学院生会からの提案
アクセスありがとうございます!
エレノアとミューズが訪問した翌日。
本来なら昼休憩時は学食に向かうロロベリア、しかし今日は学院生会室に向かっていた。
と言うのも今朝、序列保持者は昼休憩時に学院生会室に招集と講師から報告を受けたからで。
ユースに代わりを頼んで序列十位として従い向かっているが、急な収集理由が分からず少々困惑気味だ。
まさか批判的な声で再びロロベリアの資質が問題視、というのはないだろう。かといって学院の許可を得たアヤトとの共同生活も関係ないはず。ならばリースとユースも呼ばれるはずだ。
序列保持者が訪れていることか。だがそんな噂は耳にしていない。
色々と理由を考えるも思いつかないまま学院生会室に到着、ノックをして許可を得てからドアを開けた。
一学生の教室は学院生会室から一番遠いからか、既に他の九人も揃っていて恐縮しながらも入室するがロロベリアは違和感を抱く。
何故なら学院生会の長であるレイドが居るのに許可を出したのは別の声、しかもレイドを含めた序列保持者は来客用のソファに着席している。
代わりにこの場を仕切るよう立っている二人。
一人は金髪を短く切りそろえた長躯の男性、体格も良く厳つい顔つきも相まって近寄りがたい印象がある騎士クラスの代表、グリード=マドリック。
もう一人は対照的に小柄でクリッとした目と幼い顔立ちが愛らしく、ダークブラウンの髪を肩口で切りそろえた仕官クラスの代表、ルビラ=フィン=フレンディ。
つまりレイドやカイルを加えた学院生会の六人の内二人いるも、残りの精霊騎士クラスと精霊学クラスの代表がいないのはどういうことか。
「リーズベルトも着席してくれ」
「……はい」
だがグリードの厳しい声に促され、考えるよりも従いソファへ。序列順に並んでいるようなのでエレノアの向かい、ミューズの隣りに着席した。
「貴重な昼休憩に収集をかけてしまい申し訳ない」
「ただレイドくんとカイルくんから序列保持者は訓練で忙しいって言われてね~。だからこうして集まってもらったんだけど~」
早速説明を始めるも、雰囲気同様グリードとは対照的にルビラの間延びしたポワポワ声に気が抜けてしまう。
また男爵家のルビラが王族のレイド、侯爵家のカイルをくん付けするのも学院内では立場関係ないが信条。こうして学院生のトップが率先するのは必要でもあるがそれはさておき。
「でね、本題なんだけど~。序列保持者のみんなに精霊祭のイベントに協力して欲しいなってお願いするためなの~」
『…………?』
その本題にレイドとカイルを除く八名は首を傾げてしまう。
精霊祭とは風精霊の周季一月目にマイレーヌ学院で行われる祭事のひとつ。
学院生が主導で三日間、広大な敷地を利用して様々な催し物を開くのでラナクスの住民だけでなく地方からも人が集まり、その三日間のみ王都よりも賑やかになるほど。更に最終日にはちょっとした言い伝えもあったりする。
ただ学院生主導と銘打つが実際のところ貴族同士が派閥で集まり華やかな行事を開くか、平民同士が集まり屋台を開くかと妙な落差はあったりもするがとにかく。
今までの精霊祭では序列保持者が協力するようなイベントは無い。また学院生主導が故に学院生会が祭事を取り仕切るもなぜ騎士クラスと仕官クラスの代表のみで提案しているのかが分からない。
「だよね~。これだけじゃみんな『なにこの子バッカじゃないの? そんなイベントないし、そもそも他の代表は無視かよ? これだから仕官クラスの代表は抜け目ねぇわ』って思うよね~」
『…………』
そこまで思ってないがポワポワ口調と声音でアレな発言をされてロロベリアだけでなくルビラとあまり面識のない二学生も面食らう。
ミューズは負けずにポワポワ笑顔で聞き入っていたが、三学生が全く気にしていないのならルビラは見た目とは裏腹に癖の強い人らしい。
「だからここからの説明はグリードくんにお願いしま~す」
とにかくルビラはいったん下がり、変わって指名されたグリードが咳払いを一つ。
「ここに居る十名には今さらだが、序列者同士が公式に戦うのは下克上戦のみだ」
序列保持者だからこそ今さらな説明から始まった。
下克上戦とは三月に一度の入れ替え戦とは違っていつでも指名挑戦できる。また挑戦できるのは自分より上位者のみで挑まれた者に拒否権がない。
選抜戦でも序列保持者でタッグを組むこともあり、それ以外で序列同士が公式の場で戦う機会はない。故に決まれば大いに盛り上がるイベントだが滅多に行われない。
理由は下克上戦は入れ替え戦ではないことにある。
例えば十位のロロベリアが九位のミューズに下克上戦を挑むとする。
勝利したロロベリアはもちろん繰り上げで九位となるが、敗北したミューズが十位に繰り下がるのではなく序列が剥奪されてしまい、再び序列に返り咲くには三ヶ月空けた入れ替え戦に出場するしかない。
逆にミューズが勝利した場合は当然序列は維持で、敗北したロロベリアが序列を剥奪されて返り咲くには同じ手順を必要とする。
そしてどちらが勝利した場合でも、空席の十位を巡って序列入りを狙う者らで熾烈なトーナメント戦が行われる。
この条件は入れ替え戦で挑戦された序列保持者が敗北した場合、繰り下がるのではなく勝利した学院生に自身の序列を明け渡すルールだからだ。
つまり敗北した者に序列の資格無しとの意味合いと同じ。唯一の例外はロロベリアとエレノアが争った継続戦のみ。
まあ継続戦そのものが初めての試みと、これで分かるように下克上戦にはうま味がないと行われないのだ。
なんせ序列の順位に特権は関係ない。専用の訓練場や他様々な保証が同じなら敗北した際のリスクを考えれば下克上戦を挑んで順位を上げる理由はない。故に下克上戦が行われるのは毎年度、卒業シーズンのみ。
三学生は学院を去る前に最後の栄光を手に入れようと上位者へ。
一、二学生は三学生が学院を去る前に最後の挑戦としてやはり上位者へ。
卒業前の一大イベントとしてやはり大いに盛り上がりるも、結果として序列者同士の真剣勝負は希少。
「親善試合で数年ぶりの勝利、しかも全勝との結果でいま序列保持者は国内で注目を浴びている。また今年は帝国での開催で多くの国民がみなの勇士を見られなかった。だからこそ、精霊祭の一大イベントとして序列保持者のエキシビジョンマッチを提案する」
「ああ、だからあなたたちが主導なのね」
そして希少だからこそ、今回の企画に繋がったと熱弁するグリードにシャルツが納得。
学院生会の提案で序列同士のエキシビジョン、故に公平を期するために序列入りしているレイドとカイルだけでなく、序列者を保有する精霊騎士クラスと精霊学クラスの代表も関与しないようだ。
「そういうことだ。自身のクラスを優先するような組み合わせをする代表などいないが、少しでも疑惑を取り除く為に俺とルビラが主導している」
「ただ提案したのはレイドくんなんだけどね~」
「あくまで企画提案をしただけ、だけどね。グリードくんが言っていたようにボクらは注目の的で、王国を勝利に導いた代表がどれほどの実力かを学院外のみんなにも知ってもらえるなら精霊祭が一番かなって」
ルビラの暴露に苦笑しつつレイドは語りかけるように思いを紡ぐ。
「それにエレノアとロロベリアくんの継続戦でも白熱し、奮起する学院生が増えていたのも理由かな? ボクらは学院を代表する序列保持者だからこそ、実際に争い切磋琢磨する姿を見せることでみなを牽引する立場にある。これも上位者の責務だ」
「上手く行けば精霊祭の恒例行事にしてもいい。とにかくエキシビジョンだから剥奪はない。学院の利益にもなるなら悪い話ではないと思うがどうだ」
学院生会の会議に参加していたカイルが引き継ぎ他の面子を見回す。
ロロベリアとしては反対する理由はない。序列保持者だからこその責務として学院生の実力向上や学院の貢献になる。なにより模擬戦ではなく公式の場で上位者と戦えるのは良い経験と反対しないが疑問はある。
「……あの」
しかし質問する前に隣りのミューズが挙手を。
「イディルツ嬢、なにか問題でも?」
「わたしも序列保持者として、少しでも協力できるのであれば問題などございません。ですが親善試合の結果、という理由であればわたしではなくアヤトさま方が参加するべきかと。わたしは選抜戦にも出場していませんし……場違いでは」
申し訳なさそうに語る内容はロロベリアも感じていた疑問。
序列同士の戦いが希少ならミューズも参加した方が盛り上がる。しかし親善試合を前提にした提案なら代表のリースやユースは当然、アヤトにも参加権利はあるはず。
もちろん人数的に一人余るし、今後の精霊祭で恒例行事にするとしても……この提案にアヤトが出場するとは思えなくとも……せめて声くらいはかけるべきではないか。
「確かに今年のイベントであれば彼らにも参加資格はある。……私情を挟んで良いのならカルヴァシアには是が非でも参加して欲しい」
「そうなるとグリードくんも除け者になっちゃうけどね~」
「カルヴァシアの参加は俺たち騎士クラスにとってそれだけ意義がある。持たぬ者にも可能性があるのだと……っ」
ルビラの茶化しも無視でグリードは拳を握り力説を。
ただ気持ちは何となくでも察することが出来る。こうした実力を示す場(晴れ舞台)に騎士クラスは今まで参加できなかった。持つ者と持たぬ者の差が故に仕方がないといえば終いだが、燻りはあっただろう。
そこで突如現れたアヤトの存在。騎士クラス所属で初の選抜戦出場のみならず補欠とは言え初の代表入り。精霊術士や精霊士を相手に互角以上の実力を示したことで騎士クラスにとってまさに希望となったはず。
「口も態度も悪いがそれを些細だと思わせる強さ。現に実技訓練では彼に挑み、学ぶことで一学生の実力は向上していると聞く。出来るなら俺もご指導願いたいものだ」
アヤトが実技訓練に参加するようになって騎士クラスの一学生が学食へ来るようになり、選抜戦でも応援していたことから騎士クラスの間では随分と指示されているらしいが、どうやら一学生だけではないようで。
「だが……私情を挟まぬのなら第一に考えるのは学院。故にまず序列保持者の協力を得るのが先決だ」
「つまりアヤトくんやリースちゃん、ユースくんにも打診はするけど今は企画がおじゃんしないように序列保持者の意思確認が優先なの~」
ルビラの独特な言い回しは気になるも、恒例行事として見据えた企画なら序列保持者の協力が必要らしい。
「だから協力しても良いかなって思う人は手を挙げて~」
ならば反対理由はないとロロベリアだけでなく、他の九人も手を挙げたので協力が決定した。
「やった~! じゃあ次は三人にお願いしないとね~。でないと企画案を練れないし~」
「カルヴァシアは協力してくれるだろうか……」
「お優しいアヤトさまのことです。心を込めてお願いすればきっと協力してくださるでしょう」
諸手を挙げて喜ぶルビラに対し、私情を漏らすグリードに慈愛に満ちた微笑みを向けるミューズだが――
(無理だろうなぁ)
(無いな)
(私たちのように序列の責務がないのであればアヤトさんに力を振るう理由はありません)
(つまり受けないと。さすがお嬢さまです)
(悪い奴ではないが……ミューズ、それは甘い考えだ)
(無理でしょ)
(土下座しても無理に決まってんだろ)
(シャイだものねぇ、彼)
アヤトに一度はボッコボコにされたメンバーは同じ結果を予想。
(……してくれないと思う)
当然ロロベリアも協力しないに一票だった。
ルビラは作者的にわりと好きなキャラです。
それはさておき精霊祭ですが、要は文化祭のような催し。
はたしてアヤトは協力してくれるのか……なぁ。
みなさまにお願いと感謝を。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして欲しいです!
更に『いいね』をポチッとお願いします!
また感想、誤字の報告もぜひ!
作者のテンションがめちゃ上がります!
みなさまの応援が作者の燃料です!
読んでいただき、ありがとうございました!