変化 前編
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長期休暇も終わり学院が再開、同時にいくつかの変化が起きた。
まず何と言っても親善試合で数年ぶりに王国代表が勝利。しかも全勝という快挙に出場した序列メンバーは更に憧れの存在に。
帝国代表の序列一位、ベルーザを瞬殺したリースも以前より注目されるようになったが、対照的にペアとして出場したユースは何もしていないと微妙な評価。
しかしユースはまだマシな方。ロロベリアは正規代表にも関わらず体調不良で不出場との結果に一部の学院生からは批判的な声が。なにより実力的に認められて補欠メンバー入りしたアヤトを批判する声も多かった。
そもそも正規代表に何かあった場合の補欠メンバーで過去の親善試合でも希でも交代はあり、補欠メンバーが批判されるようなことは一度も無いにも関わらずこの評価。
理由は主に結果と二人の経歴。
多大な成果は賞賛を生むと同時に僻みも生む。そのはけ口に一学生ながら序列入りを果たしたロロベリアと、持たぬ者ながら代表メンバーに加わったアヤトが選ばれただけ。特にアヤトは就任時から評判も悪いので尚のこと。
まあ批判的なのは一部の学院生。本人らが完全無視を決め込み学院側も呆れるのみで相手にしていなかったりする。
そして変化と言えばやはり学食。功績が認められて資金増額と共に休暇中に改装工事が行われて内装も一変、それこそ一般の学食よりも立派になった。
アヤトは満足そうだが、むしろロロベリアにとってこの変化を問題視していたりする。なんせ資金だけでなく職員も増員されたのだ。
どうやら学食の状況を察した国王と宰相が秘密裏に準備を進めていたらしい。特別学院制度でアヤトが騎士クラスに所属したこともあり、講習に出る時間を増やすのが目的のようだ。
まあアヤトは余計なお世話だと口にしていたが増員は助かるので了承。ロロベリアも学院が再開する前に顔合わせをすることになった。
ケーリッヒ=デイザー。身長はロロベリアより少し高めだがそれなりに鍛えているのか身体はガッチリとしている。また一九才にしては幼い顔立ちで一学生に紛れても違和感がない。温和な性格で年下のロロベリアにも丁寧な対応、王都の食堂で働いていたらしく厨房でも即戦力になる逸材。
だがロロベリアが最も興味を向けたのは彼の経緯。
「アヤトさんが困っていると聞いたので、お役に立ちたいと名乗り出ました」
「別に困ってはないんだがな」
何でもケーリッヒは一年前にアヤトに救われたらしく、その経緯から声をかけられ本人も快く転職したとのこと。
どのような形で救われたのか実に興味はあるが、無駄口叩くなとアヤトが割り込み聞けず終いで気になるもケーリッヒの配属は構わない。
しかし今後の方針を決める席でアヤトが売り上げ次第でバイトを募集。集まればロロベリアを退職させると言い出したのだ。
「お前は働かなくとも問題ないからな」
「でも、だからって――」
「むろん今まで協力してくれたことに感謝はしているが、問題のある奴に譲ってやれ」
「…………はい」
元よりロロベリアは働かなくても充分生活できている。なら職を必要とする者に譲るべき。それにこの判断も学業や訓練に集中させる為、アヤトなりの気遣いかもしれない。ならばとこの提案を受け入れた。
もちろん状況次第なので再開初日から朝の清掃、昼休憩時は配膳などの雑用、学院が終われば清掃とのサイクルは変わらない。
ただケーリッヒの配属は大きく、アヤトが午後の実技訓練だけでなく午前の座学にも参加するようになった。本人曰く『わざわざ転職したケーリッヒの仕事を取るのも違うだろ』らしいが相変わらず仕事に関しては律義だった。
まあ学院生と接触する機会が増えればやらかす機会も増える懸念はあるも、一部の騎士クラス生には意外にも受け入れられているので今のところ目立った問題は起きていない。
とにかく休暇前と後でいくつかの変化はあったが、一番と言えばやはり共同生活を始めたことだ。
◇
最初の休養日開け。
学院終了後、清掃を終えたロロベリアはリース、ユースと共に学食で課題を済ませてから帰宅を。
「……疲れた」
「お疲れさま」
「これからもっと疲れるんだけどな」
課題で頭を使い疲労するリースをロロベリアが労うも、隣を歩くユースが苦笑を漏らす。
なんせ以前は寮で済ませていたが今は課題などする余裕がない。
アヤトの狙い通り共同生活を始めたことで訓練が激化、終了時点で三人とも心身のみならず精霊力も枯渇寸前。なんとかシャワーだけは浴びるも(というより浴びなければアヤトが怒る)そのままベッドにバタンの日々。
掃除当番の日は本当に辛い。現に一度適当に済ませたユースがアヤトに追加訓練という名の地獄を見せられていたりする。
故に訓練前にやれる事はやっておくがお約束。帰宅後も私室を含めた清掃も終わらせる予定。
これも変化の一つだが、なにより大きな変化は交流関係で――
「ただいま」
「帰った」
「ただいまっと」
「お帰りなさいませ」
帰宅した三人をリビングでマヤがお出迎え。
「……マヤちゃんにお迎えしてもらうのまだ違和感あるわ」
「わたくしは新鮮で楽しいですよ。こうした体験は今までありませんでしたから」
「アヤトにはしない……か。常に一緒だし」
「でもま、寮生活にはない新鮮な感じはオレらにもあるか」
などとお喋りしつつロロベリアがお茶を煎れてまずは一息。
「ランさんとディーンさん、今日も差し入れしてくれたんだ」
「ああ、学院でお聞きになっていましたか」
キッチンに置いてある食材を確認したロロベリアにマヤは頷く。
「今はあちらで兄様と遊ばれていますよ」
「兄様に遊ばれている、の間違いだろ……にしても、先輩方もわざわざ良くやるわ」
お茶を飲みつつユースがぼやくように学院が再開して以降、この住居には来客が来るようになった。
合同訓練でアヤトの実力を知った序列保持者がロロベリアに訓練参加を頼んできたのが切っ掛け。と言うのもアヤトとの共同生活は既に広まっている。寮生活をしていた三人が急に退寮したのもあるが、元より学院に認められているなら隠す必要も無い。
また親善試合を通じて交流が深まったこともあり初日に事情を聞きに来た面々に説明すれば、ならば住居に訪ねていいかと話が進み。
ロロベリアの判断では決められず、アヤトに確認すれば意外にも手土産持参なら遊んでやると許可が出た。
ただ今のところシャルツは単独で、ティエッタやフロイスは一緒に一度のみ。ランやディーンも今回で二回目の訪問と、どうやらメンバー内で何かしらの決まり事が出来たようで、大勢で押しかけたり頻繁には来ていない。また訪問日の朝にロロベリアへ確認を取りに来るのも決まり事のようだった。
ちなみにレイドやカイルは学院生会の仕事が忙しく、エレノアとミューズもまだ一度も訪れていない。まあ武の一族故の価値観からティエッタやフロイスは除外として、そもそも王侯貴族が訪れるのは難しいだろうはさておいて。
序列保持者が進んでアヤトと交流を求めるのは良い傾向強くなる為に訓練を申し出る気持ちも分かる。
故に不満はないが、些細な問題もあった。
「そろそろ姫ちゃんも行った方がよくね?」
「……ですね」
「わたしたちは掃除しておく。主に愚弟が」
「姉貴もやろうぜ……」
二人に見送られてロロベリアは席を立つ。
工場を改装した訓練所はバスルームの横から直接行ける構造。なのでドアから通路を渡って頑丈な作りの扉を開けた。
室内中央で並ぶランとディーンから三〇メルほどの距離を空けてアヤトが新月を肩に乗せて待ちの姿勢。
どうやら二対一の対戦中のようだが、ランとディーンは訓練着がボロボロ、疲労から肩で息をしている。二人が買い出しに立ち寄ったとして、訓練が始まり一時間経過しているなら当然だ。
対するアヤトは通しで一時間相手をしているとは思えないほどなのはいつものこととロロベリアは観戦もかねて精霊力を解放。
「頼んだ!」
「ええ!」
同時にディーンの声に合わせてランが疾走。
瞬発力にかけては学院一、一足飛びでアヤトに迫るが――
「……たく」
動じるどころかため息を吐く余裕を見せてアヤトは姿を消した。
「よっと」
「――ッ」
両手をクロスさせるように振り下ろしたランのショートソードは空を切り、背後に現れたアヤトに背中を蹴られて転倒。
反動のまま前方に着地したアヤトは体勢を低くして駆け出す。
「くっ……『弾けろ!』」
ランと抗戦すると推定した精霊術をディーンは即座にキャンセル。進路を阻むように空気を圧縮させた弾幕を張るも、アヤトは左右ではなく緩急を付けて回避しつつ距離を詰める。
「ごほ――っ」
勢いそのまま入った蹴りにディーンは腹部を押さえて悶絶。
「ゲホッ……ゲェ……っ」
「カエルの真似でもしてんのか?」
「して……ねぇ……っ」
「ならお勉強の時間だ。まず相手が毎回お前らの戦法に付き合うわけがねぇだろ。つまり俺がランの相手をしてやるとの想定がそもそも間違ってんだよ。なにより声出し合った時点で相手にタイミングが読まれるだろ。故に――」
ディーンを見下ろしたまま講釈を始めるアヤトは肩をぽんぽん叩いていた新月を瞬時に振り上げ、更に右脇を守るよう逆手で朧月を抜刀。
「そのやり口はまあまあだ」
「う――きゃあっ!」
同時にガキンとの金属音――背後からの不意打ちを、しかも頭上と右薙ぎの攻撃を見えていたかのように防がれたランは驚愕する間もなく回し蹴りで吹き飛んだ。
「ま、所詮はまあまあだがな」
「マジ……かよ……っ」
「……い……っ」
愕然のディーンと倒れたまま右手で左腕を押さえ苦悶するランを無視してアヤトは朧月と新月を鞘へと戻す。
「このままではお勉強にならんな。白いの、治療してやれ」
「……ええ」
一連の攻防や一度も視線を向けずに気づくアヤトの相変わらずなデタラメさに呆れつつ、ロロベリアはまず重傷のランに治療術を施す。
先ほどの蹴りで折れた左腕に加えて打撲が数カ所、裂傷もかなりと満身創痍。
ディーンは肋骨にヒビだけでなく左手首も折れていた。もちろん打撲や裂傷も多数とこちらも満身創痍で。
「ありがとう、ロロベリア」
「リーズベルト……助かった」
「どういたしまして」
「治ったならお勉強の続きだ」
治療を終えて感謝する二人を心配する様子もなくアヤトが続きを。
「そこのバカにも説明したが、声出し合えば相手にこれから攻撃しますと教えているようなもんだろ」
「おい、誰がバカだって――」
「でも最後の不意打ちは確認なんてしてないでしょ?」
「ランも受け入れるな!」
「上手く気配は消せていたが、そこもまだまだお勉強が足りん。だがまあ、今回は視線で気づけた」
「視線? もしかしてあなた背中に目が……っ」
「……バカがうつってるぞ。そこにいるバカ菌の視線がお前の不意打ちを教えてくれたんだよ」
「ディーン!」
「チラッと見ただけだって! それよりもお前らバカバカうるせぇよ!」
「うるせぇのはテメェだ。とにかく学院最高のコンビネーションを誇る序列六位さまと七位さまが声だし確認してんじゃねぇよ。つーかディーン、ランに足止めさせるなら飛び出す前に牽制の精霊術くらい放ってやれ」
「別にあたしたち誇ってないけど……でも、なるほどね。相手に分からない合図を決めておくべきか」
「後はランの妨害にならない程度の精霊術だな」
小馬鹿にしつつも的確な助言を元に二人は早速相談を始める。
「明日にでも色々試してみましょう。だから今は……」
「……だよなー。このままってのもむかつくし」
しかし今日の訓練は別、アヤトを見据えて二人同時に精霊力を解放、続行を意思表示。
「なんだ? またバカコンビで遊ぶのか」
「ディーンと一緒にしないで!」
「お前酷くないっ?」
とにかく訓練が再開するならばとロロベリアは離れて待機。
序列保持者が進んでアヤトと交流を求めるのは良い傾向。こうして色々な戦い方を見るのも勉強になるので不満はないが、問題は精霊力の保有量。
アヤトの訓練は過激なので治療術は必衰。しかし精霊士のラン、風の精霊術士のディーンでは不可能。
ティエッタやフロイスは治療術を扱える従者を同伴させているが、治療術を扱える診療所に通えばランとディーンはかなりの負担が掛かる。
故にロロベリアが治療役を補っているが精霊力の保有量が平均的。リースやユースにも施すので自分の訓練に支障が出ていたりする。
それでも些細な問題と割り切っている。
保有量の少ない自分がどう立ち回るか、どう補うかがロロベリアにとって今の課題。
どちらにせよ向き合う必要があるならこれも訓練の一環と思えば良いわけで。
エニシからもらった訓練法も継続しつつ、秘伝習得も平行していれば改善の糸口になるとロロベリアは前向きに捉えていた。
ケーリッヒとアヤトの過去はオマケか外伝で触れる予定です。
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