友として
アクセスありがとうございます!
帝国滞在九日目。
親善試合も終わり王国代表は予定通り朝から帝都観光を満喫することに。
もちろんそれぞれが自由に、と言うわけにはいかず団体で。ラタニ、モーエン、カナリアが護衛も含めた引率をするが重圧から解放されたこと、最高の結果を残せたこともあり制限があっても充分。
ただ若干の予定変更があったりする。
急遽帝国代表も含めた団体行動に。これは昨夜の親睦会が上手くいかず、ならばとラタニが皇帝に提案したのだ。
ラタニとしては泣かせたことで充分満足、故にしこりなく次世代が交流して欲しい気もちは当然ある。そして帝城で開かれる催しよりも普通に若い者同士で遊ぶ方が萎縮せず楽しめるのではないかと進言。
皇帝としても次世代の交流は望むところ、完敗したことで貴族らの視線に萎縮しているのも感じたのでラタニの言い分も一理あると観光案内もかねて了承を。
結果、最初こそ微妙な空気はあったが王族のレイドやエレノアが気さくに話しかけ、ディーンやランといったムードメーカーが上手く雰囲気を作ったことで帝国代表も徐々に軟化、さほど時間が掛からず盛り上がっていた。
またラタニの気さくさも功を奏したのか、王国最強の精霊術士に憧れ色々と質問したりと狙い通りの親睦を深めつつあるも、昨夜同様ベルーザは体調が優れず欠席している。
そしてアヤトとロロベリアも欠席、というより遅れて合流することになっていた。まあ今回ばかりは仕方ないとカナリアは別の意味で胃を痛め、リースはふて腐れてやけ食いしていた。
なぜなら今朝方第三皇女の遣いが訪れ、二人を宮廷に招きたいとの申し出があった。明日の帰国、最後に友人としてゆっくり話したいらしく、しかし予定もあるので受ける受けないは二人に任せるとの内容。
皇女の招待を無碍にも出来ない、ただアヤトが宮廷に行くとの事実でカナリアは苦悩。ただ本人らが了承したのなら他に道はなく、迎えの馬車に乗り込むギリギリまで再三注意したのは言うまでもなく、それをアヤトはうんざり顔で無視を決め込んだのも言うまでもない。
ただロロベリアやラタニはこの誘いを予想済み、場所が宮廷なのも誘拐された翌日なら外出も難しいのだろう。とにかく擬神化を見せただけでなく宰相との繋がりまで知られたのだ。別れ際で一方的に面倒ごとを押しつけられて納得するわけもない。
故に納得した形で終えるべきと事前に打ち合わせもしている……のだが、ロロベリアは国王の依頼について詳細を知らされたのみ、どう説明するかはアヤトに任せるらしく話を合わせるようにとクギを刺されただけで。
またリースとユースも既に今回の一件を試合前から知っていたりする。というのも二人は元から協力者として国王に伝えているらしい。なんせマヤの正体を国王は知らないので同室のユースがアヤトのアリバイに協力していたという口裏合わせが必要。
本来は全てを終えた帰国時に説明する予定だったがサクラの失踪を知ったロロベリアが抜け出した為、先に教えることになったのだがそれはさておき。
サクラへの説明はアヤトに話を合わせろと言われても、アヤトは白銀として皇帝と会い、依頼について最後の話し合いがあるのでラタニとの打ち合わせに居なかった。
しかも会うことが決まってもどう説明するかは聞かされぬままロロベリアは宮廷の応接室へ案内されていた。
少しして現れたサクラは研究施設とは違い正装をしていて、申し訳ないが皇女然とした振る舞いに違和感しか感じず、しかしエニシを残して人払いをした途端よく知る親しみある対応になり安堵したのだが――
「ソフィアさんが……死んだ?」
昨日の話題より先に挙げられた内容にロロベリアは驚きを隠せない。
聞けば明け方前に見回りをしていた兵士が牢獄内で倒れているソフィアを発見し、声を掛けても反応がないので不審に思い確認すれば既に息絶えていたらしい。
その後呼び寄せた医師が診断したところ外傷もなく、体内に毒物も見つからないことから拘束時の様子と状況で精神疾患による呼吸障害の可能性が高いと判断された。
「妾も信じられぬが……事実じゃ」
サクラも沈痛な面持ちで思い返す。
復讐が叶うとの狂気と、一瞬で潰えた喪失感で打ちのめされたソフィアの抜け殻のような姿。
あの時、何か声を掛けていれば変わっていたかもしれないと悔いばかりが残る。
エニシも同じ気持ちだ。罪は許せないがソフィアも被害者、彼女の功績やサクラを育ててくれた恩師として今はせめてもの冥福を祈るのみで。
「とにかくお主らにもまず伝えておこうと思ってのう。まあ……お主らも思うところはあるじゃろうが、ソフィアを許してやってくれぬか」
「……はい」
努めて明るく振る舞うサクラにロロベリアは頷くことしか出来なかった。
正直なところロロベリアとしては許すも何もない。
ただソフィアの過去を知るだけに突然の訃報は複雑で、言い表せない感情が残る結末となった。
「話はそれだけか」
「それだけって……あのね、サクラさまの気持ちを少しは考えなさいよ」
のだが、ここまで表情一つ変えず聞いていたアヤトの冷淡な対応にロロベリアは目を細めて窘める。
空気を読まないにしても人の死に対してあまりな態度、しかしサクラは肩を竦めるなり苦笑を。
「構わぬよ。むしろお主がいつも通りで妾の気持ちも晴れるというものじゃ。のう、爺やよ」
「ですなぁ。それにアヤトさまはシャイでいらっしゃいますし、ソフィアさまに対する憂いを隠されているのではないかと」
「別に隠してねぇ」
またいつもの調子でエニシも和ませ、否定しつつもアヤトは仕方ないとため息一つ。
「だがま、お前も皇族なら多くの死と否が応でも向き合うことになる。もし本気で帝国を変えたいのなら死んだ者に恥じぬよう、まずはそのうざったい作り笑いを止めるんだな」
今の帝国の被害者はソフィアだけではない、なら落ち込むよりすべきことがあるとの叱咤。
過去に多くの死と向き合い、それでも自身の成長だけでなく同じ被害者を生まないよう国王に誓わせ、影ながら孤児院などにも助力を惜しまないアヤトだからこそ重みがある。
「このように照れ隠しでお嬢さまを励まされるのですから」
「俺がうぜぇだけで励ましてもねぇよ」
「ほんにお主はブレん……しかし、そうじゃな。感謝するぞ、アヤトよ」
「感謝される謂われはないんだが」
故にサクラとエニシにも響いたのか悔いよりも前向きな気持ちになり、ロロベリアの心も少しだけ晴れたお陰で室内の雰囲気もまた明るくなる。
「ではアヤトに励ましてもろうたところで、別の話題といこうかのう」
が、不意にサクラの表情が引き締まり、ロロベリアもついに来たと姿勢を正す。
「父上や宰相から聞いたが……一月前から目撃されておった不審な人物が密かに過激派の不正に関する証拠を報告されていたそうじゃ」
アヤトに話を合わせるにしてもマヤの正体は当然、国王の依頼についても隠すべきとラタニから注意されているので下手に口出しせず静観すると決めたが――
「その人物とやらはお主が陰で動く隠れ蓑に利用する為の噂。つまり父上と国王の間に何らかの密約があり、お主が協力しておったと妾は推測しておるが間違いは?」
「ねえよ」
まさかの同意にロロベリアは内心もの凄く焦った。
さすがサクラと言うべきかその推測は間違っていない、だがこれでは国王との繋がりや依頼の為に帝国に来ていると認めているようなもの。
もしかしてアヤトは隠すつもりはないのだろうかと緊張な面持ちで耳を傾けていたが。
「別にどうもせん。というより詳しい内容や昨日見せた不可思議な変化について質問したところでお主のことじゃ、さあなで済ませるんじゃろう?」
「だから?」
「だから……お主から話してくれるまで妾は聞かぬ」
そのまま追求すると思っていたサクラ自ら引くので今度は驚きを隠せない。
「代わりにアヤトよ、一つ頼みがある」
ロロベリアの反応を余所にサクラは構わずアヤトと向き合う。
「妾は再び兄上と共に帝国を変えるべく尽力するつもりじゃ」
「どうやら、兄上と本気で向き合ったらしいな」
「昨夜のう。色々と聞けて納得というか……呆れもしたが一先ず保留までは持っていけたぞ?」
兄上、ベルーザと帝国を変える。まだ保留らしいが少なくとも兄妹のすれ違いは修正されているようで。
アヤトの助言からサクラは早速向き合い、すれ違いの原因も知れたらしい。
「ちなみにお主が言っておった真の理由についてご教授願えるか」
ならそれは何だったのか?
ロロベリアも興味があり視線を向ける中、アヤトと言えば。
「劣等感だろ」
平然とした口調で返答を。
「精霊士や精霊術士として普通に期待されていた兄や姉、持たぬ者だが特出した頭脳から密かに期待されていた妹。だが自分は半端な能力しかなく、全く期待されなかった」
「…………」
「そこで精霊術士としての才を得たことで自分もやれるんだと周囲に、特に支えながらも劣等感を抱いていた妹に証明できると舞い上がった。要はもっと自分を見て欲しいとの願望から視野を狭くした、というところか」
「なあ……お主、どうしてそこまで察するんじゃ? 心でも読めるのか?」
サクラの反応でアヤトの予想は正しかったと分かるがロロベリアも同じ気持ち。
ベルーザとは一度しか、しかも言葉すら交わしていないのになぜそこまで読み取れるのか不思議でならない。
「つーか本当に自分が強者だとの自信があるなら、ところ構わずケンカ売るようなことはしねぇよ。で、敢えて妹を支える立場を選んでいたとの情報を踏まえれば、誰かさんに認められたいと必死だったんだろ」
「…………」
「つまり次期皇帝候補と認められてなお満足せず、必死にもがいていた兄上の姿で気づかん方がおかしい」
「……やはり、妾はお主の方がおかしいと思うんじゃが」
再びロロベリアは同意、僅かな情報からここまで分析できるアヤトの方がおかしい。
だがアヤトの様々な面において規格外はもう今さらとロロベリアやエニシ、サクラも早々に諦めた。
◇
「まあよい。とにかく、保留まで持ってはいけたが兄上を口説き落とすより先に口説き落としておかねばならぬ者がおる」
アヤトの非常識ぶりに尊敬よりも呆れつつサクラは本題に入る。
昨夜ベルーザと散々言い争って知った道を違えた真の理由。
簡単に言えば妹の才能に嫉妬し、自分も認めてもらいたくて必死に強者を振るまい続けたとの逆ギレには呆れたものだ。
それでも今後の帝国にはベルーザとサクラが手を取り合い、協力する必要性を訴えた。
ベルーザも親善試合でプライドを叩き折られたことで少しは耳を傾けるようになったが……今までの振る舞いが振る舞いだけに素直になれず保留という形が精々で。
ただ心根が昔と変わらないのなら時間を掛ければ口説き落とせる自信はあるも、明日帰国するアヤトに時間は掛けられない。
加えて再チャレンジは一度きり、ならここで間違ってはならない。
そう、サクラはまだアヤトを諦めていなかった。
全てにおいて規格外な能力はきっと帝国の未来に多大な貢献をしてくれる、故に帝国に引き入れたいと思うのは当然。
「アヤトよ。妾は本当の意味で、お主と友になりたい」
だが、サクラは引き入れるのではなく友を選んだ。
そしてこの口説き方こそ正しいと確信している。
思えばアヤトは最初に言っていた。
口説く条件として研究施設の見学、ロロベリアにエニシの秘伝を伝授する為に仮初めの友として周囲を納得する際に。
お友達に自分の自慢をうっかり見せたり口にすることもあるだろう、と。
だから自身の秘密にしたい何かがあっても助けに来てくれた。
仮初めでも友は友、つまり秘密をうっかり見せても関係ないと。
ただ仮初めが故に秘密まではうっかり話さない。
そしてアヤトは相手が皇女だから、帝国の未来が、では興味を示さないし、サクラを助けるのにそんな理由を抱かない。
もっとシンプルに、友だから助けただけで。
ならサクラが口説く言葉もシンプルに。
帝国の未来の為に、ではなく純粋な気持ちで良い。
なによりサクラ自身が望んでいる。
自身の夢に力を貸して欲しいのではなく。
今まで出会った誰とも違う、しかし不思議な魅力に溢れたアヤト=カルヴァシアと対等な友でいたいと。
「なんせお主のように妾が皇女と知っても関係なく悪態吐きまくるような輩は貴重じゃからのう。要は友としてたまに茶の席で愚痴くらい聞いて欲しいということじゃ」
冗談交じりに告げながらサクラは内心ドキドキで。
仮の友として期待してくれていたアヤトに、くだらない理由を持ち出して一度は失望された。
もし今の自分を友として魅力を感じないなら、恐らく二度と会うことはないだろう。
それはとても悲しいと、待っていたのだが――
「共に茶を飲み、帝都巡りまでした仲で今さらなに言ってんだ」
苦笑交じりに返されてサクラはキョトンとなる。
「実に薄情だが……ま、帝都は遠い。たまになら付き合ってやるよ」
だが欲しかった答えにようやく気づく。
元より友だから助けてくれただけで。
そしてこれからも助けてくれるのだと。
難しく考えていたのがバカバカしくなり、サクラは力が抜けたように表情を緩めて。
「ほんに……お主はいけずじゃ。なら最初から仮初めなど付けるな」
「そもそも友とは頼んでなるものでも、条件付けてなるものでもないだろ」
「確かにじゃが……く、わざわざ口説いた妾が恥ずかしいではないか」
「それも今さらだな。とにかく恥ずかしい話が終わったなら、少し席を外すが構わんか」
「……今度は何をするつもりじゃ野良猫め」
してやられたと恨めしげなサクラを無視してアヤトは背後に目を向ける。
「明日王国に戻るんだが、約束は守ってもらえるんだろうな」
「……そうでしたな。つまり菓子作りのレシピとお茶、ですか」
何を指しているかを理解し、エニシが確認すればアヤトは立ち上がり。
「茶は次の機会でもいいが、一度調理の様子を見せて欲しいんだが頼めるか」
「むろんでございます。ではお嬢さま、アヤトさまを調理場にご案内する故少々席を外しても宜しいでしょうか」
「……好きにせい」
宮廷内でも自由奔放なアヤトだが、使用人がお茶などを用意する待機室なら利用させても構わないとサクラは投げやりな返答を。
「ほんにあやつときたら……お主もお目付役は大変じゃろうて」
「それはもう……ですが、徐々に馴れと言いますか、諦めるのが一番かと」
「達観しとるのう……」
そしてロロベリアと二人になり早速愚痴るも、苦笑しながら幸せそうな雰囲気を醸し出す彼女にもまた改めて。
「でじゃ。アヤトに嫌味を言われたばかりで何じゃが、お主とも良き友になりたいと願うが……どうかのう?」
「……その、光栄です」
恥ずかしさを押した提案にロロベリアも気恥ずかしげに了承を。
ただロロベリアとしてはサクラと友になれたのは嬉しく微笑んでいて。
その無垢な笑みにサクラはため息一つ。
「……勝てる気がせぬ」
「は?」
「なんでもない。しかし……こうしてロロベリアと二人で話すのは初めてじゃな」
「そう言えば……そうですね」
「ならば早速恋バナといこうか」
「またですかっ!?」
「また? なんじゃ、お主はいつもしておるのか。ならば妾にもアヤトとのなれ初めを――」
「ですから! 私とアヤトは――」
顔を真っ赤に慌てふためくロロベリアを眺めつつ。
サクラは芽生えかけていた淡い感情を封印した。
自分はアヤトの友を選んだのだと――
サクラの淡い感情については察して頂ければと。
変わりに相変わらずなアヤトくん、キミは名探偵ですかと作者は突っこみたい……。
ただこの子は観察眼や情報処理能力といった頭脳面でも変にチートなので仕方ないのですが……。
とにかく作者の意味不明な愚痴はさておいて、ラタニが予想していたようにアヤトは元より友達としてサクラに協力してもいいかな? とのつもりでいました。
ただベルーザとの確執を持ち出して帝国の未来の為に力を貸してくれ、との口説き文句はアヤトにとって関係ない、悪く言えばくだらないと突っぱねただ。そもそもこの子は興味なければとことん興味を持たないタイプなので、サクラという少女に魅力を感じなければ帝都巡りどころか話もしませんからね。
だから本当にラタニはアヤトを理解しているな、と思います。
さて次回は終章、最後まで第五章をお楽しみに!
みなさまにお願いと感謝を。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!
また感想もぜひ!
作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!