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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第六章 兆しの精霊祭編
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垣間見た軌跡

アクセスありがとうございます!



 精霊祭まで残り三日。


 学院は休みになり学院生会のレイドとカイルは総仕上げで大忙し。

 エレノアは次期生会長候補として、ミューズは次期精霊術クラスの代表候補として自主的に学院生会の手伝いをしているらので大忙し。

 シャルツもまた主催側で参加する為、準備に追われてやはり忙しい。

 ティエッタ、フロイス、ラン、ディーンもアヤトの出店に協力しているので忙しい。

 もちろん九人とも最終日のエキシビションに向けて忙しくも合間を縫って訓練は続けているだろう。なんせみな負けず嫌いだ。


 それでも唯一主催側として参加しないロロベリアはこの三日間だけでなく当日も含めて余裕はある。まあ精霊祭は純粋に楽しむが、最終調整含めて有利な状況。

 更に他の九人は精霊祭に集中する為、アヤトの訓練が受けられない(ミューズはエレノアの付き添いだが)。

 対しロロベリアは一緒に住んでいる。この利点を活かしてギリギリまで訓練が受けられた。


「だから……どうしていつもいつも急なのっ」


 そう思っていたのに初日から当てが外れたとロロベリアはブローチを握りしめる。


「……そりゃアヤトだからだろ」

「あいつ本当に自分勝手」


 憤慨するロロベリアにニコレスカ姉弟が同情するのも無理はない。

 今朝からアヤトの姿が無いのは精霊祭の準備で学院に向かったのだろうと気にせず訓練や座学を熟していたが、日が暮れても帰ってこなく痺れを切らせたロロベリアがブローチでマヤを呼び出し確認すれば――


『今日は帰らないので適当に食事を済ませておけ、だそうです』


 ――これである。


 しかも精霊祭の準備で今はセシーヌにいるらしい。

 セシーヌといえばディリュアの一件でアヤトやマヤの秘密を知る切っ掛けとなった港街。珍しい品々が手に入るので恐らく仕入れの為だろう。

 だが懐かしむよりも外泊するなら事前に一言あってもいいし、もし急な仕入れとしても自分から(マヤを通じて)報告するべき。

 故に訓練が中止になったことよりも相変わらずな対応にロロベリアは憤慨、ニコレスカ姉弟は呆れよりも同情するわけで。


「何か食べに行きましょうか」

「それと買い出しもだな」

「賛成」


 それでもアヤトの自由奔放を気にしてもキリがないと馴れたもの。三人は食事問題に切り替えていた。



 ◇



 翌日もロロベリアたちは訓練を熟しつつ、アヤトが不在なのをこれ幸いと来たるべきイベントに向けての準備を進めていた。

 ちなみにアヤトの帰宅は遅くなるとマヤから連絡があり(というよりロロベリアが再び確認したのだが)、明日からの訓練に備えて早めに就寝。


「…………」


 したのだが、リースはベッドでもぞもぞしていた。

 この一月、毎日アヤトの料理を食べていることから町の食堂やお弁当が味気なく感じてしまい、あまり食が進まなかったからで。

 偉そうでロロベリアを振り回してばかりで口が悪くも料理の腕は一級品なので食欲旺盛なリースは完全に餌付けされているのだがそれはさておき。

 強さと料理の腕前だけは認めているだけに、アヤトの料理を朝昼晩と食べられる共同生活をリースは満喫していた。

 なのに勝手な理由で食事の用意を放棄、まあ事後承諾とはいえ精霊祭に向けての仕入れなら立派な理由になるも、元よりアヤトの印象があまり良くないリースにとっては関係ないと苛ただしく。

 また共同生活が始まる前より早く夕食を済ませる習慣がついたのも理由の一つ。いつもならアヤトの訓練による疲労で眠気が勝っていたが、昨日今日とここで訓練すれどやはり疲労感はそれほどではない。

 八つ当たりのような苛立ちから眠気よりも食い気が勝りどうにも寝付けなく。


「…………仕方ない」


 食材管理はアヤトが担当しているのでつまみ食いなどすれば説教は確実。しかしこの空腹は彼のせいでもある。

 故に果物か野菜でも適当に囓ろうと一階に下りればリビングの精霊器が灯っていた。


「……帰ってる?」


「――はい。一時間ほど前に」


 独り言に背後から返答が。

 マヤの急な登場に今さら驚くことなくリースは振り返る。


「ただいま帰りました。まだ起きていらしたのですね」

「おかえり。アヤトはどこ」

「訓練場に」


 アヤトが帰っているなら一応許可を得るつもりでいたが、マヤから意外な場所を告げられた。


「もしかして訓練してる?」

「日課ですから。それこそ旅をしていた頃から続けています」

「……わたしたちとの訓練が終わってからも?」

「こう言っては何ですが、兄様にとってみなさまとの訓練は児戯にも等しいですから」


 煽るようにマヤはクスクスと笑う。アヤトなら準備運動のような扱いになっても当然とリースは特に不快を感じない。

 それよりもアヤトが普段、どのような訓練をしているのか興味深く。


「見てもいい?」

「わたくしに聞かれましても」

「そう」


 確かにマヤの許可を得る必要はないと真っ直ぐ訓練場へ。

 勝手に入れば機嫌を損ねる可能性はあるもそこはリース、興味に赴くまま堂々と扉を開けた。


「…………」


 同時に目に入った光景に言葉を失ってしまう。

 僅かに差し込む月明かりに照らされた訓練場の中央にアヤトはいた。

 両手に持つ朧月をひたすら上下に繰り返す動作は周囲の空気を切り裂くように鋭く、しかし切り裂いた空気を巻き込まない穏やかさ。

 極限まで無駄を省いたその一振り一振り、あまりの美しさに背筋がゾクリとするほど。

 ただの素振りでも地味な反復練習を愚直に繰り返し続けたアヤトの軌跡を感じさせる凄みがある。


 その姿に、軌跡に見惚れていたリースを余所に振り下ろした朧月を止め、アヤトは右手を離すなり姿を消した。

 無意識にリースは精霊力を解放。強化された動体視力が捉えるのは訓練場内を縦横無尽に駆け回り朧月を振るうアヤトの姿。

 ただ動き、振るうのではなく合間にフェイントを入れたり緩急を混ぜたりと対人戦を想定したもので。その一つ一つもまた実戦さながらなもの。

 現にリースにはアヤトが仮想している相手がラタニだと分かるほど。


 以前の模擬戦を再現するかのように、しかしただ再現するではなく上回るような意思が見て取れる。

 先ほどの素振りに然り、相手を想定した型に然り、訓練としては別段珍しくはない基本的なもの。

 だがアヤトの()()は全てにおいて恐ろしいほどレベルが高い。

 ラタニから聞いてはいたが、常識を覆す為に積み重ねた鍛錬の一端を。

 初めてアヤトの個人訓練を目の当たりにしたことでリースは認識を改めてしまう。

 

 彼は他の誰よりも必死に高みを目指し続けていたのだと。


 それほどの説得力が、軌跡がヒシヒシと伝わる。

 普段の横柄な態度からは想像も付かないほど謙虚な鍛錬を垣間見たことで、これまでアヤトに向けていた尊敬の念がより強くなっていく。

 それこそ最も尊敬していた父よりも。


「――いい加減目障りなんだが」


 自分に一度も視線を向けることなく集中していても、しっかり認識していたようで不意にアヤトが訓練を中断して不快感をあらわに吐き捨てる。


「で、何か用でもあるのか」

「……えっと。灯り……点けないの」

「あん?」


 とっさに出た無意味な質問に朧月を鞘に納めてアヤトは首を傾げるも、リース自身もなぜこのような質問をしたのかよく分からない。


「明るかろうが暗かろうが訓練は出来るだろう」

「……うん」

「つーか俺は用件を聞いているんだが」

「お腹空いたから、マヤからここに居ると聞いて。あとどんな訓練してるのか興味があって……」

「のぞき見ていたと。にしても食い意地の張っているリスらしい用件か」

「……悪いの」


 それでも、いつもの憎まれ口や小馬鹿にする笑みにムッとなり、リースもいつもの調子を取り戻して睨み返す。


「腹が減ってるなら保管庫の果物でも適当に囓ってろ。むろん後片付けと清掃はしておけよ」

「面倒くさいからいい。もう寝る」

「その程度で面倒くさがるとは、なんともリスらしい」

「アヤトに言われたくない」

「言いやがる」


 最後まで小馬鹿にされながらリースは訓練場を後に。


「やっぱりあいつ……むかつく」


 そしていつものように不満を漏らすも、柔らかな表情になっているのは本人すら気づいていなかった。




ロロベリアから始まり、遊びと称してみんなの訓練を受け持っているアヤトも日々鍛錬を怠っていないのです。

その一面をロロベリアやユースに比べて今ひとつアヤトを受け入れていないリースが知ったことで、四人の関係性が今よりも良い方向に変わるかと。


さて、次回更新からいよいよ精霊祭が開催するのでどうぞお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

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