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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第六章 兆しの精霊祭編
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宣戦布告

アクセスありがとうございます!



『第四戦、ティエッタ=フィン=ロマネクトの勝利!』



 水龍と炎鳳の衝突で発生した大量の蒸気と雨のような飛沫が覆うフィールド内でモーエンの勝者宣言が響き渡る。

 視界不良な状況は第一戦同様、しかし結末を見届けられないにも関わらず観覧席からはこれまでで一番の喝采と拍手がわき起こるのは当然。

 希少な精霊術の打ち合いや最後の大技は観客に興奮と感動を与えるには充分で。


「だが、良しとしよう」


 敗北して尚カイルは笑みを浮かべる。

 観客を楽しませることも、盛り上がりや期待感を最終戦に繋げたこともできた。

 なにより過去の自分に打ち勝てたなら充分な成果、もちろん負けた悔しさはあるがこれもまた糧になる。

 故に満足感の中、蒸気や飛沫が収まるなりティエッタに健闘と感謝の握手をするべく胸ポケットから取り出した予備のメガネをかけて――


「……ロマネクト!?」


 ようやく戻った視界には前のめりに倒れ伏しているティエッタの姿。

 慌てたカイルは急ぎ駆け寄り、抜かるんだ地面に構わず両膝を突き抱きかかえる。


「ロマネクト? どうした、しっかりしろ!」

「心配かけましたわね……カイルさん。問題ありません、わ」


 呼びかけに目を開けたティエッタは小さく息を吐く。


「少々精霊力を使いすぎてしまい、立ちくらみがしただけですわ」


 泥まみれでも分かるほどに青白い顔をしているも思いのほか意識はしっかりしていて、カイルに手を借りゆっくりでも自分の足で立ち上がる。


「少々どころでは無いように見えるが……」

「少々、ですわ。現にこうして()()()()()()()()()()()()()()()()()んですもの」

「…………」


 弱々しく微笑を浮かべるティエッタはまるで敗者ように何かに悔いているようで。


「私はカイルさんの挑戦に敬意を表し、全力でお相手するつもりでした。なのに……こうして意識もあり、立つことも出来る。これでは……全力とは言えませんわ」


 懺悔のような呟きにカイルは何を悔いているかを察してしまう。

 そもそも僅かでも勝機のあった作戦なのに、ティエッタの炎鳳は自分の水龍を完全に打ち破りモーエンが精霊術で阻まなければならないほどの威力を届かせた。

 加えて精霊術を放った後でも立っていられた余力を残した自分とは違い、ティエッタは意識が飛んだのなら。

 有利な立場でも関係なく、最後の術に枯渇寸前まで精霊力を注ぎ込んでいたからで。


「私はカイルさんのような真の強者となり得る方に手を抜けるような強さはありません。にも関わらず……情けないお話しですわね」


 だが最後の最後で枯渇による危険から生存本能が働いたのか、自分の想定以上に余力を残していたことを悔いている。

 そしてティエッタの悔いの根源は、恐らくカイルが感化されてらしくない挑戦に挑ませた()()()()()()()()()()

 エレノアとの継続戦でまさに命懸けの作戦で勝利する為に、まさに枯渇寸前まで全力を出し切ったあの姿と比べているのだろう。


「やはり、私はまだまだですわ」


 対し自分はどうだ。

 ティエッタのように全力を出し切り、ロロベリアのように命懸けで挑まず、結局は余力を残したままで。

 目的を果たし、過去の自分に打ち勝ったと敗北しても満足してしまった。


(どうやら……俺はたいして成長していなかったらしい)


 故に勝利して尚悔いているティエッタの姿勢に今さらながら悔しさが込み上げてきた。

 だが後悔や反省は後、せめて今は敗者としてするべき事があるとカイルは精一杯の強がりで。


「しかし……ここにいるキミは()()()

「……カイルさん?」


 ティエッタの右腕を掴み、観客に示すよう高々と挙げた。


「ならば今は俺に打ち勝った強者として、応えてやれ」

「…………」

「ふさぎ込む姿は強者となる者に相応しくない」

「……そう、ですわね」


 勝者や敗者関係ない、学院を代表する序列保持者に相応しいカイルとティエッタの笑顔に再び観覧席から大きな拍手が送られた。



 ◇



 もちろん同じ序列メンバーも惜しみない拍手を送っていた。


「ご立派でございます……お嬢さま」

「素敵でしたね……」

「はい。美しき光景です」

「朴念仁かと思いきや、カイルさんも粋なことをするわね」

「凄かったけど……カイル先輩も結構無謀な賭けだったよな? なのになんで俺は怒られてカイル先輩は褒められてんだ?」

「あんたはバカな自爆したからよ」


 それぞれが激闘を繰り広げた二人の雄志に感動し、誇らしい思いを抱く中、同じ思いでもレイドの表情には苦笑が浮かんでいる。


「二人とも良い試合だった……けど、最終戦がオマケになりそうだね」


 開始早々精霊術の打ち合いが始まり、これがカイルの気遣いだと察したが盛り上がりすぎて最終戦を勤める自分たちはプレッシャーが半端ない。

 実力や試合運びだけでなく志においても観客を魅了した一戦なだけに当然、しかしカイルの気遣いを無駄にしないよう最後まで観客の期待に応えるのも王族であり、序列持ちの勤めとレイドは静かに奮起していた。


「ボクら負けないように良い試合をしようか、エレノア……あれ?」


 故に同じく奮起しているであろう妹に視線を向けるが姿はなく。


「エレノアでしたら勝者宣言を聞き届けた後、フィールドに向かわれました」

「もう? 声くらいかけてくれれば良いのに」


 ミューズの返答につい先ほどまで観戦していたにも関わらず、いつの間にと少し驚く。

 まあ二人の熱い試合に当てられたのだろう、それもまたエレノアらしいとレイドも立ち上がった


「とにかくカイルとティエッタくんに負けないよう、ボクも良い試合をしてくるかな」



 ◇



「うんうん、カイちゃんも大きくなってあたしは嬉しい限りさね」

「すごかった」

「姉貴じゃまず無理な内容だったもんな」


 同じくラタニやニコレスカ姉弟も第四戦に満足していた。

 特にニコレスカ姉弟は両者ともに全てを出し切った試合は、後輩として色々学ばせてもらった。

 そして次は最終戦、序列一位のレイドと五位のエレノア。

 二人もまた学院の先輩であり、未来は国の指導者ともなる王族と嫌でも期待が高まるわけで。


「ラタニさんの予想は?」


 ならばと第四戦の試合内容やカイルの狙いも見事に読んだラタニの意見も聞いてみたいとユースは質問を。


「そうだねぇ……」


 と、考える素振りを見せる間も闘技場内はお約束の声が流れていて。


『カナリアさんの予想とはちょっと違ったけど、激しい戦いでしたね~。そして序列戦もいよいよ最終戦、ついに序列一位のレイドくんと五位のエレノアちゃんが登場ですけどカナリアさんはどう見ますか~?』

『レイドさまはカイルさんと同じく精霊術による遠距離戦、剣術による近接戦と両方ともかなりハイレベルな実力者です。ですがカイルさんが堅実な作戦を信条とするなら、レイドさまは相手の裏の裏を読み切り、最後に出し抜く深謀な思考の持ち主と、同じ知略でも一枚上手ではありますね』

『確かにカイルくんって物腰柔らかいけど、ちょっと意地悪というかずるい部分があるもんね~』

『……そしてエレノアさまも戦闘スタイルはレイドさま、カイルさんと通じる物はありますが……お二人に比べて感情のコントロールが甘く、試合運びも素直すぎる部分があります』

『エレノアちゃんは真っ直ぐで良い子ですからね~』

『加えて精霊術、剣術もレイドさまに比べてしまうと一段劣る。エレノアさまにとって厳しい戦いになるでしょう……ですが』

『ですが~?』

『これまでの四戦、全て私の予想を遙かに超えた内容になっています。みなさんの雄志にむしろ私がたくさん学ばせて頂いているほど。故に最終戦も予想も付かない素晴らしい一戦になるでしょう』

『なるほど~。最後まで目が離せませんね~。楽しみだな~』


「まあ、クソつまんねーながらも先生の解説は間違っちゃないよ。つーか学院は立場関係ないんだから、ルーちゃんみたいに濁さすレイちゃんは陰険、エレちゃんは頭堅いってハッキリ言えばいいのにねん」

「いくら立場関係なくても、それ言えるのラタニさんかアヤトくらいっすよ……」


 ハッキリ過ぎる物言いにユースが呆れるのはさておいて、皮肉りながらもカナリアの意見に同意した上で私見を口にする。


「とにかくエレちゃんはお兄ちゃん子だからね~。剣術はアレク、精霊術はレイちゃんに教わってたりもしたし、二人の良いところ取りなんだけど真根っこしすぎて二人の劣化版みたいになっちゃったんよ」

「ラタニさんも教えてたんっすよね?」

「ほんのお触り程度だけどねー。陰険でも頭柔らかいレイちゃんと違って、エレちゃんは頭堅くて困ったちゃんだったから意識変えるのに骨折れたのは良い思い出さね……は置いといて。とにかくぶっちゃけちゃうとエレちゃんはレイちゃんに勝てない、それこそ十回やっても十回負けちゃうくらいに二人の差は歴然さ」

「マジぶっちゃけましたね」

「濁す理由もないからにゃー。ただまあ? 先生の解説が間違っちゃいないって褒めたように、こんなの客観的に見た分析だ。つまりあたしの分析なんてポイするくらいの成長をエレちゃんに期待しよう」


 要はカナリアと同じく、最後はどっちが勝ってもおかしくないとの結論らしい。

 だがそれよりもユースは気になることがある。


「クソつまんねーって言っておきながら、あれ褒めてたんすね……」



 ◇



「「…………」」


「……先生の解説通りだ」


 同じ頃、最後まで意見を求める二人から無言の熱視線を受けつつアヤトがうんざり顔で私感を口にしていた。


「ただレイドに比べてエレノアの剣術、精霊術や頭の使い方は二段は劣る。まずエレノアに勝ち目はねぇがな」

「でもどんぐり同士で、絶対的な差でもないならエレノアちゃんにも勝ち筋はあるんだよね~?」

「十回やっても十回勝てねぇ差が絶対的じゃないならな」

「そんなに……ですか?」

「つーか他の連中ならまだ勝機もあるだろうが、エレノアにとってレイドは実力以前に最悪な相手なんだよ。レイドはあの堅物王女さまを最も理解しているが故に、最も手玉に取りやすい。ま、所詮はドングリ同士だ。完璧な第二王子さまも抜けてるところがあるなら、運次第で何とかなるんじゃねぇか」


 これまでの意見と違い、運を持ち出すならアヤトにとってもレイドの勝ちは揺るぎないものと捉えているようで。

 最終戦だけ一方的な内容になったらとルビラは不安になるも――


「後はまあ――」


『おおお――――っ!』


 何かを口にしかけたアヤトの声をかき消す大歓声に何事かとルビラだけでなくカナリアもフィールドに視線を戻し。


「……あなた、今度は何をしたんですか?」


 大歓声が起こった理由を理解するなりカナリアは再びアヤトに視線を向ける。

 なんせエレノアがアヤトに()()()()()()()()()()()()、不敵な笑みを浮かべていて。

 つまり王女の思わぬパフォーマンスに観客が沸いたのだが。


「さあな」

「……多すぎて分からないと」



 ◇



「……どういうつもりかな?」


 フィールド中央に立つレイドは健闘の握手よりも先にエレノアへ真意を問いかける。

 モーエンが呼びかけてすぐ、エレノアは抜いたレイピアを観覧席に向けるというパフォーマンスを見せたが、その切っ先が最後に捉えたのは解説席にいるアヤト。

 しかも不敵な笑みでその姿をジッと見つめていたのなら、このパフォーマンスは他でも無いアヤトに向けてのものだ。

 上手くカモフラージュはしていたが知る者からすれば意味深な行動、しかしエレノアは平然としたもので。


「カルヴァシアに宣戦布告をしておこうと」


 自らアヤトに対してのモノだと認める始末、これにはレイドも呆れてしまう。


「宣戦布告なら彼ではなくボクに向けてするべきじゃないかな? これから戦う相手なんだからね」

「お兄さまに刃を向けるなんて野蛮な行為、とても出来るものではありません」

「……戦うなら刃を向けるんだけどね。とにかく、彼に対して余り軽率な行動はしないように。この意味は分かるだろう?」


 同じ学院生として、同じ王国代表として過ごした時間があるからアヤトとの繋がりが明るみに出るのは良い。ただ特別視をするのは頂けないとレイドは窘める。


「お兄さまとこうして最終戦で向き合い、つい気持ちが高ぶってしまいました。申し訳ございません。では――」


 対しエレノアは頭を下げて謝罪するも、握手もなく背を向けてしまった。

 その態度にレイドは肩を竦めるのみで同じく背を向ける。


 どうやら今日のエレノアは自分の知るエレノアではないようだ。

 

 なら今はなにも言わず、アヤトに対する宣戦布告も含めてこの一戦で見極めようとショートソードを抜いて。

 またエレノアもレイピアを抜き、両者の準備が整うのを見届けたモーエンはため息一つ。


(……坊主に関わると苦労がたえん)


 これまでの四戦、そしてエレノアのレイドのやり取りと誰もが感化されているようで。

 しかし、だからこそ気を引き締めるべきと集中する。


『序列戦、最終試合――開始!』


 開始宣言と共に観覧席から怒号のような声援が飛び交うフィールド内で両者は精霊力を解放。


 同時に示し合わせたように両者は地面を蹴り――中央でレイピアとショートソードが交わった。


「お兄さま、言い忘れていたことがありました」

「なにかな?」

「私はあなたを……っ」


 鍔迫り合いの最中、余裕の微笑みを向けるレイドにエレノアはキッと睨み付け。



()()()――っ」




カイルだけでなくティエッタの必死に高みを目指している気持ちもちゃんと描けで第四戦も悔い無し。

なので心置きなく最終戦もスタート!

ラタニ、アヤトから分が悪いとぶっちゃけ断言されたエレノアはどう挑むのか。

レイドは今までと違う妹にどう立ちふさがるのか。

アヤトに向けたパフォーマンスの真意も含めてどうぞお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

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