不毛な時間
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帝国滞在五日目の夜――
「失礼しま~す……あ、オレが最後ですか」
ドアを開けて室内を見回したユースは頭を下げる。
シャルツやディーンは平民、しかし先輩よりも遅れるのは申し訳ないとの気持ちだが誰も気にせず招き入れた。
「やっぱりアヤトくんは欠席かな」
「オレが戻った時には既に寝てたんで……まあ、誘うだけ無駄でしょうけど」
変わりにレイドはユースのみの登場を気にするも予想通りの返答が。
ここはレイドが宿泊している一室で、王族に用意されているだけあり他の客室より装飾は豪華で広さがある。
そしてなぜアヤトを除いた代表の男性陣が揃っているかと言えば、今日の訓練時に調子を崩しているエレノアやランから昨夜女性陣で夜のティータイムを開き、盛り上がりすぎて寝不足と聞いたのが発端。
まあ実際は気恥ずかしさで調子を崩していたのだがそれはさておき。
今までにない代表同士の交流、しかし結果として女性陣の仲が深まっているのは確か。特に女性陣で唯一平民のランが王族のエレノアや貴族のリース、ロロベリアを呼び捨て、ティエッタをさん付けで呼ぶようになっていた。つまり身分よりも学院生としての立場に相応しい呼称をしている。
もちろん身分を軽んじるつもりはないが、元より学院では王侯貴族も平民も関係ない平等な立場、という理念を推進しているレイドは良い傾向と満足しつつ、ならば男性陣も同じように更なる交流を深めるべきと考えた。
なんせ帝国に来ているメンバーの九人は序列保持者、リースやユースは精霊騎士団長の父に女傑と有名なクローネを母に持つ。
身分だけでなく実力も兼ね備えている者は当然影響力を持つ。自分たちが率先して実演すればより学院内に広まるわけで。
ちなみにアヤトに関して平等不平等は今さら、ただ個人としても交流を深めたいので参加して欲しかったが結果は言うまでもなく。
とにかく女性陣に倣った男性陣の夜のティータイムにはこのような思惑があり、カイルと協力して開かれたのだが――
「ところでみんな普段はどんな話をするのかな?」
エレノア同様、こういった席に馴れてないレイドは根本的な疑問を口にする。
もちろんレイドもお茶会などに参加経験はある、ただあくまで王族として貴族的な繋がりばかり。一見社交的で友人が多く思われがちなレイドだが友人と呼べるのはカイルのみ、そこで話すのも主に政治や精霊術について。
要は普通の学院生が集って語らう普通の話題を知らなかったりする。
「恥ずかしながらこうした場は不慣れなんだ。良かったらご教授願えないかな?」
そしてカイルも自分と大差ないのを知るだけに、素直に他四人へ問いかける。
「そうねぇ……私は精霊器の理論や最近だとコスメについてが多いかしら?」
「自分は鍛錬法や剣術、精霊術についてだ」
平民でも普通よりズレたシャルツは異性の友人が多く、また精霊学クラスだけありそちら方面の話題ばかりと両極端。フロイスは主バカで武の一族の従者、そもそも友人がいなかったりする。
つまり同級生二人は全く参考にならなかった。
故にレイドの視線は自然と後輩二人へ向けられる。
ディーンは平民として普通を知り、ユースは貴族だが身分関係なく誰とでも接している。社交性も高い二人なら馴れているだろうと――
「……そもそもお茶会なんてしたことないんで」
「オレもっすね」
思われたが平民だからこそディーンはお茶会のような場とは無縁。そして社交性があり誰とでも接しているユースだが、実のところ広く浅くが信条。加えて過去の経験から貴族付き合いを嫌いお茶会などもっての外だったりする。
「……するとしても姉貴と姫ちゃんの三人くらいで。最近だともっぱらアヤト関連ですかね」
頼みの綱が切れたと肩を落とすレイドの微妙な空気を察してユースが補足するもやはり参考にならなかった。
「ああ……リーズベルトか。ほんと、あいつの何がいいんだ?」
「あら、良い男じゃない」
「……そうっすかね」
「頭も良いし誰にも媚びない。ミステリアスなところもポイント高いのよ。坊やには分からないでしょうけど」
「坊やって……シャルツ先輩、一つしか違わないでしょう」
「そこで年齢を持ち出すところが坊やなの。ふふ、そう言えば私も気になっていたのよねぇ。彼って他人に興味ありませんって感じなのに、ロロベリアさんは気にかけているようだし……ユースさんは何か知ってるの?」
「俺知ってますよ。まあランから聞いた話ですけど――」
だがアヤトの話題から徐々に会話が弾み始め、どう説明しようかと悩むユースに変わってディーンが昨夜本人から聞いたランの話を持ち出した。
その内容に知らぬシャルツとフロイスは興味深く、知るレイド、カイル、ユースは上手くこじつけた内容に恐らくカナリアが知恵を絞ったのだろうと感心を。
「……素敵な話ねぇ。まさに運命の再会じゃない」
「カルヴァシアも苦労したのだな……」
それはさておき聞き終えたシャルツはうっとりと、フロイスは感慨深いと頷く。
「でも彼って妹さんが居たのね。どんな子かしら?」
「アヤトに負けずミステリアスというか……不思議ちゃんですかね」
「そうなのね。ただ少なくともロロベリアさんが彼にご執心なのがよく分かったわ。幼なじみで初恋の相手と偶然の再会、でも彼は記憶喪失。それでもめげずに少しずつ二人の距離は縮まる……ロマンチック。ディーンちゃんもそう思わない?」
「……どうして俺に振るんですか」
「あなたにも幼なじみがいるからよ」
「いますけど……」
シャルツの問いにディーンは戸惑いながらも首を振り――
「でも俺らは本当にただの幼なじみっていうか腐れ縁なだけで、ロマンとかないですから」
「「「ああ……」」」
「……ほんと、あなたって坊やね」
「な、何なんですかっ?」
フロイス以外からもの凄く残念な視線を向けられてしまった。
まあロロベリアほどではないがランの好意は分かりやすい。僅かな時間を共にしていれば、それこそ主バカのフロイスでもなければ気づきやすいほどに。
「そもそも幼なじみならエレノアさまとカイルさまもでしょっ? 俺らみたいな平民よりもそっちの方がロマンチックじゃないんですか?」
故に呆れとランに哀れんでしまったのだが、本気で気づいていないディーンはまるで八つ当たりのように話題を投げた。
「……まあ、こう言った場なら無礼講か」
今度はカイルへ視線が集中する中、彼はどこか観念したように息を吐き――
「確かにエレノアと幼なじみとは言えなくもないが、俺としては身分抜きにした妹のようなものだ。エレノアも同じような感じだろう」
「「「……ああ」」」
「……無礼講なら言わせてもらうけど、こっちは朴念仁ね」
「……何なんだ」
やはりフロイス以外からもの凄く残念な視線を向けられてしまう。
もちろんこちらもロロベリアほどではないがエレノアの好意も分かりやすい。彼女の兄でありカイルの親友のレイドは当然としても、やはり僅かな時間を共にすればやっぱり主バカのフロイスでもなければ気づきやすい。
故に同じく呆れとエレノアに哀れんでしまうも、好意というのは当事者だからこそ気づけないのか、それともたんに二人が鈍感なのかはさておいて。
「でも、そうね……せっかくの機会だしこちらのロマンも聞いてみようかしら。フロイスちゃんはティエッタさまのことを主以上に見たことはないの?」
人の恋路は蜜の味とシャルツがノリノリで話題を振る。
強者バカのティエッタと主バカのフロイス。この二人は主従関係だけに常に一緒で主従関係だからこそ身分違いの恋というロマンスはあるのか興味はあった。
「お嬢さまはお嬢さまだ。他にどう見られる」
五人の視線を向けられフロイスは無粋な返答を。
「……むろん素敵な御方だ。だが……自分はまだお嬢さまに相応しくない」
しかし堅物だからこそ主に対する感情に嘘をつけないのか、真顔ながら若干耳を赤くして打ち明ける。
思わぬ心中に一同は身を乗り出し、まずユースが興味津々に質問を。
「つまりフロイス先輩はティエッタさまが好きだと?」
「……惹かれない理由がない」
「ならオレ応援するっすよ」
「俺も応援します!」
「ボクも陰ながら応援させてもらうよ」
「だな」
「もちろん私も……ふふ、こちらは頑張り屋さんで良いわ」
「……感謝する」
からの次々と背を押す激励にフロイスは胸が温かくなり頭を下げる。
まさに男の友情……なのだが、実はティエッタが既に振られているとの真実を知らないので二人の仲を応援するつもりなのに、フロイスはティエッタに勝利する声援と捉えている辺りが微妙にかみ合っていなかった。
「さて、無礼講というならばお二人はどうなのかしら?」
それでも気を良くしたシャルツは更にノリノリで。
「もしかしてユースさんはロロベリアさんに密かな、みたいなものはあるの?」
手始めにこちらのロマンスはどうかとユースに質問を。
ロロベリアがアヤトにご執心なのは周知の事実、だからこそ友人 (のようなもの)のユースが恋慕抱いていたら実にそそられるわけで。
しかしユースから期待した反応はなく、むしろ微妙な表情で首を傾げてしまう。
「もちろん初めて会った時は可愛いなって思いはしましたけど、それよりもあの姉貴を懐柔したり直向きに強くなろうとする姿勢に尊敬ばかりで……つまり全くっすね」
「なら他に良い娘はいないの? あなた可愛いもの、結構モテるでしょう?」
「……そっちも全然っすよ」
などと肩を落とすユースだが、学院内ではそれなりに人気はある。
ただ軽薄な発言や異性に興味あるような態度はすれど、人付き合いは広く浅くが信条のユース。実のところ尊敬できる相手、もちろん恋愛感情はないが今のところ異性で言えばリースかロロベリアにしか興味がない。
「むしろレイドさまこそモテるでしょうに」
つまり相手が本気になる前に良い人で終わらせるように自ら仕向けていたりするのだが、さすがに本音を語るわけにもいかず早々に流れをレイドへ。
王族だけに本来は話題に挙げるのもはばかれるが無礼講という空気もあり、学院で最も人気がある第二王子はどうなのかと注目するが――
「ボクにロマンスを求められても困るかな。それに今は色恋よりも優先することが多くて」
困ったように首を振りつつ牽制。
いくら無礼講といえど王族を問い詰めるわけにもいかず、また優先している内容も聞けるはずもなく呆気なく終了。
ただカイルのみ冷ややかな視線を向けているがレイドは素知らぬ顔で、白けかけた雰囲気を変えるべくシャルツに視線を向ける。
「先ほどから質問ばかりだけど、君はどうなのかな?」
「私?」
「ですよね……無礼講なら、シャルツ先輩ってどうなんですか?」
「どうって?」
レイドの問いにここぞとばかりにディーンが言い淀みながらも質問を。
口調や趣味も乙女なシャルツが果たしてそっち系なのか。ディーンだけでなく他の四人も興味はあったようで視線が集中すれば、何がどうなのかを察したシャルツは小さく頷き――
「……ああ、言っておくけど私は女の子が好きよ」
「「「「「……え?」」」」」
予想外な返答に一同唖然。
「勘違いされてるけど、私は可愛いモノや綺麗なモノが好きなだけなの。確かに言葉遣いは少し変わってるかもだけど、これは姉や妹の影響かしらね。なんせ姉が二人に妹が一人、だもの」
だが理由を聞いて納得。たんに環境が影響していただけらしい――と思われたが不意にシャルツは妖艶な笑みを浮かべて。
「まあでも? 男の子も好きなのだけど」
「「「「「…………」」」」」
「というより愛に性別なんで無粋じゃない? 要はお相手が良い人かどうか、が大事なの」
ある意味男らしい発言だった。
それでもシャルツがどちらもいけると知り、五人とも無意識にソファの背もたれに身体を預ける中、更に――
「だからレイドさまやユースさんに良いお相手が居ないのなら……私が立候補しようかしら。二人とも可愛いし……ね」
舌で唇をぺろり、値踏みをするような視線に名指しされた二人は寒くもないのに背筋がゾクリとした。
「いやいやいや! 良いお相手が居ないのはカイルさまやディーン先輩も同じでしょ!」
「……だよね。それに二人とも良い男じゃないか」
「「おい!」」
故に被害者を増やそうと協力するも、とばっちりを受けた二人は慌てて批判。
ちなみに条件的に完全に難を逃れたフロイスは人知れず安堵していたりするがそれもさておき。
「私って坊やや朴念仁に興味ないの」
「「……ほっ」」
「あら失礼。これだから興味ないのよ」
興味対象外と宣言されたカイルとディーンは今度こそ安堵。その反応にシャルツは眉根を潜めるも改めて興味対象内の二人へと顔を向ける。
「それで、二人はどうかしら?」
「…………レイドさま? 明日も早いですしそろそろお開きした方が良くないですかね」
「…………そうだね。気づけばこんな時間だ、楽しくて気づかなかったよ」
艶っぽい視線にレイドとユースは再び協力して逃げを選び。
「ふふ、残念」
男性陣のお茶会は女性陣のお茶会よりもかなり早く幕を閉じるのだった。
翌日――
「レイドさま、ごめんなさいね……私のフォローが遅れてしまって」
「いや……ボクのミスだから気にしなくて良いよ」
「……レイドさま、どうかされたのかしら?」
「確かに……少し調子が悪そうだが……」
「なにかあったのかな?」
ティエッタ・フロイスペアとの模擬戦を見ていたロロベリア、エレノア、ランはいつにかく動きがぎこちないレイドを心配していた。
対しカイルとディーンは無言のまま目を背け、ユースはただ一言。
「……色々あるんっすよ」
タイトルや内容で分かるように『幕間 乙女の時間』の男性陣サイドでした。
女性陣の色恋を書いたのなら男性陣もと思い執筆しましたが……何ですかね、ある意味シャルツ無双のような内容になってしまいました。
ですがそれぞれのキャラを深く知れた内容でもありますね。特にユースが以外と女性にあまり関心を向けてない辺りなんて特に。
そして次回更新が最後のオマケ。これまで主人公二人がほとんど(むしろアヤトは全く)出ていませんが、次回のオマケは片方がガッツリ出るのでお楽しみに!
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!