再認識
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帝国滞在九日目。
ラタニの提案から急遽決まった帝国代表との合同帝都観光。
昨日のダメージからベルーザは欠席、アヤトとロロベリアはサクラのお招きで途中合流とはいえ両学院生で二一名、ラタニら護衛を兼ねた同伴者も踏まえれば二六名の大所帯。
加えて帝国側は試合の成績から萎縮気味と微妙な雰囲気。
(さてと……どうしたものかな)
商業区の広場でも自然と王国、帝国と別れている状況にレイドは悩ましく。
過去の親善試合でも結果関係なく、両校は上手く交流を深めてきた。現に父のレグリスと現皇帝のアグレリアはこの繋がりから盟友となり、共に即位してから両国は更なる友好関係を築けている。
故に第二王子としてはこのまま終えるのは見過ごせない……が、今回は結果よりもベルーザの振る舞いが尾を引いてしまい例年以上に難易度が高い。
もちろんレイドにもうベルーザに対するわだかまりはないし、過ぎたことを批判するつもりもない。
ただそれを伝えれば逆効果の可能性もある――
「ほいほい、みんな集合~」
などと思い悩んでいればパンパン、とかしわ手が聞こえてレイドを含めて散り散りに行動していた学院生らの視線が一斉にラタニへ集まる。
「いや、集合って言ったんだけど聞こえなかった?」
するとラタニは困った表情、近くにいるカナリアはギョッとした目を向けているのは急な号令に嫌な予感を抱いているようで。
ちなみにモーエンは苦笑、帝国の同伴者らはキョトンとしているがそれはさておき、号令に従い両国の学院生がラタニの元へ。
「さてほて、みんなどうして集合されたかわかるかな~?」
「……なんでしょう」
大凡の見当は付いているがレイドは敢えてお任せすることに。
「なら今日の帝都観光を帝国のみなさんと一緒にしてるんですか」
「代表同士で交流を深める為、ですね」
「つーわけでラタニさん考案のレクリエーションで仲良くなりましょう!」
同じくこの状況を打破したいと考えていたカイルやエレノアもこの中で最も発言力のあるレイドに任せようと静観する中、ラタニは気まずそうな(主に帝国代表)学院生らを見回し高らかに宣言。
「ルールはとっても簡単。今から王国代表のみなさんにご家族やお友達にお土産を買ってきてもらいます。でも帝都のどこにどんなお店があるか分からない、そこで帝国代表のみなさんが要望にあったお店に案内する。ほらとっても簡単でしょ」
からの子供染みたお使いレクリエーションの説明を受けて訝しみ。
「組み合わせは親善試合で戦ったペア同士。ただこっちの補欠は今居ないから帝国の補欠さんはリーちゃんやユーちゃんに協力してあげてねん」
更に組み合わせを聞いて唖然となる。
勝利ペアと敗北ペア、最も気まずい者同士で一緒にお買い物をして仲良くなれだ。特に敗北した帝国側は辛い状況になるだろう。
「……何故その組み合わせなんですか」
故に帝国側の同伴者もこれはないと困惑するのは当然、カナリアも額に手を当てつつ真意を問うがラタニは平然と返す。
「ケンカした者同士だからこそお喋りの話題もあるでしょうに」
だからこそ気まずい組み合わせと呆れるも逆に捉えれば、その組み合わせだからこそ強制的にでも引き合わせるべき。
強引な手段だが理にはかなっている。多少賭けではあるが膠着状態を続けるよりはいい。
突拍子もない中に合理的な部分があるラタニならではの提案にレイドは納得しつつカイル、エレノアに目配せを。
二人も同じ結論なのか頷き、ならばとレイドもこの賭けに乗った。
◇
第二王子のレイドがラタニの提案に乗ったなら仕方ないとの空気感はあれどレクリエーションが始まった。
制限時間は三〇分。それぞれの組み合わせに同伴者が一人陰ながら同行することになり、時間になるまで基本干渉しない形となった。
そしてレイドとシャルツは昨日の中堅戦で戦ったヴァイス=ラグズ=レクイナートとリリーナ=アメルゲンのペアが案内することに。
ちなみにヴァイスは風の精霊術士、リリーナは精霊士で両者とも愚直な戦闘スタイルだったが、アヤトの見立て通り王国側でも良く言えば策略家、悪く言えばずる賢い戦法を得意とする二人に終始翻弄される結果になった。
また男性三人に女性一人の組み合わせだけでなく、王族のレイドが居ることもあり恐縮していた。
「やっぱり王国と帝国だと流行の色も違うのねぇ」
「そうなんですか……?」
「ええ、王国だと清楚な色か可愛い色の方が受けるのよ」
「ああ……帝国だと女性でも強さを求められるので」
「実力主義、だものね。でも強い女性が可愛さを求めても可笑しくないじゃない? それにほら、これなんかあなたにピッタリ」
「わ、私にこのような髪留めなど……」
しかし雑貨店に入る頃には資料や対戦では分からないシャルツの乙女な一面にリリーナは意気投合。友人へのお土産を買いに来たはずが互いの小物を選び始めていた。
ただレクリエーションはお土産を買うよりも交友を深めるのが目的。レイドも良い傾向と満足していた。
「……ちょっと、ボクらは加わりにくいね」
ただシャルツが好む雑貨屋だけあり店内は女性が多く、ヴァイスに同意を求める。
「それよりもレイド殿下はよろしいのですか?」
「お土産のことかい? そうだな……学院生会のみんなに何か買おうとは思うけど――」
「ではなくて……その、王族自らこのような場で買い物をするというのが……」
同意よりも別の心配をしているようでレイドはああと理解する。
本来王族や皇族となれば自ら商店に出向かず、御用達の商人が出向く立場。もちろん王国の身分格差が緩くとも王都やラナクスでもレイドやエレノアは自ら出向かない。
にも関わらず護衛や従者も付けず平民のように買い物をしていればヴァイスの疑問こそ正しい。
「でもボクは学院生として帝国に来てるからね」
だがレイドはむしろこの状況が楽しいと笑ってみせる。
「それにアーメリ殿が護衛に付いているから安全だ。あの人ならこの周辺で精霊力を解放するような者が居ればすぐに気づくから」
「…………」
「て、精霊力だけで判断するとまた怒られるね。だからボク自身も注意しないと」
この返しにヴァイスは広範囲をカバーできるラタニの察知力に驚いているのか、それとも危機感のないレイドに呆れているのか呆然としていた。
「とにかく君も気にせずボクを同じ学院生として扱ってくれていい……けど、難しいかな?」
「……帝国と王国では違いますから」
それでもフランクな態度に苦笑を浮かべながらも緊張が少しだけ解れたようで、一呼吸してからヴァイスの方から話題を持ち出した。
「……親善試合でも違いがよく分かりました。王国の方々は我らとは違う高みを目指しているのだと」
「アーメリ殿の演説かな?」
「はい……私も精霊力の新たな解放について聞いた時は、なぜ精霊術士が身体強化に拘る方法を選ぶのかと疑問視していました。ですが真の強さを求めるならそのような拘りを捨てるべき、故に拘りや偏見のない王国に我々は敗れたのでしょう」
俯き反省していたヴァイスだが、思い出したように顔を上げる。
「ですが……お気を悪くされたら申し訳ありませんが、それでも持たぬ者が代表に選ばれたことに疑問があります。彼……アヤト=カルヴァシアは本当に王国代表に選ばれる実力があるのでしょうか? いくらアーメリさまの弟子とは言え……信じられません」
その疑問はレイドも当然だろうと受け入れる。
持つ者と持たぬ者にはそれだけの差がある上に、アヤトは親善試合に出場していない。実際に見なければ信じられないのだろう。
故に仕方のない疑心。ならばとレイドは自分なりの見解を説明することに。
「アヤトくんが居たからこそ、ボクらも偏見がなくなったんだよ」
「……え?」
「正直なところ、ボクらも同じような偏見を持っていた。持たぬ者が持つ者と対等に渡り合えるわけがない、それが国関係ない常識で世界の理だからね」
「…………」
「そんなボクらの前に彼が現れた。常識を覆す強さで凝り固まったボクらの偏見を壊してくれた。ただね……彼が強いだけなら違ったよ」
「…………」
「アーメリ殿が演説で挙げたように命懸けで高みを目指し、常識を覆した彼の強さを見せつけられたお陰で、ボクらの偏見……狭い世界は壊された」
「…………」
「とまあ、彼に関して言えることはこれくらいかな? とにかく同じように君の偏見が壊れたならボクらと同じように真の強さを手に入れられるよ」
アヤトの実力は余り広められないので明確な評価は避けつつ助言をすれば、神妙な顔つきで聞いていたヴォイスは小さく笑って。
「レイド殿下がそこまで仰る相手なら、私も手合わせしてみたかったですね」
「残念だけど難しいかな? 彼は何というか……気むずかしいから」
「気むずかしい……ですか?」
「なんというか……アーメリ殿の弟子、という関係で察してくれればと」
「……何となく分かりました」
ベルーザとのやり取りや今の状況を提案しただけあって納得したのか、苦笑いを浮かべていたヴォイスにレイドも笑って返す。
「理解してくれて助かるよ。代わりと言っては何だけど、機会があれば今度は個人で手合わせしてみたいね」
「そうですね……私も敗北したまま引き下がるわけには行きませんし……それに、ベルーザ殿下も同じ気持ちでしょう」
言いにくそうに名を口にするなりヴァイスは姿勢を正しレイドに頭を下げた。
「この場に居ない殿下に変わってレイド殿下に、王国の方々に非礼をお詫びします……申し訳ありませんでした。ですが誤解なきよう。ベルーザ殿下の振る舞いは確かに行き過ぎではありましたが、あの御方は私たちの誰よりも強くなる努力をされておりました。ただその気持ちが強すぎる故に……その……」
謝罪だけでなく必死に擁護の言葉を探す姿にレイドは内心驚いてしまう。
代表の雰囲気からみなベルーザの傲慢さに諦めや恐れを抱いていると感じていたが、少なくともヴァイスは違うようで。
「……君はベルーザ殿下を尊敬しているのかな?」
「むろんです。私だけではありません、皇子という立場ながら誰よりも鍛錬し、強さを求め続ける姿に学院の誰もが尊敬し、負けぬようにと精進を重ねていました。なので今回は敗北となりましたが、きっと殿下もこの敗北を糧に更なる成長を遂げるでしょう」
確認してみればヴァイスからハッキリと憧れの感情が伝わり、偏見を抱いていたのは自分かもしれないと反省。
恐らくベルーザは強さに対して純粋すぎるのだ。故に周囲の期待に応えようと必死で、今回はその純粋さが暴走したのだろう。
だからといって行き過ぎた挑発はもちろん反省するべきだが、自分も彼の一部だけで傲慢だと決めつけてしまった。
そしてヴァイスが親善試合を切っ掛けに考えを改めたなら今後は暴走を咎めるだろう。
またこうして慕われるだけの魅力があるベルーザならば、彼の期待に応えて成長するだろう。
「ならベルーザ殿下とも再び手合わせしたいね。ボクも負けたまま引き下がれないから」
「ああ……その、本当に申し訳ない……」
「もう気にしてないから謝罪はいいよ。それに……むしろボクはアーメリ殿に謝罪する立場でもあったから」
「……レイド殿下が、ですか?」
「そういう人なんだよ」
故にレイドは肩を竦めつつもその日を楽しみにしていた。
ちなみにラタニ考案のレクリエーションは見事に功を奏し、集合した頃にはレイドやシャルツのように他の面々も打ち解けたのだが――
「……すみません、アヤトは体調を崩して……その……迎賓館に戻りました」
結果として一人だけ遅れて参加したロロベリアは微妙な立ち位置になり。
「そうですか……。上手く友好を深めつつある中で彼が欠席したのは……ある意味助かったのかもしれませんが……しかし……はぁ……」
生真面目なカナリアはせっかくの交流の場をぶち壊されずに済んだ安堵と、サボったと理解できるだけに最後まで頭を痛めることになったのは言うまでもない。
本編では描けなかったベルーザ以外の帝国代表と、代表同士の交流でした。
また帝国代表でベルーザがどのような評価を受けていたかも描いておくべきかなと……サクラが気づいたように、アヤトが察していたように彼は純粋な心根の持ち主で少し歪んでいましたが強さを求める姿勢は誰よりもあったので少なくとも周囲に慕われていました。
まあ敗北したことで大人らの支持は下がりそうですが……それでも終章で描いたように弱さを受け入れる強さも手に入れましたからね、これからですよ。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!