保有量の数値化
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注文を待つ間も客足が増えていたのでロロベリアらは長居せず、食べ終えるなり学食を後にした。
もちろん厨房に籠もりっぱなしのアヤトに会うこともなく、後はランからもらった休憩時間のメモが頼りだがあの様子だと難しいかもしれない。
「もうあいつ、料理屋でも始めればいいんじゃね」
「むかつくほど美味しかった」
なんせニコレスカ姉弟が絶賛するように出された菓子類のみならず飲み物もかなりの出来。あの味をあの金額で楽しめるなら人伝で更に集客率が見込めるだろう。
故にロロベリアは念のため程度の望みで休憩時間に合わせて学食の様子を窺うつもりだが、まだ時間はあるので他の催し物を楽しむことに。
校門前で配布された精霊祭のプログラム表を確認して向かったのは序列八位専用の訓練場、つまりシャルツのところで。
屋外に比べて屋内施設は限られ、催し物をするにも利便性があるので取り合いになるが(なのでアヤトは自身の職場である学食を利用した)序列専用の訓練場は序列保持者の特権。抽選もなく使えることから利用しているのか。
それはさておき、ここに決めたのはシャルツと交流があるから選んだのもあるが、研究テーマに興味を引かれたからで。
「ここも結構いる」
「限定的でも興味深いからなぁ」
「確かに」
到着すればそれなりに列、半分くらいが学院生。更に並んでいる殆どが精霊力持ちなのは感覚で分かる。
精霊力に関する研究だから、との理由以外にみんな別の意味で興味があるのだろう。
もちろんロロベリアたちも同じく興味があると最後尾に並び、ゆっくりと列が進む間にも列が増えてくる。
待つこと三〇分ほど、ようやく順番が巡り受付の確認で三人一緒も構わないと答えて室内へ。
「ふふ、来てくれたのね」
「ふひひ……良いタイミング」
「「「…………」」」
リビングルームには白衣を纏ったシャルツが微笑み出迎えてくれるも、もう一人の学院生から怪しげな笑み向けられ思わず後ずさってしまう。
シャルツよりも細身で背はロロベリアと同じくらい、青白い肌をした男性はズーク=フィン=ギャレット。
精霊学クラスの代表で奇才としても学院内では有名。また青髪碧眼の整った顔立ちをしているもどことなく暗い雰囲気から残念な知的美男子と不名誉なことでも有名で。
「序列十位にニコレスカ家の二人……良いデータが取れる」
「うちの代表がごめんなさいね」
初めて直接対応するが噂に違わぬ雰囲気に若干引いているとシャルツが謝罪を。
「いえ……それよりもズークさまがなぜ? 学院生会は良いのでしょうか」
「今回の装置は彼がメインで開発したから様子を見に来たのだけど、仕事に戻ろうとしたところにあなたたちが来たから。邪魔なら追い返すけど?」
「シャルツ……酷いことを言うなよ。僕も三人のデータを見ておきたい」
「後でいくらでも見られるでしょう。それに余り長居しすぎるとレイドさまに叱られるわよ」
「むう、仕方ない……………………だがっ!」
「「「――!?」」」
ボソボソ声から一転、ズークが両手を広げて高らかに声を張り上げるので三人はビクリとなる。
「僕の開発した装置の有用性や研究テーマをちゃんと伝わるよう懇切丁寧に説明してくれ! 研究者というのは得てして誤解を受けやすいからね!」
「はいはい。ちゃんと説明してあげるからさっさとお行きなさい」
「……なら、失礼する」
熱弁におざなりな返答をされてもズークは満足したのかノソノソと退出を。
僅かな対面でも噂通りの残念さを見せつけられ唖然な三人を余所にシャルツはため息一つ。
「本当にうちの代表がごめんなさいね。でも代表に選ばれるだけあって根は良い子なのよ、ただちょっと頭がおかしいだけで」
「フォローになってませんが……」
「というか、ちょっとどころじゃないだろ」
「ビックリした」
「まあまあ。とにかく時間がもったいないから簡潔に説明するわね」
「お願いします。それで早速ですが、精霊力の保有量を数値化できるというのは……本当ですか?」
先ほど懇切丁寧にと言われたのにとは敢えて指摘せず、一番興味を示していたロロベリアが確認を。
というのも精霊器に使われる精霊石がどれほど精霊力を秘めているかを測定する装置なら存在しているが、精霊士や精霊術士の保有量を測定する装置はまだ存在していない。
保有量に悩むロロベリアとしては興味深いが故に、それを学院生の研究で可能なのか半信半疑になるのは当然で。
「ロロちゃんが疑問を抱くのは当然ね。なんせ固定化された精霊石と違って精霊士や精霊術士の保有量は月日によって増加したり、体調によって減少する。本人の制御力次第で押さえ込むことも出来ると、要は正確な数値化は不可能。だからぶっちゃけちゃうと今回の研究はお遊びのようなものね」
「……はい?」
それでも期待していただけにシャルツのぶっちゃけに耳を疑った。
「つまり参考程度にしてちょうだいって感じかしら? でも精霊士や精霊術士の保有量を測定できるように精霊石の装置を改良しただけでもズークって優秀だし、観点は面白いの。だから精霊祭みたいに多くの人が集まる場所で、多くのデータを取ることは今後の研究に役立つわけ」
ちなみにズークは三年間、つまり学院在学時の全てを費やして今回の装置を完成させたらしい。既存の装置の改良といえど確かに優秀で奇才と呼ばれるだけはある。
加えて参考程度の数値でも保有量の多い少ないが招くトラブルを危惧して測定するメンバーを最小限にしたり、数値も外部に漏れないよう情報管理を徹底したりと倫理的な配慮も抜かりない。
だから受付時に三人一緒でも構わないかと確認し、ここでシャルツが説明時に数値化することで起こりえる問題込みでもう一度同伴者に知られても良いかの最終確認をしているわけで。
雰囲気はアレでもこうした配慮を出来るあたり、ズークはさすが精霊学クラスの代表に選ばれるわけだと評価を改め。
「もっと正確な数値化を期待してたらごめんなさいだけど、できれば協力してくれないかしら」
なら彼の研究に協力するのはやぶさかではないと了承。元より知られても良いと判断していたのでシャルツと共に三人は室内訓練場へ。
広い室内の中央に鎮座する精霊器らしきもの。恐らくあれが測定装置なのだろうが精霊学に詳しくない三人が見ただけで構造など理解できるわけもなく、何となく凄いなくらいの感想で。
またかなりの大きさなのに室内には白衣を纏った学院生が二人のみと、本当に少人数で行っているらしい。
「じゃあ誰から始めましょうか」
「愚弟から」
「なんで姉貴が決めるんだよ」
「万が一何かあったら困る」
「オレなら困らないのかよ! まあ……良いけど」
「安全対策はバッチリだから平気よ」
ロロベリアとリースが見守る中、及び腰なユースを安心させるようシャルツは微笑みつつ装置の前へ誘導を。
「まずこの棒を両手で握って」
「これっすね」
「それで合図をしたら精霊力を解放するの」
「……解放するだけで、どうやって測定するんっすか」
指示に従い紫色の棒を左右に一本ずつ握りしめるユースの素朴な疑問にシャルツは顎に指を当てて少し思案。
「まあ、あなたたちなら教えても良いでしょう。もちろん秘密にしてね」
母が商会の会長を務めるだけに三人とも情報の重要性を理解している。なによりシャルツの信頼を裏切るつもりはないと約束。
「解りやすく説明すれば、その棒の中に埋め込まれている精霊石が解放時に溢れる精霊力を感知して、反応から数値を割り出すの。例えば埋め込まれている精霊石の数値が一〇〇として、ユースちゃんが解放した精霊力が倍の反応をすれば二〇〇、半分なら五〇、みたいに」
「……よく分からん」
「でしょうね。ただ解放時が最も精霊力を感じ取れるから解放した数値=その人の最大保有量となるのだけど……変に制御すれば低くなるし、リースちゃんの暴解放なんかは大幅に感知しちゃうのよね」
なのであくまで参考程度とシャルツは苦笑しつつ、出来るだけ力まず自然に解放するよう念を押す。
「ちなみに下位種の精霊石だと約二〇〇〇、中位種だと約五〇〇〇、上位種だと約一三〇〇〇が平均と言われてるわ」
「シャルツ先輩はどれくらいか聞いても?」
「私は四三五一だったわよ。そろそろ良いかしら」
「いつでもどうぞ」
「……私の感覚だとユースさんはシャルツさんより多いから」
「わたしは同じくらいにしか感じない」
ロロベリアとリースは感覚で計っていた保有量から予想をしている中、シャルツの合図でユースは精霊力を解放。
結果を楽しみにしている間に再び合図で解除、シャルツが他のメンバーの元に行く。
「ユースちゃんは四九八九ね。負けちゃったわ」
「勝ち負けは置いといて……もう少しで五〇〇〇じゃん」
読み上げた数値はロロベリアの感じ取る量に近いもので、参考程度でもかなり現実味のある結果を出した。
「半端な愚弟らしい」
「半端は余計だ。安心したなら姉貴もやれよ」
「言われなくとも」
故にロロベリアは先に測定しようと思っていたのに、名乗り出る前にリースが装置の前へ。同じ手順で精霊力を解放。
すると計測していた学院生から『おお』と驚愕の声が。
「七四二五……予想していたとはいえ、凄いわね。今のところぶっちぎりよ」
「どうだ」
「はいはい、さすがお姉さまっすね」
結果に胸を張るリースにおざなりな賞賛を贈るユース。
ただシャルツが言うようにリースの保有量は学院でもトップクラス、正規の精霊術士に匹敵するだけあって高い数値は予想できたわけで。
「これだけの保有量があれば精霊術で色んな戦術が組めるだけに惜しいわね」
「……がんばる」
「でもこの数値だと暴解放の消費は一秒に一〇〇〇強くらい。なら私は三秒弱……参考程度でも不向きね……と、ごめんなさい。最後はロロちゃん、どうぞ」
「はい……」
「ロロ、がんばって」
リースの声援に及び腰になりながらもロロベリアは装置の前へ。
これも自分の問題点と向き合う機会と言い聞かせつつ、合図と共に出来るだけ自然に精霊力を解放。
結果は――
「大丈夫よロロちゃん。今まで測定した学院生には少ない子もいたから」
「ある意味予想通りだから、元気だそうぜ」
「ロロはわたしより強い」
三人から励まされる数値。
感覚でも学院内では平均の保有量を自負していたので覚悟はしていたが下位種の平均に届かない一八〇八。前二人(シャルツも含めて)が高い数値を出しただけにやはりショックで。
測定している学院生から『序列保持者なのにこの程度?』との視線が辛い……まあロロベリアの被害妄想なのだがそれはさておき。
「アーメリさまも精霊力が全てではないと仰ってるもの。でも数値で比較すると改めてロロちゃんの制御力に感心しちゃうわね」
学院生の平均保有量だからこそロロベリアの凄みが際立つとシャルツは感嘆。
保有量が少なければ精霊術の訓練量は当然多い者に比べて短くなる。にも関わらずロロベリアは精霊術の扱いが上手く、特に制御力は学院生どころかカナリアやモーエンすらも敗北を認めるほど。
制御力が高ければ精霊力の消費量を抑えられるにしても、少ない訓練時間で変換術、遠隔操作、言霊といった技術を習得しているならまさに天賦の才、まさに精霊術士の申し子と言える。
もちろん才能だけでなく努力もあってこそ。現に保有量がリースに近い学院生が序列入りできていないのが証拠だ。
とにかくアヤトだけでなくロロベリアも精霊力が強さの全てではない、というラタニの持論を体現している存在で。
「……ラタニさんはどれくらいなんだろうな」
ラタニの持論が引き合いに出されてユースが思い出したようにぼそり。
その呟きにリースや落ち込んでいたロロベリアも興味を示すのは当然のこと。
なんせロロベリアは解放時で上位種に匹敵する圧を感じたが、制御力も群を抜いているだけにあれでも押さえている可能性がある。
感覚ですらラタニの保有量は計れないだけに、精霊術の扱いのみならず知識も造詣が深い王国最強の精霊術士という肩書きに偽り無しの彼女はどれほどの数値をたたき出すのか実に興味深い。
「参考程度の数値でも興味深いわねぇ……アーメリさまって精霊祭に来てくださるの?」
「最終日には来られると聞いてます」
もちろん研究職のシャルツも興味を示し確認すればロロベリアが返答を。
「最終日はあれがありますから」
「そう言えばそうね……なら楽しみが増えちゃったわ。良ければこちらにも来てくださるようお願いしてもらえる?」
ラタニの数値を知りたいのは同じとロロベリアが了承したのは言うまでもない。
◇
シャルツと別れた後も三人は精霊祭を満喫。
演劇、美術品や武具の展示、闘技場で行われている精霊術の披露と学院生が趣向を凝らした催し物から飲食、雑貨などの屋台など見るところは多くあり。
また入場制限されている初日は去年と違って待ち時間も短くて済むので効率よく回れて楽しい時間。
だが危惧していた通り休憩時間を狙って学食に足を運べば混雑状態。屋台の商品も売り切れたのか、それとも人手が足りなく呼び戻したのかランとフロイスも加わり外には今日一の列が出来るほど。
それでも休憩時間はしっかり取るようにしているが――
「あいつ傲慢なわりに真面目だよな……」
「残り二日を見越して色々改善するらしいから、明日は大丈夫だと思うけど……」
ちょうど休憩に入ったディーンとラン曰く、アヤトのみ代表として休憩無しで働くらしい。仕事になると本当に真面目だが、一緒に精霊祭を回るというロロベリアの望みは潰えた。
ディーンと一緒に精霊祭を回るランに羨ましさを感じつつ、こっそり応援して見送り改善するなら残り二日チャンスはあると前向きに捉えていたが。
「…………そんな気はしてた」
帰宅したロロベリアは諦めのため息一つ。
先ほどマヤから連絡があり、アヤトは仕込みの準備や改善策を模索するため期間中は帰らないらしい。
今回は事前連絡をしてくれた分、配慮してくれたのだろうがロロベリアにとって微妙な精霊祭初日だった。
これまで多い少ない、相手の何倍とあやふやにしていた精霊力の保有量を敢えて数値化するのはどこかで入れる予定だったので一先ず安心。
ちなみに他のメンバーの保有量を数値化すると――
レイド 5172
ティエッタ 5004
カイル 4733
エレノア 4470
ディーン 3907
ラン 511
フロイス 504
――このような感じですね。
フロイスやランは精霊士なので低いですが学院の精霊士の平均が300前後なので精霊士としては多い方、ただ王国最強の精霊騎士サーヴェルは精霊士でも800超え。
また序列メンバー(ロロ除く)クラスの保有量は学院でも一握り、多くはロロより下か少し上がほとんど。つまりエリート校では平均でも、一般的にロロベリアは多い方になります。
そしてカナリアやモーエンは10000前後と正規の精霊術士では平均より少し上程度、なのでリースやベルーザの保有量がかなり多いのがおわかり頂けるかと。
ですが作中でラタニの持論を引き合いに出したように保有量が多い=戦闘力ではなく、あくまで大技の精霊術をバンバン放てるとの基準、なので技術力があればいくらでも覆せます。現にロロがそうですしね。
もう一つちなみに、ならラタニやミューズは? と思われるかも知れませんが、こちらの二人に関しては後々ということで。
さて、精霊祭の初日がサクッと終わり、次回更新から二日目に入ります。こちらもサクッと終わる予定ですがメインは最終日、序列メンバーの戦いやロロのアレがメインなので。
もちろんサクッとしてても二日目の内容もお楽しみに!
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