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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第六章 兆しの精霊祭編
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幕間 しがらみ

アクセスありがとうございます!



 もうすぐ日付が変わる頃、夜の静寂に溶け込むよう物音すら立てずに自室へ戻ったアヤトは精霊器で明かりを灯す。

 シャワーを浴び終えたばかりの湿り気を帯びた黒髪をタオルで乱雑に拭い、左手で器用に持っていた朧月と新月をローテーブルに。

 続いて床下収納から取り出した木箱も置いてソファに腰掛け、まず新月を手にしたところでため息一つ。


「今日も遅くまでお疲れちん~」

「ノックくらいしろ」


 同時にドアが開きラタニが入室。


「せんでも気づいてたくせに」

「寝てたんじゃねぇのか」

「いきなりリビングでおねんねさせたのはどこの誰さね」

「カナリアをリビングでおねんねさせるわけにもいかんだろう。お前と違って色々手伝ってくれたからな」


 元より平民区の宿屋に滞在予定のカナリアを、夜も遅いと自分が寝泊まりするはずだった一室を勧めたアヤトを批判するもどこ吹く風で。


「その優しさをお姉ちゃんにも向けて欲しいねぇ。つーわけでちょい茶でも付き合えよ」

「誰が姉だ……たく」


 ここで口論するのも面倒とアヤトは刀の手入れを諦め、朧月と新月をソファに立てかける。

 その間にラタニは足を器用に使ってドアを閉め、空いたローテーブルに湯飲みを置く。


「つーかこの部屋マジお前専用な。椅子のひとつくらい用意せんとロロちゃんが遊びに来れないでしょ」

「白いのと遊ぶなら訓練場で充分だ」


 続いてラタニがローテーブルに腰掛けるも、不作法はいつものこととアヤトは無視。


「キッチン使ったなら後で掃除しておけよ」

「お前ほんと神経質な」

「テメェの家が不衛生なのは落ち着かねぇんだよ」

「テメェの家……ねぇ」

「……相変わらず茶の一つもまともに煎れられねぇのか。クソ不味い」


 何か言いたげな視線も無視して湯飲みを口に付けるアヤトにケラケラと笑ってラタニも一口。


「んで、三人との生活はどーよ」

「俺が言い出したことだ。今さら不満を口にするつもりはねぇ」

「そりゃなにより。にしてもすっかり人気者になっちゃって、エレちゃんらも遊びに来るようになったんだって?」

「人気者かどうかは知らんがな」

「しかもランちゃんやディーちゃんには手料理まで振る舞ったとか」

「元はマヤの提案だ」


 素っ気ない返しが続くもラタニは嬉しくて仕方がない。

 ロロベリアやリース、ユースから聞いたここでの暮らし。

 訓練目的でも誰かがアヤトの元を訪れ、一緒に調理をしたり食事をしたりとまるで普通の学院生のような時間。

 加えてルビラやグリードも今度ここに来ると聞いている。ルビラは精霊祭の企画で何か相談したいらしく、グリードは他の子と同じで訓練を受けられないかとの理由だがそれでもだ。

 ロロベリアを切っ掛けにリースやユースが。

 親善試合を切っ掛けに序列保持者が。

 今回の一件でルビラやグリードが。

 少しずつアヤトを理解し、歩み寄ってくれている。

 どんな理由であれ時間を共有してくれる。


 それはまさにラタニが望んでいた光景で。


 当の本人がどう感じているかは分からないが、ここを自分の家と口にしているなら悪い気はしていないだろう。失言と捉えているあたりが相変わらずの捻くれっぷりだが。

 とにかく自分と暮らしていた頃とは違い、同年代の子らが訪ねて来るようになった。

 今後も少しずつでも増えていくかも知れない、それがラタニは楽しみで。


 出来ることならこのまま青春を謳歌して欲しいが――残念ながらしがらみというのは中々拭えない。


「で、今度はどんな面倒ごとだ」

「なにがかにゃー」

「惚けるな。物音くらいで起きる繊細な神経してねぇだろう」

「酷くない……?」


 辛辣な言葉よりも残念な気持ちからラタニは肩を落とす。

 今のような普通のやり取りを楽しみたいのに察しのいい弟は本題に入ろうとする。

 こうした情緒を少しでも楽しめるゆとりを得るのはいつの日かと待ち遠しく思いつつ、茶を飲み干して本題へ。


「あんたも知っての通り、帝国のバカ共がちょっちずつ吐いた情報が入ってね。それとま、ディリュアのおっさんがやったバカ事業も知ってるでしょ」

「……教国か」


 帝国の過激派を探り証拠を集めたアヤトなら自分よりも詳しい情報を知っているも、今の情報で教国を挙げる察しの良さも相変わらず。


「そのとーし。帝国のバカ共がもしやクーデターでも企てんじゃないか? てのは王国でも掴めた情報。にも関わらず両国の仲介してまで仲良くしましょーと宣った教国が掴めないはずもなし」

「なのに最後まで目立った動きはなかった、か」

「んでんで? ディリュアのおっさんが横流しした諸々は近隣諸国、まあメインは公国だったけど」

「教国のみ無関係だった」


 改めて解を口にするアヤトのパチパチとラタニはおざなりな拍手を。

 教国は王国、帝国に並ぶ大陸三大国の一国、なのに帝国の情勢を掴めないはずがない。だが仲介をしてまで争いを治めた教国が再び戦争を起こしかねない火種を警戒せずは奇妙な話。

 加えて他国に王国の情報や技術を横領したディリュアの一件。

 アヤトによって暴かれ、他国の者も既に刑を受けているが、公国経由もあれば刑を受けた帝国の商会と資金の一部が帝国の過激派にまで流れていたと新たに発覚。

 本来なら王国貴族の起こした問題として王国の面目は潰れるところだが、その過激派を一網打尽にするに多大な貢献をしただけでなく皇女の救出も協力した白銀(アヤト)を送り込んだことでむしろ帝国に貸しを作れた。

 つまりレグリスの思惑通りの結果。ただどれだけ再調査しても近隣諸国で教国だけ一切関わっていないのは逆に違和感がある。


「つーか詳細調べるのに随分時間が掛かったな」

「隠し事見つけるのが得意なあんたが動けなかったからねー。まあそれはいいとして、無闇やたらに相手を疑わない! 横領なんざ誰が受け取るか! てな感じで清廉潔白が信条の教国さまらしいっちゃらしいけど、ここまでお綺麗過ぎると逆にきもい」


 もちろん教国が純粋に不正不法を拒む清らかな心根の持ち主ばかりの可能性もゼロではない。しかし綺麗事だけで国は成り立たず、全ての民が善人な国などありはしない。

 主観といえばそれまで。しかしディリュアの一件に帝国の一件が重なれば勘ぐりもしたくなる。


「なによりあたし教国あんまし好きくないんよねー」

「お前の好き嫌いはどうでもいいんだよ。国王はどう考えてんだ」

「考えすぎ……でも念のためちょいちょい探る? まあ確証無しで事荒立てても無駄なお仕事増えるだけだしねん」

「つまり、ちょいちょい探って何かあればお仕事依頼するんで覚悟しておけか」


 故に教国の動向を窺いつつ、必要あればアヤトに協力して欲しいとの言伝が本題。

 諜報活動に関して右に出る者はいなく、国王が頼りにしたい気持ちは分かる。他国の陰謀で今の平和が脅かされるならアヤトは惜しみなく協力するだろう。

 もちろんラタニも平和を望んでいる。

 アヤトの能力は誰よりも知るが故に信頼している……が、守る強さが必要だと普通の時間を捨ててまで得た強さが、今の平穏な時間を捨ててまで守り続ける結果になるとは何と皮肉か。

 故にラタニには割り切れない気持ちはあるわけで。


「それとまあ? 教国の聖女さまにはご注意を、これあたし個人の忠告ね」

「たんにお前が教国を好きくないからだろ」

「ご名答。つーか教国にも旅行したんだろ? あんたこそどう思ってんの?」

「綺麗事が大好きな国か。ま、立ち寄った程度だが実際は知らん」

「それ最悪じゃん。んでんで? 実際聖女さまはどうなんよ」

「……あいつに関しては俺もよく分からん」

「あら珍しい。人の粗探しするの得意なあんたが?」

「粗探しなんざした覚えはないがな。つーか用が終わったならさっさと寝ろ」

「えーケチ。恋バナしようよー」

「俺はお前と違って早起きなんだよ。そもそも恋バナなんざどうやるんだ」

「あんたとロロちゃんについて語れば?」

「おい、ラタニ」

「なにかにゃー」


「バカなのか」

「真顔で返されると真意がわかんねー」


 それでもラタニはおくびも出さずケラケラと笑う。

 しがらみだらけの弟が平穏な時間を過ごせるように。


 せめて自分だけでも守ってやりたいと。




王国に戻って平穏な暮らしが始まりましたが、水面下では面倒ごとが耐えません。


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