」


 雄叫びを上げた瞬間、エレノアの周囲に()()()()()()()()()()()


 精霊力を極限まで高めて。

 更に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 新解放以上に強化された身体能力は勝負を決めに掛かったレイドの振り下ろす拳を見切り。

 更にカウンターで繰り出すエレノアの拳を届ける。



 だが、これまで消費した精霊力に暴解放による急激な消費が加わればどうなるか。



 唯一の幸運は精霊力の急激な消耗による不可にエレノアの身体が耐えきれず、枯渇ギリギリで意識を失わせたことで。


 しかしレイドを超えたい一心でこの一戦に挑んだエレノアにとって不幸なのは、意識が失ったことで繰り出した拳がギリギリ届かなかったこと。


『勝者――レイド=フィン=ファンデル!』


 つまり意識喪失により最終戦はエレノアの敗北に終わった。



 ただ、それでも――



 モーエンの勝者宣言に、レイドは無意識に精霊力を解除。

 同時にのし掛かる疲労感に身体が倒れかけるも、最後の最後まで自分に挑み、しかし力尽きてもたれ掛かるエレノアの身体を支えるべく必死に踏みとどまり。


「……エレノア」


 眠るように意識を失っている妹の頭を優しく、慈しむように撫でた。


 最後の、本当に最後の一瞬でも。

 エレノアは確かに自分を超えたなら。


 超えたい妹と。

 超えさせたくない兄の。



「キミの……勝ちだ」



 意地の張り合いは()()()()()()()()()()()()



 ◇



 死力を尽くした両者に闘技場内はスタンディングオベイションで惜しみない拍手が。

 解説席のルビラやカナリアも立場を忘れて立ち上がり拍手を送る中、アヤトは変わらず頬杖をついたままで。


「結局、口先だけで負けてんじゃねぇか」


 レイドに抱き抱えられて退場するエレノアに向けて呆れたようにため息一つ。

 思い返すのは精霊祭が始まる直前、学食で準備を進める自分にエレノアが一人で訪れた際のやり取り。


 わざわざ人気の無いところに呼び出したエレノアは――



『カルヴァシア、お前は言ったな』

『なにを』

『私が口先だけで何も成さない弱っちい王女だといつも言ってるだろう!』


 面倒げに返すアヤトにまず突っこんだ。


『なら最初からそう言え』


 もちろんそこはアヤト、面倒気な態度を崩さずため息一つ。


『で、口先だけで何も成せていない王女さまがどうかしたか』

『お前は本当に……まあいい。序列戦、必ず見に来い』

『あん?』

『お前の評価を覆す』


 訝しむアヤトに対し、エレノアは強い覚悟を秘めて言い放った。


『誰が相手だろうと序列戦で私は必ず勝つ。そして口先だけの王女ではないと証明してやる』

『たく……どんぐりの背比べで何が証明できる。そもそも大好きなお兄さまが相手でもその減らず口が叩けるのか』

『なっ? 私の相手はお兄さまなのかっ?』


 ……のだが、その覚悟はレイドの何より呆気なく崩壊。

 先ほどの覚悟が嘘のように狼狽えるエレノアにアヤトは嘲笑。


『知らねぇよ。だが、相手がレイドと聞くなりビビる揺らぎまくりな王女さまが証明とやらをできるとは思えんな」

『く……っ』

『つーかお前が証明するべきは俺ではなく愛する民とやらじゃなかったか』

『カルヴァシアも王国民だろう……とにかく、だからこそだ』


 どこまでも一枚上手のアヤトに、今度はエレノアが不敵な笑みを返す。


『カルヴァシア程度を認められずして、誇り高き王国民を認めさせられると思うか?』

『……言いやがる』


 明らかな挑発を前にアヤトも不敵に笑い。


『ま、元より見に行く予定だ。ついでに王女さまの不様な姿を楽しむのも一興か』

『……カルヴァシアこそ相変わらず減らず口が絶えん』


 お返しと言わんばかりの挑発に肩を落とすも、最後にエレノアは自信に満ちた表情で。


『なら不様かどうか楽しみに見ていろ』



 ――しかし結果は見ての通り。

 あれだけ自信満々に宣言しておいてレイドに敗北、結局エレノアは口先だけの結果を残した。


 故にエレノアの姿が見えなくなる直前、頬杖を解いたアヤトはパチパチと手を合わせる。

 周囲の拍手喝采にかき消される小さな柏手。


「だがま、不様とは違う姿を楽しめたのは()()()()()()……王女さま」


 序列戦でアヤトの称える拍手を受けたのはエレノアのみだった。




もうお分かりかもしれませんが、作者が唯一決めた組み合わせはレイドとエレノアでした。

なのでクジをした際、まさかのロロとミューズって!

作者としては序列戦の大まかな目的が二つあり、一つはそろそろミューズに出番をというのもので、相手はロロで無くても良かったのに……本当にこの引きなに? ロロの主人公補正? と戸惑ったモノです。

そしてもう一つがレイドとエレノアの内面をしっかり表現する、でした。

レイドは序盤からなにやら意味深な発言が多く、他のメンバーとは違う思想があるので少し匂わせるというか……思い出して欲しいなと。

対しエレノアですが、アヤトの存在によって学院生の意識改革という変化の兆しを表現するのはこの子が一番相応しいんですよね。そういった意味でも相手はレイドが相応しいと思います。

継続戦でロロに敗北して、合同訓練でアヤトに苦言されて、しかし最も弱さを痛感したからこそ他の誰よりも必死にもがき続けるのはエレノアかなと。

なので作者としてはエレノアの意識改革、成長に満足していますが、みなさまは如何でしたでしょうか? 少しでも彼女の熱い思いが伝わっていれば嬉しく思います。


さて、これにて序列戦も終わりましたが、第六章はもう少し続きます。

序列戦は主人公のロロやアヤトよりも主に序列メンバーの成長を重視したので陰薄でしたが(天然主人公は変わらず存在主張してましたが)、まだロロのアレがありますよ? 覚えてくださってますよね?

覚えてくださっていると信じて、残りの第六章もお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして欲しいです!

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また感想、誤字の報告もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!

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