不可視の決着
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序列を決めるのは三学生が卒業した後、前年度の序列保持者とクラス関係なく講師陣が選抜した成績優秀者を加えた二〇名で総当たり戦を行い、勝率の高い順に序列一位、二位と決まっていく。
ちなみに前年度で序列入りしていたのはレイド、カイル、ティエッタ、フロイスと卒業間際の入れ替え戦で当時の序列十位を倒したエレノアのみで、シャルツはランら二学生と同じくこの方法で序列入りを果たしている。
そして新たな序列保持者が決定した後に入学したロロベリアが最初の入れ替え戦で序列十位のジュードに挑み、大金星を挙げて異例の序列入りを果たしたが総当たり戦は入学前のこと、つまり個々の戦績は知れど詳しい内容は噂程度でしか知らない。
まあ後に選抜戦や入れ替え戦で各々の戦闘スタイルを実際に見ることは出来たし、同じ親善試合の代表として直接模擬戦もしたのだが――
「……まさかね」
モーエンが引いたのは十と九の木札、つまり第一戦は序列十位のロロベリアと序列九位のミューズに決定。
教国の留学生という立場から選抜戦に出場せず、もちろん親善試合の代表にもならず他のメンバーに比べて交流が少なくアヤトの訓練も受けていない。
つまり最も情報が少ないことから、正直なところ一番やりにくい相手とも言える。
加えてミューズは学院内だけでなく、聖女のような振る舞いからラナクスの住民からも人気が高いので若干アウェー感がまたやりにくい。
そのミューズと言えば盛り上がる闘技場内でも変わらず平静な様子でウォーミングアップ中、ときおり歓声に応えて笑顔を向ける余裕さえ見せていた。
とにかくまさかの初戦出場でまさかの相手、やりにくさがあるも全力を尽くすのみとロロベリアも切り替え集中力を高めていた。
◇
『第一戦はミューズちゃんとロロベリアちゃんに決まりましたね~。カナリアさんはこの一戦をどう思いますか~?』
対戦カード決定後、他の序列メンバーが観覧席に向かう間もルビラは観客を暇にさせないようカナリアへ話題を振っていた。
『そうですね……まず序列十位のロロベリアさんについてですが、親善試合の合同訓練などを見る限り精霊術の扱い、特に制御力は他の代表に比べて群を抜いていましたね。そもそも一学生でありながら言霊、変換術、遠隔操作と言った高等技術を習得しているのに驚きです』
『ふむふむ』
『惜しむらくは精霊力の保有量ですが……近接戦闘もかなりの実力なので万能型と言えるでしょう』
『じゃあミューズちゃんはどうですか~?』
『ミューズさんは資料等の情報によれば変換術は習得していませんが治療術の技能が非常に高く、基本的な精霊術の使い方や近接戦闘が上手いそうですね。また精霊力の保有量もかなりのもの。ただ他の序列持ちに比べて闘争心に欠けているとも……実際に確認していないので私見を述べるのは難しいが正直な気持ちです』
『ならカナリアさんもミューズちゃんがどんな風に戦うか楽しみですね~』
『そうですね。付け加えるならミューズさんはロロベリアさんの戦い方を何度も目にしているのに対し、ロロベリアさんも私と同じくあまり情報がないでしょう。つまり事前情報を元に対策をしてくるミューズさんに、ロロベリアさんがどう対処するか、というのも見所の一つかと』
カナリアも持ちうる情報を伝えつつポイントなども踏まえて解説して盛り上げ役を全うしつつ。
「アヤトくんはどう思う~?」
裏では早速立場を利用してルビラが知見を広めるべく質問していたりする。
もちろん精霊器を伏せているので会話が聞こえることはなく、みなが絶賛していた相手の実力を計るアヤトの意見にワクワクと耳を傾け、カナリアもまた興味深く注目する中――
「所詮はどんぐりの背比べだ。どっちが勝ってもおかしくねぇよ」
期待を裏切るなんとも素っ気ない返答が。
「そうじゃなくて~。カナリアさんみたいにロロベリアちゃんはどうだよ~、ミューズちゃんはこうだよ~、みたいな意見が聞きたいんだよ~」
「どうだこうだと言われてもな。俺は精霊力についてはさっぱりだ、カナリアみたいにどうこう言えねぇんだよ」
「ですがあなたなら総合的な評価はできるのでは? ロロベリアさんは当然として、ミューズさんの実力も確認しているでしょうし」
「まあな」
追求するルビラを援護するカナリアの問いにアヤトは頷き、仕方ないとため息一つ。
「これはあくまで俺の憶測に過ぎん。間違っていたら恥ずかしいんでな、他に話すんじゃねぇぞ」
「憶測でも良いよ~」
「……約束します」
この前置きにルビラは特に疑問視しなかったが、間違って恥ずかしがるような玉では無いと知るカナリアはジト目を向ける。
ただアヤトがこのようなクギを刺すなら何らかの理由があるとも酌み取れるが故に了承して言葉を待つ。
「白いのには事前情報なんざ関係なく、様々な状況を対処できるよう普段から叩き込んでいる。小器用に精霊術も扱えるし、しょぼいながら近接戦もそこそこ出来るようになった」
若干捻くれた評価だが、それなりに認めるような発言にもしかしてロロベリアにこの評価を知られないようクギを刺したのかと納得するも。
「だが、最初に言ったようどっちが勝ってもおかしくねぇんだよ。なんせミューズはひよっこ共の中で一番楽しめそうな遊び相手だからな」
「……つまり、一番強いと?」
「でもミューズちゃんは序列九位だよ~?」
「強い弱いが遊び相手の基準でもなければ、序列に強い弱いもねぇよ」
思わぬ評価に二人が首を傾げるもアヤトは一蹴。
「とにかくあいつは他のひよっこに無い強みがある、白いのも手こずるだろうよ」
◇
「ロロベリアさん、よろしくお願いします」
「お願いします」
フィールド中央で二人は握手を交わして二〇メルの距離を取り、ロロベリアは瑠璃姫を、ミューズは直刀型のサーベルを構えて。
『それでは序列戦第一試合――開始!』
モーエンの宣言に観覧席から歓声が挙がり、両者とも精霊力を解放。
(とにかく先手必勝――っ)
同時にロロベリアは駆け出す。
入れ替え戦で見たミューズの印象はカナリアの解説通り精霊術と近接戦をそつなく熟すタイプ。
ただ半端な情報なら先入観を無くして実際に立ち合って得た情報を元に判断するべきで、変に様子見をして精霊力を消費させたくない事情も踏まえれば行くべきと判断。
対しミューズは動じることなく、間合いに入るなり振り下ろした瑠璃姫をサーベルで受け止めた。
(…………っ)
が、瑠璃姫から伝わる感触にロロベリアの背筋がゾクリとなる。
受け止めたのではなく受け流されたこの感覚。
「はあっ!」
すぐさま気合いを入れて攻撃を繰り出す、しかしミューズはその一閃一閃をサーベルで丁寧にいなしていく。
それこそ視線誘導、フェイントを織り交ぜても見透かされたように。
落ち着いた対応も相まって、まるでアヤトと対峙しているような錯覚にロロベリアは想像以上のやりにくさから一度距離を取った。
◇
『ロロベリアちゃんの特攻にビックリしたけど、ミューズちゃんにもビックリですね~』
最初の攻防にルビラが率直な感想を。
『ロロベリアちゃんはエレノアさまも圧倒したのにミューズちゃんは余裕みたいだし、ならミューズちゃんはエレノアさまより剣術が得意なんですか~?』
『……恐らくミューズさんが防御に徹しているからでしょう。見たところミューズさんに攻めの意思が感じられませんから』
そして過去の情報を元に問いかければカナリアが解説を。
近接戦で剣を交える際、相手の攻撃を防いで反撃に転じるのは基本中の基本。だがミューズは攻撃する素振りも、反撃する素振りも見せていない。更に受けるのではなく受け流す技量から防御特化型。
『つまりロロベリアさんの攻撃にのみ集中しているので、一概にエレノアさまより上と判断は出来ないんですよ』
『なるほど~。勉強になります~』
「アヤトくんはどう思う~?」
「……毎回聞くつもりか」
進行役を務めつつ、精霊器を伏せて私的な質問をしてくるルビラにアヤトはため息一つ。
「一概もなにも剣術でいや白いのはエレノアより劣ってんぞ」
「でも継続戦でロロベリアちゃんが圧倒してたよね~?」
「あくまで近接戦での話だろう。お前が気づいているかは知らんが、カナリアは分かるだろう」
「……精霊力の集約」
「それだけじゃねぇよ。確かに剣術で劣っているのを腕力や脚力で補ったのもあるが、俺が遊んでやった分の経験、後は白いのが予想以上の動きをしてエレノアが動転したからこその結果だ。で、これだけの好条件にも関わらず白いのは仕留めきれなかった、なら純粋な剣技ではエレノアが上だから凌げたとなるだろう」
「…………」
「ついでにいや、ミューズを褒めるなら技能よりも精神力だ。確かにカナリアがほざいたように防御に徹しているから防げているのもあるが、白いのは簡単に防がれたことでただでさえしょぼい剣術が雑になっていたな。たく……これだから白いのは」
「…………」
「ま、白いのが慢心するのは白いのだから仕方ないとして。身体能力で上回っている白いのの攻撃をあれだけ冷静に防ぐには技能だけでなく臆さぬ精神力があってこそだ。とにかく今のままじゃ白いのは近接戦でミューズを崩せんだろうな」
「…………」
「アヤトくんは見るところが面白いね~。すごく勉強になったよ~」
「そりゃどうも」
明らかに自分の意見よりも感心しているルビラだが気持ちは分かる。
アヤトの観点は表面上だけでなく内面も含めた情報量が別格、そこから分析して導き出す結論はカナリアも勉強させてもらった。
試合開始前にアヤトが評価していたミューズの強み、強靱な精神力は戦闘に置いて必要不可欠、現にロロベリアはこの差で苦戦を強いられている。
だからこそ思うのは――
「……もうあなたが解説すればいいのでは?」
「誰がするか」
もちろんアヤトは拒否した。
◇
「こうして見ると、ミューズくんも腕を上げたね」
一方、観覧席では一連の攻防にレイドが感心を。
これまで入れ替え戦でロロベリアほど近接戦に長けた相手が居なかっただけに、序列戦を決める際に見たよりも成長しているのがよく分かる。
だが当然のこと、選抜戦や親善試合に出場する機会が無いとは言えミューズも序列入りしている実力者。訓練を怠っているわけがない。
「変わらず防御に重きを置いているのがミューズらしいと言えばらしいですが……」
ただエレノアが嘆息するようにミューズは闘争心の乏しさから攻撃よりも防御を重視する傾向がある。
もし闘争心があれば更に上に行ける才能があるだけに惜しいと感じる反面、だからこそ序列保持者で最も防御に長けているわけで。
更にどのような状況でも動じない強靱な精神力から向いているとも言えるので一概に否定は出来ないと、ミューズの強みはアヤトが評価した精神力にある。
とにかくミューズを相手にするにはその防御力を上回る攻撃力が必要。
現に序列を決める際、ここに居る精霊術士はみな精霊術の火力で、フロイスは一撃の重さ、ランは手数の多さで強引に押し切る形で勝利している。
また防御重視のミューズも当然ながら最後まで防御に徹するわけでもない。
闘争心の乏しさから後手に回りやすいが、ミューズが攻めに転じるより先に押し切らなければロロベリアは更に追い込まれるだろう。
「問題はリーズベルトがどう攻めるか、だな」
「このままだと勝ち目はないからねぇ」
ロロベリアは精霊力の保有量が少なく、フロイスやランほど近接戦に長けていない。
同じ戦法がとれないなら、どう攻略するかと興味深い。
アヤトの訓練を最も受けている、一番弟子ともいえるロロベリアがこの戦況をどう覆すのか。
そういった理由からレイドやカイルは注目しているのだが。
「状況的に不利なロロベリアに肩入れしたい気持ちは分かりますが、お兄さまもカイルさまもミューズの応援をしてください」
「別にボクはどちらの肩入れもしてないから」
「あくまで客観的な意見交換だ、ふて腐れるな」
親友を蔑ろにされているように思えて咎めるエレノアに二人は苦笑を漏らした。
◇
『凍て貫け!』
近接戦から一転、ロロベリアは遠距離から精霊術で攻撃。
『流水よ』
真っ直ぐ襲いかかる五つの氷鏃を前にしてもミューズは動じることなく精霊術を発動、地面から吹き出る分厚い水の壁で難なく阻む。
同じ水の精霊術でも変換術が扱える分、ロロベリアの方が攻撃力も防御力も上。しかしミューズはその差を補う精霊術で対抗してくる。
必然的に精霊力の消費量はミューズの方が多くなるのだが、このまま精霊術を使い続けてもロロベリアの方が先に枯渇する。
なんせミューズの保有量は感覚でリースに匹敵するほど、ここでも保有量の少なさが恨めしい。
直接対峙したことでロロベリアもミューズの攻略法には気づいていたが、だからこそ打つ手が見つからない。
唯一有効な手段はエニシの秘伝、ミューズも知らない攻撃手段なら恐らく牙城を崩すことも出来るだろう。
だが習得どころか未だ瑠璃姫に精霊力を流し込めない段階、ここで試すには分が悪すぎる。
ならどうやってミューズの虚を衝くか?
「この場は来てくださったみなさまに楽しんで頂く為なのですが……」
「……?」
集中しつつ必死に思考を巡らせていたロロベリアの耳に恐縮したミューズの呟きが。
「ロロベリアさんが全力を出してくださるのなら、わたしも全力でお相手するのが誠意。なので使わせて頂きます」
『青き星よ』
なにを――と思うより先にミューズが精霊術を発動、十を超える水塊が襲いかかる。
それでも二〇メル以上の距離なら充分躱せるとロロベリアは脚力を強化して旋回――
『白、青、銀、覆い尽くすは生命の根源――』
「――っ」
同時に紡ぎ始める詩が聞こえて今の精霊術は牽制だったと理解。
言霊で対抗しようとするも既に遅く、ミューズが両手を広げ。
『夢見の世界に誘いましょう――霧水の結界』
ロロベリアの視界が白に染まった。
◇
ミューズの精霊術により深い霧が顕現、精霊結界で守られている観覧席に影響は無いがフィールド内は全く見えず。
『何も見えませんね~。カナリアさんはどうですか~?』
『これだけ濃いとさすがに……恐らくフィールド内は一メル先も見えないほどでしょう』
『じゃあ精霊術を発動したミューズちゃんも見えなくなりますね~。どうしてこんな精霊術を使っちゃったんだろ~』
『いえ……これはミューズさんならではな戦法です』
ルビラは疑問視するがカナリアはミューズの狙いを察した。
濃霧で視界を遮っても相手の精霊力で位置を把握することは可能、しかしこの濃霧はミューズの精霊力で顕現したもの。故にロロベリアは濃霧に宿る精霊力に遮られてミューズ本人の精霊力を把握しきれない。
逆にミューズはロロベリア本人の精霊力を正確に把握できる。
つまり濃霧の中で不自由なく動けるのはミューズのみ。
また闘争心が乏しいからこそミューズは殺気が薄く、それこそロロベリアの気配察知能力がアヤトレベルでなければ把握できないだろう。
もちろんこれだけの規模を覆う霧なら精霊力の消費は激しい、しかしミューズの保有量なら問題なく維持できる。
『風の精霊術なら問題なく対処できますが、ロロベリアさんは水の精霊術士』
『水や氷の精霊術で晴らすのは無理ですね~。なら同じ水の精霊術士のカナリアさんもお手上げですか~?』
『いえ……私なら大規模な精霊術を放ち、風圧で対処しますが……これほどの霧を晴らすならかなりの精霊力を必要とするので、ロロベリアさんの保有量だとギリギリでしょう』
『つまり晴らせても戦える状態じゃない……ロロベリアちゃんのウィークポイントも考慮された戦法なんですね~』
『その通りです。自身の利点、相手の欠点も踏まえた見事な戦法と言えるでしょう』
「……ですよね?」
「……なぜ俺を見る」
と、解説として饒舌に語っていたカナリアが精霊器を伏せてチラリ。
まあ気持ちは分かる。先ほどもアヤトの見解に覆され自信をなくしたばかり。
故にルビラと同じくこの機会に知見を広めようと確認すれば。
「精霊力に関せばさっぱりだが、少なくともお前の解説におかしな点はねぇよ」
「そうですか……」
お墨付きを得られてカナリアは安堵、しかし――
「だがま、白いのに通じるかどうかは別だがな」
「どういう意味です……?」
「普段から叩き込んでいると言ったはずだがな」
続く意味深な発言にカナリアだけでなくルビラも首を傾げる中、アヤトはほくそ笑み。
「ま、しょぼいミスさえしなければこの程度の状況もどうとでも出来るだろうよ」
◇
カナリアの予想通り精霊術で顕現した霧によりロロベリアは一メル先も見えず、どれだけ集中して探ってもミューズの精霊力は愚か気配すらも察知できない。
「本当に……アヤトには助けられてばかりね」
にも関わらずロロベリアは焦ることなく笑っていて。
もしこの状況下で敗北するものならまたバカにされるだろう。なんせアヤトとの新しい遊びはもっと不利な状況下で行われているのだ。
故にロロベリアは焦らず目を閉じ、全身の力を抜く。
ただ精霊力をとある部分に集約させて。
(――いまっ)
「……あら?」
ここだと跳躍――ふわりと舞う身体の真下から気の抜けた声が。
『水よ!』
だがロロベリアは集中力を切らすことなく上空から精霊術を発動。
顕現したのはたった一発の水弾、しかし今必要なのは威力よりも発動速度でいい。
左後方からサーベルを振るったミューズを一瞬足止めするのが目的。
その一瞬の内にロロベリアは後方に着地。
「参りました」
無防備な背に瑠璃姫の切っ先を突きつけ、ミューズは宣言と共に精霊力を解除。
維持していた霧が少しずつ晴れていく中、瑠璃姫を下ろして精霊力を解除するロロベリアに向き直りミューズは首を傾げた。
「ロロベリアさんはどのような方法で気づけたのですか?」
アヤトなら自分の手の内をさらすようなバカに見えるか? と、答えるだろうなとロロベリアは苦笑して。
「音です」
「……音?」
そう、精霊力を集約して強化した聴覚でミューズの位置を把握したまで。
ただミューズも音を立てないよう注意し、ある程度の距離から一気に詰めてきたのだろう。
故に音で気づかれると思わなかったようだがまだ甘い。
なんせ新しい遊びでアヤトが要求したのは目隠しの状態から、相手が動くことで生じる空気の微弱な流れを察知しろ、だ。
もちろんそのような神業を短期間で可能に出来るわけもなく、またこの新しい遊び――訓練には別の狙いもあるのだが、悩んだ末にロロベリアはまず聴覚を強化するという対処をしていた。
それでも気配どころか物音すら立てず簡単に距離を詰めてくるアヤトがデタラメすぎるはさておいて。
結果としてミューズが踏み込む微かな音を拾えて対処できた。
まあつまりは――
「ミューズさまがアヤトほどデタラメでなくて安心しました」
ロロベリアの結論にミューズは納得したように微笑み。
「さすがはアヤトさま、ですね」
◇
序列戦第一試合はロロベリアの勝利――なのだが最も盛り上がる決着が霧の中、つまり観客は見届けられないまま終了してしまい闘技場内は微妙な空気感に。
『霧の中でそのような攻防が行われていたんですね~』
『集約した精霊力で聴覚を強化……ロロベリアさんの制御力だからこその対処法です』
故にロロベリアとミューズが審判のモーエンに勝敗について詳しく説明、その情報を元にルビラとカナリアが盛り上げるべく奮闘することに。
まあミューズが『このような精霊術を使ってしまい申し訳ございません』と謝罪したことで咎める者は誰も居なかったが、とにかく最後に両者が健闘を称えあう悪手をすれば盛大な拍手が起こり一先ず安堵、そのまま二回戦の対戦カードを話題に挙げて更なる盛り上がりを計る。
対し関係ないとフィールドを眺めていたアヤトは退場する寸前、なぜか自分に向けて一礼してくるミューズに苦笑を返す。
「……ま、白いのには荷が重いか」
◇
『それでは第二試合の対戦カードを発表します!』
モーエンの精霊術で整備を終えたフィールドにグリードが現れ高らかに宣言。
ルビラとカナリアの奮闘により興奮を維持した観覧席から歓声が起こる中、モーエンが木札を引く。
その数字は六と八――
「もうあたしの出番か」
「あら大変」
ランとシャルツに決まった。
第一試合はロロベリアとミューズでした。
観覧側からすれば微妙な決着になったあたりがこの二人というか……もっと言えばせっかくミューズの初戦闘シーンなのに最後にアヤトが全部持っていった感じに……故に違う意味でも『不可視の決着』でした。
まあアヤトくんが意味深なのは毎度のこと、今はさらりと流してロロベリアがアヤトに受けていた訓練については今章のオマケで詳しく描く予定です。
さて、第二戦はランVSシャルツ。
お互いにアヤトの訓練を受けた同士、どのようなバトルを繰り広げるかこうご期待!
そしてカナリアの立つ瀬が無いアヤトの無双解説もお楽しみに(笑)。
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