終章 二人のこれから
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サクラの恋バナという尋問にロロベリアはアヤトとの関係をティエッタやランが知るほどには話すことに。
ただ気恥ずかしさから恋心については伏せているがサクラからすれば確認するまでもないのだがそれはさておき、戻ったアヤトとエニシを踏まえたお茶会を終えて――
「アヤト、ロロベリア、帝国に来たら必ず会いに来るんじゃぞ」
「来る機会があればな」
「サクラさまも王国に来ることがあれば是非ご連絡ください」
時間となりエントランスでサクラはアヤト、ロロベリアと握手を交わす。
警備体制が改善されるまでサクラは謹慎処分を受けているらしく、今回の滞在で会うのはこれで最後。皇女のサクラが王国に来る機会は中々ないと寂しさを感じつつもロロベリアは笑顔で再会の約束を。
「ロロベリアさま、この度は命を救って頂きありがとうございました」
「あ……いえ、まあ……どういたしまして」
続いてアヤトと握手を交わしたエニシが一礼するもロロベリアは返答に窮する。
本当はアヤトが時間を戻して救ったと言えないので、勘違いされた方が助かるのだが心苦しい。
「お礼と言っては何ですが、ぜひこちらをお受け取りください」
「……これは」
そんな心情も知らずエニシが懐から取り出したのは以前置き土産として渡そうとした手帳で。
「こちらには以前お伝えした内容に加えて私が幼き頃から続けている訓練法などを記しております。変わりにお茶菓子のレシピはありませんが」
ただ新たに用意した手帳らしく、先ほどアヤトにはお茶菓子だけでなくお茶の煎れ方についての内容を纏めた手帳を渡したらしい。
とにかく秘伝の内容だけでなくアヤトすら察知できないエニシの強さの秘訣、訓練法が記されているならロロベリアとしてはこれ以上ないプレゼントで。
「ロロベリアさまは命の恩人だけでなく、私の道を示してくださいました。ツバキさまへのご恩を忘れず、大好きなお嬢さまにお仕えし、守るという理をお教えする道……本当に感謝してなりません」
「エニシさん……」
「なのでお受け取りください。むろんこのような物でご恩返しできるとは思えませんが、せめてもの感謝として」
「いえ……充分です。こちらこそ、ありがとうございます」
置き土産でも贖罪でもないのならとロロベリアも感謝の気持ちで受け取り。
「では二人とも、楽しかったぞ」
「またお目にかかる日を心待ちにしております」
サクラとエニシに見送られて馬車は出発、ロロベリアも手を振り別れを告げた。
これから貴族区の商業施設で楽しんでいるみんなと合流する予定で、事前に決めていた場所まで送ってもらえる手筈となっていた。
「サクラさまとベルーザさま、仲直り出来てよかったね」
「保留だがな。ま、元より妹を立てるようなお人好しの兄なら時間の問題だろうよ」
「……せめて良い人って言いなさいよ」
馬車内で早速ロロベリアは話題を振るも、向かいに座るアヤトからは身も蓋もない返答が。
とにかく兄妹の仲が改善されて再び手を取り合えば、きっと帝国は更に良い国になるだろうとロロベリアは確信していた。
「……ソフィアさんは、残念だったけど」
だからこそソフィアにも二人が導く新たな帝国を見て欲しかったと残念で。
家族には持たぬ者として蔑まれ、事故とはいえ婚約者は精霊術士に殺された彼女にも持つ持たない関係なく手を取り合える可能性はあると知って欲しかった。
「今さらだ」
「……うん」
「ならあの害虫もどきのオモチャが造られることはないとでも納得しておけ」
「……そうだけど、だから言い方」
更に身も蓋もない言い分にロロベリアは肩を落とす。
確かにソフィアが造り上げた兵器は脅威、下手をすればまた新たな火種を生みかねない。
しかし聞いた話ではあの兵器に関する資料や設計図は残されていなかったらしく、またアヤトによって解析不可能なほどバラバラにされた。
サクラでも再現不可能なら開発者のソフィアが死亡した今、心配はないが改めてソフィアの才と執念に恐怖すらしてしまう。
とにかくこれ以上話題に挙げても仕方ないとロロベリアは切り替えてあやとりの再戦を申し込み、面倒げにしながらもアヤトは相手をしてくれて。
「アヤトさま、ロロベリアさま。到着いたしました」
御者がドアを開けたところで終了、今回も惨敗したがロロベリアは満足しつつアヤトと共に下車、御者にお礼を告げてみんなを探すことに。
「でも意外」
「なにが」
「アヤトが参加することよ」
ただでさえ団体行動が苦手、というより嫌うアヤトが王国代表だけでなく帝国代表まで加わった帝都観光にこうして素直に参加するとは思いもよらず。
しかし良い傾向で、ロロベリアとしても大勢でもアヤトと一緒に帝都観光できるのを楽しみにしていた――
「誰が参加すると言った」
「……は?」
……のだが、面倒げに返されて嫌な予感が。
「俺は参加するつもりはねぇよ」
「え? だって一緒に来てるし――」
「宮廷だろうとフケるのは造作もないが、サクラの顔を立てるなら馬車の送迎を無碍にはできんだろう」
「ならカナリアさまの顔も立てなさいよ! いくら依頼でもあなたどれだけ迷惑かけて――」
「分かったなら適当に説明しておけ」
「分かってないから! というよりどうしてあなたは私の話だけは度々無視するのよ!」
「じゃあな――」
「だから聞いて――ちょ、アヤトっ?」
ロロベリアの突っこみも無視でアヤトは姿を消してしまい。
楽しみ一転、ただでさえ先に帝国代表と交流を深めていたみんなとは違い、親善試合にも親睦会にも欠席していたロロベリアはとても微妙な帝都観光をしたのは言うまでもない。
「ロロ、一緒に食べる」
まあリースはロロベリアが合流して楽しそうだったが。
そして翌日――
十日間の滞在を終えた王国メンバーは朝食後に帰国の準備を済ませるなり馬車で移動を。
出航は午後でも式典があるので早めに港に行く必要があり、初日同様一学生で利用する馬車に乗り込んだ。
「……どうしてマヤちゃんなの」
出発するなり正面に腰掛けるアヤトの振りをしたマヤにロロベリアはジト目を向ければ、リースとユースは目を見開く。
「このアヤトがマヤちゃんなの?」
「……同じにしか見えない」
「少なくとも集合した時にはマヤちゃんよ」
自信ありげに告げるロロベリアに対し、腕を組み閉じていたアヤトは小さく笑い。
「お見事ですロロベリアさま。本当に見分けられるのですね」
「「「…………」」」
「あらみなさま、如何なさいましたか?」
更に微妙な表情を向ける三人に小首を傾げるも、アヤトの姿と声でマヤの口調と仕草はとても違和感がある。
ハッキリ言って気持ちが悪い。
「気持ち悪い」
「オレも姉貴に一票……てなわけでマヤちゃん、何とかならない?」
「では声だけでも」
さすがにここでアヤトの姿からマヤに変わっては気づかれる可能性があると分かるが、アヤトの姿でマヤの声はやはり違和感があった。
「……それで、アヤトはどこにいるの? もしかしてまだ皇帝陛下のところに?」
「いえ? 昨夜の内にご挨拶は済ませていますから」
元より白銀ことアヤトは王国代表の乗る船に身を潜めて帝都入りして、同じように身を潜めて王国に戻り皇帝の親書を渡す際に依頼完遂の報告をすることになっているので昨夜も帝城に赴いていたらしいが。
「……つまり昨夜から入れ替わってたわけね。ソファであやとりしてたから気づかんかったわ」
「兄様に注意されてそのように振る舞いましたから。わたくしとしては普通にお休みされるほどにユースさまを信頼していると思っていたのですが……やはり兄様は陰険ですね。ならばなぜ、あのような報酬を求めたのでしょうか」
「報酬?」
「詳しくは兄様に。とにかくです、わたくしのミスでロロベリアさまにヒントを与えてしまったと批判されてしまいまして」
などと肩を竦めるが今も見抜いたならヒント関係なくロロベリアは入れ替わりに気づいていただろう。
「故に今回は依頼とは関係なく協力することになりました」
「じゃあアヤトはどこに居るの?」
「船内に」
「「「は?」」」
「帝城からそのまま船内に向かわれましたから」
「……どうして?」
「見世物になる趣味はないと」
つまり式典が面倒でマヤのミスを盾に入れ替わったと三人は納得。
今ごろ侵入した船内のどこかであやとりでもしているアヤトの姿が容易に思い浮かぶ。
「どこまでも好き勝手」
「ていうか式典サボりに神さま使うってどうなんよ」
「アヤトは……もう」
故に最後まで自由奔放なアヤトに三人は呆れ果てた。
とにかくロロベリア以外にマヤの入れ替わりに気づける者は居なく、港での式典はつつがなく進行を。
到着時以上に帝都民が見送りに来たのは結果関係なく王国代表を称える気持ちや、闘技場での演説でラタニの人気が更に上がったのもあるのだろう。
また帝国代表も来てくれて親善試合の成果は充分にあったと言えるが、なにより驚かせたのはベルーザの姿もあったことで。
「……ラタニ=アーメリ殿、並びに王国代表の方々……なによりアヤト=カルヴァシア。これまでの振るまいの数々……お詫びする。すまなかった」
しかも式典の最後に自ら歩み寄り、帝都民らが居る前で頭を下げて謝罪を。
これには周囲がどよめくも、ラタニは気にせずベルーザの下へ。
「ベルーザ殿下。ご無礼をお許し願えませんか?」
「……構わん」
「では――それでいいんよ。弱さを受け入れる強さを得て、やっとひよっこ卒業。この子らみたいにね」
「……はは、王国代表も貴殿からすればひよっこではなかったか?」
「実力はねん。でもこの子らの志は既に卒業してるんよ」
「なら……私も王国代表に負けぬよう精進するつもりだ。私はもう親善試合に出場する機会はないが、いつかまた手合わせをしてもらえないだろうか」
「喜んで。ボクも負けないように精進をしておこう」
ラタニに続き王国代表のリーダーとしてレイドが約束し、誓いの握手を交わす。
王国の第二王子と帝国の第二皇子が手を取り合う光景にどよめいていた周囲から拍手が起こる。
その光景に、ベルーザの成長にロロベリアはベルーザとサクラも手を取り合う日も近いだろうと改めて感じつつ。
最高の形で親善試合は幕を閉じた。
「さてと」
なので後顧の憂いなく、出港するなりロロベリアは行動開始。
ちなみに船内はそれぞれ個室、帰路も同じ部屋が当てられているので迷うことなくアヤトが居るであろう一室へ。
「失礼するわよ」
「……ノックくらいしろ」
マヤと入れ替わり式典をサボっただけあり、アヤトはベッドで寛ぎあやとりに興じていた。
いきなりドアを開けて不機嫌そうだが、ロロベリアは素知らぬ顔で中に入り備え付けの椅子を引き寄せて腰を下ろす。
「ベルーザ殿下があなたに謝罪してたわよ」
「わざわざ報告をしに来るとはご苦労なことだ」
「そんなわけないでしょ」
皮肉をキッパリ否定してロロベリアはじっと見つめる。
無視してあやとにり興じていたアヤトはしばらくしてため息一つ、面倒げに身体を起こした。
「……なんだ」
「構ってもらいにきたのよ」
やっと目を合わせてくれたとロロベリアは微笑み。
「昨日も一緒に帝都観光するの楽しみにしてたのにサボったでしょ。埋め合わせしなさいよ」
「埋め合わせする理由はないな」
「飼い犬のお世話をするのは飼い主の責任、違う?」
「……あん?」
反論を敢えて自虐的な言葉で返せばアヤトは首を傾げてしまうがロロベリアは止まらない。
「サクラさまに質問された時にあなたが言ったじゃない。私たちは飼い主と飼い犬の関係だって」
「確かにな。だがよくもまあどや顔で言えるもんだ」
「比喩として納得しただけ。本当に犬とは思ってないわ……でも、今回の一件で色々と気づいたの」
あの時はからかわれて憤り、今の関係があやふやでもやもやしていた。
しかしまた助けられたことで改めて自覚した。
アヤトは鍛えてくて、瑠璃姫をプレゼントしてくれて、いざという時は助けてくれて、辛辣な物言いでも励ましてくれる。
一方的に与えられてばかりで守られてばかり、周囲の特別視してくれているとの言葉も少し理解できた。
だから飼い主と飼い犬という一方的な関係から巣立つまで考えるのは止めにする。
また帝国に来てすぐ踏み込んだように、これからも積極的に行動していく。
自分の望みを叶える為に立ち止まらず、臆さず、足掻いてでも突き進むと、今回の事件を糧にしてロロベリアが得た一つの答えを実行しているまで。
「……なるほどな」
ロロベリアの深意を読み取ったのか、アヤトは苦笑を浮かべる。
「つまり構ってちゃんがより成長したわけか」
「もちろん他も成長していくわ。でも今はなにより埋め合わせ、でないと噛みつくわよ」
「それはうぜぇ」
「……せめて怖いでしょう。とにかく構ってくれるの、守護者さん?」
「ま、噛みつかれるよりは相手する方がマシか」
「ならあやとり勝負ね」
「やれやれ」
肩を竦めるアヤトを余所にロロベリアは嬉々としてあやとり紐を取り出した。
章代の英雄とは皇帝ら帝国の中枢は『白銀』、サクラやエニシは『アヤト』との意味でした。
また第一章と同じようにアヤトに助けられてロロベリアが大英雄という夢、恋心とどちらも手に入れる為に必要な一つ成長するまでの区切りでもあります。
つまり第五章までは第一部。メインは主人公の一人、ロロベリアの成長物語と作者は考えていました。
なので第六章から第二部、また違う成長物語を予定……しておりますがその前にオマケを挟みます。
今回は帝都滞在中の出来事をピックアップした三話を予定、更新が滞ったりSSを挟んだり体調崩したりと長くなりましたが最後まで第五章を楽しんで頂ければ幸いです。
みなさまにお願いと感謝を。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!