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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第六章 兆しの精霊祭編
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粘りの一手

アクセスありがとうございます!



『第二戦はシャルツくんとランちゃんに決まりましたね~。カナリアさんはどう思いますか~?』

『現在の序列保持者で分かるように、こうした一対一の対戦で精霊士は精霊術士に比べて不利になります』


 対戦カードが決定し、両者が準備を進めている間も解説の二人は観覧席を楽しませることで期待感を煽っていた。


『精霊術が使えないから攻撃できる距離が全然違いますからね~』

『はい。間合いにおいて精霊士は圧倒的不利、加えて強力な精霊術をかいくぐり自身の間合いに詰めるのは神経を削りますから精神面でも不利なんですよ』

『そんなにも不利な条件でも序列六位にいるならランちゃんはすごいな~』

『もちろん本人のたゆまぬ努力があってこそ。ですが序列七位のディーンさんの存在も大きいでしょう』

『ディーンくん?』

『二人は幼なじみで、ディーンさんが精霊術士に開花する前から共に訓練をしていたと聞いています。つまりランさんは精霊術士と戦闘経験が豊富、更に言えばディーンさんは四大で最も速い風の精霊術士』

『あ、そっか~。精霊術をかいくぐる訓練を昔から出来てたんですね~』

『対しシャルツさんは四大で最も防御に長けてはいますが、速度では劣る土の精霊術士。こうなると不利なのはシャルツさんとなります』

『現にシャルツくんは序列を決める時の総当たり戦でランちゃんに負けてますからね~。なら第二戦はランちゃんの勝ちかな~』

『いえ……簡単に言い切れないかと。確かに総当たり戦では敗退していますし、序列でもシャルツさんは下位、特性においても不利。ですが彼は知略にすぐれています。親善試合の代表で共に訓練をしたことでランさんの情報を細かく得たのなら、何かしらの対策はしてくるでしょう』

『じゃあランちゃんも一筋縄じゃ行きませんね~。楽しみだな~』


「アヤトくんはどう見てるの~」

「……お前はマジ毎回聞いてくるつもりか」


 と、第一戦同様お勤めをしつつルビラは私的な問いかけを。


「今度は二人ともあなたの教え子ですし、私も聞いておきたいですね」

「別に教え子でもねぇんだがな」


 カナリアも試合中の解説で参考にしたいと乗っかるのでアヤトは否定しつつも仕方なく返答を。


「どう見るも何も、カナリアの言う通りだ。何度も言うが所詮はどんぐりの背比べ、どっちが勝ってもおかしくねぇよ」

「そうじゃなくて~。カナリアさんの説明を引用せず、さっきみたいにアヤトくんだからこそな意見を聞きたいんだよ~。親善試合から二人に稽古してあげてるんでしょ」

「稽古した覚えはないんだが……ま、敢えて言うなら()()()()()()()()()()()()勝敗決めるかもな」

「どういう意味~?」

「どういう意味です?」


 お約束の意味深な説明に二人が興味を抱くも――


「見てれば分かる」


 やはりアヤトのお約束で返されてしまった。



 ◇



 解説席でルビラとカナリアがアヤトの解説に振り回されている間にも準備が整い、モーエンの呼びかけに二人は中央へ。


「ロロちゃんの気持ちがよく分かるわね。とってもやりにくいわ」


 向かい合うなりシャルツがため息を吐くのは歓声の差。

 王都出身のシャルツに対しランはラナクスが地元、更に食堂の看板娘という顔の広さから完全にホーム状態。


「でも、逆にプレッシャーなんですよ。これ」


 声援は嬉しいがとランは苦笑しつつ右手を差し出す。


「だからこそ負けられません」

「あら怖い」


 気合いを秘めるランに対しシャルツは飄々とした態度で右手を握り替えし、二〇メルの距離を空けた。

 そしてランは両腰からショートソードを抜き、シャルツは腕を組んだまま――


『序列戦第二試合――開始!』


 モーエンの宣言と共に両者は精霊力を解放、同時にロロベリアと同じくランは速攻をかけた。


『阻み貫きなさい!』


 だがシャルツも冷静に精霊術で対応、地面から岩の棘が飛び出しランの侵攻を防ぐ。


「これっ……くらいっ!」


 が、ランは地面を蹴り飛び出す岩棘に着地、足場にして更に跳躍と前進を止ず。


『弾け阻みなさい!』


「なんとでも……する!」


 更に跳躍のスキを狙った十を超える石礫も二本のショートソードで弾き返し、地面に着地するなり自慢の瞬発力で一気に距離を詰め。


「はあっ!」


 そのままの勢いでシャルツ目がけて右のショートソードを一閃。


『飛び出して!』


「――ぐっ」


 しかしシャルツが精霊術を発動、足元から飛び出した岩杭により寸でで上空に回避したことでショートソードが岩杭に当たりガインと響く鈍い音が。


「危ない危ない」


 その間にシャルツは後方にくるりと着地、落としこそしなかったものの手が痺れ一度ショートソードを鞘に納めるランに批判の視線を向ける。


「まさかいきなり向かってくるなんて、驚いちゃったわ」

「シャルツさんこそ、そんな回避方法ありですか?」


「褒めてくれてありがとう。でも、彼と遊ぶにはまだ足りないのよね」

「あたしはまだ彼のようにはいかないみたいです」



 ◇



 一戦目とは違う開始早々の攻防に観覧席がわき上がる中、ディーンは呆れていた。


「あいつ……感化されてるなぁ」

「アヤトに……ですよね」

「他にいるかよ」


 ロロベリアの確認に肩を竦めてため息一つ。

 精霊士のランが距離を詰めるのは定石、しかし以前の彼女なら今のような無謀な特攻をせず、相手の様子を窺い慎重に距離を詰めていた。精霊結界があれど被弾すればダメージは大きい、下手をすれば即座に戦闘不能となるので当然。

 現に総当たり戦でも同じようにシャルツへも対応していたが、ある意味その経験が生きているのか。なんせ慎重になりすぎてシャルツの策略に苦戦を強いられたのだ。

 故に策略を巡らせる前に距離を詰めた。


 この判断を無謀ではなく英断に変えたのは一重にアヤトとの存在が大きい。


 アヤトの移動速度、攻撃速度は精霊術をも上回る。そんなバケモノ相手と何度も鎬を削っていれば反応速度だけでなく度胸もつくもので。

 また本人曰く自分たち精霊士の理想以上と褒め称えたように自分や他の精霊術士が遊んでいる際のアヤトの動き、対応を注視して自分なりに応用したのだろう。

 ランは精霊士として確実に成長していると思わせる戦いぶり。



 ◇



『ランちゃんの猛攻は止まりません~!』


 開始からランが攻め、シャルツが凌ぐを繰り返す単調な状況でも闘技場内は盛り上がり、ルビラの進行も徐々に熱が帯びてくる。

 それもそのはず、間合い的不利な状況で強力な精霊術を前に一歩も引かず、被弾覚悟で最短距離を突き進むランの果敢な姿。

 エキシビションとは思わせない本気の覚悟に誰もが当てられる。

 元より身体の使い方が上手く、判断力や直感に長けていたランの長所はアヤトというお手本を得たことで更に磨きが掛かっている。


 だが、そのアヤトを相手に鎬を削っていたのはシャルツも同じ。


『シャルツさんは最初の攻防で見せた発想もさることながら、それを可能にした発動速度が素晴らしいですね』


 ランの勇士に目を奪われがちだがシャルツも確実に成長している。

 迎撃の精霊術、特に回避の精霊術は以前の発動速度では不可能。

 親善試合から一月程度の期間でよくぞここまで磨き上げたものだとカナリアは賞賛してならない。


 ただ善戦はしているが徐々にランが追い詰めつつある。


 発動速度は上がれど何度も繰り返し受けていればタイミングを修正できる。また土の精霊術は他に比べてやはり速度がネック。

 常に動き続けているので体力の消耗はランの方が激しいも、このままだとシャルツが先に捉えられそうで。


『これだけ絶えず攻められると対策を講じる暇もありませんし……ランさんの勇気に敬意を払うほどです』


「……よね?」

「見れば分かると言ったが、俺をじゃねぇよ」


 解説としての役割を勤めながらも縋るように視線を向けるカナリアに呆れつつアヤトは面倒気に返す。


「たく……どんぐり同士でも実力的にはランの方がマシだ。このままやり合えば遠からずシャルツを捉えられるだろうよ」

「そうですか……」

「だがシャルツの最大の武器はお前が言っていたようにここだ。長引けばそれだけランは不利になる」


「「え……?」」


 お墨付きを得て安堵したのもつかの間、真逆の意見にカナリアだけでなくルビラも注目するがアヤトは無視して続けた。


「つーか対策講じる暇もねぇってのがそもそもの間違いだ。なんせランは既にシャルツの術中に填まって追い込まれつつあるからな。ま、それに気づけないなら()()()()()()だろうよ」



 ◇



「この――っ」


 四度目の特攻で間合いに入るなりランは上段回し蹴りを繰り出す。


「つう……っ」


 これまでのショートソードとは違う体術による攻撃にガードされたとは言えようやくシャルツを捉え、追撃しようと柔軟性を活かして片足のまま左のショートソードを薙ぎ払う。


「――やばっ!」


『貫いて!』


 ――寸前、嫌な予感が走り片足で地面を蹴り上げ後方へ。

 同時に細いながらも岩棘が飛び出し間一髪、そのまま体制を整えるべく後転しつつ距離を取った。


「痛いわねぇ……絶対に痣ができてるわよ」

「……シャルツさんは折られたことないんですか?」


 ガードした右腕をさすりつつ批判するシャルツに思わずランが問いかけを。


「そうだとしたら、今ので終わっていたでしょうね」

「ですよね……」


 アヤトとの訓練は戦闘中に痛がる暇はない、スキを作るだけとの意味合いで怪我をしようと骨折しようと関係なく続けられる。

 その教がなければシャルツは痛みから精霊術を扱う集中が出来ず敗北しただろう。本当に実戦向きで、自分も受けているが何故かランは同情してしまった。

 それはさておき、先ほどは惜しいところまで行けたのに仕留めきれなかったのでこちらも痛い。

 シャルツを観察し、修正を繰り返しながら少しずつ追い詰めてきている。

 だが追い詰められているのはランも同じ。

 土の精霊術は速度は他に比べて遅いがとにかく堅い。弾き返し続けた代償でショートソードは二本ともボロボロ、このままでは体力よりも先に武器の耐久力が持たない。


(それもこれもアヤトが職人紹介してくれないのが悪い!)


 故に内心逆ギレしていたりする。

 土や氷のみならず風や水、火の精霊術すら斬れるデタラメな朧月とまではいかないが、新月や瑠璃姫、炎覇も見事な出来。市販されている物、有名な鍛冶士が打った物を遙かに超える強度と切れ味を誇るなら憧れるのは当然で。

 なのに交渉を続けても未だ断られ続けているので無理もないが。


(でも……無い物ねだりしても仕方ないし)


 交渉は今後も続けるとして、今は戦闘に集中とランは切り替える。

 これ以上負担をかければ確実に折れる、まだ一本残っているが今でもギリギリ迎撃している状態では二本なければ無理だろう。


 なら次で決めると極限まで集中力を高めたランは五度目の特攻。


『刻みなさい!』


 シャルツは得意の追尾型精霊術を発動、手の平サイズの岩刃が不規則に襲ってくる。

 その一つ一つをショートソードで弾き返し――


「それっ」


 残り僅かの距離で左のショートソードを投擲。


 限界だったショートソードを投げつけ一気に距離を詰め、虚を衝かれたシャルツを確実に仕留めると最後の一本を抜く。


「そろそろだと思ったわっ」

「――っ」


 だが虚を衝かれたのはランの方。

 何故ならこれまで一度も抜いたことのないサーベルを手にシャルツが前進してきたからで。


「く……っ」


 咄嗟に抜いたショートソードで袈裟斬りを防ぐも、予想以上の鋭い一撃にランは再び驚く。


「完全に出し抜いたと思ったけど……やっぱり通じないわねっ」


 あのシャルツが近接戦を挑むとは予想外で、しかもそれなりに鋭い剣技にランは後悔を。

 シャルツもまたアヤトの訓練を受けているなら近接戦の訓練も積んでいるはず、なら予想外でもなんでもない。

 つまり先入観からこの一手を考慮しなかった自分の落ち度で。


「驚いたけど……でもっ!」


 しかしランもまたこの程度で焦るような訓練を積んでいない。すぐさま切り替え集中力を取り戻す。


 予想外な近接戦、それなりに鋭い剣技――しかし、所詮はそれなりだ。


 冷静になれば脅威でもないと、身をかがめて振り上げる一撃を右のショートソードを振り下ろて対処。


「もらった!」


 打ち負けたサーベルが手から離れ、無防備となったシャルツに決着を付けるべくランは左のショートソードを――


『震えて!』


 打ち付けるよりも先にシャルツが地面に手を付け精霊術を発動、地面がグラグラと揺れた。

 言霊による発動故に二人の周囲のみと小規模、揺れも大きくないが不意を突かれたランの体勢を崩すには充分で。


「お返し――よっ」


 対し地面に手を突き体勢を低くしていたシャルツはすぐさま行動を移し、ランの右腕を掴むなりそのまま背負い投げた。


「かは……っ」


 背中から地面に叩きつけられランは一瞬意識が飛ぶ。

 その間にシャルツは立ち上がり、左手を向けて。


「さて、どうするのかしら?」


「……降参です」


 これが実戦なら精霊術を放たれて終わり、故にランは素直に負けを認めた。



 ◇



『そこまで! 第二戦、シャルツ=ライマークの勝利!』


「「…………」」


 モーエンの勝者宣言にわき上がる闘技場内を尻目に、勤めを忘れて呆然としているルビラとカナリア。

 ランの投擲を読んでいたようにシャルツは予想外の近接戦に挑むも、実力差から圧倒された。

 しかし最後は精霊術でランの体勢を崩し、お株を奪うような体術を披露。


 まさかの逆転劇、だがカナリアはようやくアヤトの意味深な発言を理解した。


「あなたと遊んだ時間が勝敗決める……なるほど、そういう意味だったのですね」

「カナリアさん、どういう意味だったの~?」

「簡単な話です。お二人はアヤトさんと訓練をしていますが、同じ間合いのランさんと違ってシャルツさんは今のような形式をランさんよりも実力のあるアヤトさんと何度も繰り返しているんです」

「あ……」


 ここでルビラも理解、同じようにアヤトの訓練を受けていても訓練の質ではシャルツの方が圧倒的に実戦向き。

 結果としてランの猛攻に最後まで対処できたわけで。


「ま、シャルツには組み手でもして遊べとは助言したが、先も言ったように最初からランはあいつの術中に填まってたんだよ」


 まさに訓練の内容が勝敗を決めた、だがそれだけではなく。


「いくらシャルツが序列八位さまの天才でも、短期間にランと近接戦でやりあえるわけがねぇ。特にランは得物を三本もぶら下げて愉快な剣技をするから読み切るのも難しい。故に通じんと理解しても精霊術を放ち続けたんだよ」

「ランさんにショートソードを手放させる為に、または破壊する為……ですか」

「そういうことだ。だが武器破壊しただけでは不利なのは変わらが……やはりあいつは陰険だな。なんせランのクセや呼吸と言った情報を集め続け、敢えてスキを作って動きを限定させてからの精霊術だ」

「…………近接戦の素振りを一切見せなかったのも、先入観を抱かせるのが狙いだった」

「そこ踏まえてシャルツの粘り勝ちってところだ」



 ◇



「ほんと、ギリギリでも耐えた甲斐があったわね」


 両者の健闘を称える拍手が鳴り響くフィールド内では、まさに解説席でアヤトが説明していた通りの対策をシャルツが伝えていて。


「じゃあ……あたしは最初からシャルツさんの手の平で踊っていたと」


 落胆するランに対しシャルツは肯定よりも微笑を浮かべて。


「ランちゃん自身が言ってたように、彼に比べちゃうと全然ゾクゾクしなかったわよ」

「……あ~もう! そんなの当たり前じゃない!」


 更にきつい一言でランが地団駄を踏んだのは言うまでもない。



 ◇



『それでは第三試合の対戦カードを発表します!』


 最後に握手を交わしてフィールドを後にする二人と入れ替わるように現れたグリードがクジ箱をモーエンに差し出す。


 引かれた木札には四と七――


「お嬢さま、行って参ります」

「うげ……マジかよ」


 第三試合はフロイスとディーンに決定した。




アヤトとの訓練で磨き続けた成果を最初から惜しみなく披露したランと、最後まで隠し続けたシャルツと両者の性格も勝敗を分けましたね。

とにかく二人の特性を上手く表現できたと思いますが……如何でしたでしょうか?

そしてアヤトくん、キミを喋らすと試合結果のネタバレになるんだが……どうしよう?

などと作者に意味不な苦悩は無視して次回はフロイスVSディーン。

こちらはある意味似たもの同士が対決、どうぞお楽しみに!


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