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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
161/777

白夜

アクセスありがとうございます!



 奮戦も虚しくエニシが重傷を。


 遠目からでも致命傷と分かりサクラの頭は真っ白になった。

 精霊術が通用しない鋼鉄のサソリに、しかもロロベリア一人で太刀打ち出来るはずがない。

 このままエニシが死ぬ。

 ロロベリアも殺される。

 この絶望を招いたのは自分で。

 迂闊な行動、信頼が大切な人と大切な友人が目の前で命を堕とす光景を受け入れられず、心が壊れないように、逃げるように思考を停止させていた。


「絶対に助ける! あなたもサクラさまも絶対に……っ」


 だがロロベリアは何も諦めていなかった。

 自分のことも。

 エニシのことも。

 現実逃避のような虚無でもなく。

 かといって虚勢でもない。


「諦めたら全て終わる……だから……諦めてたまるかぁぁぁ――っ!」


 ただ真っ直ぐに突き進んでやるとの単純な気持ちが込められた叫びがサクラを逃避から引き戻す。

 こんな状況下においてなぜ抗えるのか。

 なぜ絶望することなく、立ち止まることなく進み続ける意思が保てるのか。

 ロロベリアの強さが理解できずサクラは言葉がない。


 それでもロロベリアの叫びが、強さが引き寄せたのか。


 あるいは彼女の気高さに神が救いの手をさしのべたのか。


「――なに喚いてんだ?」


 ()()()()()()()()()


 どこから現れたのか。

 どうやって来たのか気づかないほど突然に。

 故に今までサクラにとっての絶望を恍惚な笑みで眺めていたソフィアですら呆然としていて。

 なぜかロロベリアの叫びに答える場違いな言葉までハッキリと聞こえた。


 これは都合の良い夢だとサクラは解釈する。

 その証拠に今もロロベリアに何か言っているようだがもう声は聞こえない。


 なによりエニシの治療を再開するロロベリアを守るように鋼鉄のサソリと対峙したアヤトの姿が不意に変わった。


 闇のような黒髪が右前髪一房を残し。


 同じく闇のような黒い瞳の左側が。


 煌めきを帯びた白銀に。


 まるで精霊力を解放した精霊術士のような変化。

 アヤトは精霊術士どころか精霊士でもない。

 そもそもどの四大にも当てはまらない白銀の変化。

 だからこれはサクラの弱さが見せた都合の良い夢でしかない。

 ただこれまでこの場を支配していた鋼鉄のサソリというソフィアの怨念を浄化するような白銀の煌めきが美しく。

 心を奪われるように見惚れるサクラだったが――


「だが念のために済ませておくか」


 再び聞こえた無粋な呟きから次の瞬間、アヤトの姿が消えた。


「…………」


 否、消えたのではなくサクラの目の前に立っていた。

 やはり夢だとサクラは確信。

 エニシとロロベリアが二人がかりでも突破できなかった鋼鉄のサソリをこうも簡単に突破できるはずがない。

 なのに引き戻される。

 ロロベリアのような強い意志が込められていないのに。


「そういやお姫さま抱っこをご所望だったな」


 小馬鹿にした声と、無造作にされたお姫さま抱っこから伝わるアヤトの優しい温もりに。

 これは夢ではないと引き戻される。


「おぬし……アヤト、か……?」


 それでも信じられなくて、信じたくてサクラは確認するように呟くも。


「なに言ってんだお前?」


 呆れたような表情と無粋な言葉をアヤトは返す。


「まあいい。とりあえず依頼を済ませるか」

「依頼? なんのこと……」


 最後まで問いかけるより先にサクラの視界がブレた。


「お前の救出だろうが」


 そして気づけば隣りにソフィアの姿はなく。

 懸命にエニシの治療をするロロベリアがそこに居た。


「まあ一先ず、だがな」


 あまりに現実味のない展開の数々にサクラは違う意味で頭が真っ白になる。


「理解したなら下ろすぞ」


 つい先ほどまで絶望から逃避していたのに。


「おい」


 夢だと解釈していたのに。


「…………」


 理解が追いつかず――


「……たく」


「――きゃいんっ!」


 いたのだが、不意の浮遊感からお尻を打ち付ける激痛によって嫌でも引き戻されてしまった。

 それもそのはず、アヤトがサクラを投げ捨てたからで。


「なにをするんじゃ!」

「目が覚めただろう」


 あまりの扱いに抗議するもアヤトは平然と。


「つーか寝ぼけてないならさっさと下がれ。まだ害虫駆除が残ってるんだよ」

「害虫って……お主……いや、どうしてお主がここにおる! そもそもその変化はなんじゃ!」


 続く太々しい物言いに呆気に取られるも、ようやく我に返ったサクラは痛みも忘れて詰め寄る。


「たく……構ってちゃんは白いの一人で間に合ってんだよ」

「…………」

「ああ、ついでに言っておくが下がるのは良いが今さら()()()()()()、なんざ喚き散らして先輩構ってちゃんな白いのを邪魔するなよ」

「…………」

「ギャーギャー泣き喚くのもな。俺の邪魔だ」

「…………」


 身も蓋もない、とても無粋なアヤト節に怒りも忘れてサクラは冷静になれた。

 確かに今は問い詰めるている場合ではない。

 アヤトが起こす不可思議な現象の数々に未だソフィアが呆然としているからか停止しているも、鋼鉄のサソリはまだ無傷で。

 エニシの安否は心配、しかし喚き散らして懸命に治療術を施しているロロベリアの邪魔をしては元も子もない。

 結局のところ状況は最悪なまま……いや、アヤトが居るだけ急変しているがそれでも気は抜けない。


「すまぬ……しかしアヤトよ。あれはソフィアの怨念、害虫などと言える代物ではないぞ」


 なら今は自分の持ちうる情報でアヤトの助力になることを伝える。


「なんせあれは――」

「精霊術が通用しないんだろう」

「…………」

「装甲もどうやらお前が見せた新素材。恐らく朧月や新月も通らんだろうな」

「どうして分かるんじゃ!」


 はずだったが知ってますと言わんばかりの返しにサクラは突っこみを。


「白いのと爺さんが遊んで無傷なら他にないだろう。そもそもソフィアの怨念なら精霊術士を始末する為に作られたはず、分からん方がおかしい」

「……お主の方がおかしいと思うんじゃが……妾」

「とにかく俺には関係ない情報だ。分かったならそろそろ下がれ」

「……勝算はあるんじゃな」

「どうだかな」


 下がらず心配の視線を向けるサクラに適当な返答をしてアヤトは両手をコートのポケットに入れたまま進む。


「おまち……ください、アヤト……さま」


「……うぜぇ」


 が、背後から聞こえるエニシの引き留められて面倒げに立ち止まった。


「お嬢さまを……」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんざ言うなよ」


 治療術で辛うじて命を引き留められている状態で尚、必死に言葉を紡ぐエニシにすらアヤト節は止まらない。


「つーか爺さんは黙って白いのの治療を受けてろ。邪魔なんだよ」

「…………邪魔とは、つれない……ですなぁ」

「それだけ軽口叩けるなら問題ないな」


 瀕死の相手に対して雑な扱い、しかしエニシは満足そうで。

 思うところは色々とある。

 ロロベリアがここを突き止めた方法。

 アヤトがここに来た方法や精霊力を感じないのに精霊術士のような、どの四大にも当てはまらない変化。

 間違いなくこの二人には想像も付かないような秘密がある。

 ただそれでも、一度刃を交わしたからこそ分かることはある。

 臆病者で合理的なアヤトが、この状況下でも変わらず飄々とした態度を取り続けるのなら。


 勝算のような曖昧なものではなく、勝利を確信しているからだと。


 ならば冥土の土産に是非とも見たいと、エニシは頼もしい背中を見送った。



 ◇



 サクラが、エニシが見つめるのも気にせず、鋼鉄のサソリから五メルほどの距離でアヤトは立ち止まった。

 いくら停止しているとはいえ、コートのポケットに両手を入れたまま朧月も、新月も抜く素振りすら見せない。


「さて……待たせたな、ソフィア」


 無知無謀とも言える態度、しかし威風堂々たる風貌に声を掛けられたソフィアは肩を振るわせ後ずさりそうになる。


「随分と頑張って作ったようだが、この害虫は駆除させてもらうぞ」


 だが鋼鉄のサソリ越しに見える皮肉な笑みと挑発が、恐れよりも憎しみが勝り冷ややかな視線を向けた。


「そうですか……なるほど、()()()()()()()()()()()()()()()


 そもそも持たぬ者が精霊術士に勝てるはずがない、なら常識的に考えれば同じでしかなかったまでのこと。

 白銀の変化は見たことも聞いたこともないが自分が知らないだけで、広まっていないだけでそう言った特例や技術的な何かによる異変。

 持たぬ者のソフィアは精霊力を感じ取れないが故に、アヤトの変化が精霊力と関係ないものと確定できず都合の良い解釈で納得していた。


 目の前に居るのは憎き精霊術士だと。


「なら駆除されるのはあなただと分かりませんか? 四大と違う変化、しかし精霊術士なら同じです。私の作品に精霊術は通用しません」


 持たぬ者と偽っていた憎い存在を排除できるとむしろ感謝すらしていた。

 帝国屈指の実力者だろうと、王国代表だろうと、精霊術士ならば関係ない。


「それこそ、あなたの師であるラタニ=アーメリでさえ無力でしょう」


 精霊術士を排除するべく、復讐に費やした時間に自信があると笑みを浮かべていたが。


「……くっくっく」


 嘲笑が聞こえた。


「なるほど、さすがは天才皇女さまのお師匠さまだ。俺を笑い死にさせようとは恐れ入る」

「……なにが、おかしいのですか?」

「しかし……こんな害虫もどきのオモチャにラタニが無力とは。いくら天才皇女さまのお師匠さまでも勘違いをするか」


 不快感に眉根を潜めるソフィアを無視してアヤトは嘲りを止めない。


「確かにこのオモチャは脅威だ。現に白いのや爺さんは手も足も出ず、恐らく他の精霊術士も同じ結果になるだろうよ」

「…………」

「だが精霊術士とバケモノ(ラタニ)を一緒にするとは、勘違いとはいえ愉快な話だ」


 何を指摘しているかソフィアは理解できない。

 ラタニ=アーメリは王国最強だろうと精霊術士、違いはないはず。

 しかし理解できる部分はある。


「……つまり、ラタニ=アーメリには()()()()()と。そして……()()()()()

「まあな」


 要は勝てる自信があるのだろうとの質問にアヤトは肯定。

 自惚れもいいところだとソフィアはため息を吐き、ならばその自信すら粉々に砕いて排除しようと思い立つ。

 所詮は精霊術しか取り柄のない精霊術士、どれだけ強力な精霊術だろうと通用しないと分からせてから殺す。

 持たぬ者と偽っていた精霊術士が絶望して死ぬ姿がどれほど気持ちいいだろうと嗜虐な笑みで鋼鉄のサソリを再起動した。


 だがアヤトは身構えるよりも先にまた不可解な現象を見せつける。


「……と言いたいが、俺とラタニを一緒にするな」


 無造作にコートのポケットから出した両手には眩い白銀色に包まれていた。


「俺はあいつほどバケモノ染みてねぇよ」


 そのまま右手に鞘を持ち、左手に刀の柄を握りしめるような所作を見せて。


「現に駆除の準備に今まで掛かったからな」


 まさに引き抜いた瞬間――()()()()()()()()()()()()()()



 ◇



「…………っ」


 アヤトに指示されてから今までエニシの治療に専念していたロロベリアは不意に感じる何かに全身の毛が粟立ち集中力が途切れた。

 無意識に出所を探せば、その正体はアヤトの左手に銀よりも白い刀で。

 朧月よりも少し長く、新月のような直刀、だがどちらも圧倒する存在感。

 美しいのに禍々しい。

 力強いのに儚い。

 矛盾した魅了を秘めた刀にロロベリアだけでなく、サクラも、エニシも惹きつけられていた。


『ロロベリアさま、兄様のご命令をお忘れですか?』


 だが脳内に響くマヤの存在感()でロロベリアは我に返り、慌ててエニシの命を繋ぎ止めていた治療術を再開する。


『ですが無理もありません。兄様が白夜(びゃくや)顕現した(抜いた)のですから』


 しかしマヤが今の状況が正確に把握しているなら、知らぬところで一部(神気)を潜ませていたのか、それとも契約者のアヤトが居るからだろう。


「……白夜?」


『はい、ラタニさまの切り札に対抗するべく編み出した兄様の神気刀(切り札)です』


 故にブローチに触れてないのでロロベリアの声は届かないハズなのに、マヤは答えてくれた。


『ロロベリアさまがエニシさまに学ばれた秘伝と原理は似ています。ただ精霊力とは違い神気で象るので霧散することはありません。そもそも人間が作る武器に神気を集約すれば瞬時に蒸発しますからね。故に神気の刀なのですよ』


 あれはアヤトの切り札、白夜という神気の刀。

 ただでさえ擬神化したアヤトの存在感は人を魅了するのに、それを集約させたのならこの感覚も納得できる。


『問題は兄様が規格外とはいえ、神気を操り顕現するには時間がかかることですね。まあ神気を高濃度に圧縮して象るのは擬神化以上に規格外なので仕方はありません……と、白夜の弱点をお教えしたことは兄様には内緒でお願いします』


 そしてアヤトが時間を掛けてまで抜いた白夜なら間違いなく想像を絶するもの。


『その対価として白夜の情報をもう一つ』


「……っ。どのような現象かは分かりませんが、それが精霊術の一種なら同じこと!」


 息を呑むロロベリアの脳内に楽しげに語るマヤの声と、耳から同じく白夜に魅入られていたソフィアの叫びが重なった。


「ご自慢の精霊術が通じるかどうか試してみればどうですかっ!?」


「なにを今さら」


 ソフィアの虚勢に対して、アヤトは呆れながら白夜を消失させて。




「もう試した」


『白夜に斬れぬモノはありません』




 今度はアヤトの声と、マヤの声が重なり。


 思い出したように鋼鉄のサソリの脚全て、二本の尾、胴体までもがバラバラと崩れ落ちていく。


 そう、アヤトが白夜を抜いた瞬間()()()()()()()()


 神速で繰り出す白夜、まさにアヤトの切り札と呼ぶに相応しい力を前に、為す術なく斬り捨てられた鋼鉄のサソリが残せた唯一の断末魔(轟音)が室内に響き渡る中。


 ロロベリアの脳内にはマヤのクスクスとの笑い声が響く。


『もしかすると(わたくし)すらも……なんてです』




……なんかうちの主人公(天然)がすみません。

シリアスな空気でも自由奔放好き勝手、しかも煽りに煽ったバトルが瞬殺……ですが切り札の白夜を抜かせただけの強敵でもあるんですよ……瞬殺(二回目)ですが。

とにかく精霊術士には天敵でもアヤトにとってはやはり害虫レベルでしかない相手、この子が本気で戦う内容を描くのはいつの日か。そして、そんな主人公(天然)が本気を出しても左腕一本を犠牲にズタズタの血まみれにしたラタニって本当にバケモノですね……。

そちらの内容は後のお楽しみとして、次回は一先ず後始末の内容となっていますのでこちらもお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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