変化 後編
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ランとディーンの訓練も終ればアヤトが夕食の支度に取りかかり、食後にロロベリアらの訓練が始まるも、ここでも変化が。
「さすがは食堂の娘と言ったところか」
「まあね。包丁なら武器よりも前から持ってたから」
「しかし……お前は精霊術よりも上手いんじゃないか?」
「厨房のお手伝いしてたのが活きたわね」
「……うるせー」
シャワーを浴びて着替えた二人もアヤトと共にキッチンに立っている。というのも帰ろうとした二人をマヤが引き留めたのだ。
『兄様もそれなりに楽しまれているのなら、お二人にもお返しをするべきでは? 食材もありますし。それにわたくしもお二人とお喋りしてみたいです』
手土産持参が条件でもそれはそれ、訪れても訓練ばかりでは自分が交流できないとの訴えで夕食を共にすることになった。
ただ自分たちが望んだことなのでご馳走してもらうのも悪いと、二人が手伝いを申し出てこの状況。
「……なに企んでるですか? 神さま」
「企むだなんて。ただあの兄様が暇つぶしとは言えここまで関わろうとするお二人に興味を持っただけです。あくまでそれなりに、ですが」
「さいですか」
リビングで待ちながら聞こえないようユースは勘ぐるもマヤは笑顔で否定。
まあ気持ちは分かる、なんせこの状況をアヤトが素直に受け入れたのだ。ユースとしてもどんな心境の変化だと若干の怖ささえあるが、やり取りを聞いていたロロベリアは首を傾げてしまう。
「マヤちゃんが気にするほど変には思わないけど」
「そうか?」
「どうしてそう思われるのでしょう?」
「ん~……確かに自分の興味あるなしで物事を決めるし、気むずかしいし、警戒心は強いし、秘密主義だし、人をからかうし、無愛想だし、口も悪いし、自己中だし、あまり人と関わろうとしないけど……」
「むしろ変にしか思えない」
「同感」
指折り数えつつ出てくる評価にリースとユースは茶々を入れるもロロベリアの声音はどこか嬉しそうで。
「でも、アヤトに遠ざけようとする意思はないと思う」
その評価は全て関係ないと言わんばかりに折りたたんだ指をパッと開く。
今まで周囲がアヤトと距離を取っていたから友好的に見えないだけで、本人は別に人間不信でも嫌いでもない。
ただそう見える理由がアヤトにあるのは否めない。相手に思うことはそれこそどう思われようと関係なしで口にする。結果口調の悪さも相まって相手が激怒してしまう。要は自分から歩み寄ろうとする努力をしていない。
しかし相手にも非はあるとロロベリアは考える。
アヤトの態度や言葉を表面上でしか捉えず、真意を探ろうともせず拒絶する。つまり悪いところを指摘されて怒るのはお門違いだ。
現にアヤトの悪い部分を知って尚も受け入れてくれる人は居て、その人たちはみな悪い部分以上に良い部分を知っているからで。
その証拠にランやディーンを始めとした序列保持者だけでなく、最初は悪印象だったリースも表面上に捉えるのを止めてから距離が近づきつつある。
強さに憧れたのもあるだろう。しかしアヤトがただ強いだけならこうして教えを請うような行動はしない。
そしてアヤトも理不尽な理由で相手を拒絶しない。恐らく相手が悪意を向けるから無視をするかやり返していただけで、純粋な気持ちで向き合おうとするならちゃんと向き合う努力をしてくれる。
だから手土産を持参してまで教えを請う姿勢を見せれば、その思いに答えてくれるわけで。
「結局のところもの凄く不器用なだけで、アーメリさまが言ってたようにアヤトは根っからのお人好しなのよ」
「なるほどね……切っ掛けは特殊だったけど、姫ちゃんは歩み寄る努力をしたからアヤトも応えようとしたわけか。姉貴みたいに」
「なぜわたしがあいつと一緒になる」
「んなの姉貴が一番分かってんじゃね?」
さすがこれまでアヤトを知ろうと努力を続けているロロベリアだけあり、妙な説得力があるとユースも納得。
要は相手が歩み寄ろうとしないなら自分もしない。
相手が歩み寄る努力をするなら自分もそれなりに努力をするだけのこと。
程度はあれど、なら今の状況も変ではない。
「さすがロロベリアさま。兄様を語らせればラタニさまに次ぐ人間、わたくしとっても楽しませて頂きましたわ」
「……アーメリさまには負けるわけね」
マヤも満足したようだがロロベリアはため息一つ。
クロの時代を加えても過ごした年月、知る努力も少ないのでラタニほど理解できると自惚れていない。
もちろん今は、だ。いつか自分が一番の理解者になる予定だが、それよりも今は別に思うところがある。
「そう言えば……ロロベリアの瑠璃姫やリースの炎覇ってアヤトの刀を造った人なんでしょう?」
「だからなんだ」
「良ければその人にあたしの武器も造ってもらえないかなって。だってもの凄く完成度が高いじゃない」
「そういやフロイスも言ってたな」
「当然よ。あたしたち精霊士は良い武器に憧れるもの……だからお願い――」
「却下だ」
「……する前に断らないでよ。良いでしょ、ロロベリアやリースだけずるいー」
「そもそもあの二人にはお前が勝手に用意したんだろ? なんでだ」
「なんだって良いだろ。つーかお前は黙ってスープをかき混ぜてろ、精霊術よりお玉の扱いがお上手な序列七位さま」
「お前ほんとむかつく!」
「そりゃどうも」
「なにがどうもだ! だいたいだな――」
「ディーンは黙ってお皿の用意。今はあたしがアヤトと交渉してんの」
「……俺の扱い酷くない?」
ランやディーンと会話をしつつ調理を続けるアヤト。
アヤトの失った時間を少しでも取り戻すため、わざわざ同年代の集まる学院に呼んで関わらせようとして。更に依頼を利用して騎士クラスに所属させることで更に関わりを持たせ、できるなら青春をして欲しいとラタニは願い続けていた。
親善試合で王国を留守にしていた分、今は軍務の消化に忙しく一度もラナクスに訪れていないが早く見て欲しく思う。
少しずつアヤトの理解者が増えて、こうして共に時間を過ごす光景を望んでいた優しい姉は、きっと今自分が感じている以上に喜んでくれるから。
それともう一つ。
「ほう? 中々に美しい盛りつけだ」
「でしょ?」
「それに比べてどこぞの序列七位さまは精霊術と同じくらい雑だな」
「精霊力を感じられないお前に精霊術がどうのは分からないだろ!」
「……羨ましい」
アヤトと調理を楽しむという光景を前に、早く手伝えるレベルまで上手くなろうと誓うロロベリアだった。
◇
その後はいつもより賑やかな食事の時間。
特に社交性の高いランがこりずにアヤトに武器の依頼を頼んだり、マヤに率先して話題を振ったりディーンを弄ったりと楽しそうで。もちろんロロベリアやユースも会話に参加していたが、アヤトは適当な相づちを返す程度でリースは黙々と食べていたりする。
そして楽しい食事も終わり、二人が帰宅すれば予定通りロロベリアらの訓練が始まる。
「リス、ユース。今日はお前らと遊ぶのは無しだ」
のだが、どうやら今夜はロロベリアのみの訓練らしい。
「変わりに洗い物とキッチンの清掃、むろんリビングも綺麗にしておけよ」
「まあ……オレは構わないけど」
「……なぜ?」
厳しい訓練を回避できる嬉しさよりも、いつもロロベリアには治療術で負担をかけているので異論はない。
ただ急な予定変更は気になるわけで、キョトンとなるロロベリアに変わって名指しされた二人が首を傾げる。
「大した理由はねぇよ。構ってちゃんが随分と構って欲しいようでな、たまにはじっくり遊んでやろうと思ったまでだ。なんせ先ほどは随分とけなしてくれたからな」
「……けなした?」
朧月と新月を手に訓練場へ向かうアヤトから思わぬ理由を口にされ、身に覚えがない批判に困惑しつつもロロベリアが瑠璃姫を手に後を追えば――
「確か俺は興味あるなしで物事を決め、気むずかしく、警戒心が強く、秘密主義で、白いのをからかい、無愛想で、口が悪く、自己中で、陰険……だったか」
淡々と告げられ顔が青ざめる。
どうやら調理に集中している上に小声で話していたのに聞こえていたようで。
「陰険とは言ってないでしょ! というか……アヤト、もしかして……怒ってる?」
「そもそも怒る理由がねぇし、怒っているならむしろ構ってやるかよ」
「……そう」
「納得したなら結構。さて、久しぶりにじっくりと遊んでやるから覚悟しろ」
「怒ってるよねっ?」
「案ずるな。今日は更に新しい遊び方で構ってやる」
「新しい遊び方ってなにっ? 案じれないんだけど! ねぇアヤト――」
「ああ、遊び終わったらリスにお前を迎えに寄こしてやるからそこも案ずるな」
「この距離で迎えが必要なのが怖くて案じれないんだけど! というか――」
「楽しみだろう」
「だから怖いんだけど! ねえアヤト、私の話を聞いて!」
「……オレも気になるけど、覗くのは無粋か」
「ロロ……頑張って」
必死に抗議するロロベリアをユースは苦笑、リースは拳を握って見送った。
ちなみにいつもより早い時間に訓練が終わったにも関わらず、リースは本当にロロベリアを迎えに行くことになった。
とにかく新しい遊び方――訓練法はまだ馴れないが、思わぬ変化から始まった共同生活はロロベリアにとって充実した毎日。
大英雄を目指す為に更なる訓練が詰めるだけでなく、愛する人と一緒に暮らせる。それにアヤトと交友を深めてくれる人が増えるのも嬉しいくて。
ラタニが望んだようにこうして失った時間を少しでも取り戻してくれればとロロベリアも望んでいたが――
「明日は私とミューズで訪問しても良いだろうか」
「……ミューズさまも、ですか?」
エレノアからの思わぬ申し出に若干の不安を感じていた。
ロロが経験した新しい訓練については後ほど分かるかと……。
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