表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第六章 兆しの精霊祭編
184/776

精霊祭の楽しみ方

アクセスありがとうございます!



 そもそもアヤトが自分を探していた(ような口振り)のは決して精霊祭を一緒に回るお誘い、などと微塵も期待していなかった。

 これまで何度も思わせ振りな態度を取られては残念なオチ、無粋な誘いを繰り返しているのだ。そろそろロロベリアも成長していた。


 故に今回もカフェが盛況なことから人手が足りず、改善策の一つとして働かせる為に探していたのだろう。一応二日目は警備の仕事があるとは伝えているが休憩時間までは知らない。しかしレイドに進言したランから同じ時間に休憩に入ると聞いたならあり得る話。加えて自分はアヤトが学食に就任してから手伝っている、勝手は違えど戦力になる自信もある。


 もちろん知らないところで催し物を開くと決め、知らないところでメンバーを揃え、蚊帳の外にしておきながら人手不足になるなり頼るのは勝手だとの憤りはある。

 しかしマヤ越しに呼び付けず、こうして自ら出向く誠意は評価できる。

 なによりどんな理由でもアヤトに頼られるのは悪い気がしない。

 行き先を尋ねた際、『どこへ行くのか』との妙な返しはからかっているだけで、今回もそういうオチだろう、分かってる分かってるとロロベリアは悟りを開いていた。



 だが分かっていなかった。



 何故なら『どこへ行くのか』は自分が決めるからアヤトは知らないとの発言だった。

 その証拠に先の発言後――


『とりあえずなにか食うか。なにが食いたい』

『……へ?』

『だから、なにが食いたいか聞いてんだよ』

『じゃあ……あれ』


 若干苛つきながら問われたロロベリアが目に付いた屋台を指させば、アヤトは『しばし待て』と言い残し一人屋台へと向かい。


「ほれよ」

「……どうも」


 戻ってくると鶏肉の香草焼きを手渡してくれた。

 そこで初めて自分が指さした屋台は香草焼きを売っているのだとロロベリアは知ったりする。


「あ……お金」

「誘ったのは俺だ。必要ねぇよ」


 つまり奢ってくれるのか。

 いや、アヤトは別にケチではないし何気に資産はかなりある――だが誘ったとはどういうことか?

 これではなにかあんな感じというか、まるでアヤトが自分を誘って精霊祭を回るような感じではないか。


「で、どこ行くんだ」

「……食べないの?」

「こういう場では食べ歩きが乙なもんだろう」


 どや顔で自分用に買った香草焼きに齧りつくアヤトはさておいて、やはりおかしい。

 こういう場では食べ歩きが乙――まるで精霊祭を一緒に楽しむ作法を説いているようではないか。

 しかも改めて行き先を聞いてくる。まるで自分の要望を聞いて、そこへ行きたいと答えれば一緒に行ってくれるようではないか。

 つまりロロベリアの望み通りの展開。それでもこれまで散々予想外なオチで期待を裏切られていただけに、今回も予想外なオチで結果望み通りの展開すぎて受け入れられず。


「……もしかして、精霊祭を一緒に回ろうと……私を誘いに来たの?」

「他にどう取れる」

「…………」


 他にどうも取れないから逆に怖くて質問したのだが、とにかくこれまで裏切られ続けたことでロロベリアはどうしても受け入れきれず。


「……どうして?」

「やれやれ……相変わらずな構ってちゃんが」


 結局お約束の反応をしてしまい、お約束で呆れられてしまった。

 このまま突っ立っていれば通行人の邪魔になるとアヤトは当てもなく歩き始め、ロロベリアもトテトテ後に続く。


「他の連中からお前を誘えとしつこく言われてな」

「他の連中って……?」

「今回雇っている序列さま、特にランか。なぜあいつらがお前を誘うよう喚いていたかまでは知らん」


 面倒くさそうに告げてアヤトはまた香草焼きに齧りつくが、その理由がレイドと同じ計らいとロロベリアは察していた。要は自らの意思ではなく周囲に勧められて誘ってくれた。


「ま、ケーリッヒからもちゃんと休めと言われたしな。それにお前はちゃんと構ってやらんと噛みつくんだろう」


 しかも表情から仕方なくといった感じで、本人からすれば気乗りではないらしい。

 やはり期待を裏切る予想外なオチ、これには落胆してしまうのが本来の反応。

 しかしようやくこの場を受け入れられたロロベリアの表情は困惑から微笑に変わっていて。


「……つまり嫌々?」

「そもそも俺は人混みが嫌いなんだよ」

「そっか……」


 面倒くさそうに肯定されても、落ち込むどころか更に華やいでいく。

 アヤトは周囲にしつこく勧められても本当に嫌なら無視をする。

 なのに無視することなく、仕方なくとも誘ってくれたのなら少なくとも自分を誘って精霊祭を回ることは嫌ではないと思ってくれている。

 現に嫌いなのは人混みであって、自分と一緒に精霊祭を回るのを嫌とは口にしていない。

 また嫌いな人混みを我慢してでもこうして歩いてくれている。

 アヤトと再会して早四ヶ月。誰よりも知ろうと努力してきたロロベリアだからこそ勘違いせず、気づくことが出来た歩み寄りで。

 些細な変化、それでも少しずつ歩み寄ってくれている実感に落ち込むはずがなく。


「……どうして私たち、香草焼き食べてるの」

「お前が食いたいと言ったんだろうが」

「そうなんだけど……なんかね」


 むしろせっかくアヤトが誘ってくれた精霊祭を、においが強く、油でベタベタする香草焼きを食べながら回っているのかともったいなく感じてしまう。

 どんな切っ掛けだろうと、仕方なくでも、これは初デート。

 ならもっと甘くと言うか、デートに相応しい食べ物にすればよかったと思う反面、これも自分たちらしいと可笑しくて。


「なにニタニタしてんだ? とにかく納得したならさっさと行き先決めろ」

「嫌々でも付き合ってくれるんだ」

「まあな」

「しかもアヤトが誘ったから、全部おごりで?」

「金が必要ならな」


 素っ気ない返事から徐々に苛立ちを感じるのはしつこい質問攻めか、早く決めない自分に対するものか、それとも単純に嫌いな人混みにいるからか。

 どれにせよ、せっかくの初デートなら自分だけでなくアヤトにも楽しんでもらいたいと。


「じゃあ――」


 二人の楽しい思い出にするなら、徹底的に自分たちらしく楽しむべきとロロベリアは相応しいプランを提案した。



 ◇



「ロロ……と、アヤトが居る」

「……居るな」


 闘技場周辺を巡回していたリースが歩みを止めてボソリ。隣を歩いていたユースも立ち止まって視線を向ければ確かに二人の姿が。

 ただ人通りが多く、離れた距離から良く気づいたものだとユースは感心。

 またロロベリアは望み通りアヤトを誘えたことに安堵しつつ、目にした光景に呆れてしまう。

 何故なら二人は時計塔の真下に設置された、入場者が休憩や食事をするスペースの簡易テーブルに腰掛けている。

 しかも日当たりの悪さからあまり利用されない場所。まあだからこそ二人の世界に入るのは持ってこいとも言えるが、なぜ二人は向き合ってあやとりをしているのか。

 せっかく誘えたのなら普通に精霊祭を満喫すれば良いのに、いつでも出来るあやとりに興じるのは違う気もする。


「でもま、だからこそらしいか」

「ん?」

「なんでも。とにかくオレたちは警備を続けましょうか、邪魔するのもなんだし」


 まあ楽しみ方もそれぞれ。精霊祭の中で二人にとって大切な繋がりのあやとりで遊ぶのもそれはそれで特別な思い出になるだろう。

 なによりどことなく楽しげな時間に割って入るのは無粋とユースはそのまま背を向ける。


「邪魔はしない、声を掛けるだけ」

「……それが邪魔だって分かろうぜ」


 もちろん無粋を働こうとしたリースは全力で止めた。



 ◇



『――兄様、ロロベリアさま。お楽しみの最中、無粋とは思われますがそろそろ休憩時間が終わりますよ』


「……もう少しで勝てそうだったのに」

「どこがだ」


 脳裏にマヤの声が響くなり悔しげに肩を落とすロロベリアにアヤトは苦笑しながら指に絡めていた紐を解く。


「もうこんな時間か……ありがとう、マヤちゃん」


 頼んではないがマヤのお陰で遅刻せずに済んだとロロベリアは感謝を述べる。

 アヤトが居るならブローチ越しでなくとも聞こえるので再び脳裏にクスクスと響き。


『どういたしまして。ですがお二人はあやとりを始めると本当に時間を忘れて楽しまれますね。とにかく兄様、ロロベリアさまを最後までエスコートするのをお忘れなきよう』


「エスコートも何も、通り道だろう」


 そう返しながらもアヤトは拒否せず、購入したもののあやとりに夢中でほとんど残った飲み物を手に二人は並んで歩きだす。

 精霊祭を一緒に回るとは違うが、アヤトと一緒にあやとりを楽しみ過ごせたなら充分な思い出とロロベリアも満足で。

 ただ精霊祭はもう一日ある。


「ところで……序列戦は見に来るの?」


 ならば最後まで楽しみたいとロロベリアは明日の確認を。

 ただでさえ忙しい中、序列戦の間はティエッタたちも抜けるので望み薄。それでもアヤトには来て欲しいと思うわけで。


「ラタニが行けとしつこいからな」

「ア…………お姉ちゃん、が?」


 だが予想外にも来るつもりらしく、マヤが見ているならと恥ずかしさを我慢して言い直す。


「教え子の成長を見守るのも講師の勤めだとよ。たく、いつ俺が講師になったんだか」


 まあアヤトはラタニを姉呼びしてもスルー、それよりも強引な理由に呆れているようで。

 しかしその理由にロロベリアはらしいと苦笑。訓練を受けていないミューズ以外は教え子と言えなくもない。ただラタニとしては交流を深めつつある他のメンバーにも積極的に関わらせたいようだ。


「でも……大丈夫なの? その間はティエッタさんたちも抜けるし」

「既に代わりの助っ人は用意している。ま、ルビラが静かな席を用意するとも言っていたしな。人混みでなければどんぐりの背比べを見物するのも良いだろう」

「本当に人混み嫌いね……」


 もし用意してなければ行かないような口振りに、そこまで嫌いかと若干呆れてしまう。

 ちなみに序列戦についてルビラやグリードはアヤトに相談を持ちかけていたのでそのお礼で用意したらしい。

 その配慮で無様な姿を見せないようロロベリアはいっそう気合いが入る。


「じゃあ明日」

「それなりに楽しみにしててやるよ」


 校舎前で素っ気ない激励を告げて学食に戻るアヤトの背中を見送りつつ、ロロベリアはいたずらっ子のような笑みを浮かべて。


「ええ、()()()楽しみにしてなさい」




ロロとアヤトがようやくラブコメっぽいことをしました(笑)。

まあ相変わらずアヤトは捻くれた理由でしたが、ロロもだてに四ヶ月振り回されてませんでしたね。

また精霊祭という状況で変わらずあやとりしてましたが、二人の過去を思えば状況関係なく二人で過ごすことが特別な時間になりますからね。

さて、精霊祭二日目もサクッと終了。次回更新から三日目、最終日が始まります。

第六章のメインになるのでさすがにサクッと終わりません。序列戦やちょいちょい話題に挙げているアレについてもありますから。

なので序列メンバーのガチンコバトルのみならず、ロロベリアがどんなイベントを準備しているかもお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして欲しいです!

更に『いいね』をポチッとお願いします!

また感想、誤字の報告もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ