団らんのひととき
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精霊祭もいよいよ最終日。
最終日はロロベリアが午後四時から行われる序列戦以外の予定は何もないので、リースやユースと共に開始時からある準備を進めていた。
だが正午前、一時中断をして校門へ。
「久しいな、我が娘たちよ」
「リース、ロロ、元気そうね」
既に到着していたのかサーヴェルは両手を広げ、クローネは小さく手を振り三人を見つけるなり声を掛ける。二人とは最終日は精霊祭を満喫しようと約束していたのだ。
「お父さま、久しぶり」
「お義母さまもお元気そうで何よりです」
忙しいのにわざわざ時間を空けてくれてた二人の親心に、リースは嬉しさを表現するようサーヴェルに抱きつき、ロロベリアも笑顔でクローネの元へ歩み寄る。
「色々聞きたいこともあるけど、とりあえず中に入りましょうか。このままだと通行の妨げになるし」
「そうする」
「やはりまずはアヤト殿の経営しているカフェで食事か」
「その前に屋台へ立ち寄ってはどうですか? お義父さま」
そのまま親子水入らずで精霊祭を楽しむべく、校門を潜る――
「オレを忘れてませんかねぇ!?」
――前にユースが四人の前に立ちふさがり猛アピール。
「そもそも親父殿もお袋殿もさっきオレの存在省いたよな!」
「はっはっは! 忘れておったわ!」
「息子忘れて笑ってんじゃねぇ!」
「私は無視したのよ」
「無視する必要あるっ? ていうか姉貴はともかく姫ちゃんまでオレの扱い酷くなってるから!」
「ごめんなさい……つい」
「よく出来ました。それでこそニコレスカ家の娘ね」
「オレの扱い酷くなるとよく出来るのが家訓なのっ?」
「愚弟うるさい」
「うるさくさせてんのはお前ら親子だろうが!」
「つまりあなたは親子じゃないと。ようやく自覚したのね」
「お袋殿……いい加減泣くぞっ?」
「うむ!」
「親父殿はなにがうむだ!」
貴族家とは思えない賑やかな水入らずだった。
それはさておき、これもニコレスカ家の団らんと改めて五人で校門を潜り、まずは噴水広場へ。
もちろん目的は初日から脅威の集客率を叩き出しているアヤトが代表を務める屋台で、最終日も子供や女性を中心に賑わっていたのだが。
「おりょりょ、おっさんにクーちゃんじゃないの」
「ご無沙汰しております」
「ラタニちゃんにカナリアちゃん?」
「何をしておるのだ?」
屋台にお客でなく売り子としてラタニとカナリアが居ることに二人が首を傾げるのも無理はない。ロロベリアらも開始時にここを通って驚いたものだ。
「なにもかんもアヤトのお手伝いさね。あ、そっちは二〇ミルだけどお嬢ちゃんは可愛いから一〇ミルにしちゃおう!」
「忙しそうね。ユース、少しの間交代なさい」
「……なんでオレが」
なので理由は知っているも直接話がしたいとクローネが指示、ぶちぶち不満を零しながらもユースは従いラタニと交代した。
「二人ともおひさ~」
「お久しぶり。で、アヤトちゃんのお手伝いって?」
「最初は隊員連れて様子見きたんだけど、急にアヤトが手伝えっていうからお姉ちゃんがクソ生意気な弟の為に一肌脱いだわけ」
「なるほどな……だが、特別講師のお前が手伝うのは良いのか?」
「あたしはあくまで非常勤だしねん。それに学院生が主導つっても使用人はお手伝いして構わんなら、家族がお手伝いするのもありでしょ」
精霊祭の催し物は家が雇う使用人の手を借りるのも許されているが、家族の手を借りるのは前例はない。
こうして売り子をしているなら許可は得ているのだが、カナリアはラタニがおかしな行動をしないようお目付役に自ら志願していたりする。
「でもお手伝いしてるのはカナリアちゃんだけなのね。他の隊員は違うの?」
「モーちゃんは家族サービスさね。来年息子がここに通うだろうから、下見もかねて」
「残りの二人は?」
「あの子らは精霊祭とかに興味ないから王都でお留守番してるよん」
とにかくロロベリアらがまだ会っていない隊員二人は今回も会えず終いと残念でも、三人が参加してくれるだけ充分。
「それにカナちゃんとモーちゃんは序列戦の協力もあるし。まあ今の調子なら屋台は閉店だから問題ないかにゃー」
「序列戦の協力なら特別講師のラタニちゃんがするのではなくて?」
「特別講師だからでしょ。たまにしかガキのお守りしないあたしが他の講師さまを差し置いて大役勤めるのはねー」
「という体で私とモーエンさんに押しつけたんですよ。面倒ごとを押しつけるあたりが師弟ですね」
「てなわけで親善試合で立派に引率勤めた優秀な部下にお任せしたのさ」
売り子をしながら嫌味を吐くカナリアも華麗にスルーでラタニは綺麗事を押し通す。
ちなみに序列戦を部下二人に押しつけたラタニは学食で行っているカフェを手伝うらしい。加えてティエッタの使用人を数名借りるのがアヤトの言っていた助っ人で。
「つーわけで売り上げ協力の為になにか買ってちょ」
「協力する必要もなさそうだけど当然ね」
「むろん我も頂こう」
疑問視したものの、クローネやサーヴェルは理由を聞いてすんなり受け入れるあたりラタニやアヤトに対する付き合いの長さがうかがえた。
◇
屋台に続きカフェで昼食を済ませた後も家族水入らずで精霊祭を回った。
最終日ということもあり入場者数も多く、催し物を一通り覗いて回る程度だが、それでも充分楽しい家族の思い出。
故にあっという間に時間は過ぎ、序列戦に出場するロロベリアの集合時間が迫る頃、サーヴェルとクローネが王都に戻予定で。
序列戦を応援できないと謝罪していたが忙しいのに時間を作り、僅かな滞在時間でも来てくれたことにむしろ感謝の気持ちでを見送る為に再び校門へ。
「それでロロ、アヤトちゃんとの仲は順調?」
「……いきなりですね」
向かっている中、クローネから突然の確認が。
「同棲を始めたなら進展してるか気になるでしょう」
「同棲というより……リースやユースさん、マヤちゃんも居ますから」
「相変わらず奥手ね」
間違いを正しただけでとても呆れられてしまうのは腑に落ちないが、ロロベリアの恋路を純粋な親心で応援しているクローネは一方でアヤトをとても気に入っているからで。
今日も屋台やカフェの運営で初日の集客率を踏まえて持ち帰りを可能にしたり、厨房と給仕の連携や作業の効率化、オープンカフェでただ座席数を増やすだけでなくしっかりと動線を意識したテーブルの配置と他の催し物に比べてプロ意識を高く持っているアヤトを評価していた。
なにより学院での催し物レベルを超えた屋台の菓子類やカフェのメニュー。あの味は充分王都で通用するとクローネは権利交渉を狙ったほど。
まあ交渉どころかアヤトが忙しすぎて会うことすら叶わなかったが、後ほど話しておくようロロベリアは頼まれていた。
とにかくクローネは商会を継いで欲しいほどアヤトを気に入っているので、そういった面でもロロベリアを応援していたりする。
「別にあの子たちやマヤちゃんも四六時中アヤトちゃんと一緒にいるわけでもないでしょう? なら二人っきりになったタイミングで既成事実の一つや二つくらい作れるじゃない」
「作れませんから!」
そもそもマヤは四六時中いるので無理な話、いなくても無理な話。
応援してくれるのは嬉しいが娘に対してそっちの激励は違うと顔を赤くして否定するロロベリアにクローネは『冗談よ』と微笑み返す。
「でも子供とこういった話をする日が来るなんてね。リースはあんな調子だから一生無いと思っていたわ」
サーヴェルと一緒に前を歩くリースは確かに色気より食い気なタイプ。こう言っては申し訳ないがロロベリアも親友が恋をする日が来るのかと心配するほど。
「それにユースはバカだし」
「……ユースさん、結構モテますよ?」
「でもバカじゃない」
「…………」
もちろんクローネが自分やリースと同じくらいユースにも愛情を向けているのを知っているが、あまりの扱いに同じく前を歩いているユースには心配よりも同情してしまう。
「何にせよ、以前話したように何かあれば相談しなさい」
「必ず時間を作ってくださる、ですね」
「よく出来ました」
ただ以前よりも遠慮なくロロベリアが甘えるようになったとクローネは満足していた。
◇
「リース、ユース。これからもアヤト殿から様々な強さを学ぶように」
「がんばる」
「ぼちぼちやるよ」
「ロロベリアはそれに踏まえて序列戦も一つの経験とし、悔いのないよう戦いなさい」
「はい」
校門に到着して最後にサーヴェルは三人の頭を順に撫でつつ激励を。
「生活面でもアヤトちゃんに迷惑掛けないよう、出来るだけお手伝いするのよ」
続いて素っ気なく注意を促したクローネが少しだけ心残りを滲ませて。
「それと、参加できなくてごめんなさいと伝えておいて」
「我もだ」
「必ず伝えます」
サーヴェルも同じようで、申し訳ない表情を向けるもその気持ちだけで充分と代表してロロベリアは笑顔で了承した。
せっかくの精霊祭(文化祭)ですからニコレスカ家の団らんを入れてみました。親元を離れて暮らしているので、二人とも忙しい身でありながら子供たちの為になんとか時間を作って思い出を、なんて本当に良い両親ですね。
そしてロロベリアもアヤトとの再会から少しずつニコレスカ家の一員になれてるようでほっこり……その結果がユース弄りって、まあユースは不憫ですが美味しいと思ってください。
さて、次回更新からいよいよ第六章メインの一つ、序列戦が開幕します。
詳しくは次回で!
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